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富野作品の悪役「カロッゾ・ロナ(機動戦士ガンダムF91)」

 今回はメジャーどころ、ガンダムシリーズのキャラについて書きたい。「機動戦士ガンダムF91」でトンデモMA「ラフレシア」を駆り、凶悪な対人兵器「バグ」を運用して大暴れした鉄仮面「カロッゾ・ロナ」について。


「機動戦士ガンダムF91」は「逆襲のシャア」以降の話で、「人の上に立つべき者は、人々の規範となるような高貴な精神を持つ者でなければならない」という思想を掲げて地球連邦政府の打倒を目指すクロスボーン・バンガード(以下C・Vと呼称)がスペースコロニー「フロンティアIV」を襲撃する場面から物語は始まる。

 ビーム兵器と実弾兵器の両方を防ぐビームシールドを装備し、小型高性能化したC・VのMSに、長い間平和で弱体化した地球連邦軍は手も足も出ない。


 主人公シーブック・アノーは友人達とコロニーを脱出するが、C・V創設者マイツァー・ロナの孫娘ベラ・ロナだったセシリー・フェアチャイルドは連れ去られてしまった。


 練習艦スペースアークに逃げ込んだシーブックは最新鋭機ガンダムF91を使い、生きるために戦い始める。一方連れ去られたセシリーはC・Vの象徴として祭り上げられ、ビギナ・ギナを与えられて戦場に立つ。スペースコロニー「フロンティアI」の戦場で二人は再会を果たすのだった。



 カロッゾは非常に優秀な人間で、科学者でありながら、C・Vを連邦軍と渡り合えるほどに鍛え上げた。その優秀さ故にマイツァー・ロナの娘、ナディアと結婚してロナ家に婿入りしたが、コスモ貴族主義に傾倒し過ぎたために妻に逃げられる。

 義父は「娘が悪い」と言うものの、そうさせてしまった自身を恥じた彼は仮面で顔を隠し、手術を受けて心身を強化した。


 久しぶりに娘と再会した時、彼は仮面を被っている理由について「私はナディアを寝取られた情けない男だ」と自虐的に語っていた。時間の経過もあってそういった事が言えるようになったのかと思いきや、プライドを木っ端微塵にされた傷はそう簡単には癒えなかったらしい。


 連れ戻された娘を追ってきた元妻が

「被害者が加害者ぶるのはおやめください」

と言った時は、怒りを堪えるためか一呼吸置き

「私も感情を持つ人間だ。素顔であれば今お前を殴り殺していたかも知れん。」

と抑えきれない怒りを露にする。


 映画後半でセシリーと戦闘になった際、彼はMSのハッチを素手でこじ開け中から娘を引きずり出していた。この異常な膂力は強化手術によって得た物だが、それだけの力で殴れば普通の人間であるナディアが惨い有り様になる事は想像に難くない。

 人の目もあり、だからこそカロッゾは堪えたのだろうが、強化処置を受けていなければ躊躇無く彼はナディアを殴っていたかもしれない。


 対人兵器「バグ」は空飛ぶ丸ノコのような物で、あちこち飛び回って人や物を切り裂き、入り組んだ所に隠れた人間には自爆する子機を放ち、殺す。

 「ラフレシア・プロジェクト」により開発されたこれを、カロッゾはフロンティアIに投入し大量虐殺を行う。この所業に関して彼は以下の様な発言をした。


「誰の良心も痛めることのない、良い作戦であった。機械による、無作為の粛正……。」


 仮面そのままの無機質な印象を与える台詞だ。宇宙に生身で出たり、先に挙げたMSのハッチをこじ開けるなど、生身の部分は殆ど残っていないんじゃないかと思わせるカロッゾだが、その一方で人間らしさを感じさせる場面もある。


 同じく娘のセシリーとの戦闘時の台詞。


「しかも手足を使わずにコントロールできるこのマシーンを使う私をナディアと同じように見下すとは! つくづく女というものは、御し難いな!」


 カロッゾの使用するMA「ラフレシア」は、高速、高出力で連邦軍の艦隊に攻撃を行った際には同じ艦隊から攻撃を受けたと誤認させるほどの火力を誇る。また、Iフィールドで大抵のビームは弾いてしまい、接近しても先端部にチェーンソーとビーム砲を内蔵した触手状のマニピュレータ「テンタクラーロッド」で迎撃が可能だ。「手足を使わずにコントロールできる」というのはネオ・サイコミュ・システムをインターフェイスに採用している事を指し、鉄仮面の頭頂部に光ファイバーのようなケーブルを接続して思考で直接機体を制御している。


 そんな強力なマシーンを意のままに操れる事を誇る台詞。プライドをズタズタにされ、自身の弱さを仮面で隠した彼の心からの言葉だと思う。これに対する娘からの返答は以下の台詞。


「そうさせたのは、仮面をはずせないあなたでしょう!」


 これはこれで最もな言葉ではある。最もではあるが、素顔で貴族として、人々の先頭に立つ強い人間として振舞えるセシリーが、そうする事が出来ず、自分の理想や人の期待に追いつくため何もかもを投げ打ってきたカロッゾにこれを言うのは、あまりにも残酷だ。


 先にも書いた通り、カロッゾ自身は非常に有能な人間だ。有能であるが故に相応のプライドを持ち、それを砕かれたからこそ狂った。劇中でとんでもない悪行をしている悪役ではあるのだが、その一方で気の毒な、「こんな目にあったらこうもなる」と多少共感が出来てしまうキャラでもあるのだ。


 そういう弱さと、弱さゆえに孕んだ狂気、そして家族に関するエピソードがたまらなく好きだ。同じ監督の作品でもう二人そういうキャラがいるので、(予想が付くかもしれないが)次回とその次はそれらのキャラについて語る。時間があればお付き合い願いたい。

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