脚本家 太田 愛(ウルトラマンティガ「出番だデバン!」「オビコを見た」)
以前のエッセイならこんな事は出来なかったが、今回は縛りが緩いので脚本家に注目してエッセイを書く。
太田 愛は「ウルトラマンティガ」第21話「出番だデバン!」でデビューして以降、主に特撮で活躍していた脚本家で、アニメやドラマの脚本や小説も手がけているらしい。
以下それぞれ、デビュー作の「出番だデバン!」と、同時期の「オビコを見た」のあらすじ。
「『人間を狂わせ、互いに殺し合わせる電磁波を放つ』能力を持った魔神 エノメナが日本各地に出現した。
ただそこにいるだけで人類を破滅させる力を持ったそれが追うのは、小さな怪獣デバンを仲間にした旅芸人の一座だった。
デバンにはエノメナの電磁波を打ち消す力がある。これまでに放たれた電磁波も本来ならその場に残り続けるはずだったのを彼が打ち消していたのだ。
魔神の撃退に協力を求めるチームGUTSだったが、一座の団長は「デバンは俺達の仲間だ。あんた達の戦いの道具じゃない!」とそれを断る。ところが、彼らの乗った車が魔神の狂わせた人々に襲撃されて立ち往生。見かねたデバンは能力を使い彼らを沈静化させるが、同時に魔神の前に姿を晒してしまった。」
「しばらく前から妖怪 オビコが現れるとうわさの彦野町。怪我こそ無かったものの、実際にさらわれた被害者が出た事でチームGUTSは調査を始める。妖怪らしい奇妙な能力に振り回されるチームGUTSだったが、地元の人への聞き込みでその正体を探ろうとする。
かつては「お彦さま」と呼ばれる神だった、明るいところは苦手、などの情報をGUTSのメンバーが得た後、オビコは白昼堂々と町を騒がせ始める。明るいところは苦手なはずなのに何故と疑問を覚えるGUTSの面々。
そして、彦野の山で開発工事が始まる前日、相棒の影法師とかつての村を懐かしんだオビコは「最後の夜だ」と決意を固める。
その夜、チームGUTSはオビコの居場所を突き止め、追い詰める事に成功したが、オビコは彼を恐れた住人達が明かりを消した、彦野の町を見て大喜びする。
「昔の村が戻ってきた」と。
チームGUTSのメンバーがそれを否定すると、「嘘だ!」と激昂したオビコは巨大化し暴れ始めた。」
「出番だデバン!」は芸人一座の人々と、ピグモンのようなデバンのふれあいも心温まるが、それとは対照的な魔神エノメナのキャラクターも良い。
自分は手を下さず、人間を互いに争わせる能力の性質の悪さに加え、この怪獣は笑う。当時はまだ試行錯誤の段階だったCGを使い、口角を釣り上げて嫌らしく笑う。
特殊な力を使わずに戦ってもかなり強い。スピードを落としてパワーを上げた、格闘向きの形態のウルトラマンとも互角に肉弾戦を繰り広げた。危なくなったら異次元へ逃げ込むことも出来る。
とにかく強くて、悪くて、嫌な奴。こいつのキャラ造形が良いからこそ、デバンたちのエピソードが映えるのだろう。
「オビコを見た」は、妖怪オビコを追う前半部分ではコメディ寄りのファンタジーという雰囲気だが、彼の正体に迫り、
「かつての村はもう無い。山もこれから無くなってしまう。そんなのは嫌だ。それが避けられないのなら、せめて自分の手で葬ってやる」
という動機でオビコが暴れ始めてからは、一気に話が切なくなる。
宇宙の塵になった故郷を思い、復讐の鬼になって大暴れをしたギエロン星獣やムルロアのエピソードも「無くなってしまったものを思い凶行に走る」という共通点がある物の、これらと違い「オビコを見た」では死人が出ない。
角を丸めているというか、心に来る刺激をマイルドにしつつも何かしらをそこに残す。この人の書く話にはそんなイメージがある。
見た事は無いので伝聞になるが、「相棒」で脚本を担当したときの傾向として、「ストーリーの整合性やディティールに粗があるものの、事件の背景や犯人の動機など『人間を描く』事を重視していた」らしい。
同じように「『人間を描く』事を重視している」と自分の傾向を評してくれた人がいる事を考えると、向いている方向や執着するものが近く、だからこそ惹かれるのかもしれない。