水野純子 「ファンシージゴロ ペル」
今回はマンガ。
読者の皆様は、ご当地キャラとかマスコットキャラなどを好きだろうか。
筆者は好きだ。スヌーピーのビーグル・スカウトがお気に入りで、つい最近単行本を購入している。
今回は、可愛さだけで世渡りをするキャラクターのマンガ「ファンシージゴロ ペル」とその他水野純子作品について少し語りたい。
とりあえず「ファンシージゴロ ペル」のあらすじ。
「姫コトブキ星で家族と暮らしていたペルはある日、自分の容姿がみんなと違うのは『自分が姫コトブキ星人の内臓(正確には生殖器相当の生物)』であるからだと知る。
ショックを受けた彼は宇宙カバにもらった不思議な鏡を使って地球へ向かい、嫁探しを始める事に。見慣れない物に戸惑うものの次第に順応し始めた彼は、個性的な人々との出会いと別れを繰り返し、少しずつ世間を知ってたくましくなっていく。」
……文字で表したら書いた本人ですらよく分からなくなってしまったが、間違ってはいないはず。
ペルの姿は「毛むくじゃらのカービィ」みたいな感じで、カワイイと寄ってくる女性は居ても異性として見る人はほぼいない。また、故郷での気楽な暮らしとは一転、地球での生活は非常に厳しく、以下のような目に会う。
・ホームレスとしてあちこちをフラフラ
・行動を共にしていた人間と死別
・薬物に手を出して自殺しかける
最後の薬物の描写が、特に印象深い。
辛い経験をして来た為に身体も精神もボロボロ、自暴自棄になったペルはある夜、幽霊達の宴会に巻き込まれる。生身の変な人間だと思っていた彼らが正体を現し、あの世へ戻って言った後に彼はこう言う。
「ボクもつれていってよー!」
水に溶かして摂取するはずの薬物を直接かじり、吐いて、何もかもが嫌になったような顔をした後の、この叫びが忘れられない。何度振られてもへこたれず、辛い出来事にも挫けなかった彼が、こんな事を言うなんて、と。
この後ペルは、死にかけるものの健康を取り戻し、最終的には嫁を見つけ、子供まで作り故郷に戻る。
しかし、ハッピーエンドとはならない。得た物と交換したかのように、それまで持っていた大切な物を失う事になる。
辛い別れを繰り返してきたペルは精神的にタフになったのか、一時的にショックを受けるものの、今ある幸せを精一杯享受しようとする。
これでよかったのか、悪かったのかというような何ともいえないオチはエピソード単位でも多く、そのモヤッとした感じが非常に癖になる。
そもそも水野純子の絵柄や作風自体が、キュートでポップでファンシーな一方、エログロという毒を大量に含んだ混沌とした物だ。
先のあらすじの通り、「ファンシージゴロ ペル」の世界観はカオスそのものだが、そこにはどこか現実的というか世知辛いところが混ざっている。
何がどう作用しているのかうまく言葉にできないが、矛盾した二つの要素をバランス良く入れることで双方の魅力を増す事に成功しているような、スイカに塩を振ると甘くなるのと同じような原理が働いている気がする。
なろうユーザー、特に「テンプレ」を愛好している人たちにとって、この辺の匙加減はどれ位が好みなのか気になる。
サザエさん時空というか、こちらとは完全に隔絶した「フィクションの世界」とするのが良いのか、ある程度は現実に近いと感じられる方が良いのか。
出来るだけその辺は作者の意図を汲み取って読みたいが、
個人的には、「フィクションらしさ」を強くしすぎると世界が箱庭のように狭く感じられるし、キャラクターを見て楽しむ事は出来ても、一緒に笑ったり泣いたりと共感する事が難しい。それで良い、そうするのが正しい楽しみ方なのだろうか?
出来るだけ作者の意図を汲み取って読みたいと思っているが、どうして良いのか分からなくなることが多い。
「ファンシージゴロ ペル」は絶版になっているが、中古で入手は可能だ。人によって合う合わないが極端に分かれる作品なので、画像検索して惹かれるものがあるなら手を出してみて欲しい。
「北斗の拳」や「マッドマックス」が好きな人なら「ピュア・トランス」も楽しめるかもしれない。