表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

小林泰三 「綺麗な子」

 前回の二作品は、人間らしさを無くした人間がそれを取り戻していく話だった。

 今回の『綺麗な子』は真逆の、人として、生物として大切なものが欠けていく話。


「ロボット技術が発達した未来の、ある夫婦の話。


犬を飼いたいと妻が言っていたので、夫は子犬を買って来たが、妻は『これは違う』と言い出す。


『昔飼っていた犬は吠えたりしないし、世話する必要も無かった。』


 そういう妻に、ロボット犬とは違ってこの犬は本物なのだからと説く夫だったが、


『自分の飼っていた犬は喜んだり悲しんだりしていた。偽者なんかじゃない』


 とまるで話が通じない。


 結局犬を飼うのはやめた二人だったが、しばらくして妻が子供を作りたいと言い出した。

 しかも、十ヶ月も行動を制限されたくないから豚の腹で作る(この世界では普及した方法)と言う。

 違和感を覚えながらも、飼い犬の件で言っても無駄だと理解した夫は許可を出す。


 異様な方法で作ることになった子供だが、日に日に大きくなっていく胎児に夫は情が湧いてきた。それなのに、ある日いきなり中絶するという妻。

 訳が分からず理由を聞くと、


「先に子供が生まれた友達が、世話に追われてやつれていた。思っていた以上に何もできない子供の世話に、自分の時間を費やしたくない。」


という事だった。

 胎児はかなりの大きさまで育っていたが、法律が変わって七歳までなら中絶扱いになるため、胎児は殺されてしまう。


 しばらく後にまた『子供が欲しい』と言い出した妻の手には「ロボットの子供」のカタログがあった……。」



 ラストは自分で確かめてもらうとして(検索すればラストまで書いたあらすじはあり、これもそれを元に書いた)、筆者は『雪原のような雰囲気』のある終わりだと思った。タイトル通りに綺麗で、生命の気配が感じられない。


 同作者の作品『ジャンク』は、様々な資源が枯渇してしまい、人体を有効活用している世界を舞台とした、ウエスタンな復讐物だ。

 死体やそれらを材料とした様々な道具が登場するが、『綺麗な子』とは逆に逞しく生きている人たちを描いている。ラストシーンにはある種の美しさを感じたが、この作品のそれとはまた違ったものなのだと思う。


 生命と言うのは醜さや汚さ、無秩序を内包している。それらの要素に欠けるものはむしろ『死』に近い。

 自分の感性が人とどのように異なるかはよく分からないが、ここ『小説家になろう』で読んできた作品やキャラクターにもそういった雰囲気を感じることがある。

 作者の語りたい物語にキャラクターを最適化した結果、それを遂行するための機械になってしまったかのような。


 『綺麗な子』の中に出てくる『妻』はロボットと人間との区別をしない。『本物のように見えさえすれば実際にどうであっても関係ない』という考え方をする。

 上記のような最適化されたキャラクターは逆に、『実際の人間と物語のキャラクターとをはっきり区別する』考え方の産物なのではないだろうか?

 どちらに寄るのも有りだとは思うが、極端すぎるのは受け入れられない。有機的な要素を濃くし過ぎたら獣のようになってしまうし、無機質過ぎるのも不気味だ。


 『綺麗な子』は『脳髄工場』に、『ジャンク』は『肉食屋敷』にそれぞれ収録されている。kindleでも出ているが、図書館を利用した方が良いかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ