小林泰三 「綺麗な子」
前回の二作品は、人間らしさを無くした人間がそれを取り戻していく話だった。
今回の『綺麗な子』は真逆の、人として、生物として大切なものが欠けていく話。
「ロボット技術が発達した未来の、ある夫婦の話。
犬を飼いたいと妻が言っていたので、夫は子犬を買って来たが、妻は『これは違う』と言い出す。
『昔飼っていた犬は吠えたりしないし、世話する必要も無かった。』
そういう妻に、ロボット犬とは違ってこの犬は本物なのだからと説く夫だったが、
『自分の飼っていた犬は喜んだり悲しんだりしていた。偽者なんかじゃない』
とまるで話が通じない。
結局犬を飼うのはやめた二人だったが、しばらくして妻が子供を作りたいと言い出した。
しかも、十ヶ月も行動を制限されたくないから豚の腹で作る(この世界では普及した方法)と言う。
違和感を覚えながらも、飼い犬の件で言っても無駄だと理解した夫は許可を出す。
異様な方法で作ることになった子供だが、日に日に大きくなっていく胎児に夫は情が湧いてきた。それなのに、ある日いきなり中絶するという妻。
訳が分からず理由を聞くと、
「先に子供が生まれた友達が、世話に追われてやつれていた。思っていた以上に何もできない子供の世話に、自分の時間を費やしたくない。」
という事だった。
胎児はかなりの大きさまで育っていたが、法律が変わって七歳までなら中絶扱いになるため、胎児は殺されてしまう。
しばらく後にまた『子供が欲しい』と言い出した妻の手には「ロボットの子供」のカタログがあった……。」
ラストは自分で確かめてもらうとして(検索すればラストまで書いたあらすじはあり、これもそれを元に書いた)、筆者は『雪原のような雰囲気』のある終わりだと思った。タイトル通りに綺麗で、生命の気配が感じられない。
同作者の作品『ジャンク』は、様々な資源が枯渇してしまい、人体を有効活用している世界を舞台とした、ウエスタンな復讐物だ。
死体やそれらを材料とした様々な道具が登場するが、『綺麗な子』とは逆に逞しく生きている人たちを描いている。ラストシーンにはある種の美しさを感じたが、この作品のそれとはまた違ったものなのだと思う。
生命と言うのは醜さや汚さ、無秩序を内包している。それらの要素に欠けるものはむしろ『死』に近い。
自分の感性が人とどのように異なるかはよく分からないが、ここ『小説家になろう』で読んできた作品やキャラクターにもそういった雰囲気を感じることがある。
作者の語りたい物語にキャラクターを最適化した結果、それを遂行するための機械になってしまったかのような。
『綺麗な子』の中に出てくる『妻』はロボットと人間との区別をしない。『本物のように見えさえすれば実際にどうであっても関係ない』という考え方をする。
上記のような最適化されたキャラクターは逆に、『実際の人間と物語のキャラクターとをはっきり区別する』考え方の産物なのではないだろうか?
どちらに寄るのも有りだとは思うが、極端すぎるのは受け入れられない。有機的な要素を濃くし過ぎたら獣のようになってしまうし、無機質過ぎるのも不気味だ。
『綺麗な子』は『脳髄工場』に、『ジャンク』は『肉食屋敷』にそれぞれ収録されている。kindleでも出ているが、図書館を利用した方が良いかもしれない。