Bethesda Softworks「Honest Hearts(Fallout:NewVegasのDLC)」
今回も、前回と同様にゲームについて。
ベセスダ・ソフトワークス製のゲーム、「Fallout:NewVegas」のDLC第二弾「Honest Hearts」だ。
本編のスピンオフ的な筋書きなので、先に本編の筋書きを駆け足で書く。
「核戦争で文明が崩壊した世界。かつてネバダ州と呼ばれていた地域『モハビ・ウェイストランド』には文明の残滓が残っていた。
膨大な電力を生み出すフーバーダム、その電力で煌びやかなネオンが輝くニューベガスの街並み。
それを手に入れようと活動する『新カリフォルニア共和国』『シーザー・リージョン』、現在の所持者である『ニューベガス・ストリップ地区』の三勢力が争いを続けていた。
主人公『運び屋』は、ある日『カジノのチップを運んで欲しい』という変わった依頼を受けたが、暴漢達に待ち伏せされて荷物を奪われてしまう。頭に銃弾を撃ち込まれ、埋葬までされた彼は、風変わりなロボットに掘り出されて九死に一生を得た。
復讐、依頼の完遂、何をするにしろ自分を襲った連中を追いかけなければならない。そうして荷物と仇を追う内に、『運び屋』は三勢力の争いに関わっていく事になる」
このDLCは仇を追ってニューベガスの街の近くに行った辺りから始まる。
「『ハッピートレイル・キャラバン』という商隊がメンバーを募集しているという信号を受信し、かつてのザイオン国立公園へと行く事になった運び屋。
ザイオンで謎の部族に襲撃されてキャラバンは全滅、運び屋は『フォローズ・チョーク』と名乗る男に助けられる。
英語の怪しい彼に案内されて辿りついたのは、『デッドホース』という部族の居留地だった。
そこにいたのは、かつての『シーザー・リージョン』最高指揮官であり、火達磨にされて谷底に突き落とされた男。バーンドマンこと『ジョシュア・グラハム』。
彼の説明によると、運び屋を襲ったのは『ホワイトレッグス』という部族で、彼らは『シーザー・リージョン』にザイオンに住む部族『ソローズ』(と彼らに布教活動をしていたジョシュアの部族『ニューカナーン』)の殲滅を指示されたのだという。
『デッドホース』は彼が『ホワイトレッグス』に対抗するため、布教先から引き連れてきた部族だ。モハビに帰りたいのなら彼に協力しなければならない。
ザイオンの運命は如何に。運び屋はモハビに帰れるのか。」
この物語のキーとなる人物は二人いる。一人は『ジョシュア・グラハム』、もう一人は故人であり、『ソローズ』に神格化された男、見守る父こと『ランダル・ディーン・クラーク』だ。
運び屋はジョシュアに依頼され、ザイオン中から必要な物を集めてくることになる。神聖な場所にして禁足地でもある、見守る父の洞窟にもその過程で入る事になり、そこで彼の手記を手に入れられる。
文明が崩壊してから、一人生き残ってきた男の半生。
核戦争で戦前の家族と死に別れ、戦後新たに出来た家族も流産により失った彼は、ザイオンに住み着き始めたソローズの先祖を影ながらに助けてきた。
怪我をして孤立した者のところに仲間を誘導し、必要な物資や資料を置いておく。特にこれという理由は無く、直接姿を見せる事も無く、老いて死ぬまで彼はそれを続けた。
身を隠す技術に長けた彼をソローズの人々は見つけられなかったが、自分達に親切にしてくれる者の存在は理解出来る。彼が置いた物資につけた署名、『見守る父』が彼らの神になった。
ゲーム内では、彼の亡骸のある場所へと向かう事ができる。
ソローズという部族は、核戦争後という世界に似合わず平和的な人々だ。彼らは狩りは出来ても、人と戦うのは上手くない。だからこそジョシュアは戦力としてデッドホースを連れて来ている。
物語の終盤で運び屋は、ホワイトレッグスと戦うか、ソローズを逃がすかを選択する事になる。
戦う事を選択する事になった場合は、ジョシュアと共にホワイトレッグスの陣地に攻め入ることになるのだ。
探索によって手に入れた見守る父の装備を身に纏い、ソローズの神である『見守る父』の代行者として『神の右腕』を名乗るジョシュアと肩を並べて戦う。
ジョシュアの言う『神』は、彼の部族『ニューカナーン』の物だが、「肩を並べて戦う二人が神の名を背負っている」というのが良い。
この騒動に巻き込まれた当初、運び屋の動機は「モハビに戻りたい」という消極的な物だったが、『見守る父』の足跡を追うことで「彼の遺志を尊重する」という動機が出来る。
『見守る父』の遺志は「ソローズの人々がザイオンで平和に暮らす事」なので、ソローズの人々も戦わせるというジョシュアの方針は「ソローズの人々が攻撃的になってしまう」という点で問題がある。
ソローズの人々がザイオンで暮らす事を重視せず、彼らの精神の有り様を大事にするなら、彼らを逃がすという選択肢も有りだ。
ただし、これを多少和らげる手段もある。これについて話す前に『ジョシュア・グラハム』がどんな人物なのかを語らなくてはならない。
ジョシュアの属する『ニューカナーン』はモルモン教を信仰する部族で、アリゾナへ宣教師として布教に行った結果として『シーザー・リージョン』の創設に関わっている。
彼の持つ銃器をはじめとした戦闘に関わる知識、指揮官としてのカリスマ、敵に対する残虐性。それらがシーザー・リージョンを残虐かつ精強な戦闘集団へと変えていった。
彼が「火達磨にされて谷底に突き落とされた」のは、フーバーダム攻略に失敗した責任を取らされたからだ。比喩ではなく文字通りそういう目に合わされたジョシュアは、運び屋のようにグランドキャニオンの底から這い出し、シーザーの放った追っ手を始末しながら故郷へと帰還した。
シーザー・リージョンというはた迷惑な組織を作り、部族の名に泥を塗った彼をニューカナーンの人々は温かく迎え入れる。
その事に感動した彼は心を入れ替え、再び宣教師として活動をしていた。だが、リージョンの指示を受けたホワイトレッグスがニューカナーンの人々を虐殺してしまう。
ジョシュアは、かつて体に火をつけられても自身が生き残った理由を「自分の内に燃える炎の方が熱かったからだ」と表現した。
彼の中には炎が灯っている。
昔燃え広がったそれはシーザー・リージョンという形になり、多くの命を燃料にしながら今尚燃えている。
故郷の人々の暖かさによって鎮火したそれが、ホワイトレッグスの虐殺によって再び燃え上がった。これをそのままにしておけば、ザイオンに第二のリージョンが誕生し、さらに多くの人を焼いていくだろう。
ホワイトレッグスの陣地を突破し部族長の下へ向かう道中、運び屋はソローズの人々が敵を無慈悲に殺傷するのを見ることになる。ジョシュアに感化され始めているのだ。
そんな彼らを余所に最奥部までたどり着くと、先に来ていたジョシュアが部族長を処刑しようとしている所に出くわす。
そこで怒りのままにジョシュアを行動させてしまうと、ソローズが残虐な集団へと変わってしまう。それを食い止めるには、弁舌の限りを尽くしてジョシュアを説得しなければならない。
これはゲーム中のステータスの値で言うなら、ほぼ最大値が必要になる困難な選択肢だ。しかしそれだけの価値はある。
この説得をする事で、ソローズの人々は戦い方と同時に敵への慈悲も学ぶ。かつて持っていた優しさは損なわれてしまうものの、彼らは外的から身を守る強かさを獲得し、見守る父の教えも忘れてしまう訳ではない。
また、敵を見逃す事によってジョシュア自身も救われる。部族を脅かす者に対しては苛烈な闘争者であり続けるものの、時折敵に対して慈悲を見せるようになる。恐怖と共に語られたバーンドマンの伝説も何時しか廃れ、ジョシュアは安息を得られるのだ。
神と信仰されるようになった男と、神に代わって復讐を成そうとした男。「Honest Hearts」はそんな二人の物語なのだと思う。




