富野作品の悪役「バロン・マクシミリアン(ブレンパワード)」
今回は最後の一人、三人の中で最も怖いキャラ「バロン・マクシミリアン」について語りたい。割とメジャーな作品なのでネタバレ上等でいく。
「ブレンパワード」は、海底に沈んだ異星文明の産物「オルファン」が存在する世界の話で、生命エネルギーを使い駆動する宇宙船でもある「オルファン」で宇宙に旅立とうとする人々の結社「リクレイマー」と、人間が作った生命エネルギーで稼動する空母「ノヴィス・ノア」のクルーとの争いが主に描かれる。
リクレイマーは「オルファン」が生み出す物体「プレート」から生まれる「グランチャー」というロボ(のような生物。オルファンも下手な島より巨大だが生物。)を戦力としている。ノヴィス・ノア側も同じく、似たような存在ではあるがグランチャーと敵対している「ブレンパワード」を戦力として運用している。
バロン・マクシミリアンは中盤から突然登場したキャラで、仮面と鎧を身につけてボイスチェンジャーで声を変えているという、非常に不審な外見をしている。
彼は初登場時に、主人公「伊佐未勇」のライバル「ジョナサン・グレーン」にグランチャーの強力な変異体「バロンズゥ」を貸し与えて、主人公を窮地に追い込んだ。
その後も何かとジョナサンに力を貸すが、オルファンが動き始めた最終局面ではバロンズゥに自ら乗り込み主人公を殺害しようとする。
「ジョナサンのために」と執拗に主人公を攻撃する彼、もとい彼女の正体は、序盤に姿を消したノヴィス・ノアの元艦長「アノーア・マコーミック」。
彼女はシングルマザーで、ジョナサンは彼女の息子。精子バンクから購入した天才の精子で彼を産んだ。愛情はあったらしいが、物分りの良い(様に見える)彼に甘えたのか、幼少期に仕事にかまけて殆どジョナサンを省みなかった。
生き別れになった後、リクレイマーとなったジョナサンと再会した彼女はその事について散々になじられる。以下はそのときのやり取りの一部。
「8歳と9歳と10歳と、12歳と13歳との時も、僕はずっと、待ってた!」
「な、何を……」
「クリスマスプレゼントだろ!! カードもだ! ママンのクリスマス休暇だって待ってた! あんたはクリスマスプレゼントの代わりに、そのピストルの弾を息子にくれるのか!?」
11歳の時はカードをやり取りしたらしく、アノーアはそれを大事に持っていた。ノヴィス・ノアのブリッジでも手元に置いていたのだが、それを見たジョナサンは「まだこんなもの持ってたのか!」と激昂し「あんたのような女にこれを持つ資格は無い!」とまで言う。
母に対する愛情はある。だからこそクリスマスは一緒にいて欲しかった。それが叶わなくとも何か、母の側からして欲しかった。そんな気持ちを裏切られ続けてきたからジョナサンはこんな台詞を言うのだ。
こんな事のあった次のエピソードでアノーアは行方不明になる。息子に対する接し方への後悔などから錯乱したような状態になり、プレートからブレンパワード(もしくはグランチャー)が生まれる現象「リバイバル」に巻き込まれてしまうのだ。
この時に海に投げ出され死亡したものと思われていた彼女はこの時にバロンズゥと出会う。
母としては碌な事をしてやれなかった自分だけれど、それでも親として何かしたい。何かを与えたい。彼女のそんな気持ちがバロンとしてジョナサンに接することを選択させた。「父親のような形なら、もしかしたら」と思ったのかもしれない。
最終局面での彼女は「ジョナサンの為なら何でもする、何でも出来る」「ジョナサンの為なら自分すらどうなってしまっても構わない」という状態で、相当にブレンパワードの扱いがうまい勇とも互角に戦う(そもそもバロンズゥが並のグランチャーよりも強いというのもある)。
ヒロインと二人がかりでも彼らを押していたバロンは、さらに自身の生体エネルギーを無制限にバロンズゥに注いで巨大化させた。
同じ位の体格から、勇のブレンを握りつぶせるほどに巨大化したバロンズゥ。それを駆って勇に攻撃を仕掛けたときの叫び。
「息子のために死ねぇぇぇっ!」
鬼気迫る、しかし悲しい叫び。あと少しで本当に勇を殺す所まで行ったが、無茶苦茶に使ったエネルギーの消耗に耐え切れず自滅してしまう。
断りなくバロンズゥに乗って、どこかへと行ったバロンを追いかけてきたジョナサン。縮みながら地面へ降りていくバロンズゥの中で彼はついに、バロンの正体を知った。
驚き、怒り、様々な感情が入り混じった複雑な表情を見せた彼の最初の台詞は
「何でアンタがバロンなんだ!」
だった。
そして、瀕死になりながらも自身の感情を吐露するアノーアに、ジョナサンはこう言う。
「起きろよ、アンタにはまだ言いたい事がいっぱいあるんだ!」
崩壊していた親子関係が元に戻ったわけでは無いが、二人は再び親子として向き合うようになった。
・アノーアがジョナサンに伸ばした手を払うのでは無く、『掴んで退ける』
・声をかけてきた勇に対して「親子の間に入るな!」と言う
等と、細かいが「再び親子になった」のだとアピールする演出が良い。「家」や「懐かしい場所」をイメージさせる劇伴も相まって涙腺を攻める。
余談だが、iTunes Storeにはこの作品のサントラがあり、気に入ったので筆者はこの曲単体で購入した。作曲者も上記のようなイメージで製作したのか、タイトルはそのものズバリ「Home」だ。
このジョナサンの件に限らず、きつい展開の多い作品ではあるのだが、最終的に落ち着くところは何と言うか、暖かい。生きるという事のギラギラとした側面も見せるが、「頼まれなくたって生きてやる」というキャッチコピー通りに「生命」を描いた作品なのだと思う。
ここのところメジャーな作品が続いたので、次回以降はマイナーな作品を取り上げようかと思っています。