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岡本 賢一 「鍋が笑う」「LE389の任務」

以前のエッセイは縛りがきつかったので、縛りをゆるくして作品について語るエッセイを始めました。

本文がですます調で無いことについてはお許しください。

 第一回の作品は岡本 賢一氏の「鍋が笑う」、「LE389の任務」だ。


 どちらも今までに読んだ中で一二を争う程に印象に残る作品で、後者からはペンネームを借りた程だ。話の雰囲気自体は異なるが、同じテーマの作品だと思うので一緒に語りたい。


 まず、「鍋が笑う」のあらすじ。



「アマズ係長代理はある日、部長から極秘の命令として「旧型コロニーに出荷された鍋の回収」を命じられる。販売した八個全てに「鍋が笑う」等といった妙なクレームが入ったのだという。


旧型で治安が悪いという噂に怯え、防弾チョッキや拳銃などを準備して現地に向かったが、手違いで荷物が二日後まで手元に来ない。毎日たくさん服用している薬も、安眠ボックス(高速で睡眠をとる機械。大型ならたった五分で必要な睡眠を済ませられる)も、二日間は使えない。


「ホテルは一軒も無い」という入国審査ロボの言葉に途方にくれたアマズに、ジャンと言う男が声をかけてきた。「トビーから、あなたが来る事を聞いていた」という彼の話によると、トビーというのは鍋が名乗った名前で、ジャンの妻とケンカして家出をしたという事だった。


見えない手足がついていて、自由に動ける鍋たち。

トビーは街の居酒屋にいると聞いたアマズは、訳が分からなくなりつつも早速回収に向かう。そこで見たのは、鍋が中華なべを振って野菜を炒めている光景だった。


何故かユーザーである居酒屋の店主には、「鍋たちには致命的な欠陥があるから回収する」という通知が届いている。

食い違う話と自由すぎる鍋たちに困惑しつつも、アマズは残る鍋たちの回収を始める。どうやら鍋たちは事情を知っているらしい……。」



 興味をそそるように書けただろうか?

 あらすじにはあまり組み込めなかったが、アマズの生活に関する描写に以下のような物がある。


・行動によって得られるポイントで生活環境が左右される

・服と下着は紙製で使い捨て

・体毛は完全脱毛で、普段はカツラやつけ眉毛をつけている

・食事は全てレトルトor冷凍

・宇宙船の事故で死ぬ確率よりも安眠ボックスの事故で死ぬ可能性が高い


 一方、彼が向かった旧型コロニーでは昔ながらの、我々のそれに近い生活スタイルがまだ残っている。アマズは普通の、天然かつ新鮮な食べ物をうまいと思い、普通に寝ることが出来るかと心配しながらもぐっすりと寝てしまう。


 鍋たちを回収しながらそういった生活に触れていくことで、アマズ自身も「自分にとって何が大切か」「自分はいったい何をしたいのか」という事を考えていくようになる。


 次は「LE389の任務」のあらすじ。



「民間施設に偽装された敵の軍事施設『アルド』へと攻撃を行った主人公は、機体が墜落した際に気絶し、気が付いたら三体のロボットたちに捕虜にされていた。

ロボットは主人公の撃ったミサイルにはウィルス兵器が搭載されており、攻撃目標の施設は五万の民間人を巻き添えに全滅した、クフン基地へお前を連れて行くと言う。


ウィルスが残っているため三十日は救援が来ず、周辺には半壊して敵味方を区別できないレーザー衛星が多数浮かんでいる。


負傷した足を引きずって荒野をロボット達と踏破しなければならなくなった主人公。

彼は問う。何故クフンへと行くのかと。アルドで開発したウィルス兵器を運ぶためではないかと。

ロボット達は答えない。彼らの助けが無ければ主人公は荒野を越えられず、ウィルス兵器を運んでいる確証も無い主人公は彼らについていく事を選ぶ。


その道中、彼らの任務に探りを入れた主人公は、アルドでの惨状をロボット達に聞かされた。慙愧に堪えなくなった主人公は言う。知っていたなら作戦には参加しなかったと。


ロボットは問う。

『お前は、本当にそれができたのか? 五万の民間人が死ぬとわかっていたなら、おまえは本当に、任務を拒否できていたのか?』

上官の命令は絶対である。ロボットのようにあれと教育された主人公は、その問いに答える事ができなかった。」



 主人公がロボットの問いに答えを出し、ロボット達の背景が明かされて物語は終わる。

作中では主人公が、『ロボットと人間の違い』を強調するような事を何度も言い、ロボット達もロボットらしい行いをしてそれを強調する。


 若干ネタばれになるが、こちらのロボット達にも鍋のような「人間らしい部分」がある。

「判断に迷ったときは三体で議論を行う」という部分以外が明かされるのは終盤になってからだが、自由気ままな鍋たちに劣らず、人間らしいと感じられる内容だった。

 短い作品ではあるが、そんな中でも丁寧な描写を積み重ねて最後の一行で泣かせに来る。


 両方ともロボットと人間とを、正確に言うなら「ロボットのような人間」と「人間のようなロボット」とを対比して


「人間らしさって何だ?」

「人間として大切な物って何だ?」


という問いかけをしているのだと筆者は思う。


 現在執筆中の作品は、はこれらの作品に憧れて書いたものであり、上記の部分はテーマとして取り入れているが、


「『人間らしさ』を取り戻す、思い出す話」


であろう二作と違い、


「『人間らしさ』が日々揮発していく二人の話」


になっている。

 ただでさえ後ろ向きな設定に加え、現状主人公はそれについて悩んでばかりで、暗い雰囲気に寄りすぎてしまった。

 鍋たちを見習って日々の生活を楽しみ、ちょっとした事に喜んで笑ってもらわなければならない。それが人を人たらしめる為に必要な事の一つだと思うからだ。


 最後に、「鍋が笑う」はkindleで安くかつ簡単に手に入るが、「LE389の任務」はちょっと入手が難しい。

 『異形コレクション』という短編集のシリーズの一つ、「ロボットの夜」に収録されている。

 大きめの図書館でなら借りられるかもしれない。

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