聖杖物語黒の剣編エピソード1第2章魔獣鬼(ダークホラー)
<ピカッ>斗兎鬼の後ろから光が差す。
「ぐおっ?ぐががあああ。」斗兎鬼が仰け反る。
「うがあぁ、誰だぁ!」斗兎鬼が振り返ったその先には、
ーえ!?あれは・・・。ユキさん? -白いマントを翻して右手に弓を持ち、こちらを見つめている姿。
ー間違いない。あれは、ユキさん。でもどうして。 -
「その娘を放しなさい。魔獣鬼!」ユキさんの凛とした声が辺りに響く。
「聖導士ごときに、私は倒せん。」斗兎鬼は唸り声を上げながら、ユキさんに触手を放つ。ユキさんはひらりと身をかわし2撃目に備え身構える。
「そらそら、どうした!聖導士さんよ!」間段なしに触手を繰り出しながら、斗兎鬼が吼える。
ー危ない!1本の触手がユキさんを捕らえる。右足を跳ね上げられユキさんが転ぶ。
「くっ!」ユキさんが苦悶の表情を浮べる。
「もう終わりか?聖導士さんよ!」転んだユキさんに数本の触手が迫った。
ーユキさん! -声にならない叫び声をあたしが叫ぼうとした時、
<ギシャ、バシュ>
ーえ?なにが起こったの? -ユキさんに向かった数本の触手が千切れて跳ね飛ぶ。
「先輩!」ユキさんが声を向けたその先には、剣を持つ虎の面を被ったあの人が。
「獅騎導士!!」斗兎鬼が驚愕の声を上げる。
「そこまでだ!魔獣鬼!!」獅騎導士と呼ばれた人が剣を振りかざして斗兎鬼に突っ込む。
剣が閃き斗兎鬼の身体を斬る。
「ぐがぁ。」斗兎鬼が怯む。
「お、覚えていろ。獅騎導士め!!」
そう言い放つと斗兎鬼は闇に消え去っていく。
「逃がさん!」獅騎導士は斗兎鬼を追おうとするが、
「虎牙先輩!今は女の子を助けないと。」ユキさんが制止する。
「わかった。」獅騎導士が追うのをやめてこちらを振り向いた。
「大丈夫?美琴ちゃん?」ユキさんが、あたしに尋ねて来た。
ー本当にユキさんだ -
「あ、あ、あの、ユキさん?」あたしはユキさんに逆に訊いた。
「ユキさんだよね?」ユキさんは、あたしに向かって微笑みながら、
「ふふっ、ばれちゃいましたね。虎牙先輩。」
ーえ?虎牙・・・お兄ちゃん? -
ユキさんの後ろに立つ虎の兜の人に向かってユキさんが言った。
「・・・美琴。」
ーその声!まさか本当に虎牙兄? - 獅騎導士と呼ばれていた人が、あたしに近づく。
そして、剣を一振り閃かせて、
ーあ!ああっ! -
兜や鎧が一瞬で消え失せ、虎牙兄の姿に変わった。
「え?どうして、虎牙兄が!?」 虎牙兄があたしに近より
「怖かっただろ美琴。もう大丈夫だからな。」
優しい瞳でそう言ってくれる。
ーう、うえぇ、ひっく。うわああぁ。怖かったよ虎牙お兄ちゃん。 -
あたしは虎牙兄に抱きつき泣いてしまった。虎牙兄はそんなあたしの頭をやさしく撫でてくれた。