覚醒 第1章 ブレスレット 前編
古来より聖なる者と邪なる者との闘いは続いてきた。
聖なる者が光なら、邪なる者は闇。
あなたの居る街にも光の当たらぬ闇がある。
その闇の中で今夜も・・・
『美琴・美琴。」
白い靄の中で、あたしを呼ぶ声がする。
ー懐かしい声、お父さん、お母さんー
「美琴・美琴。」
そう言って二人の手があたしに差し出される。
<ピピッ・ピピッ・ピピッ>
あたしも両手でお父さん、お母さんの手を握ろうと手を伸ばす。
<ピピピピピピピー>
「はっ!」
目覚まし時計が鳴っている。
<ピッ>
スイッチを手探りで切ってむっくりと起きた。
ーああ、また夢だったんだ。-
暫く頭の中がボーとした状態が続いていたのがやっとはっきりしてくる。
ふと時計をを見ると、
「やばっ!もうこんな時間!」
ベットから飛び出すと、制服に着替え始めた。
ドレッサーの前に立ち髪のチェックをし、部屋を出ようとして忘れ物に気付いた。
「あっと。」
机の上に置いてある髪飾りを取り上げる。
ピンク色の石が綺麗な髪飾り。
あたしの宝物。
ーお父さん、お母さんおはよう。-
心の中でそう言って左の髪に着けた。
「はっ!い、急がなきゃ。」
カバンを持って階段を駆け下りる。
「おい、お寝坊さん!」
そう言ってからかう上のお兄ちゃん。
「寝坊さんじゃないもん。コーガ兄!」
虎牙兄に視線を向けるとその横には、
「おはようございます。美琴ちゃん。」
ーうっ。何であなたが居るのよ、ユキさん。 -
とびきりの微笑みをあたしに振りまいてくる。
「何でユキさんがこんな朝から家に居るのよ?」
ユキさんが微笑みながら、
「はい、虎牙先輩と昨日から仕事でご一緒させていただいて・・・。お邪魔させていただいております。」
「ふーん。」
あたしは気のない返事をした。
それを聞いていた虎牙兄が急かすように、
「朝食べないと遅れるぞ。」
チラッと食卓に目をやると、ちょっと贅沢な朝ごはんが目に入る。
ーお,オイしそー。-
「さあ、どうぞお食べください。美琴ちゃん。」
ーう。ユキさんが作ったんだ。どうしよう。 -
その時、
「あっ、森野先輩いらしてたんですか。」
次兄の獅道兄さんが階段を下りてきた。
「おはよう、獅道君。」
ユキさんが獅道兄さんに微笑みを振りまいている。
「あたし、いらない。もう、学校行かなくちゃ。」
あたしは逃げるように玄関に向かった。
「あ、美琴ちゃん。待って。」
ユキさんが玄関まで付いて来る。
ーもう、かまわないで。 -
そうツンケンした態度で無視して靴を履いていると、
「はい、これ。」
目の前にかわいい柄の袋が。
「お弁当です。何も食べないのは、良くありませんよ。」
あたしがぽかんとしていると、
「はい。」
と、カバンの中に勝手にいれた。
あたしがどう反応していいか迷っていると、
「学校、遅れますよ。」
また、あの微笑が。
「い、いってきます。」
「はい、いってらっしゃい。」
軽く手を振って笑顔で送り出された。
ーあの人苦手、いい人なんだけど。
大体なんでユキさんが朝から家に居るのよ。
仕事で遅くなったからって、虎牙兄も泊めることないのに・・・ -
そこまで考えてはっと気付いた。
ー虎牙兄とユキさんって単に会社の先輩と後輩って言うより、付き合っているんだよね。それで二人が朝家にいるってことは・・・うそ、そんな、そんな虎牙兄と、ユキさん・・・だめ、だめだよ。あんな事やそんな事してたんじゃ・・・・・ -
「おっはー美琴!」
「です。」
突然耳元でおお声が。
ーみ、耳がキンキンするうー。-
「どっしたの、ミコ。何度も呼んだんだぞお。」
「あっ、おはよう。マコ・ヒナ。」
クラスメートのオサゲメガネのヒナ、ツインテールで男勝りなマコ。
「なんだか、暗ーいです。」
ヒナが言う。
ーうーん。暗くもなるわ。朝から本当・・・。-
「美琴、目がヤンデレ。」
ーや、ヤンデレって。そ、そうかも・・・ -
「うっ、ひどい、ひどいわ。なんちゃって。」
あたしがボケ返す。
「うん、大丈夫ね。いつも通りボケてるし。」
「ひっどーいい。」
あたしが言うとマコが。
「少年よ、あの青空をみよ。今日も澄んだ良い心になろう!」
「だ、誰が少年よ!」
「この辺。」
むにっ。
マコの手があたしの胸を掴む。
「ひっきい!」
あたしがへんな声をあげたのを、
「あははっ、よっ!少年!」
と茶化してマコは走り出す。
「まっ、待てー!」
あたしもマコを追って走りだす。
「待ってですー!」
ヒナも一緒に走り出した。
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「帰りに悩みを訊こうじゃない。」
って言うマコに強引にお茶会を開かれてしまった。
いつものお店、ここはクランベリーケーキがお気に入り。
紅茶とケーキをほうばりながら、3人でお互いの話をする。
マコが言う、
「前から言おうと思ってたんだけど、美琴、ここ最近ちょっと変だぞ。」
ヒナもうなづきながら、
「です。」
と、心配顔であたしを見る。
「え?そう、そうかな?」
「そうかなじゃなくて・・・そう見えるし、心配してんじゃん。」
「心配してますです。」
ーえー、そんな風に見えるのかな。-
「うん。心配かけてごめん。ほんと、何でもないから。」
じっとマコがあたしを見つめて、
「ほんっと、美琴は噓がヘタだな。」
「です。」
マコとヒナが呆れ顔で言う。
「何年付き合って来たと思ってんのよ。美琴。」
「そうです。」
ーう、そりゃ年少時代からだから、かれこれ5・6年ってとこで・・・ -
マコがあたしの肩をポンポン叩いて、
「さあ!吐いて楽になんあよ。」
「です。」
ヒナも同調する。
ーうーん、気持ちはありがたいんだけど・・・言ってもいいのかな? -
「さあ!とっとと吐いちまいな。」
「吐いたら気が楽になるもなです。」
二人が急かす。
ーうん、そうだね。きっと少しは楽になるかも。-
「あ、あのねヒナ・マコずっと傍に居る人が、誰かに取られちゃったとしたら、どうする?」
あたしが逆に二人に問いかける。
「ふーん、恋煩いかあ。」
「えっ!違うよ。その人はちっちゃい時からずっと傍にいた人で。
その人に恋人が出来ちゃったとしたら、どう接していいのか判らないんだ。」
あたしが下を向いて答えた。
「その恋人って美琴より年上?」
マコが何時になく真剣な声で聞いてくる。
「うん、ずっと・・・」
「美人?」
ヒナも訊いてくる。
「うん、ずっと・・・」
暫く会話が途切れる。
「その男の人は、どう思ってるの?美琴の事?」
「え?」
あたしはマコの問いかけに動揺する。
「どうって・・」
「訊いたの?ちゃんと?」
ーそ、そんなの訊ける訳ないよ。 -
「はあ。美琴!あんたね、相手に自分の思いつたえなさいよ。」
マコが腕組しながら言う。
「ちゃんと確認しないといけないのです。」
ヒナまで言う。
ーそ、そんな事虎牙兄に訊ける訳ないよ。そんな事きたら、きっと嫌われちゃうよ。-
あたしが下を向いてもじもじしていると、
「だーかーら、そんなだから美琴!取られちゃうんだぞ。しっかりしろ!」
「しっかりなのです。」
「えっ!取られる?」
「そうじゃん!このままだったらその人、恋人さんに取られて美琴は蚊帳の外。」
「恋人さんとその人、イチャラブになるのです。」
ーイ、イチャラブってユキさんと虎牙兄、もうそんな仲なのかも・・・。-
「うっ、うっく、ひっく・・・」
なんだか泣けてきた。
「お、おいおい。泣くなよ、美琴。」
「泣いちゃダメです。」
「うえん。だってもう、そんな仲なのかなって思ったら涙が出てきたんだもん。」
「おいおい・・・こりゃ重症だな・・・」
「です。」
マコもヒナも肩を竦めて手をあげる。
「ま。なんだ。人間引き際が肝心って。」
「マコさん、それは言いすぎです。」
ーええーん、そうかな。やっぱりあたしユキさんを認めないといけないのかな。-
「美琴、この後少し付き合え。」
「ふえ?」
突然あたしの腕をマコが掴んで立ち上がる。
「です。」
ヒナも反対の腕を掴み立ち上がる。
「え?え?何?」
「さ!行くぞ!」
「行くぞ、です。」
ーえ?ええ?なに?どこ行くのよー。-
「あっ、待って、あたしのケーキ。」
「ほらっ、ちゃっちゃろ歩く!」
「そんなー、お願いプリーズう。」
ーううっ、ほんっとに食べたかったよお。-
お店を出て、カラオケ店へ連れ込まれて。
「大声出してうさばらし。」
マコ・ヒナの気持ちは痛いほど解るけど、調子に乗っちゃうあたしもあたし。
ーでも、気が紛れたかも・・・マコ・ヒナありがとう。-
心の中で二人に感謝する。
外に出るともう暗くなっていた。
ー帰らなきゃ、でも、今日はすぐに帰りたくないな。-
「美琴、元気だせよ。な。」
「ミコッタン、ファイトです。」
二人が励ましてくれる。
「あたし達は、こっちだから。ほんっと元気だせよ。」
「ミコッタン、また明日です。」
「うん。ありがと、またね。」
あたしは、手を軽く振って二人を見送った。
ーあー、これからどうしようかな。真っ直ぐ帰るのなんか、億劫だな。 -
カラオケ屋さんの前で二人と別れてポツンと立ちすくんでいると、耳に声が聞こえた。
「お嬢さん、あなたの悩みを解決してあげようか?」
ーえ?誰? -
声のする方を向くといつの間にか、目の前に路地があった。
ーこんな所に路地があったっけ?-
薄暗い路地の奥に灯りが2つ揺らめいている。
声はあたしに向かって、
「さあ、この道の奥にあなたの悩みを解決する手段を教えてくれる所が有りますよ。おいで、おいで。」
声の主が急かすようにあたしを招いている。
ー本当にあたしの悩みを解決してくれるの?-
あたしは知らず知らずに足を向けた。
あたしは引き込まれる様にその路地に入ろうとした。
その時!
「お客様!お忘れ物です。」
ー はっ! -
手を掴まれて我に返る。
見るとカラオケ店の人があたしの手を掴んでいた。
「お忘れ物です。」
そう言ってあたしの手に小さな髪飾りを渡した。
「あ。ありがとうございます。」
店員さんにお礼を言った。
ーあたし、どうかしてる。
こんな大切な物を忘れるなんて。
今まで1度も忘れた事なんてなかったのに。ー
ーごめんなさい。お父さん、お母さん。-
あたしは、髪飾りを握り締めてそう呟いた。
髪飾りを着けてフッと顔を上げるとそこにはもう路地などなかった。
「あれ?」
ーやっぱり、あたしどうかしている。夢でも見てたのかな。 -
あたしは自分の頭をこつんと軽く叩いて歩き出した。。
聖杖物語 黒の剣 編
エピソード1 覚醒
第1章 ブレスレット 前編 をお送り致しました。
今後とも宜しく ですぅ。 byヒナ