2話、白騎士
森の中を駆け抜ける・・・速く速く・・・風よりも・・・私は逃げ出した。兄を探して迷いこんだこの森から。反逆者と名乗る少年に身を預けて。
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誰もいなくなった森に大男の声が響き渡る・・・
「オォオオォォォオオオオォォォオオォォォ」それは悲痛にも、嘆きにも、恨みにも聞こえる声…その声を1人の男が遮る。
「悪夢・・・逃がしたのか?馬鹿者めっ!貴様は第一の怪談・・・最強の怪談であるはずだろっ!たとえ召喚されたとして逃がすなど・・・あぁ、私の計画がまた遠ざかる・・・」
ボロボロのコート姿にボサボサの髪の中年の男はイライラした様子で悪夢と呼ばれた大男に叫んだ。
「オォオオオォオオォオオオォ」悪夢はそれしか叫ばない。
「ええい、早く追え!あの化け物の魔力さえあれば貴様の本当の力をもっと早く開放できる。そうすれば願いは・・・彼女が帰ってくるんだ・・」
男は悪夢を一瞥するとそうつぶやいた。
「ワ・・・カッタ・・・アレ・・・オウ」悪夢が動き出す。きっとすぐにあの化け物を捕まえてくれるだろう。このは悪夢の森の中、悪夢の力の場所・・あれを取り込めば・・・きっとすぐに彼女を・・・
悪夢が動き出そうとすると突然悪夢の目の前の地面が抉れた。そして
「はぁぁーーーーー!!」女の声が響き渡る。鈍い鉛の音・・・そして煌く地面・・・悪夢は寸前の所でその少女の光輝く剣を躱す。少女の剣の乱舞。それを悪夢はすべて躱す。悪夢もリーチの特化した腕を使い攻撃はするがすべて剣でいなされているようだった。
悪夢は少女から距離をとる。
少女は白い、まばゆいばかりの鎧をまとっている。桜色のロングヘアーを編み込んだ髪。燃えるような赤い瞳・・・暗い暗いこの悪夢の森にはあまりにも強く光輝く少女だった。
「見つけたぞ・・・悪夢・・・そして、アルベイド・・・お前たちをを殺す・・・」少女の後ろから少年が現れる。
「ヒナタ、すみません外しました。次は仕留めます。」少女は淡々とした口調でヒナタと呼ばれる少年に声をかける
「はぁ・・・また、君たちですか・・・第二の怪談、白騎士いい加減我々の邪魔をしないでほしいのですがねぇ・・・」男はため息をつきながらつぶやいた。
しかし、白騎士と呼ばれた少女は引き下がらない。
「ヒナタ、私の力の開放許可を・・・奴を消します!」
「うん、白騎士お願い・・・僕の力を渡すよ」少年の右目が輝く。それに同調するかのように白騎士の体が白く輝く。白騎士の魔力が森をつづんでいく・・・
「この剣は反逆者を討った白き正義の剣・・・・悪を穿つ騎士の剣」
白い疾風となって白騎士は悪夢の中心を穿つ・・・そして、剣から膨大な光の粒子が沸きでる。
「ォアァオアォオオアオオオォアアアアアオオオアアア!!!!」悪夢の叫び声が響き渡る。
光が収まったあと、残ったのは悪夢の一部の残骸だけだった。
「ヒナタ!奴を仕留めます!」白騎士の剣ががアルベイドに迫る・・・確実に心臓を穿つ剣。しかしその剣は一本の腕に遮られる。
「なにっ!」白騎士が体制を整えようとするが、長くしなる無数の手が鞭のごとく白騎士を跳ね飛ばし大木にぶつける。
「白騎士!」ヒナタは叫んだ。そして静寂の中パラパラとまばらな拍手が辺りを響かせた。
「いやぁ・・・見事見事、悪夢の体のほとんどを奪い。ましてや私を殺そうとするなんてねぇ・・・惜しかったねぇ。これがただの怪談ならそこで殺せたんだろうが・・・いやぁ、実に惜しい!」アルベイドは下卑た笑みを浮かべながら、少年と少女を見た。
「永遠に終わらない呪いの森・・・・この森の中なら悪夢は死なない。悪夢は終わらないんだよ。」
アルベイドの周りに無数の触手にも似た腕が伸びる。
「さぁ、これで終わりだ・・・悪夢よ。あの勇者君たちをコレクションに加えてあげなさい・・・」無数の腕がナイフのごとく勢いで白騎士とヒナタに迫る。しかし、寸前の所で腕は止まった。森に光が差し込む。
「あぁ・・・残念・・・時間切れですか・・・今宵のショーはこれまでのようです。まぁ、これで二度と我々に歯向かうことも考えられないでしょう・・・行きますよ悪夢!光が差し込む前に」
アルベルトと悪夢は森の奥のほうに歩いていく。アルベルトが歩いたあとはただの、そう・・・ただの街並みが広がっていた。
3話に続く