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見知らぬ世界と自分の名前

始めて本格的に書く小説ですが、どうか最後までお付き合いください。間違ったところ等見つけてたら教えてください。

 プロローグ

 黄昏から、人は何を連想するのか。

 

 それはもちろん人によって違うはずだ。それは人が思考能力を持つ生き物の証でもあって、全ての人の考えが一つの意見のもとにまとまるはずなど無いことである。

 ただし、例外というものは何にでもあった。同じ果樹園で栽培したリンゴでも、全て収穫できるものとは限らない。それと同じで。

 ある王国があった。そこは、人間だけではなく翼や尻尾を生やした(人間いわく)『異形のもの』が住まう国でもあった。もちろんそういった者達が『おろかな人間達』の支配下にとどまるはずも無く、広大で豊かな大地の上で皆、めいめいの生きる知恵を活用し、暮らしていた。国は平和とはいい難かったが、さまざまな種族がいるおかげで文化が恐ろしく発展していた。

 しかし、である。姿から考えまでさまざまな者がいるにも関わらず、そこに住むものは全て口をそろえてこう言った。

 「黄昏とは、混純の時である」と。それは決してよい意味ではなかった。

 

 ゴオオオオォォォォォォッ

 

 暗闇に包まれた森の中、重いものを落としたかのような、凄まじい音がした。黄昏時のことだったので、そこに住んでいる者達は震え上がった。

 直後、一筋の光が空に疾風のごとく吹き上がる。爆発がおき、一瞬間をおいてから最初を凌ぐほどの大騒音が響きわたった。


 爆発が起きた現場―深く地面が削られていた―には、一人の少女が倒れていた。泥まみれで気を失っている。

 高い背と、それに似合わない幼さが残る顔。13歳ぐらいに見えるが、童顔がそれを否定していた。それに、少女というよりはむしろ少年に近いものがあり、賢そうな眉根と茶色の髪に白いTシャツ、ジーパンという格好だった。

 少女は目を覚まさず、黄昏のわずかな闇が再びその場を支配した。


「いい加減にせんか、カル!!」

 とある市場にて、少年が怒鳴られていた。通行人が何事かと振り返る。

「ほらほら、おっさん。そんなに怒鳴ると近所迷惑だぜ〜?」

 当の少年、カルはまるで反省した様子を見せない。それが彼の性格なのだ。毒舌で、皮肉屋。無責任で、お調子者。表向きにはそうとしか感じられない彼と、名目上彼の保護者ということになっている赤ら顔のオヤジ、ハイアン・プロシア。彼らの喧嘩する声は、今日も街中にとどろいた。

 「たかがリンゴを一個くすねたぐらいでそんなに怒るなよ。この辺りの人も、リンゴ一個と安眠のどちらがいいかと聞かれたら、迷うことなくリンゴを捨てるだろ?この俺がそれを食べてやろうと親切に言ってるんだ―」

 まとめて喋ったため、ここで一息。

 「―むしろ感謝して欲しいね」

 この一言は、プロシアの堪忍袋を折るでは済まずに粉々にした。赤い顔がますます赤くなる。

 まるで今問題になってるリンゴみたいだ。カルは思い、惨めな気持ちなった。弟の面倒を見なくちゃいけないのに、俺としたことが…。

 その時、カルにとっては幸運なことが起こった。この町【エルロイ】の北東にある【エリキタ】の森の方から強烈な爆発音が聞こえたのだ。町人は皆、プロシアも含めて驚き、北東を向く。カルはその隙に逃げ出した。

 見ると、【エリキタ】の中央部あたりから光の帯のようなものが空に向かって伸びていた。それは、木々や大岩をともなっていて、まるで森が浮遊しているようだった。

 〈大地を揺るがす、神の怒り〉

 カルは思わずこの国の神話の一節を思い出す。それが何の話の一節だったかは思い出せなかったが。

 このあとは何だったっけ、とカルは呟く。確か…

 二度目の爆発音

 驚いた人々が逃げ惑う。あちこちで起こる悲鳴。カルは目にも止めない。

 「〈それに応える地の精の雄叫び〉…だったか?」

 とにかく、こんなに好奇心をくすぐるものを見逃す手はなかった。カルは弟の存在を都合よく忘れることにして、森へ向かった。町人は森の奥に行く道を知らないのだし、何より今はプロシアがいないのだから。

 爆発の時に逃げたかな?とにんまりしつつ、カルは歩く速度を速めた。

 

 …ここは、どこだろう?

おそらく爆発の原因と思われる少女は、やっと目を覚ました。茶色の髪が風に揺れる。薄汚れてしまった、その服も。

 少女はしばしの間感慨にふけった。

 …頭が、痛い。

 …体が、重い。

 …何があったんだっけ……?

 無意識のうちに握っていたらしい手を開く。その時、始めて手を見た。思わず目を丸くし、息を呑む。

 …何、これ?…魔法、陣?…

 彼女の手の甲には、くっきりと焼け跡のようなものがあった。そして、それは手に六角星のようなもようを描き出している。とても痛々しい。

 …ここ、どこ…?私はなぜこんな所に…?

 周りを見るが土と泥の壁しか見えない。自分はクレーターの中にいるのだろうか。

 …隕石が落ちた……の…?

 少女の意識は再び途絶えた。

 

 カルは【エリキタ】についてはよく知っているつもりだった。危険なところや、木の実の数。そして、そこに住む住人まで全て。

 しかし、今日の森はいつもとちがった。濃い力がたまっていて、五感で簡単に感じることができる。鼻がむずむずした。

 身軽さを活かして枝から枝に飛び移ったりぶら下がったりしていても、不安な気持ちは消えない。

 「あ!!」

 カルは足先の感覚に恐怖感を覚え、下を向いた。

 案の定、木のこぶにつま先が引っかかっており、耳元でうなっていた風がやんだ。そして―豪快に転んだ。絶叫がこだまする。そのままカルは、かなりの高さを誇る【エリキタ】の大樹の枝の上から落下した。遠くかすんだ地面に向かってまっさかさまに―

 「うわああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 目が覚めると、固い地面の感触が感じられた。

 「そうか〜…あのまま俺は……」

 驚き、目が丸くなる。

 「えっ?!ちょっ…あれ?!俺死んでないのかっ?!」

 カルが一人で動揺する声が響いた。木々の間にも、もうとうに暮れた夜空にも。そして、少女が横たわる大穴の中にも。

 

 …うぅ…

 カルは知らなかったが、その声は少女にももちろん届き、少女は頭を起こした。

 …いまのは?…人の声?…

 しばしぼんやりしていると、足音が聞こえた。動こうと思ったが、体中がとてつもなく重い。

 「た、たす…け…てぇ」必死に助けを呼ぶが、のどに痛みが走り、囁き声にしかならない。

 足音が遠ざかってゆく。

 …お願いだから、気付いて!!…

 「助け…助けて!!」

 三度目にようやく声が出た。

 足音が小走りで近づいてきて、誰かが顔を出した。

 少女はその人物に向かって懸命に呼びかける。声がかすれたが、それでも必死に。

 「助けてください」と。

 それがどんな人かも知らずに。

 その人は強く地面をけると、いきなり飛びかかってきた。隠し持っていた短刀を振りかざす。少女は息を呑み、重い体に鞭打って避けた。そして、顔を上げる。

 それは青年だった。灰色の髪の中性的な青年。そして、自分の命を理由もなく奪おうとする―少女はそう思った―。

 …なぜ、私の命を狙うの?…

 口を開く間もなく、青年は再び斬りかかってきた。その、あまりに殺気に満ちた目に少女の腕に鳥肌が立つ。しかし、起き上がろうとした時腹部に力がはいらなかった。

 …お腹、怪我してたんだ…

 おそらくさっきの一太刀の空気圧のためだろう。次の攻撃はとても避けられそうにない。剣の刃はすぐ目の前にせまっていた。

 ―その瞬間、時が止まったように感じた―

 …まだ、死にたくない!!…

 少女は強く思った。しかも、見ず知らずの人の手によって疑問と戸惑いを覚えながら一生を終える。

 …助けて…

 

 そう思った直後、走灯馬のようなものが頭の中を突き抜けた。白い空間と、純白の衣をまとった老人。見覚えがあった。そして何かを喋っている。

 「何?」少女は当惑を覚えつつもしっかりした口調で聞いた。

 老人の声は低かった。しかし暖かい声だった。

 『お…前…のほ…んとうの…名前……を、お…もいだ…せ……』

 その言葉に少女は自問自答した。

 …本当の名前?…

 …私の、名前…

 …誰かが、呼んでる。誰…

 しばし考え込む少女。わずかな間をおいて、その顔が明るくなる。


 …あ…そうか…ここに来てからずっとそうだったんだ…

 …なんで気付かなかったんだろう…

 …私を呼んでいたのは…

 …私自身…

 …私が自分の名前を思い出そうとする心の叫びだったんだ…


 その瞬間、現実と走灯馬が重なりそして―そして止まっていた時は動き出した。

 新たに名を見出した少女は、顔を上げる。その、凛とした視線に絡みとられ、灰色の髪の青年は動けなくなった。その瞬間、少女の口から不思議な声が漏れた。

 「暴風よ、白き刃となりてわが敵の骨肉を断て」

 もはやそれは子供とは思えない、低く、よく響く不思議な声だった。

 青年が目を丸くする。と、少女の背後に風が発生した。それは青年に向かってまっすぐに突き進んできた。


 カルは不思議な声を聞いた。よく響き、澄んでいて、まるで声ではない何かの音のような、そんなものでいて、確かに人の声だった。

 たぶん、すぐ近くだ。

 

 「何故だ…?」

 倒れ行く青年は呟く。低い声は少女の耳にも届いた。

 「何故、お前が風の魔法を…」

 青年の体には浅めの切り傷が多数あった。

 「あなたは、誰?」

 相手の言葉をさえぎって少女は問う。

 「私か…?…私は、エムリス…黄昏を滅ぼす使者だ…聖なるセレナの加護があらんことを」

 少女は混乱し、言う。

 「黄昏…?それにセレナ?」

 その時、第二の足音が近づいてきた。今度は子供のような、軽くて元気のいい音がした。

 ふいに少女と同い年に見える誰かが、頭を突き出した。

 それは少年だった。黒髪を後ろで束ね、浅黒く日焼けしたその少年は、いたずらっぽそうな口元と、切れ長の目を持ち合わせていた。

 少年が口を開く。

 「あんた誰?」

 唐突な質問に、少女は驚く。

 「私?私、ティス」

 少女は《思い出した》名前を紹介した。少年はひどかった。

 「変な名前…」

 「な、なに?!人の文句言うなら自分も名乗れ!」

 「えらそーな女だな…わかった、わかったからそんなに睨むな」

 「俺はカル・ステン。風の魔法が使える」

 ティスは満足し、

 「何だ」

 という明るい声を上げる。

 「は?何一人で納得してんだ?」

 明らかに軽蔑した声を上げる少年を無視し、ティスはにっこりと笑う。

 「変な名前」

 これは後でわかることだが、カルは自分の名前をきにいってたのだった。

 「んだとぉっ!!」彼は自分の保護者に負けず劣らずの大声を上げた。

 「初対面の人にあんた呼ばわりでいきなり名乗れって言う方がおかしんじゃない?『んだとぉっ!!』はこっちの台詞だよ」

 初対面の少女が強く言い返してきたことに驚いたようで、カルの口はぽかんと開いていた。

 「お前、口悪いな」

 痛快な平手打ちの音が響いた。

 カルはびっくりして頬をさすり、後ずさる。ティスが一歩前に出る。カルがまた後ずさる。しばらくはこのやり取りの繰り返しだった。


 


     

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