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5 巨人と紙切れと謝る方法

 西田は荒島と同じく、誰も許すつもりは無いようだが、俺は、少なくとも反省している奴は許してもいいんじゃないかと思っている。


「何言ってるんだよ政伸まさのぶ。あいつら全員、凪人を犯罪者扱いしてたんだぞ。許してたまるか」

「バスケ部以外は警察が無実だと証明してからは、特に何もしてこなかったろ。お前も見たろ。謝ってるの」

「凪人は聞いちゃいねぇがな」


 荒島とバスケをした次の日。俺は社会科教室の自分の席で西田と話をしていた。科目は地理で、荒島の居るクラスと混合したクラスだ。残念ながら、荒島自身は日本史だが。


「つーかよ、ちょっと考えりゃ分かりそうなもんじゃねえか。あいつに謝る方法」

「あれは元凶が既に使ってて、みんな効果無いと思ってんだよ」

「誠心誠意、思いを込めりゃ許すだろ。あいつ、優しいから」

「……すまん。この話はやめよう。見てる奴が多い」


 こっそり周りを見回せば、チラチラとこちらを見てくる視線がいくつもあった。居心地が悪い。

 授業のはじまりを知らせるチャイムがなる。俺の席は右寄りの列の、前から二番目の席だ。教科書を開く俺の左隣で早速寝る体勢を取る西田の脇腹を小突く。睨まれるが、俺は悪くない。


 面倒くさそうに教科書を広げる西田の机に、クシャクシャに丸められた紙切れが投げ込まれた。飛んできた方向を見ると、その場所にはこちらを申し訳なさそうに見る江ノ島が座っていた。

 江ノ島は西田と同じサッカー部で、荒島と同じクラスだ。寡黙な奴だがなかなか聞き上手で、周りのことをよく見ている奴だ。荒島は「話を静かに聞いてくれる」と、西田は「周りの状況をよく見ているから、アシストが上手い」と言っていた。が、やつは臆病者だった。

 荒島が無実だと主張している間、こいつは味方だと思われないようにと、俺達を避けていたんだ。もっとも、最近は荒島に謝ろうと話しかけている。だが、荒島は何もしていなくても敵認識をしたらしく、全く話を聴いていない。

 西田はクシャクシャに丸められた紙を広げていた。内側には何か書かれている。


「なんて書いてあるんだ?」


 西田は無言で俺に紙を差し出し、勝手に俺のルーズリーフを1枚取っていった。受け取った紙には、こう書かれていた。


『荒島に謝りたい。荒島が何もしていないのは最初から分かってた。どう謝ればいい』


 紙にくしゃりと、新たにシワを作ってしまった。分かっていたならなら何故、荒島の無罪を主張しなかったんだと、沸々と怒りが沸いてくる。

 横では西田がルーズリーフにペンを走らせていた。返事を書いているのか。内容をこっそり見れば、『方法、分かってんじゃねーか。魂込めろ魂』と、頭の悪そうな言葉で書いていた。てきとうすぎる。

 書いた分の大きさに紙を破り、それを丸めて江ノ島に向かって投げた。それを受け取り、内容を見た江ノ島は目をかっぴらいた。それから直ぐに別の紙に殴り書き、それを丸めて返してきた。西田に見せてもらう。


『どういうことだ? いくら謝っても、あいつは睨んでくる。魂込めても、誠意を表しても。それに手紙も、榎本がそれを使っても無駄なんだぞ。意味ないだろ』


 やってみなければ分からないことをグズグズ考えてやがる。西田はなんて返事をするんだろうか。再び覗く。


『呼び出すなよ。意味ねーよ。結局聞こえねーし、顔は見えねーし。でもよ、声は聞こえなくても、文字は見えんだろ。いくら暗くても、いずれ目は慣れる。慣れるまで待っててやれ』


 なるほど、言い得て妙だった。


「許さないつもりじゃなかったのか?」

「別に……凪人が許すなら、怒る理由はねえだろ」

「まだ許してねえだろ? これから、だよな」


 西田は不気味そうにペンを回す。そうだよな。お前は努力してる奴が好きだもんな。

 斜め後ろの席に座る江ノ島を見る。江ノ島は書かれているものの意味が分からないのか、顔をしかめている。

 江ノ島、ヒントをもらったんだ。頑張れよ。

 

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