表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/31

30 巨人と傷と心臓

 

 「メグちゃん、すぐ退院なの?」

「うん。病気なわけじゃないし。もう傷は縫ってもらったし、血ももらった。午後には退院だって」


 僕はあの事件の次の日、メグちゃんが運ばれた病院に来ていた。ベットの上には、少し顔色の悪いメグちゃんが座っていて、元気そうにしていた。それを見ていると胸が苦しくなった。


「まぁ、しばらくは安静にしとけってさ」

「そりゃそうだ。動いて、傷口が開いたりなんかしたら大変だもん」

「そうだよね」


 笑ってたけど、傷のことを言ったら、右腕の上の方を、そっと触った。嫌なんだろうな。まだ、痛いんだろうな。でも、目を逸らすわけにはいかない。


「……メグちゃん。傷は、残るの?」

「……うん。くっきり残るっぽい。はーあ。本当あのひと、やってくれたよね」


 気張ってる。本人は気にしないようにしてるけど、きっと鏡を見るたびに思い出す。あの時の恐怖を。痛みを。苦しみを。


「凪人……」


 メグちゃんが僕の膝の上の手に触れた。僕の拳は力みすぎて白くなってた。それをほどくように、メグちゃんの手が僕の拳の隙間に指を入れてきた。外から来たばかりの僕のよりあたたかい手。どうしてだか、胸までじんわりあったかくなった。自然と手の力が抜けた。


「凪人。私、この傷を見るたびに思い出すと思うんだよね」


 体がビクリと跳ねた。心臓がバクバクと鳴った。今まさに、考えてたことだから。責められるのかな。苦しくなって、頭を垂れた。でも、僕の手を握るメグちゃんの手はあたたかいまま。いやむしろ、力強くなっていて。不思議になって顔を上げた。


「凪人をあの人から守れたっていう、勇敢になれた、あの日を」


 震えた。メグちゃんの強さに。傷のこと、責める方が普通なのに、メグちゃんはこの傷を、自分の強さに考えに変えた。たとえ僕を気遣ったとしても、どうして自分が勇敢になれた日、なんて言える? 空手をやってるからなのかな? 心まで強いなんて、ずるいよ。


「僕も」

「ん?」

「僕も、空手やったら、メグちゃんみたいに強くなれるかな?」

「なれるんじゃない? 空手は、武術は、精神も強くしてくれるから。おすすめだよ」


 そう言ってメグちゃんは、僕の頬を撫でて、涙をぬぐってくれた。

 メグちゃんは絶対、『男のくせに泣くな』なんて言わない。きっと、2人とも泣き虫だから。ほら、メグちゃん、もらい泣きしてる。なんだかおかしくって笑ったら、メグちゃんも笑い返してくれた。




「ね、凪人。泣き終わったら一旦、外に出てね。着替えるから」

「あ、手伝うよ」

「はぁっ!? バッ、何言って!」

「だって肩上がらないでしょ? だから」

「やだ! 男に裸見られたくないよ! お嫁にいけなくなるー!」

「僕のお嫁さんになればいいじゃない」

「っっ!?」


 メグちゃんが顔を真っ赤にして動かなくなった。どうしたんだろう。……え、うそ、もしかして!?


「メグちゃん、僕のお嫁さんになるの嫌なの!?」

「え、いや、そんなわけは……じゃなくて! そんな、告白、てか、プロポーズみたいなの、さらっと言わないでよ!」

「よかったぁ。ふられたわけじゃなくって」

「え、あ、いや、だから、そうじゃなくって!」


 慌てふためいているメグちゃんがかわいくて思わず笑ったら、思いっきり叩かれた。痛い!


「私をからかわないでよ!!」

「なんだよそれ! いつもはメグちゃんが僕をからかって遊んでるんじゃないか!」

「だ、だからってそんな話でからかわないでよ! 酷い!」

「? 僕、からかってるつもりないんだけど」

「はぁっ!? な、何言って……!」

「本気だよ。僕はメグちゃんをお嫁さんにほしいと思ってる」


 まっずぐメグちゃんを見る。僕の気持ちが嘘じゃないことを分かってもらうため。


「凪人……」

「信じられないのは分かってる。まだ高校生だもん。この先のことなんか分からない。本当に結婚できるかだって。でも、信じてほしい。僕が本気で、君をお嫁さんにしたいことを」


 今度は僕が、メグちゃんの、恵の手を握った。驚いたのか、恵は少し体を固くしたけれど、その手を握り返してくれた。伝わったのかな? だとしたら、嬉しいな。


「恵……」

「凪人……」


 恵の目が赤く、うるんでいる。すごく、かわいい。

 僕はその目に引き寄せられるように、恵の唇に、自分のを近づけた。





「俺はまだ認めてないぞ凪人君?」

「ヒィッ!!?」


 心臓が恐怖で口から飛び出しそうだった。


「やだもうあなた。チューくらい許せばいいのに!」

「お、お父さん!? お母さん!?」


 突然背後から現れたメグちゃんのお父さんとお母さんに、僕らは思わず顔を真っ赤にしてしまった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ