28 巨人と辻褄と般若
電話をしてから急いで家に帰って、荷物を置いてきた。西田の話に合わせるなら、僕は今、家にいることになってるから。
公園に着いたっていう連絡はさっきもらったから、ここから公園までは歩いていこう。あんまり息が上がっていると、変な風に思われるかもしれないからね。まぁそう言ったのは、隣で一緒に歩いてる尾崎なんだけどね。
「荒島。この後はどうするんだ?」
「公園に着いた後? そりゃあ、僕が囮になって、あいつを誘い出した後、取り押さえるんだよ。そしたら尾崎の手錠で両手をガチャン!」
「待ってくれ。この手錠はおもちゃで、鍵らしい鍵なんてついてないんだが。」
「大丈夫だよ。後ろ手にしちゃえばばれないよ! さ、公園に着いたよ」
不安そうな顔をする尾崎を連れて、僕らは2つある公園の入り口のうち、バスケットコートに近い方の入り口から公園に入っていった。コートには連絡があったように、西田たち3人が来ていた。
「おっせーぞ凪人!」
「ごめんごめん」
「……江ノ島はどうしたんだ。随分と疲れてるみたいだが」
「あー、重い荷物持ちすぎて疲れてんだよ。今は触れてやるな」
ベンチには足を痛めているらしいメグちゃんと、なんか白くなってる純が座っていた。純の周りには、なんだか重そうな荷物が大量に置いてあった。これを1人で運んだの? ……そりゃこうなるよね。お疲れさま。
「お疲れさま江ノ島……。それでだ荒島。さっきの話、してくれるんだよな?」
「え、何の?」
「お前の幻覚についてだよ!」
「あ、そうだった」
さっき尾崎を捕まえた後に聞かれたやつだね。自分で皆の前で言う、とか言ってたのに忘れちゃってたよ。
「何の話なの?」
「僕がどうして、嫌いな人の頭がバスケットボールに見えるのかって話。……改まると緊張するなぁ」
「早く話してよ」
「急かさないでよメグちゃん」
一度ここで深呼吸する。落ち着いて僕。
「僕が皆の頭がボールに見えるのは、僕や、皆を守るためなんだ。皆が僕に傷つけられないように。僕は僕で、警察のお世話にならないようにね」
4人とも、静かに僕の話を聞いていた。僕は少しためらいながら、でも言わなきゃダメだって自分を叱咤して、また口を開いた。
「皆が思っているより、僕、すごく怒ってたんだよね。だって、ものが壊されたり、破られたり、汚くされたり、僕にケガさせたりしてくるんだよ? 悲しいのを通り越して、殺したくて殺したくて堪らなかったんだ。もしあのころ、この幻覚を見ていなかったら、僕は自分のクラスの人たちを殺してた。死なせなくても、病院送りにしてた。で、僕自身は刑務所行き。絶対こうなってた」
顔を上げた純が青くなってた。そりゃそうだ。自分もそうなってたかもしれないわけだからね。もちろん、君にもそのくらい怒ってたんだからね。
「小学生の頃は、この幻覚を見てうれしくなって、とんでもないことをしでかした。けど今はさすがにわかるよ。ずっと浮かんでるボールなんて、ありはしないって」
「よかった。凪人も成長したんだね」
「当たり前でしょ。メグちゃん酷い」
メグちゃんが茶化してくれたおかげで、少しは重たい空気が晴れた。
あー、何しに来たんだっけ?
目的を忘れそうになったその時、後ろからジャリッと砂を踏んだような音と、純の叫び声が同時に聞こえてきた。
「凪人! 後ろだ!!」
反射的に後ろを振り向いた僕が見たのは、般若だった。
「荒島凪人ぉぉおっ!!!」
手にはナイフ。殺意を全身から発して、こっちに走ってくる。あまりに突然のことに僕は動けずにいて。ただ、メグちゃんの声が聞こえてきて、鮮血が飛び散ったのを、倒れながら見上げてた。




