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25 巨人と自販機と電話

 

 「いきなり取り乱したりして、すまなかった」

「ううん、そんな気にしないで。はぁ。……こっちも、疑ったり、問い詰めたりして、本当にごめんなさい」

「マジで怖かった」


 尾崎を追いかけていたら、いつの間にか公園とは反対の場所に来ていた。本当もう、狙ってるんじゃないの? っていうくらい、正反対。でも多分、……きっと尾崎のことだから、本当に狙ってやった気もする。どこから狙ってやっていたかは分からないけどね。目的もよくわからない。


「ゆっくり行こうか。ちょっと疲れちゃったし」

「あぁ。その前に、自販機でお茶買ってくる」

「あ、僕もほしい」


 近くにあった自動販売機でお茶を買って、少しそれを飲んでから、僕らはまた公園に向かって歩き始めた。

 ふと周りを見れば、懐かしさを覚えた。ここは僕が通っていた小学校の通学路だから。高校生になってからはなかなか来ることもなくなっていた。はは、半年見ていないだけなのに、もう懐かしいって思うなんて、僕もおっさんだなー。あれ、ここってこんなコンビニ激戦区だったっけ? 見える範囲だけでも4つある。あれー?

 僕が周りの景色に懐かしんだり、訝しんだりしていると、尾崎が僕を呼んだ。


「荒島」

「何?」

「訊きたいことがあるんだ」

「やっぱり。そんな気してた」

「そうか」

「それで?」

「……どうしてお前は、嫌いな奴の頭がバスケットボールに見える、そんな幻覚を見るんだ? ……いや、違う。どうしてバスケットボールなんだ?」

「ほかにもあったろうって?」

「あぁ。どうして選りによって好きなものに? ……小学生の頃は、それで問題を起こしたと聞いた」

「メグちゃんからだね? ……そうだなぁ、これは、皆の前で話そうかな」


 ちゃんと理由はある。嫌いな人の頭がそう見えるのも、あいつの姿を認識しないのも。全部、僕を守るために脳がしたこと。都合良いよねー。

 買ったお茶を呷ると、スマホが震えた。見れば、西田から着信が来ていた。


「はい、もしもし?」

『よー凪人。政伸止めたか?』

「うん。止めて謝ったよ。あ、そうだ。置いて行ってごめんね。今どこにいるの?」

『どこにいるっていうか、移動中。凪人の彼女に道案内してもらってる最中だぜ』

「は? なんで!?」

『途中で会ってよ。公園に先に言ってるから。待ってるぜ』

「う、うん。分かった」


 そこで通話を切ろうとして、スマホを耳から離していたのが功を奏した。


『はぁ!? 帰るぅ!?』


 スピーカーが壊れんばかりの声量がスマホから発せられたから。


「うるさっ! なんだよ西田!」

『お前、俺らをほっぽって帰るって、はぁ……』

「は、な、何言ってるの西田? 帰らないよ!」

『あ? 家の前に来たぁ?はぁ、わーったよ。帰れ帰れ』

「いやあの、だから、西田」

『一応、彼女さんは家まで送っから』

「なんで君が送る必要が?」

『足、怪我してるんだよ。そのあとは自分達でどうにかするから、心配すんな』

「あのさ、だから僕、公園行くよ?」

『おう、また明日な。じゃーなー』

「だから、ねぇ西田!」

『早く帰れ。俺らの近くに榎本が居る』


 そこで通話が切れた。最後の、やけに小さくて低い声で、早口で言われたその言葉に、僕は冷や水をかぶったような思いをした。血の気が引いて、身体が震え始めた。

 

 そんな中、頭はこの状況を理解した。西田は一芝居打ったんだ。僕を無事に帰すために。あいつに会わせないために。

 僕が、あいつに、殺されないように。


 

 今回の話は長くなってしまったので、ここでいったん区切ります。

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