表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/31

24 巨人と気配とおんぶ

 

 「だはははは! なんだこれ! 政伸が泣いたの初めて見た!」

「とりあえず、追うぞ」

「おうおう、俺らも迷子になるしな!」


 俺達は走り出してしまった尾崎と凪人を追いかける。西田は笑いすぎてまともに走れてない。ひーひー言うなサッカー部。走れ。

 それよりも。

 俺は曲がり角を左に入ると、走ったまま西田に言った。


「西田、気づいたか?」

「は? 何を?」


 大声で言うなバカヤロウ。くそ、気づいてないのか。ずっと俺達を追っている殺気があったろ。とにかく、今は逃げねぇと……。


「あれ、2人は?」

「は?」


 突然足を止めた西田のその発言に、思わず俺も足を止めて周りを見渡す。しかし、尾崎と凪人の姿は確認できなかった。


「……どこ行った?」

「嘘だろ!? 俺ら撒かれた!? 俺ら迷子!?」


 早とちりな気もするが、確かにこのまま闇雲に進めば、このあたりの土地勘のない俺達ではいずれそうなるだろう。まずいな。


「仕方ない。戻ろう」

「戻れるのか?」


 俺がスマホを見せれば、西田はあぁ、と納得したように声を漏らした。

 マップのアプリを開く。


「戻ったら、2人で一斉に政伸と凪人に電話しようぜ。そしたら立ち止まんだろ」

「頭いいなお前」

「だろ? じゃ、行くか」


 最後に降りた駅に向かって歩き出す。……まずいな。あいつ、俺らのほうについて来てやがる。どうにかできないのか? ……怖い。

 俺が背後に気を取られていると、西田が立ち止まった。前を見れば、横断歩道の信号が赤色に光っていた。早く青になれ。逃げたい。

 そわそわしていると、西田に「なぁ」と呼びかけられた。


「何だ?」

「凪人の彼女って、黒髪ポニーテールの空手少女、だったよな」

「そうらしいな」

「あの子じゃね?」


 西田の指差す先を見ると、俺達とは反対の道に、黒髪で、ポニーテールで、道着らしきものを持った女の子が、左足を引きずりながらひょこひょこと歩いていた。


「っぽいな」

「よっしゃ! じゃああの子と一緒に公園に行こうぜ! 俺あったまいー!」

「な、ちょっと待てよ!」


 西田決断すると共に信号が青になった。なんというタイミングの良さ。西田は走って女の子の所へ向かう。俺はそれを追いかける。

 やがて女の子に追いつき、西田はその子の前に立って引き留めた。


「ちょっとストップ!」

「っ!? な、何?」

「なぁあんた、荒島凪人の彼女?」

「……だったら何? てか誰よあんたたち」


 だー、くっそ! おもいっきし警戒してるじゃないか。西田の奴め。


「いきなりすまない。俺達は凪人の友達の江ノ島と西田だ。実は今日、凪人と公園でバスケしようとしてたんだが、道を知ってる凪人がどっかいっちまってな。……君、凪人の彼女だろ? 公園まで道案内してくれないか?」

「あ、凪人の友達ね。分かった。良いよ」

「ありがとう」

「ありがとな!」


 何とか上手くいったな。これで公園への道のりの心配はしなくて済む。しかし、久しぶりに長めに喋ったな。……西田にも、気色悪いが褒められた。スルーしよう。気色悪い。


「すまないが、君の名前は?」

「え、きいてないの?」

「すまない、忘れた」

「俺も。ごめん」

「えー。……まぁいいよ。私は伊野波 恵。「さん」とかつけなくていいからね」

「分かった。改めて、俺は江ノ島 純」

「俺は西田。……名前は好きじゃないから、名字で呼んでくれ」

「? わかった」


 ここで右の道に曲がっていく。ここでもう、凪人と尾崎の進んでいった道と正反対になった。あの二人についていかなくてよかった。


「足、大丈夫か?」

「え?」

「いや、引きずってるから」

「西田、気づいたのか? お前が?」

「純テメェ、俺の目を節穴だと思ってんのか?」


 当たり前だろと言いながら、俺は伊野波の手からスクールバッグと道着を取り上げた。もちろん許可を取ってだ。


「んで、伊野波は足、どうしたんだよ」

「体育でひねった。最初は大丈夫だったんだけど、歩いてたらだんだん痛くなってきちゃって……」

「辛いならおんぶするぜ?」

「え!?」


 西田の提案に驚く伊野波。当然だ。てかさっきから気持ち悪いな西田。変なものでも食ったか。

 そう思っていたのだが、意外にも伊野波はその提案を飲んだ。


「遠慮したいけど、明日に響くの嫌だし、お願いしていい?」

「合点承知!」


 合点承知って、意味が重複してるけどな。

 西田は背負っていたリュックを前に持ってくると、片膝をついて、伊野波が乗りやすい姿勢をつくる。伊野波はおとなしくそれに乗って、おぶさった。


 女子の鞄って、重いんだな。三脚とカメラとリュックとスクールバックと道着が俺の肩を壊しにかかってくる。ぐ、重い。こんな状態で、あの殺気から逃げられるのか?


「純ー、早くいくぞー」

「ぐっ、待てよ、重いんだよ」

「持たせてごめんね。あ、この道を左ね」

「りょーかい!」


 早く来いよーと言いながら走り出す西田に、俺が殺気立ってしまった。覚悟しろ。バスケでボコボコにしてやる。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ