11 巨人と考察と不安
次は、「どうやって犯罪者にしようとしたか」だ。
「これは大体わかってるな。凪人が暴力をふるって怪我をした、ということにしたかったんだろう。包帯を巻いていたということは、傷害罪にしたかったことが窺える」
「ふーん。だけどよ、それって警察が調べて一発だったじゃねぇか。医者の診断書もなかったし。あるはずねぇけど。なんであんな意味もない、リスクの大きいことしたんだろうな」
「だから、榎本は警察に届けるつもりは最初からなかったんだろう。荒島がみんなから犯罪者扱いを受けるところを見たかったのが目的だろうからな。胸糞悪い」
つくづく性格の悪い女だ。本当にあんな悪女っているんだな。マンガかテレビの世界だと思ってた。ああ、情けない。あんな女に、俺も誑かされてたなんてな。
紙に今言ったことを書いてまとめる。しかし思う。類は友を呼んでおくのが良いんだろうと。
西田がため息をついた。
「そう考えると、あいつにとっての不幸は、次のアクセサリーに香川さんを選んだことだな」
「そうだな。恋は盲目とはいえ、正義感が強いのも考えものだ」
「結果、目が覚めてよかったけどな」
バスケ部三年、香川 啓司。バスケ部の四番だ。バスケに対して熱い男で、おまけに正義感も強い。正直、どこのマンガの主人公かと思ってしまうような人だ。香川さんの人の良さは、全校生徒が知っている。本人は将来、警察官になりたいらしい。
しかし、あの人は一度思い込むとなかなか治らない人のようで、ずっと凪人を疑い、榎本を信じていた。おそらく、榎本が好きだったんだろう。香川さんも、榎本が普段は猫をかぶっていたことに気づいていなかったんだろう。
だからこそ、香川さんは榎本が望まないことを、(少し時間を空けたが)警察に通報するという手段をとった。香川さんは凪人が罪を償うべきだと考えたんだろうが、結果的に榎本の不正が暴かれ、凪人の無実が証明された。
「いい人だからこそ、かわいそうだったな」
「あぁ。……話が逸れたな。結局、なんだ?」
「暴力を振るわれたことにしようとした、じゃなかったか?」
「あぁそれだ」
紙に情報を書き加えていく。女性は顔で選んではダメだな。
「最後は、凪人の幻覚か。これも後で凪人に訊きゃあいいんじゃね」
「それはそうなんだが……気になるんだ」
「何がだ?」
「なぜ荒島は今回、暴力事件を起こさなかったんだ?」
西田が「は」とも「へ」ともつかない声を出し、俺に信じられないものでも見る目を向けてきたものだから、俺は必死でさっきの発言の弁明をしなければならなくなった。
大体説明し終えた頃、西田は興味なさげに、また頬杖をついていた。
「なるほど? ガキの頃は、大好きなバスケットボールが目の前にあると思ってたからいろいろやっちまった。だが、今回も同じ感じなのに、同じことは繰り返していない、ってことか? いいことじゃね? 区別がつくくらいに成長したってことだと思うぜ」
「それはそうなんだか……なんだかな」
「ま、後で本人に聞こうぜ。純、プリントできたかー?」
「自分のは出来た。尾崎のがまだだ」
「じゃ、一緒にうつさせてー」
西田が自分のプリントを持って江ノ島の近くの席に向かった。俺は手元にある紙を見て、考えをまとめようかとも考えたが、それは寝ながらにした。
本当に、荒島が成長しただけなんだろうか。俺には、あいつが立ち向かうことを拒否しているように思える。自分を守るために、感情を抑えているんだ。なんの為かは分からない。目的があるかどうかも分からない。が、全て荒島が一人、我慢すれば、みんなが幸せになると思っているのだろうか。
だが、果たしてそれは、荒島が幸せになるのだろうか。そして、もし、荒島が感情を剥き出しにしたとき。俺は、俺達は何が出来るだろうか。
そんな不安を胸に抱きながら、俺は終わりのチャイムが鳴るまで、意識を飛ばすことにした。




