クエスト依頼
「勇者さん、ゴブリンです」
「ゲッ、人間ダ」
いたずら好きの妖精。ゴブリンは、尖った耳に緑色の皮膚を持つ。
ユーリが追い詰めたゴブリンの頭に、茂みに隠れていた久遠が矢を放つ。
初心者だというのに、見事に命中。
不思議だが、自分が外す光景が久遠には予想できない。
「これが、モノリスの力だっていうなら……」
左胸に埋められた物体に、少しだけ恐怖を覚える。
「やりましたね。経験値5ポイント、血濡れの指輪を手に入れました」
「経験値少なっ、そういうノリはなしで」
「記録しておきます。勇者さん、ゴブリンが持っていた指輪を、依頼主に返しましょう」
「ううっ……」
倒したとはいえ、魔物の死体を漁るのは気分がいいものではない。
「あった、指輪」
ファンタジーな異世界でお金を稼ぐのは楽じゃない。
「これが、異世界での洗礼ってやつかな」
「勇者さん、お金を稼ぐというのはどこでも大変なものです」
それを聞いて、久遠は父のことを思い出す。
なんだかんだで、今まで不自由に感じなかったのは父のおかげだ。
会社の経営が上手くいかず、女と酒に逃げてしまった。最近では全く会話をしていなかったが、こっそり金を持ち出していることには気づいていた。
「はぁ……」
ため息をついた久遠を見て
「勇者さん、しょうもない悩みでも聞きますよ?」
ギフトですからね、と相変わらずユーリは淡々としている。
「偉そうだなぁ……別に、考えてもどうしようもない」
久遠はため息をつくと「町に戻ろう」と、踵を返した。
♦︎♦︎♦︎
「これで、結婚式で指輪の交換が出来るわ」
「本当に、ありがとうございます」
若い恋人たちからお礼を言われ
「無事に取り戻せて良かったよ」
久遠は、報酬金を受け取る。
「……勇者さんは、変な人ですね」
感情の読めないユーリを横目に
「変って、なんだよ」
「さっきまで悩んでいたのに、もう笑っています」
これって変だと思います、とユーリ。
「人の役にたったら、誰だって嬉しいものだろ」
「……そういうものですか」
ユーリは顎に手を当て
「こういう変な所が知りたくて、ドラゴンは干渉するのでしょうね」
少しだけ分かる気がします、と小声で呟いた。
「王都に行くには、地道にクエストこなすしかないの?」
「魔物の討伐クエストでもあれば、勇者として名を上げることも可能でしょう。しかし、そのようなクエストは、戦士ギルドが斡旋していますからね」
ユーリの視線の先、盾の紋章を掲げる建物。
人々を魔物から守るために、自警団から発展した組織。
屈強な男たちが出入りしているのが見える。