ご主人様になりました
「ぜぇ、はぁ」
ルナ峠を一気に下り、杉林の途中で久遠は立ち止まる。
途中、ゴブリン達が「ニンゲン」「マヌケ、マヌケ」と騒いでいた。
弱いくせに、逃げる人間にはゴブリンは強気である。
「勇者さーん」
後を追って来たユーリ。
そして、その後ろに
「今ダ、トドメ」
「ニンゲン、覚悟」
調子に乗ったゴブリンが数体。
「お前、何引き連れて来てるの!?」
久遠の言葉に
「すいません、途中で絡まれました」
「ああ、もう……」
大勢を立て直して、弓でゴブリンを撃退。
「ああ、喉乾いた」
「はい、キイチゴなのヨ」
ちょこん、と久遠の手のひらにキイチゴが五個。
「ユーリ、気が効くな」
「いいえ、私ではありません」
ユーリは、首を横に振る。
「ワタシだヨ」
久遠の頭の上に、家付き妖精が腰を下ろす。
「エリム?」
新しいご主人様を探しに行ったんじゃ、と言う久遠に
「何言ってるのヨ。勇者様が、新しいご主人様なのヨ」
「……え?」
「ああ、やはり契約書」
事情を知っているユーリに
「どういう意味だ」
久遠が問いただす。
「家付き妖精の風習みたいなものではありませんか。例えば、前の契約書を破った人物が次の主になるという」
「その通りなのヨ」
エリムが頷く。
「やりましたね、勇者さん。メイドさんの、ご主人様と言えば男なら一度は憧れるモテイベントです」
「こんなちっちゃいやつ、メイドに入るかよ……」
そう言いながら、久遠はキイチゴを食べる。
「お前も、食べるか?」
「はい、では少しいただきます」
キイチゴは、ちょうどいい甘酸っぱさだった。
「僕たちは、ドラゴンを倒すんだ」
危険だよ、と言う久遠に
「大丈夫ヨ、いざと言う時ぐらい自分の身ぐらい守れるワ」
「そう言ってもな……」
「まあまあ、勇者さん。あの透明になる術といいエリムさんが居ると色々便利ですよ」
ユーリの言葉に
「お前がそう言うなら。別に、いいけどさ」
「そうダ、お礼がまだだったわネ」
エリムは、スカートのすそをたくし上げる。
「どこ入れてるんだよ……」
家付き妖精の服は、異次元にでもなっているのだろうか。
黒曜石が装飾された、首飾りが出てきた。
「黒曜石は、魔除けになるのヨ」
前の主が、愛人にプレゼントしようと買ったものだが、奥さんに見つかってゴミ箱に捨てられた。
それを、こっそりエリムが拾って宝物にした。
「勇者さん、ミカさんのペンダントにどうでしょうか」
ユーリの提案に
「……呪われそうな、ペンダントだな。そういや、お前も頼まれてただろ」
「アリアさんにですか」
町についたら露店をのぞいてみようと思います、とユーリ。
「確かに、前はグリフォン騒ぎで観光してなかったからな」




