ドラゴンの招待状
「あらぁ、勇者様って若いお嬢さんなのね」
お人形さんみたいで可愛いわ、と宿屋の女性が目を細める。
「その認識は、間違いです。勇者さんの腰のラインから判断しますと、男です」
ユーリが、淡々と答える。
「あら、男の子? ごめんなさいね」
ジャガイモのバター焼きをフォークで刺した久遠は
「これから、僕の後ろに立つな。絶対、立つなよ !!」
妙な寒気に、体を震わせた。
「無茶を言わないでください。私の足では、勇者さんに追いつけません」
ここに来る道中、全力疾走の久遠にユーリは追いつけず、後ろから道の指示を出した。
「そう言えば、足も早くなってるような……マラソンは、いつも最後の方がだったのに」
「モノリスの影響ですね」
何かと言えば、モノリス。
「だいたい、モノリスって何? 心臓の代わりになってるみたいだけど」
「モノリスとは、直方体の黒い板です。勇者さんに分かりやすく説明しますと、運動能力の上昇、異世界言語の翻訳……まあ、要するになんでもアリな物体です」
「アーティファクトみたいなものってことか」
「それは、ドラゴンに心臓を喰われた異世界の人間に渡されるものです。ドラゴンから勇者さんへ、ヴァルハラの招待状。誰にでも渡せるってわけではありませんよ」
久遠は眉をよせると
「条件って?」
「それを聞くと、壮大な話になってしまいます」
「あー、やっぱりパス。今日は早めに寝たい」
「そうですか。では、また次の機会に……おやすみになられる前に、私たちの旅の最終目的はドラゴンの討伐です」
ドラゴン討伐、どうやら今夜は眠れそうにないな、と久遠は思う。
♦︎♦︎♦︎
「いらっしゃい、いらっしゃい」
いいもの揃ってるよ、と行商人の少女。
少女は久遠の着てる服を見て
「あんた、珍しい服来てるわね。ねぇ、売ってよ」
「え……」
戸惑う久遠に
「よろしいのでは、勇者さんの着ている制服とやらは長旅には向かないと思います」
「や、やだ……すごいイケメン」
ユーリを見て、少女は瞳を輝かせる。
「弓は扱ってますか? あとはナイフと……防寒用の服と」
「はいはい、お待ちください」
勝手に装備を整えてていくユーリに
「僕は、弓なんて使えないよ」
「問題ありませんよ。モノリスによる運動能力の上昇は、個人差があります」
勇者さんの体格と能力から総合的に判断して最適な装備です、とユーリ。
「な、なんて便利な」
「ギフトですから 」
「まいどー、あんた勇者様なのね。私、ミルラ商会のアリアよ」
また会ったらよろしく、と手を振って去って行った。