洗礼の儀式
「おはようございます」
「あ、エネーロさん。おはようございます」
挨拶をした久遠の横で
「オッホン」
ユーリが、わざとらしく咳払い。
「始めまして、エネーロさん。いつぞやは、勇者さんがお世話になりました」
エネーロは眼鏡のブリッジを押し上げ
「いえいえ、未熟なギフトをサポートするのも先輩ギフトの務めです」
「ははは」
「ふふふ」
二人とも目が笑っていない。
「……お前ら、仲悪くないか?」
久遠が言うと
「そんなことありません、普通に良好ですよ」
薄っすら笑うエネーロ。
「どちらかというと、苦手なのはアヴリルさんです」
ユーリが答える。
「ああ、ヤマト王のギフトか……」
確かに、あの切れ長の瞳に睨まれるとゾクっとする。
「クオンくん、ユーリさん」
ミカが手を振る。
「……なっ」
儀式用の白い神衣は、布の面積がかなり少ない。
ミカの豊満な胸が、やたらと強調されている。
「今日、来るってエネーロ神官長から聞いて……先輩から借りた神衣なんですけど、どうですか」
「……すごく、大きいです」
「勇者さん、目がいやらしい」
久遠の視線は、自然と胸の方に向かられる。
「うーん、やっぱり大きかったかな」
神衣のサイズ、とミカがズレたことを言っていた。
「ミカさん、そのペンダントは?」
ユーリが聞くと
「えへへ、綺麗ですよね。エネーロ神官長からもらった、ドラゴンの鱗です」
ミカの胸元で光る、白いドラゴンの鱗。
「あれって、セツナさんが拾ったやつだろ」
「あの方は、もう用がないとか言ってフェブさんに渡したのでは?」
久遠とユーリの話を聞いて
「実際、その通りです。扱いに困って、私の所に持って来ました」
エネーロが答えた。
「クオン様は、前に私に寂しいかと聞きましたね」
「ああ、そういえば……」
嬉しそうなミカの横顔を眺めながら
「もう一度、我が主と話がしたい」
これが寂しいという気持ちでしょうね、とエネーロは語った。
教会の地下へと向かう階段。
『……どうしてギャルゲーの主人公に、女の子は選択できないのです』
突然、聞こえてきた女の声。
ミカは後ろを振り返り
「今、女の人の声が……」
「ユーリ、聞こえたか?」
久遠に聞かれ
「いいえ」
ユーリは首を横に振る。
「幻聴にしては、はっきり聞こえたような……ぎゃるげ、とか」
意味の分からない言葉でした、とミカ。
光石が、淡い光を放ち暗闇を照らす。
「奥に、光輝の書が安置されてあります。ミカさんは、それに触れ許しをもらってください」
エネーロから説明される。
「何も聞こえなかったら、失格ということですか?」
ユーリが聞くと
「そうなりますね」
エネーロが頷く。
「ううっ、なんだか緊張してきました。クオンくん、ちゃんと後ろに居てくださいね」
「終わるまで、近くに居るよ
ミカの後ろに、久遠は続く。
『ルート分岐……間違えましたわ』
ため息混じりの女の声。
「……今のは?」
「クオンくんにも、聞こえましたよね」
目の前には、光輝の書のオリジナルーー
(なんか、向こうから聞こえてきたような)
ミカは深呼吸をすると
「いきます」
光輝の書に、右手で触れる。
ミカのペンダント、竜の鱗と光輝の書が共鳴。
その場は、光へと包まれた。