どうやら異世界
「勇者さん、勇者さん、起きてください」
抑揚のない若い男の声。
「僕は、そんな名前じゃ……ない」
久遠は、薄っすらと目を開いた。
空が青い。
「あれ、眼鏡ないのに見えてる?」
いつ間にか、気持ち悪いくらい視力が上がっていた。
マサイ族もビックリのビフォーアフター。
「おそらく、左胸に埋められたモノリスの影響かと思われます」
外国のファンタジー映画に出てきそうな、長い金髪を束ねた碧眼の青年。細身の割りには、背中に大剣を背負っており、無駄にゴツい装備が気になる。
「モノ……え?」
「ドラゴンに、心臓抜かれたでしょう」
その証拠に鼓動がかんじられないでしょう、と青年。
久遠は左胸に手を当てる。
心臓の鼓動が感じられない。そして、雑に縫われたような傷跡。
「な、なんで……生きて」
動揺する久遠に
「モノリスの影響でしょう」
淡々と答える青年。
「だいたい何だよここ。僕は今まで、学校に」
不良三人組にカツアゲされてました。
はっきり言って、いい思い出ではない。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない。というか、お前は?」
久遠に聞かれ
「これは失礼しました。私は、ギフトと言います」
青年は丁寧に頭を下げる。
「えーと、お中元?」
「正確には、プレゼントの方ですね。あ、ちなみに本名というわけではありません」
「じゃあ、本名教えてよ」
「私は、ユーリです。勇者さん、よろしくお願いします」
「勇者って、魔王とか倒しちゃったりする聖人みたいな存在だよ。僕は、違う……だいたい、そんなのはゲームとか漫画の中の世界の話じゃん」
疲れてるのかもな、と久遠は再び草原の上に横になる。
「おやすみ。現実に戻るまで、放っておいてよ」
「勇者さん、おやすみになるのでしたら宿をとった方がいいですよ」
周囲に魔物の気配が、とユーリは大剣を構える。
「グルルル……」
「ガルルルル」
獣の唸り声。
あ、これはヤバイ奴だ、と久遠は判断。
「狼は、群れで行動しますから囲まれたら危険です」
「先に言ってよ!!」
♦︎♦︎♦︎
「都合よく、村があってよかったですね」
今日はここで休みましょう、とユーリ。
「……一体、どうなってるんだ。まるで、違う世界に飛ばされたみたいだ」
「その認識は、合っていますよ。ここは、勇者さんの居た世界とは別世界……そうですね、分かりやすく説明しますと異世界ってやつです」
その説明を聞いて
「異世界って……」
「心臓を竜に喰われた異世界の人間は、ここヴァルハラでは勇者として信仰されます」
そして、ギフトと呼ばれる従者が仕える。
「な、なんですと!?」