教会
「あらあら、男の方でしたか。大丈夫、貧弱な体も祈りを捧げればムキムキですよ」
グラマーな神官は、ネジが緩んだような声で熱く語る。
動く度に、メロン二個分の胸が揺れるので
「……よ、よけいな、お世話だよ」
お年頃の久遠は、チラチラと視線を神官の少女の胸元に送る。
「勇者さん、目がいやらしい」
「し、仕方ないだろ」
「勇者様と、会えるなんて光栄です。私は、神官のミカです」
「僕は、久遠」
「私は、従者のユーリです」
「クオンくんと、ユーリさんですね。あの、良かったら教会に寄って行かれませんか」
ここから近いんですよ、視線を左に向ける。
屋根の上の十字架。赤レンガで作られた、大きな教会。
「確か、光輝の書だっけ」
魔法が使えるようになるやつ、と久遠。
「はい。実はワタシ、三日後に洗礼を受けるんです。ちょっと、色々考えちゃって」
「なるほど、それでさっき考えごとを」
ユーリの言葉にミカは頷くと
「洗礼を機に、教会を出て行った神官って結構いるんですよ」
「たしかに、威力はすごいけど……そこまで、考えなくてもいいだろ。魔法を使えなくても、困ってる人の相談に乗ったり、薬の調合したりさ」
小さな村では子供たちに文字を教えたり、神官は人々から頼りにされている。
「良くなですよ。神官長は、手を触れただけで病気の子供を治したことがあるんです」
ワタシは神官長みたいに人の役に立ちたい、とミカは語る。
「勇者様も、ドラゴンを倒すのは人々のためでしょう」
「え、いや、僕は成り行きというか……まあ、人のために何かをするのは嫌いじゃないけど」
「うんうん、どうですかゾーハル教に入信してみては?」
目を輝かせるミカに
「いや、うち仏教だから……そうだ。そんなスゴイ人なら、色々知ってるかもな」
「勇者さん、まさか」
久遠の考えを読み、ユーリは眉を寄せる。
「ユーリは、戦士ギルドでクエスト受注な。僕、ちょっと教会寄って行く」
「言うと思いました。まあ、その方が仕事の効率はいいでしょうからね」
用が済んだらギルドに顔を出してください、とユーリは戦士ギルドの方へ向かう。
「光輝の書って、一般人は見れないの?」
「教会の地下に保管されていますから、普段は立ち入り禁止なんですよ」
「ふーん」
ミカの後に続いて、久遠は階段を登る。
「ああ、神官長様ありがとうございます」
「いいえ、お大事にしてください」
青と白を基調とした法衣の男に、母親と男の子が頭を下げていた。
「……うっ」
何やら重苦しい空気を感じ、久遠は左胸を抑える。
「どうしました?」
「気のせいかな、ちょっと息切れ……運動不足かも」
ミカを心配させないよう、久遠は適当に誤魔化しておいた。