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駆除人  作者: 花黒子
~土の勇者と戯れる駆除業者~
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81話

「道路公団って何ですか?」

 マーガレットさんが聞いてきた。知られているはずもないか。


「つまり、高速馬車の道をルージニア連合国全土に広げるんです。そしてその道を有料にすると……」

「考えてもみていただきたい。最高のスピードで馬車が走れるようになったらどうなりますか?」

 リドルさんが興奮したようにマーガレットさんを見た。

「それは……、流通が早くなりますね」

 マーガレットさんは頷いている。ちゃんと理解している


「そうです。内陸で海の魚が食べられるようになったり、山でしか食べられなかったもの、もしくは他の国では食べられるのに、自分の国では食べられないものがあったら、人はそれを食べてみたいと思いますよね? ちょっと価格が高くても。さらに人も一気に素早く大人数運ぶことが出来る。例えば軍隊とかもね? 有事の際、どこの国にも素早く移動できます。もちろん、旅行者もいいでしょう。話に聞いて行ってみたかった場所、遠くはなれてしまった故郷に行くのも早くなる。ちょっとお金を足すだけで、何日か得をするんです」

「でも、それには維持が必要なんじゃないですか? 土の勇者は一人です」

 確かにその通り。いつでも勇者がいるわけではない。


「魔物に関しては魔物除けが完璧でない以上、冒険者に頼るしかありません。ですから、高ランクの冒険者を乗せた馬車は通行料金を安くするなどの方法で、馬車に冒険者を引き込むというのはどうでしょう? もしくは高ランクの冒険者は無料で馬車に乗れるなどの措置などを考えています」

「フィーホースが最高速度で走れば、追ってこられる魔物は限られておるのじゃないか?それに、交通量が増えれば、高ランクの冒険者が現場に駆けつける確率も高くなるじゃろう」

 リドルさんが俺のフォローをしてくれた。


「確かに。でも道が壊れると、そもそも高速では動けなくなるのでは?」

「もちろん、鉄砲水や嵐などの影響でも、思わぬ障害物も出てくるかと思います。それについては道幅が決まった道を作ろうと考えています。練習すれば、一度の魔法ですぐ直せるほどの道幅です。もし壊れても、すぐに直せることが出来れば、時間もかかりませんから」

「なるほどね。修復に関しての人材はいるの? 土魔法を使える冒険者は限られていませんか?」

「ええ、ですから、勇者のところにいる子供たちや、村の人達を巻き込もうと考えています。最も勇者のことを見てきた人たちです。見ている分、飲み込みも早いだろうし、教師となる勇者とも顔見知りですから」

 なんだったら、荒野でレベル上げして、スキルポイントを稼げばいい。そのくらいは勇者の仕事として頼めるだろう。


「道幅に関してはすでに決まっているの?」

「それについては是非、中央政府に決めていただきたい。流通に関することですから。現在は個人によって馬車の大きさが違うのではないですか?」

「ええ、違います。それを有料道路の道幅に合わせたサイズにするんですね?」

「そうです。今後のことを考えると、出来れば、荷台の上に乗せる箱の大きさを決めていただきたい」

「箱、ですか?」

 マーガレットさんが急に何を言っているのかわからないという表情でこちらを見てきた。


「大きな箱です。荷台の幅や長さと同じくらいの箱を想像してください。それを港町に持っていき、その箱ごと船に乗せられるようにしたいんです」

 俺が考えていたのはコンテナだった。雑な紙を取り出して、木炭で簡単な絵を描いて説明する。


「船……?」


 マーガレットさんはよほど驚いたのか目を丸くして、リドルさんを見た。

 あれ? もしかして、また頭おかしいと思われた?


「流通が良くなれば、それだけ貿易もしやすくなります。そう考えると多くの商品を大きくて安全な箱に詰めて送ったほうが良くないですか?箱の入り口に鍵をつければ、途中で馬車から落ちるというような欠品漏れや、仲介業者が途中で抜いてしまう、なんてことも少なくなると思うんですよ。いずれ輸送するだけの業者や、専用の倉庫なんかが出来ると思うんです。箱だけなら積み重ねることも出来ますからスペースも取りません。管理するのも、難しくなくなるのでは?」

「………」

 あれ? 反応がないな。

 やっぱり、また変なことを言ったかな?

 何か、忘れてる?

「あ! もちろん箱には四隅には脚を作ったり、窪みを作って揺らしても落ちないようにすれば……」

「ちょ、ちょっと待って! ナオキさん、情報が多すぎて……」

 マーガレットさんが頭を抱えてしまった。

「まぁまぁ、ナオキ殿。一遍にいろんなことを言っても理解は出来んじゃろ。今はただ有料道路の有用性が伝わればいいのではないか?」

 リドルさんがフォローしてくれる。

「そ、そうですね」


 そもそも想定通り行くのかもわからないし、土の勇者に断られたらなんの意味もない絵空事だ。

 中央政府にいた人だからと説明しすぎてしまった。

 俺の計画を聞いたセスやメルモは、田舎から都市部に簡単に行けるようになったら良いな、くらいの反応だったしね。


「すみません。いろいろしゃべりすぎてしまって」

「いえいえ、もうお婆ちゃんだから、ちょっと理解するのが遅くてね」

 少し落ち着いて、お茶を飲もう。


 一口、お茶を飲んだら、頭が冷めて、自分がしたことについて、急に顔が熱くなってきた。

 前の世界で見たり読んだりした知識が役に立つんじゃないかと思ったら、熱くなってしまった。

 この世界にはこの世界のペースがあるんだ。

 俺が介入しなくたって、勝手に発展するだろうに。何をチート気取りで、言ってやがるんだ俺は。ただ依頼通りに止めるべきことを止めてればいいんだ。


 絵なんか描いちゃって、もう、恥ずかしいったらない。

 そう思って、紙をクシャクシャにしようとした。

「あ、あ、あ、ちょっと、その紙クシャクシャにしないで!」

 マーガレットさんが待ったをかけた。

「え? でも、変人の戯れ言ですから」

「いえ、その戯れ言、捨て置けません!」

 マーガレットさんは俺のメモ書きを大事そうにしまっていた。


「それで、つまり農園が潰れた後、勇者ガルシア・ノームには、その高速馬車の道を作る業務を中央政府から依頼すればいいんですね?」

「その通りです!」

 良かった。大事なことは伝わったようだ。

「連合国が出来て以来の大事業じゃな」

 リドルさんはウンウンと頷いている。


「ちょっと待って、もしかして、その道の通行料も建設費用も、どこの国から工事を始めるかも全て、連合国の中央政府が決めるってことね?」

「そういう事になります。まぁ、建設費用と言っても、勇者とその仲間たちの滞在費や食費と幾ばくかの報酬があればいいんじゃ……」

 さすが金持ちなだけある。利権の匂いに敏感だ。


「道に混ぜるという花と、道の作成方法に関しては秘匿としなくてはいけませんね」

「いずれバレるとは思うが、ワシもそれが賢明だと思います」

 リドルさんがマーガレットさんの言葉を押す。

「全く、引退したと思ったのに忙しくなりそうです」

「言った通り、土の勇者に農園なんかやらせている場合ではなかったでしょう?」

 リドルさんが笑いながら、マーガレットさんに言う。

「ルージニア連合国は変わります。ナオキさんをいったいどこで見つけてきたんですか?」

「いやぁ、ナオキ殿の方から来たんだ」

「ナオキさん、今話してくれた計画を他の人に話しました?」

「ええ、うちの社員には。と言っても俺を含めて5人しかいませんけど」

「できれば、もう他の人には話さないで下さいますか?」

「わかりました」

「中央政府からは、追って連絡を致します。通行料の何%をコムロカンパニーに支払うかを決めなくてはいけませんから」

 ま、マジかよ! もしかして大口の取引先と報酬を取れたんじゃないだろうか。

 それにしても、台所から、とても良い匂いがしてくる。

 そう思っていたら、タイミングよく扉が開いた。


「マーガレット様、お食事にしましょう」

「おーい、ナオキ殿~、飯だぞ、飯~」

 すっかりこの屋敷に馴染んでしまった黒竜さんが、俺を呼ぶ。

 外は夕闇が近づいていた。


 広い食堂には魚料理やサラダ、ワインが並んでいた。

 リドルさんは「すまぬ、従兄弟に報告しに行かなくてはいけない」と言って帰ってしまった。帰る際、マーガレットさんに「道路公団の件はまだ報告しないでください」と釘を差されていた。

 マーガレットさんは、ばぁやにハトの魔物に手紙を持たせて放つよう指示をしていた。


 晩餐会は何故か黒竜さんの乾杯の音頭で始まった。

「ナオキさん、その先ほど使っていた『通信袋』という魔道具はどこで手に入れたんですか?」

 食事中にマーガレットが聞いてきた。

「自作ですよ」

「っ! はぁ……、なるほど、そうですよね。そのレベルですもんね。……できれば、私にも作っていただけませんか? もちろんお金はお支払いします」

「わかりました。時間のあるときに作っておきます。リドルさんの分の食事いただけますか? 実は宿に残してきたものがおりまして」

「そうなんですか? すぐに用意させます!ばぁや、ばぁや!」

 マーガレットさんがばぁやを呼びに行った。姿が見えなくなった時、俺の袖をレッドドラゴンが引いた。


「なんだ? どうした?」

「いや、実はの……」

 レッドドラゴンが恥ずかしそうに俺の耳元で、「寝ると竜の姿に戻るかもしれん。今日はここに泊めてくれるよう頼んでくれんか」と言ってきた。

「黒竜さんも?」

 黒竜さんを見ると、頷いていた。

「まぁ、マーガレットさんには竜だってことがバレているから、頼んでみるよ」

「む!? あのお嬢さんも我輩たちの正体に気がついたのか?」

「使用人も主人も、天才じゃな。この屋敷のものは」

 黒竜さんとレッドドラゴンが顎に手を当てて唸った。

 

 ばぁやを連れて戻ってきたマーガレットさんに、竜たちの事情を説明するとにっこり微笑んでいた。

「ええ、ホールでも中庭でも好きなところに寝ていただいて結構です」


 ばぁやはすぐに料理を包んで、俺に持たせてくれた。

「じゃ、俺は腹を空かせた奴隷が待っていますので、これで。じゃ、黒竜さんとレッドドラゴン、明日の朝、発つからそんなに飲まないようにね」

「うむ、わかっておる」

「それではまた明日」

 俺は屋敷を出て、陽が暮れた町を歩き出した。


 それにしても危なかったんじゃないだろうか。

 もし、リドルさんにマーガレットさんを紹介されてなかったら、あの竜たちは今頃どこで寝ていたのやら。これも神の導きかな?まぁ、そんなことしないか。


 宿に戻ると、シンシアは起きていて俺の帰りを待っていた。

「すまんすまん。メシ代くらい渡しておけばよかったな」

「ううん。私は奴隷だから」

「解放しておくか?」

「いいの!? そんな簡単に」

「いいよ。とりあえず飯食べちゃえ」

 農園のことを話すと食べてくれなくなるかもしれないので、先に飯を食べさせておくことにした。


 シンシアはお腹が減っていたらしく、バクバクと一気に食べて涙を浮かべていた。

「病気の間はあんまり食べられなくてさ」

 そう言うシンシアは治ったことが本当に嬉しそうで、何度も俺にお礼を言ってきた。

 食事も終え、ベッドに座りながらシンシアに告げるべきことを話しておく。

「勇者の農園のことと、グールになる病気のことを説明しておくよ」

 俺はその日、四度目となる説明をした。

 地図を広げ、理解してないことは何度も説明した。

「明日、この薬を持って、ノームフィールドに戻る」

 竜に乗って、とは言わなかった。


「うん、わかった」

「農園は潰すことになる。すまない。ただ、潰れた後のことは、大丈夫だ。ちゃんと今日、中央政府の人と話してきた」

「そっか。わかった」

「きっとガルシアさんは大変な思いをして、あの農園を作ったんだろうな。20年もかかったと言っていた。俺はその苦労を見ていないし、わからない。わからない奴が農園を潰すんだ。きっと恨まれる。でも、俺は村の人達や子どもたちをグールにはさせたくないし、湖の畔に住む人達も病気にはさせたくない。救える命は救いたい。たとえどんなに悪者と言われようともだ」


 決して俺はヒーローではないし、全てを救えるわけではない。

 ましてや、全部元通りにすることも出来ない。

 俺はできるだけ真摯にシンシアと向き合い、自分の思いを伝えた。


「うん」

 シンシアは口を一文字に閉じて頷いていた。

「もし、村の人達が治療を拒否していたら、協力してくれるかい?」

「もちろん、私を見れば治ることがわかるはずさ。どんなことがあっても協力するよ」

 シンシアは、そう言ってくれた。

 それでも顔は渋い。

 もしかしたら、明日の朝起きたら、どこかへ行ってしまっているかもしれない。

 勇者の農園を潰しにやってくる悪者を、衛兵につきだそうとするかもしれない。

 そういう疑念がなかったとは言わないが、俺はシンシアの首輪を外し、背中の奴隷印を消した。


 シンシアは飯を食べたせいか、すっと眠ってしまった。

 俺も、いい加減疲れて眠っていたが、深夜に通信袋からベルサの声がして起きた。

『ナオキ……、ナオキ』

「ん? おう、ベルサ。どうだ、そっちは?」

『あんまり芳しくないんだ。村人になかなか受け入れてもらえなくてね。ロメオ牧師が村中走り回って、無理してるよ』

「治療は出来なかったか?」

『うん、なかなかね。我々は他所者だからな。それでもマスクは結構広まってきているよ。こっちは風が強いから、気をつけてこいよ』

「おう、わかった。朝一で行くから」

『ん。それじゃ』

「おう、あんまり頑張り過ぎないようにな」

 通信袋から魔力を切った。

 こんな深夜まで、駆けずり回っていたか。

 ずっと説明して回っていたのか。

 窓から月明かりが差し込んでいて、隣のベッドでシンシアが寝返りをうっているのが見えた。

 会話を聞いていたかな?

 俺は黙って、部屋の天井を見た。

 いろんなことを考えたが、まずは明日ノームフィールドの人たちを治療するところから始めよう。

 そう思って、俺は目を閉じた。



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