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駆除人  作者: 花黒子
~土の勇者と戯れる駆除業者~
73/502

73話


 ノームフィールドは、村の真ん中を川が流れていて、頑丈そうな橋が一本渡されている。建物は川の両端に並んでおり、三角屋根の教会が目立っていた。


 勇者の農園と家は南側で、村から少し離れている。

 泊まるなら宿は一つしかないらしく、場所を教えてもらった。行商人のおっさんは知り合いの家に泊まるのだという。「夜、宿の食堂で一杯やろう!」と言って別れた。

 情報収集のためなら、禁酒も解禁しなくてはならないな。


「しょうがないなぁ、全く」

 宿に入り、部屋をとった。

 ついでに手紙の宛名を確認し、宿の従業員に尋ねた。


「ロメオという人を知りませんか?」

 ツナギをじっと見ていた従業員が「へ?」と答える。

「いや、だからロメオさんという人を」

「ああ、ロメオ牧師ですか。教会にいますよ」

 従業員はツナギがどうしても気になるようだ。

「何か、変ですかね?」

 あんまり見てくるので、聞いてみた。

「変わった服ですね。寝間着ですか?」

 失敬な!

「作業着です!」


 俺は、宿を出る。

「あ、夕飯は食堂で!」

 従業員の声を背中で聞いた。


 三角屋根の教会に行くと、ちょうど男の子が出てくるところだった。

「ありがとう! 後で晩飯持ってくるよ!」

 お金じゃなくても診察代を払えるらしい。お金は取れるところから取ればいいということだろうか。俺もそうしよう。

 男の子はこちらを振り向いて、ポカンという顔をした。男の子は俺の顔をまじまじと見ているものの、走りだした足は止めなかった。何度も振り返りながら走って行ってしまった。

 よそ者は珍しいのかな? それとも、そんなにツナギが変か?


 教会の扉を開けると、ホールに並べられたベンチに人がたくさんいた。

 病人やけが人だろうか。年寄りや子どもが多かった。

 ただ重病そうな人はおらず、寄り合い所のような雰囲気だった。


「いかが致しました?」

 白いローブのような服を着た老婆が話しかけてきた。

「あ、お届け物です。ロメオ牧師に」

 俺はアイテム袋から、手紙と魔力回復シロップを取り出した。

「誰からですかね?」

「シンシアという娘さんです」

「シンシア! それはきっと喜ぶことでしょう。どうぞこちらです。今日は具合が悪いそうで、部屋にいますが、シンシアからの手紙なら、直接受け取りたいでしょうから」

 老婆が案内してくれた。


 教会のホールの奥に診察所があるようだった。

 俺は、脇の扉から別館へと続く渡り廊下を、黙って老婆の後についていった。渡り廊下を通る際、庭に大小様々な墓石が並んでいるのが見えた。そんなに歴史も古くない村でもこんなに死者はいるんだなぁ、と思った。


 ロメオ牧師の部屋は別館の最奥。老婆がノックをして、ロメオ牧師を呼ぶと、ドアが開いた。

 頭がボサボサで丸メガネをかけた男が具合悪そうな顔で、こちらを見ている。

「また、机で寝ていたんですか?」

 老婆がロメオ牧師に皮肉を言う。

「シスタークラレンス、何か御用ですか?」

「こちらの方が、シンシアから手紙を預かってきたそうです」

「シンシアから!」

 俺はロメオ牧師に手紙と魔力回復シロップを渡した。


「これは! 魔力を回復させる薬ですね! こんな純度の高いものをどうして?」

「俺の手作りです。本当はお代が欲しいところなんですが……」

 くれるなら貰いたいところだ。後で、ベルサが土の調査に来るので、無料であげたことがバレると、しばかれる。朝飯食ってないから腹も減ってきたし、現物支給でもいいんだけど。

「シスタークラレンス、この方にお代を」

「研究費から引いときますからね!」

 ラッキー!

 シスタークラレンスは不満そうに何処かへ行った。

 ロメオ牧師は部屋の入口でシンシアの手紙に夢中になっていた。


「あ、すみません。どうぞ、とっちらかってますが」

 気が付いたように俺を部屋の中に入れ、丸椅子に促した。ロメオ牧師の部屋はお世辞にもキレイとはいえない。何の研究をしているのか、机の上には小さい魔石がいくつも並べられ、何が書いてあるのかわからない質の悪い紙が散乱している。人体が描かれた紙もあった。


 床には大きな壺が並べられ、部屋を狭くしている。

「何の研究をしているんですか?」

 手紙を大事そうにしまっているロメオ牧師に聞いてみた。

「病気です。普通は宮廷画家くらいしか罹らない病気なんですが、この村では比較的罹りやすいようで」

「その病気になると、最終的に『グール』になるんですか?」

 俺の言葉に、ロメオ牧師は驚いたようにこちらを向いた。


「シンシアに聞いたんですね……。まぁ、そうです。人の魔物化は、なぜそうなってしまうのか、なかなか解明出来なくて」

「それを研究しているんですね?」

「ええ。一応、仮説みたいなものはできたんですが、この職業では、なかなか確かめることが出来なくて」

 牧師だと、確かめられないこと?

「ああ、解剖ですか?」

「死者への冒涜は、教会で禁止されています」

 この世界には医者が少ない。回復魔法で傷は治せてしまうからだ。発達している医療らしいものと言えば、産婆くらいだろうか。


「この病には毒らしい毒がないんです。だから、解毒薬がない。それでも病気であることはわかる」

「魔力切れですか?」

「そうです。ある日突然、何もしていないのに身体から魔力がなくなる。それが、毎日起こる。シンシアは病気とわかった次の日には自分を奴隷商に売りました」

「この土地特有のものなんですね?」

「ええ、罹る人もいれば、罹らない人もいる。子どもは比較的罹りやすいようで、勇者様の奥さんには早く解明してくれと言われています。あそこは子どもが多いですから」

 勇者の家には奴隷の子どもがいるんだったな。


「じゃ、勇者様のとこの奴隷の子どもたちも?」

「ええ、シンシアは勇者様がこの土地に来た当初は奴隷だったと聞いてます。大きくなってから、解放されて村で働くようになってましたけど」

 知らなかったのか、というようにロメオ牧師は俺を見た。

「そこで2人は恋に落ちた?」

「ハハ、いやいやそんなんじゃないです。僕はシンシアから見れば弟みたいなもんですよ。俺も姉みたいに思ってました。何かと世話をしてくれるんです。勇者様の家は子どもが多いでしょう? 年長者は自然と世話焼きになっていくんですよ、きっと」

 それから、ロメオ牧師は村に来た当初、なかなか村に馴染めなかったことを話してくれたが、それもシスタークラレンスがお金を持って現れて、中断した。


「じゃ、俺はこれで」

 お金を受け取ると、俺は立ち上がり、出ていこうとした。

「あ、すみません。お名前も伺っていませんでしたよね」

「ああ、ナオキです。ナオキ・コムロ。これでも清掃駆除会社を経営しています」

「清掃駆除会社ですか?」

「ええ、部屋を掃除したり、虫系の魔物やマスマスカルなんかを駆除しているんです」

「そうですか」

「良ければ、この部屋も掃除しましょうか?」

「あ、いや、ちょっと待って下さい! どこに何があるのか、わからなくなってしまうので」

 慌ててロメオ牧師は俺を止めた。

 シスタークラレンスは「やってもらったほうがいい」と言っていた。

 ロメオ牧師はよろよろと立ち上がり、別館の出口まで見送ってくれた。

「この村にはいつまで?」

「一泊するつもりです。たぶん、また来ると思いますけど」

「そうですか。今度来るときは、ナオキさんの話を聞かせてください」

「そうですね」



 教会の別館から出る頃には、日は高く上っていた。

 

 ノームフィールドは小さな村だが、行商人も多く屋台も出ていた。

「どこから来なすった?」

 昼飯に寄った屋台の商人が、野菜スープとフォラビットの肉のサンドイッチを出しながら、声をかけてきた。

「フロウラから」

「フロウラ? 大陸の南の?」

 聞かれたことに、思わず答えてしまったが、ここからだと国をまたぐし、かなり遠い。

「ああ、こう見えて冒険者なんだ。ずいぶん遠くまで来たよ」

 適当なことを言って誤魔化す。

「人は見かけによらないって言うが、山と砂漠を越えられるなんて、お前さん相当強いんだな」

「いやぁ、俺なんかまだまだFランクだよ。強い冒険者の後をついてきただけだ」

「なんだぁ、荷物持ちか」

 そう言うと商人は興味を失ったように、他の客と話し始めた。

 何しに来たか、と聞かれなかっただけ良かった。まさか答えられるはずもない。

 屋台に来る客も商人だ。ここにいる商人たちは皆、何かしら勇者の畑で採れる綿花に関わっている者たちだろう。


 直接、綿花を運ぶ商人だけでなく、その商人に向けた商売をする者もいる。

 村の周りは道が整備されているので、村に来やすい。

 自然と人は集まる。

 この村はもっと大きくなる可能性がある。利に聡い商人は目をつけるだろう。

 ただ、それも綿畑を俺が壊せば、可能性も潰れるのか。


「どうしたもんかなぁ」

 迷いながら、俺は勇者の家へと向かった。

 綿畑には綿花の蕾が風に揺れている。綿畑の中で子どもたちが作業をしているのが見えた。綿花の間に伸びる雑草を抜いているようだ。


 大声で子どもたちに勇者がどこにいるか尋ねると、道の先を指差す。綿畑の側に、倉庫が二棟、その奥に大きな家が見えた。 だいぶ儲かっているようだな。


「こんにちは~!」

 家に向かって声を挙げると、

「お、こんちは」

 後ろから土の勇者の声がした。

 倉庫から出てきた勇者が俺を見て、相変わらず人の良さそうな顔で笑っている。

「あの時のぉ!本当に来てくださったかぁ。遠いところわざわざどうもどうも」

 


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