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駆除人  作者: 花黒子
~土の勇者と戯れる駆除業者~
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72話


 勇者が農園をやっていたことばかりに注目していたが、重要なのは、そこで何を育てていたのか、だったんだ。


『そんなに不味いことなのか?』

 通信袋から、ベルサの声がする。

「ああ、前に俺がいた世界では、前世紀で最大の環境破壊と言われていたね」

『なら、ナオキは勇者を殺すのか?』

 アイルに問われると、ちょっと考えてしまう。倫理観まで問われている気がした。


「いや、状況をよく調査する必要がある。ただ、俺の思っている通りなら、土の精霊は間違いなくクビだろうね。とりあえず、土の成分を調べた方がいいな。あとは農園周辺の人に何か異変はないか、とか。あと、運河は絶対に作らせないほうがいいね」

 俺が前いた世界で、『アラル海』という内陸湖があった。

 世界4位の湖だったけど、信じられないくらい小さくなった。

 その原因は、灌漑をして綿花の畑を作り、運河網を作ったから。


 俺も詳しくはないが、一緒に働いていたジジイがやたら環境問題の話をしていたので、覚えていた。ジジイは天下りが出来なかった(その前に捕まったらしい)元官僚で、日本の環境問題なんか全部天下り先のために問題にしているだけだと豪語し、「本物の環境破壊ってのはなぁ……」と話してくれたのがアラル海の話だった。話を聞いた当初は、「話してないで仕事しろ! ジジイ!」と思っていたが、まさか、異世界で役に立つとは。


 とにかく誰かが止めなければ、セスの実家がある湖は消滅する。

「これは進めちゃいけない事業だ。誰かが止めないといけない。アイル、一旦フロウラの町に戻って、リドルさんにこの国の状況を聞いてくれ。輸出品や、どこかの国と揉めているか、とか」

『OK! すぐ行く』

 戦争でもおっ始めようとしているなら、面倒だ。これだけの広大な綿畑だ。利益も多いだろう。

 資金があれば、軍事力を手に入れることができる。手に入れたら、使う。この国のトップが軍事に興味がないことを祈るばかりだが、期待は出来ない。


「ベルサはこっちに来て、土の成分の調査と、農園の人の調査をお願い」

『OK、すぐ用意する。おばちゃーん、船持ってる人紹介して~……』

土に薬品が使われてないか、顕微スキルがあるベルサに調べてもらおう。

 未だ、イヤダニの観察ができてない俺にはスキルが発生してない。

「メルモは湖の周辺で、運河建設予定地を探ってほしい。できるか?」

『OKっす! これでもDランクの冒険者ですから!』

 最悪、運河だけは潰しておかなくてはいけない。


「セス!」

『はい! 水量が減った川を探せばいいんですね?』

「そうだ! 見つかったら、その川を遡って、分岐してないか調べてくれ」

『OKです! あ! あの……社長!』

「なんだ?」

『うちの船が壊れたり、盗まれたりしたら、新しい船を頼んでもいいですか?』

 川を調べる際、ニュート族とかいう種族の縄張りで船を乗り捨てる可能性があるらしい。精霊が関わっているんだ。金は後で神から取り立てよう。


「ああ、わかった。ただ、できるだけ、隠せよ!」

『わかりました!』

「じゃ、2日後、セスの実家に全員集合で」

『『『『OK!』』』』

 とにかく、今は情報収集からだ。

 通信袋から魔力を切り、農園の周囲に沿って走りだす。

 

 すでにこの綿畑の被害者は出ている可能性がある。

 奴隷のシンシアも、この綿畑の影響で病気になっているのかもしれない。

 彼女が言っていた『グール』というのも気になる。

 俺はアイテム袋の中の手紙を思い出した。


 探知スキルを展開させながら、綿畑の周りの森を北東に進むと、人が森のなかを歩いているのを発見した。

 近づいてみると、森のなかを立派な道が通っており、大きな荷物を背負った中年男性が歩いていた。行商人だろうか。

「こんにちは!」

「ああ、こんにちは! この先は勇者様がいる村だから、強盗とかしてもすぐに捕まっちまうぞ」

 森から出てきたのだから、盗賊と間違われてもしょうがないか。

「いえ、そんなことはしませんよ。勇者様の村にお届け物があって、走ってきたんですが……」

「この道使わなかったのか? 難儀だったろう。あんた、冒険者か?」

「ええ、ランクは低いですけど」

「そらそうか。そんな軽装で輸送の依頼してるんだもんなぁ。まぁ、仕事の報酬で防具を買うと良い」


 できるだけ情報がほしいので、この中年男性にも話を聞いておこう。

「あの、一緒についていってもいいですか?」

「ああ、いいよ。ほとんど一本道だけどな。ただで護衛してくれれば、酒でも一杯ご馳走しようか?」

 酒は止めてるんだけど、ここは話を合わせておこう。

「ありがたいっす!」

 俺は中年男性と並んで歩いた。


 中年男性は行商人で、この国の王都から馬車に乗り継いだりしながらやってきたという。

「王都ですかぁ、遠いですねぇ」

「いやいや、湖の反対側からやってきたんなら、あんちゃんの方が遠いだろ」

 そんなにこの国は大きくないのか。

「この辺に詳しくないんですけど、いつ頃、その勇者様の村ができたんですか?」

「そうだなぁ、農園が出来てすぐに村も出来たと聞いたよ。勇者様は土の精霊の加護があるから、道をすぐ整備してくれたらしい。ほら、この道も歩きやすいだろ?」

 確かに、凸凹してないし、木の根が突き出たりもしていない。フロウラから草原に行く森の道よりも圧倒的にキレイな道だ。


「勇者様が頑張ってくれたおかげで、農園も広がって、人も集まってきたんだ。奴隷の子も積極的に買っていたね」

「奴隷の子ですか?」

「ああ、労働力としては、普通大人の方が良いと思うんだけど、勇者様は子どものうちに買って、仕事を覚えさせているね。実際、それで成功しているんだから、うまい方法だと思うよ」

 奴隷制に関しては、この世界では一般的なのだろう。

 ただ、農園を潰すとして、奴隷たちをどうするかだなぁ。

「どうした? 難しい顔して」

「いえ、俺も奴隷を買おうかな、と思って」

「やめとけやめとけ! 普通はそんなにうまくいかないから。おいらも昔、奴隷を買ったことがあるけど、金を持ち逃げされた。勇者様は、ちゃんと衣食住を与えているから奴隷たちも従うんだ」

 おっさん、衣食住与えてなかったのかよ!

「商売やってりゃ、良い時もあるし、悪い時もあるさ」

 少しだけ、この国の奴隷の扱いがわかった気がした。

「そら、見えてきた。あれが、勇者様の村、ノームフィールドだ」

 


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