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駆除人  作者: 花黒子
~大陸に辿り着いた駆除業者~
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59話

 役所に行って、ローカストホッパーの調査について聞いてみた。


「蝗害は発生すれば、最低でも10万ノット、金貨一千枚の経済的な打撃を受けます。もちろん、こちらとしても調査はしているのですが、打開策がないというのが現状ですね」

 清掃駆除会社の魔物学者が砂漠へ調査及び研究に向かうことを話した。


「本当ですか!!? 是非ともお願いしたいです! 駆除方法を確立すれば、連合国で報奨金を支払いますよ。ただ、御社の実力をまずは見てみないことには……、なんとも言えないのですが……」

「ああ、そうですよね。ん~例えば、この役所内にいるマスマスカルとバグローチの駆除をしてみましょうか?」

「え!? いいんですか?」

「ええ、お金は貰いますけどね」

 言うだけ言って、探知スキルで建物内を見ながら準備を始めた。


 いつものベトベト罠に、殺鼠団子、殺虫団子を用意。ポンプに液体の殺虫剤を入れる。

 バグローチ用の殺虫剤は以前、テルと会った時のものだ。この殺虫剤で、すべての虫系の魔物を倒せればいいのだがそうもいかない。すでにイヤダニにもローカストホッパーにも使用したが、効果はなかった。なかなかうまくいかないものだ。


 役所は2階建てで、地下に倉庫がある。

 上から順番に罠を仕掛け、殺虫剤のノズルが届く場所には散布していく予定なのだが……。

 職員の人たちに挨拶をしながら、部屋を順番に回っていくと、たいてい「急いで片付けるので後にしてくれ」と言われる。


 結局、人のいない倉庫から始めることにした。

 倉庫の一角は、図書室のように本や資料が並ぶ棚があった。

 背の低い老人が一人、資料を読んでいる。倉庫の管理人だろうか。


「こんにちは。害虫駆除の業者なんですが、ここの駆除を始めてもいいですか?」

「ああ、構わん」

 老人は高い声で返事をした。

 老人の耳は少し尖っているので、小人族なのかもしれない。

 10分ほどで作業は終わり、出ていこうとすると声をかけられた。


「なんじゃ、もう終わりか?」

「ええ、罠は仕掛け終わりましたし、怪しいところには殺虫剤を散布しましたから」

「散布とな。ふん、その器具で中の液体を噴射するのか? 面白いのぅ」

 老人は興味深そうにノズルの先を見ている。


 作った経緯や構造などを説明すると「すごいな!」などといいリアクションをしてくれる。


「いやぁ、この器具の良さを理解してくれる人に初めて会いました」

「この器具は非常に優秀な器具じゃ。注文すれば作ってもらえるか?」

「ええ、素材さえあれば、作ることはできますよ」

「是非とも頼む。リドルだ。ブラックス家当主、リドル・ブラックス」

 リドルさんは握手を求めてきた。当主なのに全然偉そうにしない。素直にすごいものはすごいといえるのは人柄だろうか。


 俺はリドルさんの手を掴み、握手をした。

「ナオキです。清掃駆除会社、コムロカンパニー社長のナオキ・コムロです。当主ということは貴族様ですか?」

「一応、ここら一帯を治めている国王の従兄弟だ。お主は移民か?」

「ええ、旅をしながら会社を経営しております。と言っても、この街で会社を起こしたのですが」

「そうか。ところで、お主、砂漠に興味はないか?」

 唐突にリドルさんが聞いてきた。


「え? ああ、ここの駆除が終われば行くつもりです。ローカストホッパーの研究で」

「なんと! そうか、奇遇だな! ワシもたった今ローカストホッパーについて調べていたところじゃ。数日前に砂漠で雨が降ったそうでな。雨が降った後に大発生する確率が高いようなのじゃ。この資料を見てみろ。これは30年前、砂漠で観測した記録なのだが……」

 リドルさんは羊皮紙に書かれた年表を見せてきた。

 古く独特の匂いのする羊皮紙には『数日雨が続いた後、鉄砲水にあい、その後、ローカストホッパーの大発生』との記載がある。


「俺も、昨日、砂漠で鉄砲水にあったという奴隷商と会いました」

「そうか、急いだほうがいいかもしれんな!」


 リドルさんの動きは早かった。颯爽と階段を駆けあがり、大きく息を吸った。


「ローカストホッパー異常発生対策本部を設ける! 各ギルドに連絡を取り、情報を収集せよ! まだ、大発生したと確定したわけではない。ただし情報の大きい小さいにかかわらず、どんな些細なことでも集めろ!」


 急に一階のホールに現れたリドルの言葉に、役所の職員たちはポカン顔だったが、すぐに慌ただしく動き始める。訓練を積んでいるのだろう。


 俺も、社員全員に通信袋で伝える。

「もしかしたら、数日、砂漠に雨が降り続ければ、ローカストホッパーが大発生する可能性があるそうだ。殺虫剤の開発と、発生原因の解明を急いでくれ!」


『了解! 片っ端から森の花を採取してくる』

『わかった! 私の準備は整っている。このまま、街を出て森を抜ける。食料等はナオキが後で届けてくれ!』

 アイルとベルサから返答があった。


「了解! とりあえず、今日は砂漠近くの草原で、キャンプを張ってくれ。アイルたちも花の採取が済み次第、草原まで来てくれ」

『了解!』

 やはり通信袋は便利だ。


「なんじゃ……!!! それは!!?」

 リドルさんは驚愕の表情で通信袋を見ていた。


「遠くの人間と連絡を取る魔道具です。今、うちの社員に連絡を取りました。全員、砂漠近くの草原に向かっています。今夜から、砂漠の天気の観測を始められます」

「ナオキと言ったな。お主の会社の協力が必要なようじゃ! 頼む!」

「ええ、もちろんです。そのために動いてますから」

「よいか! これより、このナオキという男の言うことを聞き、必要な物は渡すように! これはブラックス家当主としての命令だ!」

「「「「「はい!」」」」」

 職員たちが一斉に返事をする。統制が取れている。だからと言って、リドルさんの言葉に嫌な感じはしないし、そういうスキルでもあるのか。


 俺は、殺虫剤の開発が急務であることを言って、職員たちに心あたりがないか聞いてみた。ほとんど、森に行ったことがある職員はおらず「冒険者ギルドに聞いてくれ」とのこと。

 すでに冒険者ギルドに依頼は出してあるので、それについては待つしかないようだ。


 代わりにポンプに必要なフォラビットの食道などと、虫取り網を用意してもらう。

 燻煙式の殺虫剤もできれば使いたいので、要らなくなった鉄製品、穴の開いた鍋なども合わせて頼んでおいた。殺虫剤の中身は、環境に悪いものを使うと神に怒られそうなので、配慮をするべきか。

 そう考えると、やはり植物などの天然成分がいいだろう。


 リドルさんはハトの魔物を使って、ブラックス家の人々を集めているようだ。

「じゃ、一旦、俺は草原までひとっ走り行ってきます。食料などを届けないといけないので」

「そうか! わかった! 今フィーホースを用意させる」

 リドルが俺に気を遣って、職員に指示を出そうとした。

「いや、大丈夫です。走っていった方が速いので」

「待て待て、草原までは1日半はかかる距離だぞ」

「大丈夫です。2、3時間で帰ってきますから、ポンプに必要なもの揃えておいてください。あと、花屋を回ってくれますか? 何匹かローカストホッパーを捕まえてきますから。あ、これ渡しておきます。何かあったら魔力を流すと連絡取れますから」

 通信袋をリドルさんに渡しておいた。

「使い方は?」

「魔力を通して、話せばいいです。魔力がなければ魔石を入れてください」

 本当はいくつかチャンネルがあるが今教えても混乱するだけだろう。


 役所を飛び出し、屋台で食料を買い込んだ。

 ちょうど、屋台で飯を食べている商人ギルドの職員さんに会って、「コムロさん、ポスター作ってます?」と聞かれた。


「ああ! 今それどころじゃなくて……」

「応援はしてますよ。頑張ってくださいよ!」

 肩を叩かれ、励まされた。

「ありがとうございます」

 一応、頭を下げて、別れた。

 あの職員さんも、商人ギルドに帰ったら、俺が忙しい理由をわかってくれるだろうか。


 街を抜け、森を土煙を上げて走った。森を走っている途中でベルサと合流。

 荷物を半分持たされた。


「ナオキが本気で走ると置いてかれるな」

 不満そうに言うので、ベルサの靴に風魔法の魔法陣を描いてやった。

「これじゃあ、止まれないよー!」

 ベルサの叫びを聞きながら、並走。このペースなら昼過ぎには着くだろう。



 草原に入り、キャンプ地を決め、地面に結界魔法の魔法陣をさらっと描いた。

 空はほとんど快晴に近い。ただ、遠くの空に雲が見える。


「あれが雨雲にならなきゃいいが」

 

 テントを建てたりするのは、後にして、すぐに砂漠に入り、ローカストホッパーを探す。

 俺は一人で砂漠を走り回り、探知スキルで見てもローカストホッパーが大量発生しているのは確認できなかった。


 今のところ、安心だ。

 巨大なサソリの魔物・ポイズンスコーピオンやバカでかいミミズの魔物・サンドワームなども現れたが、すべて殴って倒す。特に興味が無いので、魔石を取ったら放置し、小さな虫の魔物を探した。


 日射病や熱射病の危険もあり、砂漠の風は強く、砂が舞って視界が悪い。どんなにレベルが高くなろうと、日射病にはかかるだろう。


 更に口を開けていると、砂塵が入って気持ちが悪い。

 砂漠でマスクは必需品だ。

 一旦、草原のキャンプ地に戻ると、虫取り網を持ったベルサが大量にローカストホッパーを捕獲していた。虫取り網を持ってきてるとは準備がいい。俺も買っとけばよかった。


「これはたぶん、バンドと言われるものだ。草原近くの茂みにたくさんいた。普通は一匹でいるんだけど、すでにこいつらは群れている。まだ、攻撃性はないがな」


 地面に、結界魔法の魔法陣を描き、中に入れる。バスケットボールコートの中心の○くらいの大きさだ。

 5匹貰って瓶に詰め、街へと帰ることにした。


「走ってばっかりだなぁ」

 屈伸をしながらぼやいた。パキパキと膝が鳴る。ちゃんと伸ばさないと筋肉痛になるだろう。回復薬で治せるけど。

「いいじゃないか。仕事が無いよりはよっぽど健康的だ」

「確かに」

 ワーキングハイになっていなきゃいいが。

「報酬決めといてよ。うやむやになると、タダ働きになるから」

「そうだった。通信袋貸して」

「ん」

 ベルサが通信袋を渡してきた。


「ローカストホッパー持って、今から帰ります」

『お、おう! 了解した!』

 戸惑っているリドルの声が返ってきた。


「夜はこっちに帰ってくるのか?」

「わからん。今回は駆除範囲が広すぎるから、どうやったって人を集めなくちゃならないからね」

「まだ時間はある。それに、案外、大発生なんかしないかもしれないしね」

「それが一番だろ。備えておけば、いつか役に立つさ。じゃ、あとで連絡する」

「はい~、気をつけて~」

 手を振るベルサを残し、俺は森を抜け、街へと走る。



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