58話
夕食を食べ、それぞれの活動報告を聞いた。
アイルとセスはただただ森で魔物を狩っていたらしい。
どういう魔物がいるか聞いたが、大きな魔物にしか興味が無いので「強い熊」「手ごわい鰐」などが出たらしい。魔物が避けるような花は見つからなかったようだ。
一応、探してくれていたみたいなのでよしとしよう。
メルモは、ツナギを作って、布を買いに行き、カバン作りをしていた。カバンを作っている最中にツナギを着たら、ふらっと酩酊したような感覚があり、急いで服を脱いでカバンを一気に仕上げると、魔道具制作スキルが発生していたのでポイントを1割り振ったという。
スキルについて、ベルサと同じように会社がほしいと思ってるスキルはあるかと聞かれたが、自由意志に任せることを皆に伝える。
「自分の人生だ。身につけるなら、人生が豊かになるようなスキルを取った方がいい」
マルケスさんの受け売りだ。
セスには、操舵スキルだけはとっておくように、とお願いしておく。
「ほら、な」
アイルがセスの肩を叩いた。
「はぁ~」
セスは大きな溜息を吐いた。
「レベルが上った時のスキルポイントは操舵スキルに使って、他のスキルはできるだけ、身体に覚えさせて取得しろってアイルさんが……」
セスは、下を向いて自信なさそうに話した。
ん? 間違ってないんじゃないの?
「剣術スキルもないのに長剣で木なんか倒せませんよねぇ?」
「ああ、そうか。止めておけ、セス坊。この会社に入ったら、そういう常識的なことは諦めろ。ナオキは夕方にナイフで木を切り倒して、加工していたから」
ベルサが骨付き肉を食べながら、説明した。
「やっていけるかなぁ?」
「大丈夫だよ。すでにそのツナギが似合っているから」
「なんだか、私だけ、出遅れた感がありますね。社長、私にも武器と防具を買ってください!」
メルモが手を上げて、訴えてきた。
「アイル、明日一緒に買いに行ってやってくれ。経費で頼む」
「OK!」
食後、男女に分かれて部屋に戻った。
セスはベッドに飛び込むと、5秒ほどで鼾をかきはじめた。
すぐに寝られるのは強みだ。回復が早い。
俺は、メルモが作ってくれたカバンをアイテム袋にするため魔法陣を縫っていく。
コンコンガチャ!
あまり意味のないノックのあと、アイルとベルサが男部屋に入ってきた。
「なんだ?」
「地図に描いておこうと思って」
アイルが、机の上に広げている地図に森にいた魔物の種類や、休憩スポットに使えそうな洞窟などを描き込んでいった。
「明日は、草原の方まで行ってみようと思うんだ」
「いいんじゃないか? あんまり新人に無茶させないようにな」
「ある程度無茶しないと、強くならないけどな」
「死なない程度に頼む」
アイルは久々に人に教えることが出来て、楽しいらしい。
「ベルサは?」
「その回復薬の瓶の中のヤツについて」
「ローカストホッパーは駆除対象になりそうなんだよな。大量発生したら、依頼どうこうじゃなくなるかもしれないけど。先回りして、駆除方法を見つけておきたいんだ。殺虫剤の花が見つかればそれも試しておきたいし」
「私も、何の影響で大量発生するのか、とか、どういう周期なのか、気になるんだ」
「森にフィールドワークしにいく?」
「うん、できれば」
ただ、そうなると、本業の清掃と駆除はできなくなるか。
作ったばっかりの会社だから軌道に乗るまで、とは思っていたけど、これは先行投資としてしょうがないか。
「なんだ? 金なら問題ないぞ。私と新人たちで魔物を狩ってくるから」
アイルがさらっとそんなことを言う。
清掃と駆除だけなら、俺一人でも出来るか。
「殺虫剤の花の探索は、冒険者ギルドに依頼を出そう。金貨10枚くらい出せば」
「「金貨2枚!」」
「金貨2枚だって多いよ」
アイルとベルサが相変わらずバカを見るような目で見てきた。
「じゃあ、金貨2枚で虫系の魔物が寄り付かない花の群生地を探してもらう感じでいいな。明日、俺が冒険者ギルドに行って、依頼を出しておくよ」
「一応、私たちも探すけど、地元の人間のほうが地の利はあるからな」
アイルには楽観的で、人を信用している。そういう者も必要だ。案外、うちの会社はバランスが取れているのかもしれない。
ベルサは明日、フィールドワーク用にテントや砂漠での生活に必要な物を買うことになった。
「護衛とかは雇わなくていいか?」
「私より、レベルの高い冒険者を雇うとなると、結構高くなるからな」
ベルサはレベル25なので、だいたいBランク以上の冒険者を雇うことになるという。
危険なので、つけておきたい。
「冒険者ギルドで、依頼出す時に聞いてみるよ」
翌日、冒険者ギルド。
「砂漠での護衛依頼? え!? ローカストホッパーの駆除ですか?」
聞いてみた。
「少々お待ちください」
冒険者ギルドのお姉さんは、奥に行った。
昨夜は、アイルとベルサと話した後、夜なべをして、もう一つアイテム袋と通信袋を作った。
通信袋はアイルとベルサに持たせた。何かあれば、連絡しあうことになっている。
奥から歴戦の強者といった様相の屈強なおっちゃんが出てきた。
「ギルドマスターのラングレーだ。ローカストホッパーを駆除しにいくということだが」
「ええ。まだ駆除方法は見つかってないので、生態の研究と大量発生の原因解明などが主な目的ですが、砂漠でフィールドワークをしようかと」
「なるほど。正直なところ、ローカストホッパーの被害は甚大でな。もし駆除方法が見つかると、砂漠周辺の国にとっては、これ以上ない朗報だ。是非とも冒険者ギルドも協力したい。ただ、この街の冒険者達は荒くれ者か呑んだくればかりでな。ん~、役所の方にも行ってみてくれ。砂漠の護衛については適切な人間を選んでおくよ」
「ありがとうございます」
ギルドマスターと話し終わる頃、ギルド内が急にざわめき始め、男たちの歓声や指笛が聞こえてきた。
振り返ると、メルモがアイルと同じようなビキニアーマーで冒険者ギルドに入ってきたところだった。セスは顔を真赤にしているが、メルモは意外にも楽しそうだ。
「冒険者カードを作りに来たんだ」
アイルが手を上げて、俺に言う。
野次や歓声が上がっている中、メルモはニヤリと笑っている。
「楽しそうだな?」
「いいですよね! この感じ。こういうの好きなんですよ!」
メルモはまるで、自分の格好を気にしていない様子で、メイスを片手に周囲を見ている。
セスが言うには、防具屋の女将さんが胸を気にしているメルモに「その胸は武器なんだから使わなきゃ損だよ」「堂々と見せつけて血祭りにあげればいいんだ」と発破をかけたらしい。
メルモは「血祭り」の部分が気に入ったようだ。
「よーし! せっかく注目されてるんだ。メルモ、かましてやれ!」
「はいっ!」
メルモはメイスを床に叩きつけ、大きな音を出した。
「やあやあ! フロウラの街の荒くれ共に呑んだくれ共! 我こそはイカれた戦闘集団・コムロカンパニー所属、羊族のメルモッチ・ゼファソンなり! 東の山では知らぬものなし! 東山の魔物が恐れる女傑とは我のことなり! これから、森を魔物の血の海に変えてくれるわぁ!」
歌舞伎の見得を切るように、ポーズを取った。
「いいぞー! 姉ちゃん!」「よー! 女傑とは恐れいったね!」「応援するぞー!」などの声が周りから上がっている。
メルモが一気に人気者になった。
変に恥ずかしがって絡まれるより、よっぽどいい。
「アイドルの才能があるな」
「そうですか? この鎧を着ると、なんでか勇気が湧いてくるんですよ」
メルモは微笑んだ。コスプレイヤーの気持ちだろうか。
「じゃ、また、宿で」
「ああ」
俺はアイルたちと別れ、街の役所に向かった。