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駆除人  作者: 花黒子
~大陸に辿り着いた駆除業者~
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56話

目標が出来たからか、翌日、従業員たちのやる気がみなぎっているようだった。


地図を広げ、どこに何があるのかを詳しく描き込んでいく。


 アイルたちが訓練のために行った森と、セスとメルモの実家までの道のりぐらいしかわからなかったが、大陸の形状しかわからなかった地図の空白は埋められていった。

 あと、セスとメルモの話で、ルージニア連合国には一人の勇者がいることがわかった。意外に近い。


「どんな人かわかるか?」

「おじさんだって聞いたけど……」

「私は王が勇者になった若者に領地を与えたって聞いたことがあります」

 情報にタイムラグがあるのかもしれないが、とりあえず、男であることはわかった。


「どんな精霊の加護があるかわかるか?」

「いや、それは……」

「聞いたことはないですね」

 そもそも、あまり勇者は話題にならず、一応、国に一人はいるよ、程度だったらしい。

 魔王がいて、魔王軍が攻めてくるとかじゃなかったら、そんなものなのかもしれない。


「魔王がいるわけじゃないのに、勇者だけいてもしょうがないよな」

「どこか、遠くの国にいるらしいって噂は聞いたことあるけどね」

 ベルサが頭をひねっていた。魔王に関しては今度、邪神にでも聞いてみよう。


「じゃあ、勇者の情報を取りつつ、船が直るまでは、さっき言ったとおりで」

「「「「OK!」」」」

 従業員にはフランクに接してもらうことにした。


 セスとアイルはメルモに採寸してもらってから、森で訓練。

 メルモはそのまま、2人のツナギを作ってもらう。


 俺とベルサは、商人ギルドと冒険者ギルドを回って、仕事探し。仕事がなければ、営業をしつつ、イヤダニの殺虫剤に使う花探しに向かうことにした。

 昼メシ代として、一人銀貨一枚ずつ渡す。

「いるか?」

「いりますよ!」

 現場で獲って食う気でいたアイルにセスが軽く抗議した。

「じゃあ、アイテム袋渡しとくか?」

「うん」

 魔物を狩って解体するなら、アイルに持たせていたほうがいい。

 俺は、アイテム袋から回復薬を5、6本取り出して、ベルサのリュックに入れてもらった。袋が足りなくなってきたかな?


「メルモ、余った布で袋作れる?」

「たぶん出来ると思いますが……微妙ですね」

「じゃあ、足りなかったら、また反物屋で買ってきてくれ」

 そう言って、銀貨を5枚ほど渡そうとすると、メルモは「そんなにいらないです」と2枚だけ受け取って返してきた。


「わかりがいいな」

 ベルサはメルモの肩を叩いた。


「金銭面では、うちの社長はただの馬鹿なので、新人の2人も気をつけるように」

「会社としては致命的じゃないっすか?」

 全くそのとおりなので、何も言い返せない。

「あ、財布袋がアイテム袋の中に入ってるんだった」

 アイルを見たが、首を横に振られた。


「いや、急に必要な物とか出てくるかもしれないだろ!」

「じゃ、銀貨2枚な」

 銀貨2枚渡してきた。

 なぜだ!? 俺の金なのに! と、抗議の目を向ける。

「今は、会社の金だ」

「そ、そんな……!」

 従業員の横暴だ! 精霊に話を聞いてもらえない神の気持ちが少しだけわかった気がする。


「ま、でもいいか」

 駆除の仕事見つけて稼ごう。

「ベルサ。ナオキが突然、奴隷とか買わないように気をつけてな」

「了解」

 そんなことあったか? あったなぁ。



 俺は銀貨2枚を握りしめて、ベルサと一緒に宿を出た。

 商人ギルドと冒険者ギルドを回ったが、特に清掃や駆除の仕事はなく、商人ギルドの職員さんに、「ポスターなどを作ってはいかがですか?」と言われてしまった。


「まずは知ってもらわなくちゃ、仕事なんか来ないよなぁ」

 帰りに、雑貨屋でわら半紙と絵の具を買うことにして、とりあえず、殺虫剤の花を探しに森へ向かう。

 森へ向かう途中で気づいたが、虫系の魔物が寄り付かない花を探していると、冒険者ギルドで依頼すれば、簡単に見つかるんじゃないか。ベルサに提案してみた。


「ん~確かに。でも、自分たちで見つければ、タダだし、依頼をだすと、同業者が増える可能性が出てくるだろ」

 よっぽどの緊急事態に陥らないかぎり、冒険者ギルドに依頼するのは止めておこう。


 特に儲からないと思うから、同業者は潰れるんじゃないか?うちは回復薬で持ってるようなもんだし、と思ってしまったが、なんだか悲しくなってきたので、口には出さなかった。

「どうした?」

「いや、なんでもない。ちょっと悲しいことを口走りそうになっただけ。美味しい昼飯買ってこうぜ」

「うん」

 屋台で、肉がぎっしり詰まって、スパイスの利いていそうなサンドイッチを買って、森に入った。


 探知スキルを使うと、小さな魔物がうようよしている。

 いちいち捕まえて調べたいが、容れ物もないし、今は魔物がいない場所を探す。

 それでも、気になる魔物についてはベルサと相談して、キャッチアンドリリースを繰り返しながら、観察していく。


 大陸が違うと魔物もかなり違うようで、ベルサは珍しがっていた。

 アイルと森に入った時は、アイルが強い魔物とばかり戦おうとして、小さな魔物はなかなか観察できなかったらしい。

 植物に擬態する魔物や、植物自体が魔物だったりして、実際かなり面白かった。

 気づけば、太陽は天高く上っていた。


 森の中の少し開けたところで、固いキノコの魔物を殴って倒し、それに腰掛けて昼飯を頂く。

 サンドイッチは、口に入れると辛いソースがツーンと鼻に抜けて、その後、柔らかな肉の食感と肉汁を吸ったパンの旨味が、口いっぱいに広がってめちゃくちゃうまかった。ケバブに似ているが、パン生地がもっと分厚い。食べ応えも十分。

 ベルサも気に入ったのか、「うまいね、これ」と言っていた。帰ったら皆に教えてやろう。


「昼寝したら、ちょっと遠くまで行ってみようか?」

「うん、いいね」

 うちの会社では昼寝を推奨している。スペインではシエスタと言うんだったか。

 単純に社長である自分が、飯を食べると眠たくなるからだ。体力仕事をしていれば、どれだけ重要なのかよくわかる。

 魔物がいる森のなかで昼寝するなど、冒険者が聞いたら、「死ぬ気か?」と言われてしまいそうだが、ベルサもそこそこレベルを上げているので、問題はないだろう。


「そうだ。社長として欲しいスキルとかあるか? スキルポイントが溜まってるけど」

 唐突にベルサが聞いてくる。

「ん? いや、俺としては社員の自由意志を尊重するよ。好きにしてくれ。というか、実際のところ、スキルについては、よくわかってないからな。新人2人については探していたスキルを持っていたから採用したけど。本人が出来ることと、スキルを有効に使うこととは別みたいだからね。考えてもみろよ。俺なんか、数学スキル、カンストしてるのに、このザマだぜ」

 そう言って、財布袋を叩いて銀貨2枚を鳴らした。

「わかった」

「なんか気になるスキルでもあるのか?」

「うん。顕微スキルってのがあるらしいんだ。最近、イヤダニを観察してたら、表面に毛が生えてるのが見えてな。薄くスキルが発生したんだ。ちょっと取ってみたくて」

 なにそれ、便利そうじゃん!

「俺も取ろう」

 そんな会話をしていたら、眠気も吹っ飛んでしまって、結局、昼寝せずに移動することになった。



 森を進んだ先には、草原があり、その先には砂漠があるらしい。

 セスは、砂漠の東の山脈を越えたところにある湖の畔から、商人の馬車に乗せてもらいつつ、やってきたと言っていた。


「お前の故郷、すげー遠いな。そんで、この国スゴいデカいな」

 俺はセスから話を聞いた時、驚いた。


 連合国というくらいだから、結構、大きいんだろうなと思っていたが、領土は大陸の南半分を占めているらしい。

 

 食後の運動がてら走っていくと、割りとすぐに森は終わり、草原地帯に出た。

 ただ、すでに後ろを走るベルサは限界そうだったので帰ることにした。


「はぁ、死ぬかと思った。ナオキ、もう本気で走るの禁止ね」

「ベルサ、限界? おんぶしてやろうか?」

 もちろん、背中に当たるラッキースケベを期待しての言葉だ。

「よし、頼むよ」

「え?」

「え?」

「いや、俺がベルサを背負うと、ベルサの胸が背中に当たるんだけど、いいのか?」

「そんなこと気にしてたのか? 大丈夫だ。私の胸はメルモほどないから。まぁ、そんなに気になるならリュックを前にしよう」

 ベルサはリュックを前に持ってきて、そのまま、俺の背中に乗った。

 背が高く、手足が長いベルサには特に問題がなかったようだ。

 余計なことを言ったばかりに、ラッキーを失ってしまった俺のテンションはガタ落ちだった。


「どうした元気がないぞ?」

 後ろからベルサの声が聞こえる。

 背中には回復薬の瓶の感触。足取りは重い。

 そして、先程からずっと探知スキルに何か大きめの魔物がこちらに向かってきてるのが見えている。


「ベルサ」

「なんだ?」

「後ろから、なんか大きめの魔物が迫ってきてるんだけど、どうする?」

「どうする? って。降りるから倒してくれよ」

 ベルサが俺の背中から降りる。

 後ろを振り向くと、暴走した馬の魔物であるフィーホースがこちらに向かってくる。


 地面に魔法陣を描いて、ベルサを中に入れ、フィーホースを待ち受ける。

 たぶん、フィーホースはそんな強くないので、別にベルサを守る必要はないのだが、一応の保険だ。


 俺の下まで迫ってきたフィーホースは嘶き、後ろ足で立ち上がり、前足を振り下ろしてきた。

 フィーホースには蹄鉄が着けられている。持ち主がいるらしい。

 俺は前足をがっちり掴んで、「よせよ」と、横に倒した。

 倒れたフィーホースは首を振って暴れたが、デコピンをすると気を失った。


「殺さなかったのか?」

「うん、こいつ蹄鉄が着けられてる。どっかから逃げてきたんだろう。ん? なんか耳の中にいるな」


 探知スキルで見ると、フィーホースの耳の中に小さい魔物がいるのが見えた。それで、暴れていたのだろう。

 ベルサが、カバンの中から解剖用のピンセットを取り出して、フィーホースの耳の中から黄色いバッタの魔物を引き抜いた。


「これは……ローカストホッパー」

「あれ? 黄色いバッタってヤバいんじゃなかった?」

「ああ、砂漠に住む『悪魔』と呼ばれている」



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