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駆除人  作者: 花黒子
~大陸に辿り着いた駆除業者~
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55話


「は~い、じゃ、飯食いながらでいいから、新入社員を紹介するよ」

 宿の食堂で、魚料理を食べながら、新人二人を紹介する。


「あの! その前に、この会社は何の会社なんですか?」

 セスにはまだ説明してなかったのか。


 先程まで「魔物より怖いものがあるなんて……」と傷だらけだったが、回復薬を塗って料理を目の前にした途端、元気になっていた。


「アイル説明してないの?」

「してない。と言うより私もよくわかってない。一応、清掃・駆除会社ってことになってるけど、基本的にはナオキの回復薬で儲けてる会社だ」

「ん~間違ってないんだけど、なぁ」

 会社を作った理由も言ってないし、しょうがないのか。


「じゃ、あの船で何の魚を獲るんですか?」

「いや、別にあの船は移動するだけだよ」

「移動するだけ……? 魚を獲らない船があるんですか?」

 セスは湖の村の出身で、船はすべて漁船だと思っていたようだ。


「湖に遊覧船とか軍艦とか、なかったのか?」

「遊覧船? 軍艦?」

「いや、いい……。今度説明する」

「はい」

「ということで、船長のセスだ。自己紹介してくれ」

 セスは立ち上がって、恥ずかしそうに、出身地や年齢、種族などを語った。


「はい、続きまして、メルモ……、メルモ!」

 口の中いっぱいに魚の身を詰め込んでいたメルモが、気づいたように振り返った。


「んぐんぐ、はぁ、はい! メルモッチ・ゼファソンです! 北部出身の羊族です。好きな物は虫系の魔物と血しぶきです!」

「え……? 血しぶき?」

 メルモの胸を見ていたセスが固まったまま俺を見た。

「うちは社内恋愛自由だぞ」

 そう言って、背中を叩いておいた。


「じゃ、一応、アイルとベルサも」

「アイルだ。アリスフェイ王国のクーベニアというところで冒険者ギルドの教官をやっていた。最近『剣王』と『竜の守り人』の称号を得た」

「ベルサだ。魔物学者で『竜の守り人』」

 セスはアイルの『剣王』に驚きすぎて、白く固まっている。

「お二人とも、称号持ちだったんですね。何をやったら称号なんか取れるんですか?」

 メルモも驚いているようだ。


「称号って、そんなスゴいの?」

「スゴいですよ! 称号持ちは、この国に10人もいないと思います!」

 メルモが説明してくれた。

「次、ナオキだぞ」

 ベルサは自分のコップにワインをなみなみ注いでいた。

「ああ、俺か。ナオキ・コムロです。社長です。特に称号はありません……、あ、あと異世界人です」

「「えっ!!??」」

 セスとメルモは、目が点になっていた。そんな驚くようなことか。


「まぁ、普通はそうなるだろうな」

「初めは信じられないかもしれないが、行動を見ていると、納得できる点が多い」

 アイルとベルサが新人たちを優しい目で見ていた。

「異世界人ってどうやってくるんですか?」

 メルモには俺がアンドロイドのように見えているのか。肌は固いのか確かめてくる。


「向こうの世界で清掃をしている最中に死んで、こちらの世界の神に拾ってもらった感じ。ついでだから言っておくけど、この会社は、その拾ってもらった神から、『勇者駆除』を依頼されて作りました。皆で、勇者を倒そう!」

 エイエイオーと言うように片手を上げて言った。


「「「「はぁあっ!!!!!???」」」」

「ちょっと待て! 大事なことをサラッと言うなよ!」

「そんなことを、なんでこんな人が集まる食堂で言うんだよ!」

 アイルとベルサが文句を言ってくる。ノリで流せると思ったんだが、無理だったか。

 新人2人は、血の気が引いて白い顔をして口を開けたまま、固まっている。


「大丈夫だよ。誰も聞いてないから」

 実際、4人が大声を出しても、誰も見向きもしなかった。

「おい、戻ってこい!」

「正気を取り戻すんだ!」

 アイルとベルサが隣りにいる新人に話しかけているが、新人2人は白目を剥いたままだった。

「やっぱり、バラすのは、ちょっと早かったかな?」

 俺は後頭部を掻いて、苦笑いをした。



 その後、気を失っている新人2人を担いで、部屋に帰り、アイルとベルサから叱られた。


 だいぶ叱られた。

 思っていた以上に叱られた。

 食堂に置いてきた料理を持ってきたのに、かなり叱られた。

 料理を食べながら、叱られた。

 いい加減いいんじゃないかな? というくらい叱られた。


 新人たちは起きたものの、セスは俺の冒険者カードのレベルの欄を見て泡を吹いて倒れ、メルモは「勇者を倒すのは魔王だけだ」と立ち上がろうとした俺に驚いて、倒れた。

「新人を倒してどうする?」とまた叱られた。

 勝手に倒れただけなんだから、知らないよ! と思ったが口に出さず、アイルとベルサが疲れるのを待った。怒ってくれるだけ、大人としてはましだな。


「はぁ……、もう、疲れた!」

「私も疲れた、はぁはぁ」

 アイルとベルサはベッドに腰を下ろし、足を投げ出した。


「とにかくだ。俺は重要な事があったら、2人に話せばいいんだよな?」

「「そうだ!」」

「じゃ、今後について、話そう」

 俺は正座を崩し、あぐらになって2人に向き合う。

「結構、やることあるんだよ。まずは勇者を見つけること。それから、勇者が何の精霊の勇者なのかを調べて、その精霊について探ること」

「なんでだ?」

 アイルには、まだ理解できないらしい。


「神としては仕事をしない精霊をクビに出来ればいいらしいんだ。だから、精霊の弱みやサボっている証拠なんかを見つけて、報告すれば神がクビにすると思うんだよね。その時点で、勇者に精霊の加護がなくなるから、勇者じゃなくなるよね。それで、仕事は完了だ」

「あ、そうか。じゃ、勇者駆除と言っても勇者を殺さなくてもいいのか」

「そう。だいたい、勇者なんか殺したら、また俺達は指名手配されちゃうよ」

「「確かに」」

 2人はマリナポートの件を思い出しているようだ。


「でも、それって、初めから精霊を探してもいいんじゃないか?」

「もちろん、そうなんだけど、勇者が増えちゃってるのが原因で、いろいろ環境がヤバいらしい。それに、精霊探すより、勇者探すほうが簡単な気がするだろ?」

「精霊が勇者以外に姿を見せるなんてことは、殆ど無いだろうしな」

 ベルサは納得している。コムロカンパニーの会計は理解力が高い。


「それで、できるだけ勇者の情報を手に入れたくて、会社にしたってわけだ。それに俺じゃなくても、証拠を見つけることは出来るでしょ」

「その証拠ってのは、どういうものなんだ?」

「見てみないとわからないけど、例えば、精霊がサボってて、森が禿げちゃったとしたら、間伐してないとか、草食系の魔物増やしすぎとかじゃない?」

「間伐?」

 ベルサが「なにそれ知らない」という顔をした。

「うーむ、それはなかなか判断しにくいな」

 アイルがそう言って、腕を組む。


「まぁ、それは、通信袋を作って、皆でやり取りしながら判断していけばいいんじゃないかと思ってるんだ」

「まぁ、とにかく、最終的にナオキが神に報告するんだよな」

「そうだね。あ、それから南半球のことなんだけど……」

「また重要な事を!?」

「南半球だと!?」

 二人はうんざりしたように、睨んでくる。


「いやぁ、邪神がさ。破壊しすぎて飽きたとか言ってさ。今、魔素溜まりを拡散してるらしいんだよね」

「待て待て、邪神だと!?」

「邪神にも会ったのか?」

「神と邪神に会った。うちの会社の後ろ盾は神と邪神だから、いろんな融通が利くと思うんだよね」

「融通が利くとかいう問題じゃないんじゃないか? 金を稼ぐ必要ってあるのか?」

「そうだ。神に言えば、金くらいくれるんじゃないか?」

「うん、そうだね。とはいえ、今のところ金に困ってないから、言う必要もないんだけど。まぁ、自分たちの運転資金くらい、自分たちで稼ぎたいじゃない?」

「そうだけど」

「わかったわかった。とりあえず、話を最後まで聞こう」

 アイルとベルサは心底疲れたというように、溜め息を漏らした。


「邪神が魔素溜まりに巨大なスライムを作って、分裂させてるはずなんだ。それで、南半球がスライムだらけになったところで、俺が駆除しに行こうと思っててさ。だから、乾燥剤の研究をいずれやらないといけない」

「それはいつまでだ?」

「わからないけど、南半球と北半球が繋がってからだね」

「繋がるのか?」

 アイルが身を乗り出して聞いてきた。

「少なくとも、ダンジョンを作って、トンネルを作るらしいよ。その前に空間の精霊をクビにできたら、一気になだれ込めるんだけどね」

「いや、そんなことをしたら、混乱必至だ」

「そうだ。この街ならまだしも、他の国もあるんだ。土地があるってだけで、亡命していく奴隷たちも押し寄せるだろう」

「じゃ、空間の精霊についてはひとまず置いておこう」

「だな」

「北半球の人族の準備が出来て、南半球の環境が整ってからだ」

「ま、その前に北半球の環境を整えましょうってことだ。精霊達がだいぶ好き勝手やってるらしいから」

 俺は腕組みをして、難しそうな表情を浮かべている2人に言った。


「あ、あの! それって世界を救うってことですか?」

 いつの間にか起きていたメルモが聞いた。

「そ、その会社の船の船長になるってことですか?」

 セスもいつの間にか起きていたようだ。


 2人の目は、魔石灯のランプの明かりに照らされて輝いていた。

「そうだ。俺たちの会社が、バランスの崩れた北半球を清掃するんだ」

「やらせてください!」

「俺もやります! 鍛えてください! お願いします!」

 メルモとセスが頭を下げた。

「よし、じゃ、まずは皆で勇者を駆除するぞー!」

 立ち上がって、腕を上げた。

「「「「おお!」」」」

 社員たちは、エイエイオーを知らないのか、俺の振り上げた拳に自分の拳を当ててきた。

 拳を擦りながらも、だんだん会社らしくなってきたんじゃないかと思って、嬉しかった。



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