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駆除人  作者: 花黒子
『遥か彼方の声を聞きながら……』

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『遥か彼方の声を聞きながら……3年目』13話「目的を達成していく野外研修」


『野外研修』の目的地は、すっかり訓練のためのダンジョンと化していた。学生たちが代わる代わる交代で中に入り、魔物と戦っている。それを皆が、観戦しながら、話し合っていた。

 冒険者に必要なものを考えるときに、外から見れるのは実はかなり有益だ。しかも、世界樹の残滓が魔力の壁として守ってくれているから、攻撃が外に飛んでこない。


「中に入る学生たちによって魔物が変わっているのは、なにかを測定しているってことなんだよね?」

 ウインクが聞いてきた。

「そういうことだろうね。たぶん、ダンジョンコアに繋がってる操作盤のパネルがあると思う」

「その操作盤が塔にあるってことか?」

「誰か見つけるんじゃないかな」

 俺やウタさんはダンジョンを壊しかねないから、塔に入る順番は最後になっている。


「おっ、本当だ」

 魔力を全然使ってなかった剣士が見つけて、魔道具師のマジコに見せていた。


「設定はいじらなくていいよ。ドロップアイテムだけ緩くしよう」

「ドロップアイテムの保存食はなにで出来てるの? こんな緑色の保存食、バングルーガー先生はよく食べてましたね?」

 バンズとパテが両方草でできたハンバーガーのようなものだった。塔の周辺に生えている雑草から作っているのだろう。

「それしかないんだから、仕方なかった……」

 

 塔のダンジョンについては『野外研修』が終わった後に、冒険者ギルドの精密な調査が行われるという。現在、調査団が組織されて、こちらに向かっているとのこと。おそらく、その調査団が来たら『野外研修』は終わりだ。

 

 世界経済会議もだいたい終わっているらしい。ラジオ局をやっていると、どこからか情報が舞い込んでくる。


 雪男のぬいぐるみに引っ越ししたクイーニィも、生前は塔に籠もって研究をしていたという。

「ダンジョンとは思わなかったが、幻術使いだけが入れる塔だと思っていた。もちろん、魔物は出てきたが、いろいろと研究を手伝わせていたが……」

「魔物使いだったんですか?」

「魔物を従わせるなど幻術の一種だ。ましてや自分よりレベルが低い魔物なら、それほど難しくはないぞ。教えてやろうか」

 アグリッパやテイムスキルに興味のある学生にクイーニィが幻術を教えていた。学校職員たちもこういう突発的な授業には参加しているし、ラジオ局はアーカイブのために録音させてもらっている。


「従わせられるのは一定時間だけだ。もし、長く従わせたいなら、霊魂の一部を交換するといい。これは死んでから気づいたことだけどな。生きている間だと難しいのか?」

「長く一緒にいないとできないことです」

 ミストが答えていた。


「で、毒薬を作ったというのは?」

 一通り、幻術の授業が終わった後、薬師のマフシュがクイーニィを捕まえていた。

「毒薬じゃない。俺としては農薬のつもりさ。収穫量を上げるためのな……」

「製法は?」

「簡単だ。素材を集めて、分析して濃度を高めていく。魔力を吸収する砂漠の草があるだろ? あれを使って、スライムの粘液と混ぜ合わせていくのさ……」

 毒薬の授業が始まったが、危険なのでラジオ局は一旦別の場所へ向かう。


 隣では、ウッドドールに取り憑いた魔法使いの霊魂が、歴史を教えていた。


「ここら辺一帯は、繁茂と枯渇を繰り返している場所でね。地中の魔力の流れが影響していると言われていたわ。私が生きていた時代も4年ほど、植物が一斉に繁殖して、背よりも高い草が生え、木々が伸びて、魔物が集まる場所だったわ」

「それが急速に消えるんですか?」

「そう。魔物が植物を食べ尽くすと言われていたけど、魔力の影響が一番有力だったかしら。でも、実際のところはどうなのかわかっていなかった。あなた方の時代でもそう?」

「いや、我々の世代は、そもそも荒れ地だったので調査すらほとんど行われてません」

「でも、これから生え始めるんじゃないかしら。私たちみたいな霊魂が集まってきているわけでしょ?」

「確かに……」

 魔導連合の魔女たちが、ノートに書き込みながら話していた。

 

 他にも、筋肉を使わない武術を教えるウッドドールや剣術のスキルをひたすら伝えているウッドドールなどがいた。荒野に残っているくらいだから、後世に伝えたいという気持ちが強いのだろうか。


「筋肉など使わずともスキルを体に馴染ませることだ。スキルはあくまで補正だと解釈すると、徐々にスキルを意識しなくても出てくる。だから、何度も使うスキルを覚えたほうがいいぞ」

「基礎練習だけでは意味がないと思いますか?」

「いや、基礎はあくまでも基礎だ。身体づくりの一環だと思ったほうがいい。それこそ筋肉を作りや、必要な筋肉以外を削ぎ落とすためのな。人間だった頃は、確かに筋肉に頼りたいよな。でも、そのうち、剣を扱うコツのようなものが見えてくる。相手の武器もわかってくるから……」


 カカカカン。


 ウッドドールが学生たちの武器をすべて枝で打ち落としていた


「重心がわかってくると、こんなこともできるようになる。武器を持った者の弱点が増えるようなものだから、意識できていない者には有効だろ?」

「なるほど……」


 他にも狩りの仕方を教えるウッドエルフなどもいたが、学生たちは熱心に聞いていた。



「これ、どうなるんですかね?」

 俺はウッドドールを作ったゲンローに聞いてみた。


「ミストが言うには、満足したらウッドドールから抜けて昇天するらしい。今は、伝えたい思いで、現世に繋ぎ止めている霊魂しか取り憑いていないと言っていた」

「達人の霊たちだ。筋肉を使わない動きをすぐできるのは、身体そのものへの理解が深いからできている」

 ドーゴエはウッドドールたちの様子を見ながら言っていた。

「でも、図書室の司書とかが今いないから、そういうところでは働くウッドドールがいるかもしれないな。工房や商店の品出しなんかでも使えると思うし」

「そうなんですか?」

「戦うだけが、ゴーレムの役割じゃない」

「ドーゴエさんのゴーレムたちみたいに定着してしまうのでは?」

「それはわからん」

「蓄魔器の液体次第じゃないか。今は霊魂と結びついているけど、そのうち魔力が少なくなったら結びつきも消えるだろうとミストは言っていた」

 ゲンローが説明してくれて、ようやく理解できた。蓄魔器には魔力を制限する液体が入っている。


「ああ、なるほど……。割合を変えればいいのか……」

「サブの魔石を増やせばいい。定期的に交換作業だってあるからな」

 長くゴーレムたちと一緒にいるドーゴエはメンテナンスの方法も熟知している。


「やっぱりドーゴエさんはゴーレム系の魔物の専門家として稼いでいけるんじゃないですか?」

「そうかも知れん。さっき、マジコが来てゴーレムのメンテナンスの講師としての年収を提示されたよ。傭兵の国で村を復興させたら考えておく。どちらにせよ金は稼がなくちゃならない」

 ドーゴエはすでに卒業後の進路が決まっている。『野外研修』でゲンローたち鍛冶屋連合にも技術を伝えた。

「俺や魔女たちは技術を伝える後輩がいるからいいが、アグリッパが大変だ。強さは無理でも、なにか残したいとは思っているんじゃないか」

 最高学年としてドーゴエには思うところがあるらしい。

「コウジは、なにか残したいとか考えているのか?」

 ゲンローに尋ねられて、特に何も考えていない自分に気がついた。

「いや、全然」

 3年しかいないし、これからどうするかもあまり考えていない。ラジオができたらいいなとしか考えていなかった。


「コウジはいいだろ。蓄魔器を作っちまったから、魔導連合の就職先を斡旋したようなものだ。魔道具の授業を取っているような学生たちも、十分生計は成り立つんじゃないか」

「そうなんですかね。この総合学校は就職するための学校でもないんじゃないですか」

「いや、まずはその後の人生だろ」

「そう考えると、コウジが方向性を指し示した功績は大きいな」

「ゲンローさんまで……。他人の評価は今、何をやっているかということだけじゃないですか。もしかしたらアグリッパさんが人類の勇者になるかもしれないし」

「ああ……、そういう可能性を考えているのか」

「そう考えると、アグリッパには仲間が少ないな。経験も足りない。次の特待十生の候補も探さないといけないし……」

 ドーゴエは学生生活の締めにかかっている。


「コウジ、新入生で活きの良いのはいないのか?」

「魔体術の新入生がいましたよ。戦士科だと思います」

「木剣あげた娘か」

「そうです。ウーランって言ってたかな」

「相変わらず、女の方が強いんだな。まぁ、性別は関係ないか」

 この学校にいると、差別意識より、何をするかのほうが大事だということがよくわかる。


「生産系はいないのか?」

「マジコさんがいるから……」

「確かに出てきにくいのかもな。でも、マジコの場合はそれほど戦闘系の魔道具を作っているわけでもないだろ?」

「魔族領出身者なのに、戦わずに生きてきたのか」

「意外と魔族しかいないからこそ安定しているんじゃないですか」

「なるほど……。南半球じゃ、勇者たちの国が戦っていたんだろ?」

 昨年はけっこう大変だった。

「そうですね。都市にいると戦うって限定的ですよね。むしろ戦わないことが日常になっていて」

「そりゃあ、訓練でもないと戦わないし、魔物だって冒険者たちが対処しているだろ?」

「その代わりに、商売で戦っているんじゃないですか」

 ゲンローがそう言うと、俺もドーゴエも納得していた。

「だから経済会議か。言われてみれば、戦争の理由も金や取引であることが多いからな。戦闘の場がダンジョンや世界樹みたいな自然環境しかなくなっているのか。ああ、後コロシアムもあるけど、あれはルールがあるからなぁ」

「武器が必要なくなる時代が来ますか?」

 ゲンローがドーゴエに聞いていた。


「それはない。繁栄すれば、必ず拡大したくなるものだ。だから、会議を開いてルールを決めているんだろう。でも、闇の精霊と光の精霊が相容れないように、俺たち人間も喧嘩する。傭兵の国がなくならない理由さ。でも、確実に暴力の範囲が狭くなってきていることは確かだ」

 俺は素直に面白いと思った。傭兵のドーゴエが暴力は少なくなるし、戦闘も限られてくると予想していながら、卒業したら村作りをしながら戦闘の専門家である傭兵を続けていく。


「仕事ができる場所が減っても関係ないですか?」

「うん。必要ではあるからな」

 需要があれば仕事は成り立つ。

「ラジオはなくなりますかね。元々なかったものなので」

「いや、もうこの学校には必要だろう。すっかり学生生活に馴染んでしまっているからな。というか、ラジオがあるから、職員たちも『野外研修』に来ているのだろう? なかったら、仕事も休めないし、学生に何が本当に必要なのかもわかっていないかもしれん」

「コウジたちは需要を作り出してしまったということだ……。それ、通常はできない」

「おそらく、その能力が最も必要な時代が来る。産業そのものを作り出してしまうような才能がな」

 ドーゴエは意外と先を見ているのかもしれない。

「シェムがそうだろ? ダンジョンを売り始めたら、時代が変わる。冒険者とダンジョンマスターとの知恵比べだ」

「知恵の時代が来ますか?」

「ああ、来る。というか、たぶん、来ているのに、なかなか理解されていないんじゃないか。よく考えてみろよ。世界的に見てもレベルが高いコムロカンパニーが、ほとんど表舞台には出ないようにしているだろ?」

「そうなんですかね」

 俺は近くにいるから見ているだけなのか。

「彼らがやったのは現地の問題を解決して、ほとんど報酬も貰わなかったことだ。しかも、後から『よこせ』とも言わない。発展したら、仕事をまわしてくれと言っているだけ。そもそも彼らは副業で稼いでしまっているからな」

「あの人たち資本主義じゃないんだよな。レベル至上主義でもない」

「だからって市民に何かを強制しているわけでもないですよ。コウジ、コムロカンパニーは何をやっているんだ?」

「いや、俺も仕事についてはよくわからないんですよ。でも、基本的に自由のはずですよ。親父以外は」

「親父さんは仕事のし過ぎだと聞いているけど……。実際、俺の実家がある村でもめちゃくちゃ仕事をしていたからな」

 ドーゴエは親父の仕事を見たことがあるのか。

「あのスピードで仕事をしているのに仕事がなくならないのか」

「俺が長期休暇のときに無理して休んでいるみたいなんで、調整とかが多いんだと思います。あと、仕事のほとんどが準備段階で終わっているとも……」

「それは、確かにそうなんだけどさ」

 駄弁っている間に、塔のダンジョンの順番が回ってきてしまった。


「ようやく最後か」

「コウジが産業を作るということが決まったところで、『野外研修』も終わりだな」

「どういう結論ですか?」

「いってこい!」


 ドーゴエとゲンローに背中を押されて、俺は塔のダンジョンへ向かった。ウタさんも反対側からやってきた。


「自分が想像する怖い魔物が出てくるって言うけど、私たちが怖いと思う魔物ってなに?」

「なんでしょうね?」

 とりあえず、門を開けて中に入った。


 どんなモンスターが出てくるのか楽しみにしていたら、コムロカンパニーに化けたゴブリンの群れが出てきた。


「ああ……、それはちょっと厳しいね」

「姿は似ているかもね」


 パパパパンッ。


 倒すのに、二秒もかからなかった。幼い頃から、さんざん戦ってきた相手だし、リアルとの実力差がありすぎた。関節が逆に曲がるとか、魔力の量などで測れるような人たちではない。


「ドロップアイテムは、石?」

「あ、これ、操作盤です。好きに強さを変えられるそうです。どうします?」

「じゃあ、最強モードで」

「はい」


 操作盤で最強モードにした途端、ドラゴンが3体出てきた。



 パパパンッ。


 やはり二秒もかからない。これも幼い頃から、馴染みのある相手だ。弱点を突かなくても倒せたところを見ると、単純にダンジョン内で強さの更新ができていないのだろう。


「最強モードにした?」

「しました。ほら」

 俺は操作盤を見せながら、ウタさんに言ったが、あまり信じてもらえなかったらしい。

「情報を更新してないなら、情報を更新すれば、強い魔物が出るの?」

「どうですかね。結局、マルケスさんのダンジョンと変わらないんじゃないですか?」

「あぁ、なるほど。確かに。ダンジョンの限界ってことね。古い石板とか書物、化石はないかな? あればドロップアイテムで出して」

「了解です」


 スクロールが一つ、空中から出てきた。


「塔の設計図ね。うわぁ、古い言語。トキオリさーん! この文字わかりますかぁ!?」


 ウタさんはすぐに塔から出てしまった。俺もモンスターの強さを通常モードに変えて、塔に操作盤を戻した。


「冒険者の調査団が来ると思いますので、移動を開始しましょう」


 塔の敷地内から出て、学生たちに呼びかける。ラジオで放送すると一斉に動き始めた。

 夕方頃から移動を始めるというサイクルが浸透している。


「世界経済会議で、各国で魔道具関連の税金が免除されることが決まったって」

 ラジオを放送しながら、情報通のグイルが言ってきた。

「なるほどね。ということは、今後最も必要になってくるのはツールだろうな」

「工具ってことか?」

「そう。あと設計図だね。魔道具の設計図を書けるかどうかで、変わってくるんじゃないかな」

「また、勉強か……」

「学生の本業だなぁ。新しい筆記用具とか考えてみるか」

「コウジはまた何をするつもりだ?」


 俺たちの『野外研修』は学校に帰るまでが研修だ。


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