50話
「いやはや、貰ったはいいものの、これはどうやって使うんだ?」
俺は、貰ったパンティを掲げながら言った。
パンティの向こう側にはフロウラの町並みが広がっている。
高台にある教会跡地である。
娼婦のミリア嬢が言っていたように、街の出入り口で衛兵に聞いたら教えてくれたのだ。
教会は半壊し、壁二面と屋根がごっそり落ちていた。
ただ、誰も来る気配はないし、眼下に広がる景色もキレイだった。
小鳥のさえずりが聞こえ、青空には小さな雲が浮かんでいる。
そんな中、俺は小一時間ほどパンティを睨んでいる。
使い方がわからない。
匂いを嗅いでみたり、被ってみたり、頬ずりしてみたりしたのだが、「だから何だ?」という気分である。
前の世界で下着泥棒が女性物の下着を何千枚も所有していたなどというニュースを見たことがあるが、いったい、あれは何をしているのだろう?
いや、ナニをしているんだと思うが、俺は、そこまで上級者ではなかったということだろうか。
くそっ!変態ではない自分が恨めしい!
試行錯誤が必要のようだ。
結果、現在俺はツナギの上から、パンティを履いてみているのだった。
「いったい俺は何をやっているんだろうか?」
自然と疑問が湧き上がってきた。
「コムロ氏、何やってんの?」
「へ!!??」
振り返ると、村人の兄ちゃんみたいな人が、崩れたレンガの上に座ってこちらを見ている。
その兄ちゃんは俺を「コムロ氏」と苗字で呼んだ。
「どちらさんですか?」
「あれー?忘れちゃったのぉ?ミスター・コムロ?」
俺のインテル入ってない脳みそで検索したが、結果は0件だった。
まったく覚えてない。
「僕だよ僕…神だよ」
「あーぁ!」
「死んだ君の魂を拾って、こちらの世界にぶん投げて、放置していた神だよ」
「こんちは。どうも、その節はありがとうございました。で、その神様がなにしてるんですか?」
「なにしてるかは、こっちが聞きたいよ」
「あー、なんかぁぁぁ……パンティ貰っちゃってどうすればいいのか、試行錯誤しているところです」
全力で誤魔化そうとしたが、どうせバレてそうなので、正直に言った。
「正直、長い神の生活の中で、こんな人の下に来たことがないものだから、少々戸惑っているよ。コムロ氏はあれか?『異世界で娼婦のパンティ履いてみた』っていうタイトルのラノベでも書くのかい?」
「いや、特にその予定はないですけど」
「そうか、なら良かった」
「で、何かありましたか?」
「僕は君に宣託を与えに来たよ」
「宣託ですか。やっぱりあるんですね」
「あるよ、ただ……あっ!ヤバい!変な奴が来る!!」
そう言って神様は空を見上げた。
チュドッ!!!!
何かが燃えながら、教会の傍に墜落した。
「ハハハハ、抜け駆けはイカンぞ。神よ」
真っ黒い顔をして、ところどころ燃えた人が何事もなかったように立ち上がった。
空から墜落してるのに、生きてるってどういう体してんだこの人。
「何しに来た!?邪神よ!」
邪神!?この人邪神なの!?
「何をしに来ただと、決まっているではないか!そこの異世界からやってきた……お前何してんだ?」
邪神がこちらを指差して、振り向いている途中で、俺の格好に疑問を持ったようだ。
「ちょっと、自分の変態性を追求してみようかと、チャレンジしていたら、こうなったというか…」
「そ、そうか。……ちょっとアバンギャルド過ぎるぞ。その格好は」
「す、すみません。ちょっと燃えてますけど、大丈夫ですか?」
邪神が俺の方を凝視している間に、邪神の身体が盛大に燃え始めた。
「ああ、そうだった。ちょっと大気圏突入したら燃えてたんだった」
邪神はポンポンと身体の火を叩いて消した。
「クリーナップかけますか?」
「すまんな。頼む」
俺は邪神にクリーナップをかけ、キレイにしてやった。
ようやく全身がはっきりとした邪神は、チャラ男感にあふれていた。
派手なネックレスと指輪をつけて、革パンに黒のタンクトップという出で立ちだった。
「どうせ、長くなるから座って話そう」
神の提案に、邪神も普通に従った。
壊れた教会のレンガの上に3人横並びで座っている。
右手に神、左手に邪神、という神々に挟まれた俺は、神々の愚痴を聞かされる羽目になった。
神は、精霊達が仕事をしないので、クビにしたいのだけれど、『神の横暴』だとか理由をつけて、全然クビに出来ないという。
「あいつら、超使えねーよ!」
神なのに、どんどん言葉は砕けていっている。
邪神の方は、南半球を壊しすぎて、やることが無くなって、どうしたらいいんだ、と悩んでいるようだ。
「千年も破壊してんだぞ。飽きるっつーの!」
「で、だ。コムロ氏にやってもらいたいのは…」
「ちょっと待てよ。俺だって、やってもらいたいことがあるぞ」
神と邪神がそれぞれ、言う。
「まぁまぁ、とりあえず、両方聞いてから決めますよ。というか、何で俺なんですかね?」
「「異世界からやってきたからだろ」」
神々がステレオで言ってきた。
「とりあえず、この星の現状を説明しよう。これがこの星の現在の様子だ」
神がそう言うと、右手から、この星の縮小版のホログラムを出した。
ホログラムの星がゆっくりと回っている。
北半球は海と緑の大陸に覆われているが、南半球は土色の大陸しかなかった。
「ほら見ろよ。南半球は荒れ地しかないだろ?バカなんだよ邪神は」
「おめーだって、バカだろうがよ。精霊抑えられなくて、勇者だらけにしちまいやがって。バカじゃねーの?ほら見てみろ、この森、精霊がアホだから、徐々に禿げて行ってるんだぜ」
二人ともホログラムを指さしながら、バカにしている。
よく見ると、南半球には荒れ地の他に、やけに輝いている場所が何箇所かある。
「これ、なんですか?」
「あーこれはなぁ…」
邪神が渋い顔をしている。
「これこそ、バカの結晶だ。魔素溜まりと言ってね。魔素が集まった場所だ。どうして出来たか教えてやれよ」
「これは俺の魔王と神の勇者が戦った跡、こっちはつまらねぇ悪魔を潰した時に出来たやつで、こっちが人間どもが塔を建設してたから、おならで崩してやろうと思ったら、力みすぎた結果だ」
「どうだいバカだろ?そんなことをしているから、南半球では魔法が使えなくなったんだ」
心底バカにしたように神が言う。
「え?魔法使えないんですか?」
俺が邪神に聞く。
「うん、魔素が魔素溜まりに集中しているからな。全体的に枯渇してるんだ」
「魔素を拡散するようなことはしないんですか?」
「やってみたことはあるが…」
「邪神はバカだから、すぐに破壊するのさ」
「あ~それで、南半球と北半球を分けたんですか?」
俺が神に聞いてみた。
「そ、それは…」
急に邪神をバカにしていた神が「まずい」と言う顔をした。
「違うぞ!コムロ氏よ!」
邪神が目を輝かせて話し始めた。
「こいつの部下に空間の精霊というアホがいてなぁ。千年前にそのアホが暴走して、勝手に壁を作って分けたんだ。そして、こいつは今もそのアホをクビに出来ないでいる」
「え?何でですか?」
神に聞いてみる。
「あいつら、僕の言うことを聞かないんだよ~。こっちのほうが管理しやすいとか言ってさぁ。僕、神だよ。精霊ってのは世界のバランスを保つためにいるってのに、勇者にばっかりかまってるんだ」
「まぁ、バカの部下は、アホということだ」
「なんだとバカ!」
「うるせーバカ!」
・・・・・。
その後、15分ほど、バカの言い合いがあった。
「で、俺に何させようとしてるんですか?」
「君は駆除を専門にしているだろ?」
なにか嫌な予感がする。
「まずは『勇者の駆除』からお願いしたい」
神が言う。
「いやいやいや、勇者ってちょっと…」
「大丈夫だ。勇者なんて精霊のアホどもが加護を与えてるだけのアホの子分だから」
邪神が言う。
「それから、『精霊をクビに出来るような証拠集め』だ」
「それ、駆除関係ないじゃないですか!」
「大丈夫だ。清掃業もやってるんだろ?世界をキレイにすると思えば、自然と集まるさ」
神が言う。
「俺からは、魔素溜まりの清掃をお願いしたい。どうにか拡散したいんだ」
今度は南半球からの依頼だ。
「知らないっすよ、そんなの」
「考えてくれよ~」
「なら、植物育てて、花粉とかで魔素を飛ばせばいいんじゃないんですか?あとは、デカいスライム作って、ドンドン分裂させるとか?そのうち、乾燥剤作ってスライム駆除しに行きますから、それでどうっすか?」
「お前、天才か?そうしよう。あ、あともう一個デカい魔素溜まりあるんだけど、なんかアイディアない?」
「え~だったら、ダンジョンでも作って北半球と繋げちゃうのはどうです?」
「おおっ!!おしっ!そうしよう。さすが異世界からやってきただけのことはあるな。発想と格好が頭おかしい。早速やってみよう」
そう言うと、邪神は空へと飛んでいった。
「バカめ。あいつの言うことは聞かなくてもいいからな」
神が空を見ながら言った。
「は、はぁ」
「先にこっちの依頼の方を頼むよ」
「それ断れないんですかね?」
「僕は神だよ。神からの依頼は断れないでしょう」
「はぁ…勇者殺しですかぁ」
おもいっきり溜め息を吐いた。
「うん、まぁ、殺さなくても加護を与えてる精霊をクビにできたら、自然と勇者じゃなくなるんだけどね」
「ああ、なるほど」
「まぁ、社内清掃だと思って、頑張ってみてよ」
「わかりました。全然乗り気しないけど…」
「じゃ、よろしく頼むよ」
そう言って、神が消えようとする。
そして、俺は急に閃いた。
「あっ!ちょっと待ってください。別に俺1人でやらなくてもいいんですよね?」
「ああ、それはもちろん。仲間と一緒でも構わないよ」
「あ、いや、会社作ろうかと思うんですが」
「会社?」
幸い、金はたくさんあるし、人もたくさんいたほうが情報収集に向いているだろう。
神は社内清掃とか言ってるけど、清掃範囲は北半球というとんでもない範囲だ。
俺1人で出来るわけがない。
仲間を集めたとしても、そんな範囲を清掃できるか、といえば、何十年かかることやら。
だったら、会社にして教育して、派遣していったほうが早い、と考えたのだ。
「ええ、そっちのほうが手っ取り早い気がするんで」
「まぁ、なんでもいいよ。よろしくね~」
そう言って神は消えた。
俺はそのまま、今後の予定を考えながら、宿に帰った。
部屋に帰ってきたベルサに「何その格好?」と言われ、ようやくパンティを履いていることに気づいたのは、晩のことだった。