正月明けから仕事をしているコムロカンパニー3話
最初にダンジョン村を作るのは、魔族領だ。
死者の魔物たちが住む東側で、海岸線よりは内陸にある森の中だ。開発も進んでいないが、港にも街道にも近いので交通の便は悪くない。
コウジの先輩であるゲンズブールという若者が村のインフラを担当してくれた。ダンジョンについても詳しいし、収益化のアイディアも豊富だとか。
「ゲンズブールくんはエディバラの出身なんだっけ?」
「そうです。魔道具師の息子なんですけど、反魔力の呪いを受けて生まれてきてしまって」
「今は?」
「ないです。コウジのお陰で、制御できるようになりました」
「そっか。コウジが少しは役に立ったのならよかった」
「少しではないですね。人生変わっちゃってるんで。結婚もしましたし、駅伝にうちのカミさんが出てました」
「ああ、そうなんだ。ありがとね。面白かった?」
「面白いですよ。そりゃ」
「後片付けが大変なんだけどな。悪いんだけど、協力してくれ」
「もちろん、そのために来ました」
「よし。じゃあ、ダンジョンの場所から決めるか。アラクネたちと一緒に距離を測っていこう」
城から来ているアラクネとともに種族が村作りのために招集されていた。ボウに計画を話しやすいので、すぐに動いてくれるのが魔族のいいところだ。
「向こうに崖があるので、そこにします」
「了解」
崖にダンジョンテープを張って、空間を開ける。あとは、人工のダンジョンコアを入れるだけ。まだ北極大陸からは届いていない。
「どういうダンジョンにするのか考えている?」
「ええ。なるべく死なせずに、何度もトライできるけど、謎がある感じで行きます。一応、こんな感じなんですけど、どうですか?」
ゲンズブールくんは理想的なダンジョンを構想しているらしい。
「循環も考えているみたいだから、いいんじゃないか。魔物たちの裏道なんだけど、もうちょっと広げてあげてほしい。入れる種族が限られると、雇用が続かないかもしれないから」
「ああ、なるほど」
「成功すれば、何度も魔石を使えるだろ?」
「そうですね。魔物とは別に、ダンジョン由来のモンスターは召喚術で出したほうがいいんですかね?」
「たぶん、それはダンジョンコアでできるはずだから、送れるようにすればいい。モンスターそれぞれでレベル制限を設ければ、管理しやすいと思うよ。ダンジョンマスターは竜のお姉さんたちが来るから、あんまり難しいのは止めてあげてくれ。ゆっくり広げていくはずだから」
「わかりました。ユーザビリティを考えれば、そっちのほうがいいですよね」
「ああ、支配的になったり、管理しすぎると、かえって面倒だから、会社みたいな感じで管理していってほしい」
「了解です。一応、ガイドラインのような説明書は作っておきます」
「頼む」
おそらくゲンズブールくんのダンジョンが、この後できるダンジョンの雛形として参考にされるだろう。
今はただの小さい亜空間倉庫だ。正直、これを作ったことだけでもすごい偉業だ。
アラクネたちが糸を使って距離を測り、鍛冶屋や宿の建設予定地を作ってくれていた。
「杭を打っている範囲でいいのかな?」
「そうです。ダンジョン周りに、治療小屋を建ててもいいですか? 種族によって、治療法も結構変わってくるので、急いだほうがいい種族もいるんですよ」
「そうだね。それは必要かも。あと、アイテムショップの簡易的なものを置いてもいいかもしれないよ」
「わかりました。そっちもやっておきます」
俺はアラクネが人語を操るのがうまくなったと思いながら、四本の杭の位置を確認し、糸が張られている場所を空間魔法で囲った。
ズッ。
後はちょっと上に持ち上げるだけ。バラバラと木々が倒れていくので、ちょっと傾けてダンジョン側に寄せていく。有機物はたくさんあったほうがいい。もしくは家屋の木材になる。
「何をやったんですか? 目の前の木が全部……」
アラクネとゲンズブールくんが驚いていた。
「整地ね。こう見えて空間魔法はいろいろあってなぜか習得しているんだ。後は根っこを引っこ抜くだけでいい。ダンジョンコアが届いたら、中に入れちゃって。有機物もたぶん必要になってくるから」
「……わかりました」
「若干引いてる?」
「いや、結構引いてます。このスピードで村を建てるんですか?」
「そのつもりだけど」
「道もそれほどかかりませんか?」
「かからないね。道に関しては、かなり作業は速いよ」
「わかりました。もう魔族の商人と医療班を入れ始めます。ギルド職員も入れたほうがいいですよね?」
「そうだね。なるべく早めに慣れてもらえると、ダンジョンができた時に、移行しやすいと思う」
「了解です」
ゲンズブールくんは足早に、坂を下りていった。
「作業スピード、速かった?」
杭を地面に打ち付けているアラクネたちに聞いた。
「速いです」
「あと、空間魔法は見慣れないせいか手品に見えます」
「そうかな。でも、無理に遅くしても仕方がない。先に街道からの道を作っておくか」
「あ、こっち入口ですから」
「了解」
アラクネたちに指示されるがまま、俺は道作りと整地をする作業を進めた。道づくりに関してはルージニア連合国でも魔族領からグレートプレーンズの街道、南半球の水路工事まで散々やっているので、水はけの良い石畳の坂を作った。勾配がきついところは階段にしておく。階段の周辺に馬車が停められるようにしておいた。そのうち、四足歩行の荷台が登場するだろう。
午後一で、メルモとセスが緑竜の姉さんを連れてきた。出来たてのダンジョンコアも持っている。
「あとでゲンズブールくんと打ち合わせしておいてね。彼は優秀だから、収益化の方法もすぐに思いつくと思う」
「わかったわ」
緑竜さんは早速、ダンジョンに入って、ダンジョンコアを起動させていた。
「ゴムボールみたいなんだな?」
「ダンジョンコアですか。そうですよ。壊れにくく作りやすい構造を考えると、結局古代のドワーフが作ったものと似ていくそうです」
「へぇ。セスは建材持ってきたのか?」
「持ってきましたよ。でも、倒れているのをダンジョンに入れて加工してしまえば出来そうですけどね。まぁ、それは緑竜さんとゲンズブールくんに任せよう」
「そうですね。あ、アラクネさんたち、お疲れ様です。社長、仕事が速かったでしょ?」
「ええ。いつの間にか整地されていて、道もあっという間に出来ていましたよ。木を切るとかそういう感じじゃないんですね?」
「魔法の裏ワザ使っているみたいだったでしょう。あんまり魔法の使い方がわかってないだけだから許してね」
なぜかメルモが言い訳をしていた。
「許すも何も、ただただ驚いていただけですから……」
「あとは、こっちでやっておきますから、社長は傭兵の国に行ってください」
「了解」
ダンジョン村は建設予定地が決まった国からどんどん作っていく。
傭兵の国に行くなら、ついでにアリスポートにいるコウジにも会っておくか。
「おう。春休みか?」
『あ、親父。駅伝の後片付けに追われてるよ。母さんがラジオショップに来てる』
「あ、本当? 傭兵の国で仕事した後に行くよ」
『ああ……、どうする? ラジオ、出る?』
「ああ……、出るか。一応、ダンジョン村の宣伝しないといけないんだよなぁ」
『ダ、ダンジョン村? なにそれ』
「邪神の魔石を使い切るのにさ」
『ああ……、村作るの? あ、ダンジョンも?』
「そう。なんか思いついたら連絡してくれ」
『わかった。でも、こっち来るんでしょ?』
「行くよ。コウジの休みに合わせて夫婦で会ってるんだから」
『お土産持ってこいってさ』
「わかった。なんか見繕っておくわ」
俺は通信袋を切った。コウジの学校があると、ちゃんと一年のスケジュールが確認できるので便利だ。ワーカホリックになることもないし、偉い人との会議に呼ばれても、「息子の学校で行事があるので」という言い訳ができる。
「じゃあ、あと頼むわ」
メルモとセスに言って、俺は箒で空へと飛んだ。




