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駆除人  作者: 花黒子
~大陸に辿り着いた駆除業者~
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49話



 娼館街。それは男のパラダイス。

 きらびやかな魔石灯の明かりが…………………ない。


 なぜなら、昼間だからだ。

 昼間っから、何やってんだと思う人もいるだろう!

 客引きをしているお嬢さんたちも、眠そうにあくびをしている。

 やる気なんてあるわけない。


「旦那ぁ……! 頭が……」

 声をかけられるのは、酔いつぶれたお嬢さんだけだ。


 薬草を食べさせてあげると、「にがぁい!」と言って泣いていた。

 二日酔いは自業自得なので、放っておこう。


 娼館街の端に唯一、看板に明かりが点いていた娼館があった。

 店内はカーテンが閉まっていて、薄暗い明かりで、いい匂いのお香が焚かれているようだ。

 カウンターには誰もいない。


「すんませーん……!」

 返事がない。

 やってないのかな? こんな昼間だしね。

 でも、一応、もう一回。


「すんませーん!!」

 大きな声を出してみた。


 バタバタバタバタ


「ああ、すいやせん。いらっしゃいませ!」

 和服っぽい前で合わせる服を着た番頭さんが奥から、走ってきた。

 番頭さんの手には血が……。

 傷がついているというわけでもなさそうなので、誰か別の人の血だろう。

 

「こんな状況で、客なんかとれるかぁ! 悪いけど、帰っておくれ!」

 奥から、女の声が聞こえる。


「なんかあったんですか?」

「へぇ、ちょっと」

「良かったら、これ使ってください。また、来ます」

 そう言って、俺はアイテム袋から、回復薬を取り出し、番頭さんに渡した。


「ああ、ちょっと待って!」

 出ていこうとする俺を番頭さんが止めた。

「こんな高い物、受け取れませんぜ」

「ああ、いいんです。自分で作ってるんで」

「あ、薬師さんですかい! すみません、人を形で判断しちゃいけやせんね。ちょっと、こっちに来てくれやしませんか?」

 番頭さんはそう言って、俺の手を引いて奥へと連れて行った。

 

 奥には幾つもの部屋があった。娼婦たちが客を相手にする部屋だろう。

 奥に女たちが集まっている。むっとするような汗の臭いと石鹸の匂いが混ざって、どこか懐かしい。

 

 ギシッ。


 緩い床を踏みながら、番頭さんは娼婦の中にをかき分けていく。娼婦は泣いている者もいる。よほどのことが起こっているのか。


「こんなのあんまりじゃないか!」

「どうするんだい?」

「どうもこうもあるかい! 絶対許さないよ! 私は!」

「とりあえず、アタシ、通いの僧侶呼んでくる! あっ」

 娼婦が振り返ると番頭さんに連れられた俺と鉢合わせ。


「おい! どけ! 薬師さんだ」

 番頭さんに連れられて、部屋の中に入る。


「客って薬師さんだったのかい? 悪いこと言っちまったね。アタシらなんでもするから、この娘、診てやっておくれ」

 1人の女を抱きかかえた娼婦が俺を見た。

 抱えられたのも娼婦だろう。顔は刃物か何かでズタズタに引き裂かれている。

 こりゃひでぇ。


「そのまま、抱えておいてくれ」

 俺はアイテム袋から、塗り薬と飲む回復薬を取り出した。少し草の臭いが強いが我慢してもらおう。

 クリーナップをかけ、唇の傷に薬を塗り、ゆっくり回復薬を飲ませた。


「がんばれ。飲むだけだ」

 怪我人の喉が動いたのを確認。みるみるうちに傷が塞がっていくが、傷痕が赤く残ってしまった。

 端正な顔立ちというよりも、愛嬌のある田舎っぽい顔の娘だった。頬もふっくらして大事に育てられたのだろう。


「少し切るぞ」

「え?」

「このままじゃ、これから客とれないだろ」

 俺は傷痕にそって、ナイフを入れていく。

 その傷に塗り薬を、塗っていくとキレイに肌が再生していく。


「「「わぁ~」」」

 見ていた娼婦たちから、驚きの声があがった。


「他に傷は?」

 尻や胸にも、引っ掻いたような傷があった。抱えていた娼婦が確認したが、「傷が消えちまった」と言っていた。飲む方の回復薬で治ったのだろう。


 怪我をしていた娼婦は、薄っすら目を開けて「ありがと」と言ってすぐに眠ってしまった。




「クソ冒険者さ!」


 切り裂かれた娼婦ことアマンダ嬢のお客について、下の階でミリア嬢が説明してくれた。

 デモをやっているクソみたいな冒険者が鬱憤をぶつけてきたのだろう、と予測していた。冒険者達は船で南に行きたいと言っているが、教会がそれを止めているらしい。


 教会の言うことを聞かず、南に向かった冒険者達は誰も帰ってきてない。行ってきたという者たちは、そもそも船に乗ったかどうかもわからないくらい信用はされていないとも言っていた。


 教会への不信と、恐れで、昼間から酒ばかり飲んで、ほとんどの冒険者が仕事をしていないから、治安も悪いと番頭さんがぼやいていた。


「ここは、街の端で、森にも近い。衛兵はいるけど、ゴブリンの大群が出たら、真っ先にここが襲われるんだ。いや、悪かったね。旅の薬師さんにする話じゃなかった。あ、そういえば、客として来たんだったね。誰でも好きな娘を選んでおくれ。サービスするよ」

「いや、今日は止めとく。落ち着いたら、また来るよ」


 未だアマンダ嬢は眠っているし、なんだか、カッコつけて傷を治してしまったせいで、ここの娼婦たちには、いい人だったと思われたくなってしまった。

 もちろん、娼婦を買ったところで、何が変わるというものではないのだが……。なんとなく、この場は立ち去ったほうがいい。


「また、今度サービスしてください。それより俺は体の傷は治せても心の傷は治せないから、皆でフォローしてあげてね」

「わかった。それで、傷薬のお代のことなんだけど……」

「まぁ、いいよ。俺が好きで助けただけだから」


 お代ぐらいもらっとけ、と思うかもしれないが、どうしても娼婦たちの前でカッコつけてしまう。性欲が無くなったわけではない。ただ、助けた人のイメージでいてくれた方が今後の仕事はしやすいだろう。


「番頭さん、この辺で、誰にも邪魔されない一人になれるって場所ないかな?」

「あ、それなら……」

「それなら、森を抜けた高台にある教会跡がいいよ。道は衛兵に聞けば、すぐわかると思う。良かったらこれ持って行きな」

 ミリア嬢が、その場でパンティを脱いで俺に渡してきた。俺が何をしたいのかバレているのか。娼婦の方たちは男の何枚も上手だな。


「あ、ありがと」

 俺は脱ぎたてのパンティをポケットにねじ込み、手を振った。

「この御恩、忘れるんじゃないよ!」

「「「ありがとうございました~!!」」」

 娼婦たちが手を振ってくれた。


 結局、最後カッコ悪かったんじゃ……。

「まぁ、いいか」



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