正月明けから仕事をしているコムロカンパニー
俺は巨大な魔石を目の前に、涅槃のポーズで使い方を考えていた。
今いる火山の中に、世界樹の実を捨てたので、もしかしたら全知全能の一部が入っているかもしれない。そもそも邪神から生み出された魔石なので、かなり物知りだとは思う。
使い方次第では、おそらくこの星の人間が絶滅するくらいの効果はあるだろう。とはいえ、邪神のことだからただただ爆発させても面白くはないというだろう。
だとしたら、いがみ合いながら人類を絶滅させていくだろうか。
例えば、監視社会のような物を作り出して、密告に次ぐ密告で都市の機能を不全にして徐々に衰退させることはできるかもしれない。技術革新があっても、すぐに足の引っ張り合いをするだろう。
この規模の魔石だと個人に魔力を付与するという考えは捨てていい。むしろ社会に影響するレベルだ。
「社会ごと変えるようなことか……」
すでに蓄魔器にする許可はコウジから出ているので、蓄魔器にするのは問題ない。
ただ、それでも、消費するのに十年単位で掛かりそうだ。そもそもコウジが作った蓄魔器はそれほど大きい魔石は必要ない。削り出して、少し使う程度だろう。
「だいたい魔石なんか使わないんだよなぁ……」
足音が近づいてきて、振り返るとアイルがいた。
「よう。なんか思いついたか?」
「いや。ベルサの実験では、その魔石親指サイズの魔石でも、急成長と凶暴化を同時に発生させるってさ」
「面倒だな。本当に……」
俺は座り直して、やはり宇宙に飛ばしてしまおうかと考えた。
「隕石にするつもりか?」
「お、よくわかったな。でも、失敗すると落ちてきちゃうしさ。結局、浄化させるほうが先だと考えると……」
「ダンジョンコアにするほうがいい?」
「ん~、そうなんだよな。そうすると、コウジの友達にダンジョンを作っている学生がいただろ?」
「シェムな。私の弟子だったらしい」
「メルモの弟子もいるんだろ?」
「駅伝で実況してたのがそうだよ」
どうして集まっちゃうんだろうか。
「まぁ、いいか。とにかく、浄化するなら水源の確保だ」
「ああ、北極大陸の氷の国の跡地は確保した。あと、エルフの国も土地の売買には寛容になっているらしい。それから、南半球は土地が多いけど水がなぁ。世界樹の湧き水は確保できるけど、あそこも魔力が強い地域だから」
「アペニールと魔族領の間にある山脈は?」
「あそこ、駆け込み寺を作ったんだけど」
「ダンジョンは作れないか?」
「作れなくはないけどさ……。暴力から逃げてきた奴らに暴力を教えるようで」
「ああ……」
コムロカンパニーで開発をし続けているから、世界中に土地勘はあるのに決め手にかける。全てセーラに任せてしまいたい気持ちにもなってきた。
「どうせダンジョンを作るなら、山ごと買ったほうがいいんじゃないか?」
ベルサが空飛ぶ箒に乗って、ふわりと俺の背後に着地した。最近、どこから現れるかわからない。俺が魔物とほとんど戦わなくなって、気配を探るようなことをしなくなっているからだ。
「山を買って、森を作ったほうが浄化水はできるか……」
「うん。遠回りだけど、10年後を考えれば、そっちのほうがいいのかもよ」
「そうなんだけどさ。だったら、町も含めて作ったほうがいいんじゃないか?」
「ダンジョン都市を作るのか!?」
「ああ、そうなるかぁ。でも、それが一番確実な気がするけどな。四分割、いや八分割ぐらいできればいいんだけど」
「北極大陸だと光の精霊と競合するよ」
「いいだろ? 新しい勇者もできたことだし。でも、ダンジョン都市なんて言ったって、人が集まらないとどうしようもないからなぁ」
「魔道具だらけの都市なら、エディバラが一枚噛んでくるよ」
「だろうな……。また調整するのか」
ここ数年はなぜかコムロカンパニーが調整役をすることが多い。パレードもそうだが、駅伝もいろんな人に声をかけた。去年一年は、本当に飛び回った気がする。
「今年は休まないか? 罰当たらないと思うんだけどな」
「それ、去年と一昨年の目標だったね」
「マンネリズムこそ人生さ」
「で、どうする? ダンジョン都市を作るのか?」
「うん。都市にする必要はないかもしれないけど……。そうだな。ユニットごと設置していければいいよな」
「なに?」
「要は、ダンジョンを中心にして利益をあげられればいいわけだ」
「それができれば苦労しないよ」
「だろうな」
「今のうちに、全部話しておけ。どうせ、ナオキのことだから先のことまで考えているんだろ?」
「まぁな。よし、じゃあ、メルモたちにも通信袋で繋いでおいてくれ」
俺は今考えられる計画を、順番に語っていった。
昼前から会議を始め、終わったのは夕方だ。
「相変わらず、奇人の言うことは理解するのに時間がかかる。ただ、言わんとしていることはわかった」
「聞いてみれば、それはそうなんだけど……。汎用性が高いからこそ、時間をかけたほうがいい。とにかく売るものの幅はかなり広いな」
「そうだね」
『何を言っているのかわからなかったけど、まぁ、社長らしいですよね』
『できるところが、コムロカンパニーの恐ろしさですけど……。やるんですね?』
「やるしかないんじゃないか。邪神石の駆除なら、俺達の仕事だろ?」
「「絶対違うね」」
通信袋から笑い声が聞こえてくる。
『実験場はどこにするんです? 過酷なところがいいんでしょう?』
気の早いセスが聞いてきた。
「セーラのところの砂漠と、北極大陸の氷の国の跡地でいいんじゃないか。そこで出来れば、どこでも通用するだろ?」
「とにかく最低限必要な店だよね。それだけ割り出していこう。行くよ」
俺のアイディアにベルサが燃料を入れていく。
『『了解』』
「できるのかねぇ?」
アイルがスピードの調整役だ。
「アイル、ここ隠しておいてくれ」
「わかってるよ」
意外と光魔法も使う。何度も光の精霊から勇者にならないかと誘われていたアイルだったが、「やるわけないだろ」と断っていた。
光の屈折を使って、邪神石が消えたように見えた。
洞窟の入口は巨大岩で塞ぎ、俺たちは南半球の砂漠へと飛んだ。
砂漠でメルモとセスと合流。コウジからも通信袋で連絡があった。
『全部、蓄魔器に変えるわけじゃないよね?』
「当たり前だ。材料が足りなくなるだろ」
『そうだよな。親父なら何をするかわからないって友だちが言うからさ』
それを聞いて俺は笑ってしまった。
「友達を大事にしろ。まぁ、数年、下手したら10年以上かかるから、気長にやっていこう。俺たちもそのつもりで動いている。でも、のん気にやってると予算が馬鹿みたいにかかるから、実地調査してからだ。また、学校には行くからよろしく」
『あぁ、うん。わかった。ラジオ出る?』
「それも、いいかもな」
『来るときは教えないでね。大変なことになりそうだから』
「すまん。苦労かける」
そんなことあるのか。俺は突然息子の学校に乱入することになるのか。ただの不審者じゃないか。
「コウジ、なんて?」
アイルが聞いてきた。
「学校に来るときは教えないでくれって。俺は不審者として学校に乱入するしかないらしい。生きにくいなぁ。息子の学校だぞ」
ベルサが笑い転げている。
「あんまり息子に迷惑かけるなよ」
「生まれたところが悪かったな」
「はぁ~、やっぱりミリアはいい育て方しているね。仕事しよう」
俺たちはエルフの難民がいるダンジョンへと向かった。