『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』50話「蓄魔器の会社の件」
駅伝の選手選考会当日。俺とウインクはラジオ局で音楽を流しながら、空を見上げていた。
「なんか、心細いというか居心地が悪いというか、ミストとグイルがいないだけでこんなにラジオ局が広く感じるかね」
「いやぁ、本当、二人だけって寂しいね。やっぱり四人でラジオ局なんだよ。コウジも私も、なんか頼りないんだね」
「それは、ある! というか、ミストとグイルの頼りがいがすごいんだよ」
「確かにまじめだよね。宿題もとっとと済ませて、ラジオの仕事もてきぱきやるでしょ。タスク管理が上手いんだよね。私たちって勢いに任せてどうにかなれって思う時あるでしょ?」
「ある! 俺なんかほぼそれだよ。勢いと思い付きで行動しているよな」
「そういうバランスでラジオ局は成り立ってたんだね」
「「はぁ~」」
俺たち二人は自分のことじゃないのに、ミストとグイルが選手として合格するのかどうか心配して、落ち着かない気持ちでいた。
「落ちていたら、次頑張ればいいし、受かっていたら全力でサポートするだけだ」
「そうなんだけどね。学生たちも結構受けに行っているでしょ?」
「うん。各国で選考会はやっているから、学生が少ないよな」
「授業も休講が多いし……。これ学生が駅伝の選手として全員受かっちゃったら文化祭が寂しくならない?」
「ああ、選手になったら文化祭どころじゃなくて国の代表ってことか……。でも結局開催地はアリスフェイなわけだから、戻っては来るんじゃない?」
「お、おい。二人とも大丈夫か?」
振り返ると、ゲンローがドアの前に立っていた。いつの間に入ってきたのか。
「なんだかミストとグイルがいないんで気が抜けちゃってるんですよね」
「気持ちはわかる。鍛冶場からも数人選考会に行っているからな。気が気じゃないって感じだろ?」
「そうですね。気もそぞろなんですけど、単純に寒いし動きたくないっていうのもあるかもしれません」
「文化祭に身が入らないというか……。心ここにあらずというか……」
「元気にラジオを放送してくれないと、文化祭だって盛り上がらないだろ?」
「いや、そうですよね! やらないといけないことはわかってるんですよ。でも……」
「ミストとグイルの緊張を共有してるのに、自分ではどうすることもできないということだろう? 4人は授業以外ずっと一緒にいるからな。それはわかる。でも、彼らは自分のやるべきことをやっているというのに、コウジとウインクが何もしてなかったら、どうだ?」
「ああ、それはヤバいですよ」
「ミストに合わす顔がない」
「グイルの代わりに商品紹介しないとな」
「ラジオショップの在庫管理もだよ」
「ああ、本当だ。あの二人、仕事のし過ぎなんだよ」
「コウジが増やしてるんでしょ」
結局、俺たちは選考会に行っている二人がやっていた仕事を引き受けた。
まずは図書室に行って、ミストがやっていたネタ出し作業と裏取りだ。俺が台本を書いているが、ネタはミストが一番出してくれる。学術系のものから、地方の変わった風習まで出してくれるが、ほとんど図書室で見つけた本からだという。
「お、珍しいね」
図書室では、机の上に積まれた本の横でマジコさんが本を読みながら、ノートを付けていた。
「自習中ですか?」
「いや、駅伝に出るから魔力関連の本をね」
「あれ? 選考会は?」
「私は別口で選手登録されている」
魔族領だと選考基準が違うのか。
「もう、決まってるんですか?」
「うん。魔道具への理解度を考えると、他にいないって手紙が送られてきた。そもそもウタが選考委員長だしね」
幼馴染特権だろうか。いや、普通に実力か。
「レベル50以下ですよ?」
「これ以上上げないように頑張る。それより、ラジオ局のミストって子、ヤバいね。後ろの棚二つにある本、ほぼ読んでるよ。貸出票がほぼ埋まってる。そりゃラジオ面白いわ」
二年目にしてミストは図書室のヌシになっていたようだ。
「この前、コウジのお父さんが索引の魔道具を作ってくれって言ってたでしょ? 一番ミストが理解してくれそうだわ。協力してくれないかな?」
「それは本人に聞いてください。普段ならラジオ局にいますよ。というか、親父の願望は叶えなくていいですからね」
「親の心子知らず? 索引ができる魔道具ってことはそれだけ本が増えるってことでしょ? 世界規模で人類の知識が底上げされるってことよ。今までなかった仕事もできる。学者の研究の幅も広がるし、専門性も高くなる」
「でも、そんなことになったら学力の格差ができませんか?」
ウインクがマジコに聞いた。
「そうね。でも、今だって都会と地方では格差があるわ。だから、索引が必要なの。田舎に住みながら、自分の興味のあることもすぐに調べられるようになるかもしれない。すぐに効果が現れるとは私も思わないけれど、今まで十年修行しないといけなかったことが、正しいルートを使えば三ヶ月で習得できるかもしれない」
「世界中にチャンスが生まれるってことですか?」
「そういうこと。冒険者になるか山賊になるかしかなかった人たちに全く別の可能性も出てくる。今は奴隷でも、自分の才能に気づく人が出てくるかもしれない。知識さえあれば、先人の知恵さえあれば、古代の失敗談を聞けば、無理と言われたことも不可能だと思われていたことも、全く違うように見えてくる。だって魔族と人間が手を握れる世界よ。索引の魔道具はその手助けになりえる。コウジのお父さんは本当にこの世界にとって異質だわ」
「近づくと普通ですけどね。ウインク、本を片付けながらネタ出しをやっていこう」
「いいね。ページ数を決めてワードだけ拾っていこうか」
「変なゲームを思いつくなぁ」
俺たちは世界を変えそうな魔道具屋を放っておいて、ミストがやっていた仕事を自分たちなりにやっていく。歴史的な事実から、空想の産物まで裏を取っていった。
「私たちが慣れてないからかと思ったけど、これ普通にやっていても時間がかかるでしょ?」
「うん。ただただ、世界各国の文化に触れていくね。アリスフェイはやっぱり多いけれど」
「確かに。こういう民族衣装がある場所を駅伝でも通るんでしょ?」
「それは言えないんだけど、でも正月だからね。どこかで文化交流があるといいよな」
「あ、そうか。言えないことがあるって大変でしょ?」
「変なストレスがあるね。駅伝が終わった後に打ち上げしようぜ」
「いいね。やろう」
ジルたちの授業が終わって番組を始めたので、台本の準備だけしてラジオショップに向かった。俺もウインクも取っている授業の先生が駅伝の選考会に行っていて、休講となっている。
ラジオショップには花屋の店主やお茶屋の行商人が来ていた。
「熟成した茶葉ができたんだ。よかったら飲んでみてくれ」
「ありがとうございます。ラジオで宣伝しましょうか?」
「あ、いいのかい? 王都に来ればラジオで紹介してくれるって言ってたけど本当だったんだな」
「本当ですよ。毎日宣伝するわけじゃないですけど、一番組に銀貨1枚からスポンサーを募集してます。茶葉を少し頂ければ、宣伝はしますよ」
「わかった。置いておくよ」
「あ、これ美味しい。多めに置いておいてください。買いますから」
ウインクは即決していた。
「ラジオ局員が買って、ちゃんと香りがよかったって言った方が宣伝になりますから」
ちゃんと代金を支払っていた。
行商人は「じゃあ頼むわ!」と言って、広場へと向かっていた。
「グイルも言ってたけど、無料で仕事を受けない方が信用されるよ」
「ああ、そうか。忘れてた」
「学生だとお金の付き合い方は難しいよね」
そう言って花屋の店主がお茶を入れてくれた。
「お金を使って人を動かすって難しいです。お金で頼んでいるだけですし」
「その通りだよ。突然人はいなくなるからね。従業員が何を思って仕事をしているなんてわからないから、せめて経営者はお金を払って信用を買ってるんだよ」
「じゃあ、信用が高い人にはたくさんお金を上げればいいんですね?」
「そうだよ」
「じゃあ、蓄魔器の売り上げは4人で山分けだ」
「ちょっと待ってよ。裁縫屋の小娘に大金渡したって使えないよ」
ウインクは自分のことを裁縫屋の小娘と思っているのか。
「店を買う? 会社を作る? それとも船でも買って世界を回る?」
「どれも考えるのが面倒だわ。買ってからが大変でしょ?」
「やりたいことをやったほうがいいよ」
「それはわかっているけど、それを見つけるために総合学校にいるのよ。急に大金が出るって言われちゃうとね……。でも、どうせ駅伝の開催費用でかなり飛んでいくでしょ?」
「うん。いくら残るかわからない。借金するかもしれない。でも量産体制が取れれば、借金は……」
「すぐ返せるのね。ん~……」
「あんたたち、すごいね。自分の欲望を叶えたいとかないの? 有名になりたいとか、お金持ちになりたいとか、大きな家に住みたいとか。普通はそういうものにお金を使うんじゃない?」
花屋の店主が俺たちに感心していた。
「ああ、それはないです。去年からコウジがお金の使い方で苦労してたのを見ていたので。だから、このラジオショップがあるんですけどね。本当はラジオだってもっと稼げるはずなんですよ。でも、使う場所がない。使う物がない。お金は生活で使う分はやっぱり必要です。でも、それ以外は本当に……」
ウインクは裁縫道具や布にちゃんとお金をかけるようになった。ラジオで少ないながらも給料を渡しているからだ。それでも余っていく。ミストは本にお金をかけているし、今回、選考会に行くのに竜の乗合馬車を使っているが、代金を自分で払っていた。
グイルは「面白いし、勉強になっているから」とラジオ局の給料を受け取ろうとしていないが、必要経費の金額はしっかり記録してあるし、仕事を休むということもない。ラジオの放送では「安い給料で働かせて」と言っている。俺はそれを聞くと、毎回一瞬黙ってしまう。本音と建前がある。
「だから新規事業にお金を回さないといけなくなるんだろうね」
「でも、そういうお店が増えたら、ラジオの商業ギルドみたいにならない?」
花屋の店主はラジオによる資金出資で店同士のコミュニティができるんじゃないかと危惧しているようだ。
「そうなんですよ。でも、そんなことをしたら今あるギルドや国の税制と戦うことになりそうで止めてます」
ラジオ局をグループ化するにはセスさんくらい責任感がないと難しいだろうし、コムロカンパニーのように後々までアフターサービスをすることになってしまう。国に目を付けられて、自由にラジオを放送できなくなる方が面倒だ。
「どうやって戦争を止めるか……。やっぱりそこに繋がっていくのかぁ」
親父が言っていたのはこういうことなのだろうか。迷いながら俺たちは進んでいくしかない。
「駅伝でグイルやミストの国に肩入れしちゃいそうで怖いよ」
「そうだよな。他の国の選手も知ると薄れるかもしれない」
「ロケ班というか記者を他国に派遣できたらいいんだけどな」
「ああ、そうしてくれると嬉しいな。お金の使い方はもうちょっとラジオ局で人を雇うしかないんじゃない?」
「フリーの記者がいればいいんだけど……」
「冒険者か傭兵に頼めばいいじゃない」
花屋の店主はナイスアイディアを言っていた。
「ああ、そうしよう! 無理な調査はしなくていいから、わかっていることだけでも選手の情報を知っていると実況も変わるよな」
「そうだね。私、ちょっと冒険者ギルドに行って依頼を出してくるわ。遠くの依頼も出せるよね?」
「たぶん、冒険者ギルドは繋がっているから出せるはずだよ」
「了解。ちょっと店番お願いね」
ウインクが財布袋を持って、飛び出していった。
「ああやってすぐに動ける人って少ないからね。大事にするんだよ」
「ええ。俺は人に恵まれていますよ」
その後、学生が作った商品の在庫の確認をして帳簿を付け、いくらの売り上げがあったのか商品ごとに報告書を作っていく。もしかしたらラジオショップだから売れなかった可能性もあるので、「屋台になるとわかりません」と注意書きも添えておく。
「最近、ラジオショップに来てなかったですけど、結構、売れるんですね」
「ああ、保存食はこの時期売れるのよ。冬になると料理も変わらなくなるでしょ。味付けを変えたいのよね。あと、洗濯樽がどこ行っても欲しいって。冬の洗濯は冷たくてね。魔道具学の学生にもうちょっと作れないか聞いてみてほしい」
「わかりました。やっぱり武器よりも生活で使う物の方が売れますね」
「そりゃそうよ。魔物や山賊の相手をしている人よりも、生活をしている人の方が多いんだから」
「確かに。この時期になると売れる商品とかあります?」
「ん~、奴隷は増えるよ。収穫時期が終わるとね。どうしても人が余るから。蓄魔器の大量生産をするなら奴隷商を見に行ってみれば?」
人手はいつだって足りない。
「パレードの看板の息子ですよ。勘当されませんか?」
「雇用を増やして奴隷の解放をすればいいんじゃないの? そもそも学校で作るんじゃなくて、工場をちゃんと作ったほうがいいよ」
「それはそうですね。別に王都の中に作る必要はないし……。竜の駅近くに作るか……。だったらグループ会社にした方がいいんだよなぁ……」
「アリスフェイで会社を作ると税金の計算が大変だよ」
「それはこの前、学校の職員さんたちにも言われました。どうすればいいんだ……?」
俺は頭を抱えた。
「いや、専門家が親なら、親に聞いてみればいいじゃない?」
「ああ、本当だ。そうしよう」
二階に行ってメモ帳を取り出し、母さんに連絡。すぐに出てくれた。
『珍しいね。どうした?』
「いや、収穫時期が終わって奴隷が増えるって聞いてさ。で、ちょうど今、蓄魔器の大量生産をしようとしているからその奴隷たちを雇えないかと思ってさ」
『ん~、それはちょっと簡単に考えすぎてない?』
「いや、その通りなんだよね。奴隷を買って雇うにしても、生活にかかる寝具、食べ物、生活雑貨は必要だし、そもそも住む場所だって必要でしょ? しかも周りの大人に聞くと、アリスポートやアリスフェイで会社を作ると税金が高くなるからやめておけって言われるんだ。どうすればいいかと思って」
『ああ、なるほどね。えっと、まずね。奴隷の雇用機会を作ろうとしているのはいいことよね? ただ、蓄魔器の生産が終わるとこの奴隷たちの役割って終わっちゃうじゃない? そうするとまた奴隷たちは居場所がなくなっちゃうのよ。だから、もし蓄魔器の工場を作るとしても、別の仕事も一緒に走らせないとまた職なしの奴隷になっちゃうわけ』
「そうだよね。で、蓄魔器の売り上げで、学校の職員がやりたい店や会社の起業の金銭的な手伝いをしようとしているんだ。その店の商品の食料品や雑貨なんかの店も工場が買い取れば、定期的な収入にもつながるでしょ」
『確かにそうなんだけど……、それって』
「商人ギルドになっちゃうよね? もちろん、俺はどの国の商人ギルドとも戦いたくないわけで、どうすりゃいいんだろうって感じなんだよ」
『まぁ、商売の競争は正しいから、直接的な暴力でなければお客さんがどっちを選ぶのかって話だから、何をしてもいいんだよ。でも、確かにね。争ってもしょうがないっていうか、まぁ、国としては放っておかないでしょうけど……。ラジオ局というか蓄魔器を開発した会社だから、信用もあるしねぇ。困ったなぁ。人間の学校に通い始めて、二年でコウジがこんなに稼ぐと私も思ってないからさ。ちょっと父さんにも連絡してみて』
「わかった」
俺は母さんとの通話を切り、親父に連絡してみた。今の現状も話して、工場をどこに置けばいいのか、学生たちが蓄魔器のエンジニアになる道も用意できるけれど、ずっと学生たちに頼るわけにもいかないということも説明した。で、収穫時期を終えた奴隷も増えているなどの王都の状況も言っておいた。
『ああ、確かに今は難しい決断なのか。えーっとどこまで話せばいいんだろうな? まずコウジは蓄魔器に人生をかけるつもりか?』
親父にそう聞かれて、意味が全く分からなかった。蓄魔器に人生をかける? どういうことだ? 蓄魔器の工場の話をしていたら人生を問われる経験はあるだろうか。俺は初めての経験だ。
「……いや、ないよ」
『だろ? じゃあ、どこでもいいから会社を作ってみな。工場とはまた別で』
「へ? どういうこと?」
『あぁ、ちょっと待ってな。セス、ちょっといいか。コウジが蓄魔器の工場を作りたくて、奴隷を買って雇うつもりみたいなんだけど、この先の予定はどこまで話していいんだっけ?』
『ああ、もしもしコウジ?』
通信袋の向こうで、親父からセスさんに代わった。
「会社を作ると俺の人生に関わるんですか?」
『関わるんだけど、その前に会社って作ると、売ったり買ったりできるのは知ってるか? ラジオショップを買うみたいに会社は売買できるのね』
「ああ、はいはい。わかりますよ」
『そうすると、コウジは別にラジオ局をやっているから、蓄魔器生産に注力できなくなって会社が潰れそうになるのよ。そうすると「買収するよ」って言ってくれる人たちが出てくるんだ』
「はい。なるほど、その中から俺が選べばいいんですね?」
『で、おそらくその中で一番、高値を付けてくれて最も蓄魔器生産に乗り気なのが、魔族領のはずなんだよ』
「ああ! 国が買い取ってくれるってことですか?」
『そう。そもそも魔石の生産でも売り上げを上げているから、魔族領にはノウハウが蓄積されているんだ。魔族にとっても蓄魔器は、採掘しなくていい魔石と違って悲願だろうし』
「ああ、そうなんですね」
『しかも、コウジはボウさんとも知り合いだろ?』
「はい」
『結局、どの国で会社を作ってもいずれ魔族領が買い取ることになる、というのが俺たちコムロカンパニーの予想なんだ。だからどれだけ借金しようが、人を雇おうが、奴隷を買おうが、丸ごと魔族領が買い取ると思うよ。だから思い切って失敗するのもいい。ただ、商人ギルドを作ると買い取る方も面倒くさくなるから』
「ああ、手続きが多くなるってことですか?」
『そういうこと。会社は作っていいんだけど、商人ギルドを作るのは蓄魔器の会社を売った金で作ってくれるかい?』
「わかりました。え? 俺って、商人ギルドを作る予定なんですか?」
『いや、それは商人ギルドという名前じゃないかもしれないけど、何らかのグループにはなると思うよ。コウジ、思っている以上に人間が好きだろ?』
そう言われると、そうかもしれない。
『大丈夫だ。人間、好きな方向に傾いていくから』
これは、親父の声だった。
「わかった。とりあえず、ラジオ局のメンバーとも、もう一回話してみるよ」
『うん。自分だけで決めるなよ。あとで揉めるからな』
「はい」
俺が階段を下りていくと、ウインクがちょうど冒険者ギルドから帰ってきたところだった。
「行ってきたよー。できるだけ情報を集めてくれるって」
「よかった。実は蓄魔器の会社について話があってさ。後で話すわ」
「じゃ、私は帰るよ」
空気を読んで花屋の店主は帰っていった。
魔族領に蓄魔器の会社が買われる話をしたら、ウインクは目を見開いて驚いていたが、妙に納得していた。
「そりゃ、そうか……」
その日の深夜。ミストから選考会で合格したと連絡が来て、翌々日にはグイルも選手になったと報告が来た。




