『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』47話「天才の条件」
ラジオで、「蓄魔器の会社を作った方がいいのか、ラジオショップで行くのか、ちょっとわからなくなっているので学生含め学校職員の方々から意見を募集します」と呼び掛けてみたところ食堂に呼び出され、ほぼ全職員に取り囲まれた。学生はいない。ラジオにも出てもらっているので、全員顔見知りだ。
「蓄魔器の企業を起業する話だろ? アリスフェイで作ると税金をバカみたいに持って行かれるからやめておけ」
「いいかい? 社長を決めたりするんだよね? 今すぐシャングリラに行って借金をしてお金でも約束手形でもいい。それを役員報酬にするんだよ。借金に税金はかからないからね」
掃除をしている用務員のおじさんから料理人のおばさんまでいろいろと教えてくれる。
「僕としてはアリスフェイに会社を作ってほしいんだけどな……」
校長が食堂の扉を開けて入ってこようとした。
「校長の話は聞かなくていいわ」
事務局の人が、校長を追い出して扉を閉めていた。そういうこともあるのか。
「事務方として言っておくけど、蓄魔器の企業なんて作った瞬間に多国籍を相手にする企業になるわけでしょ。どこの国に売るにしても関税というのがあるし、面倒な手続きがたくさんあるわけ。それぞれ違う法律があるからね。それに対応する職員を探すことの方が売るよりも大変なのよ」
「それを私たちは物凄く心配していたのだけれど、駅伝が開催中に売るなら、関税なんかの事務処理も全部、買う側からやってくれるから、そっちの方がいい。だからポイント制みたいにした方がいいかもよ」
「なるほどポイントの量によって、売る蓄魔器の量も変えればいいってことですね。順位はあくまでもボーナスみたいなもので」
「そうそう。そういう方がいいと思うよ」
「で、どこで起業したらいいんですかね?」
「ん~……、コムロカンパニーの人に聞くのが一番いいんだ。どうせどこに作っても角は立つ」
蓄魔器を売り儲かれば、所得にそれだけ税金がかかってくる。
「稼いだお金を使えば、税金は減りますか?」
「「「減る!」」」
全員一斉に答えてくれた。
「人件費にお金をかけた方がいいし、設備投資や新規事業へ利益を回した方がいいということですね?」
「そういうことだよ。もちろん、新規事業をやるなら、王都にいる大人たちが狙ってくる。もちろん私たちも含めてね。皆、自分の店が欲しいのさ。でも、中には詐欺師もいるから気を付けないといけない。それにこの学校には貴族の子息たちもいるだろ? 新規事業になんでもかんでもお金を出していたら、すぐになくなるし貴族同士の争いになりかねないってわけ」
「なるほど、よくわかりました。だから、皆さん、心配してくれたんですね。先に言っておきますけど、小さい商品や大量に生産しなくてもいいようなものであれば、ラジオショップの棚はいつでも貸しますから言ってくださいね。店を出す前に、お客さんの反応も見れますから。あと、広場に出す屋台を一つ出しましょうか。料理によっては掃除が大変なものもあると思うんですけど屋台ならコンパクトだし掃除はしやすく、お客さんの反応も目で見てわかるじゃないですか。それに役所に申請すれば、そこまで難しくなさそうですし」
「わぁ、屋台を出してくれるならありがたいわ。別に料理だけじゃなくて、料理道具やアクセサリーなんかもうれるってことだよね?」
「そうです。現時点でも、それくらいなら出せそうなんで」
「でも、いいの? コウジくんは後期の学生の授業料も払っているのよ。その上、学校職員の新規事業にも資金を出してくれるってことなのよ?」
「ああ、それだと皆さんが俺に気を使いますか? そこら辺は分けて考えませんか。授業に出てないから単位が取れないのは俺の責任だし、事業が上手くいかないのは市場調査も含めて提案者の責任じゃないですか。普段の生活と仕事を分ければいい。俺は普段、学生として授業を受けてますけど、ダンジョン学では助手ですし、仕事は仕事としてこなしますよ」
「まぁ、それも条件に入れればいいのよ。コウジくんはオーナーではあるけど、商売には口を出さないってことでしょ?」
料理長のエリザベスさんが、そう言って笑っていた。すでに新規事業を考えているかもしれない。
「そういうことです。エリザベスさんはすでに考えてるんですか?」
「うん。冬に食べる氷菓子って出来ないかと思ってね。外は寒いけど家の中は温かいでしょ? これからヒートボックスやヒーターボードなんかの魔道具が広がれば、表面を溶かしながら食べる氷菓子があったら面白いんじゃないかと思ってね」
「それは流行りそう……!」
大人のアイディアはちゃんとひねってくるところがすごい。しかも、蓄魔器が広がった後のことも考えている。
「あ、そうだ。蓄魔器の生産は学生に頼むのよね?」
事務局のお姉さんが聞いてきた。
「そのつもりですよ」
「だったら、収穫時期になると田舎に帰らないといけない学生もいるから、作り方を教えるなら早めにね」
「あ、そうか! でもアイディアを盗まれたり……」
「「「「しないよ!」」」」
「アイディアを盗んでも、そう簡単に蓄魔器を使う人が増えるわけじゃないだろ? 竜の駅だってあるし、冒険者たちが同じ大きさの魔石を大量に持ってきたら、すぐにバレる。それに魔道具だって、皆が皆、使っているわけじゃないんだから」
「エディバラの魔道具師たちは、年始に向けて商品開発をしているってアーリム先生も言っていたぞ」
「なるほど。商売はタイミングですか」
「そう。商売をやるなら誠実さとタイミングさ。どれだけ不良品を作っても、修理しに来た人が誠実であればまた買ってくれるんだ」
「田舎で商売に失敗した奴は言うことが違うなぁ」
庭師の中には元商人もいるらしい。失敗した本人は苦笑いをしていた。
「コウジくんよ。あんまり簡単に名義を貸すんじゃないぞ。尻ぬぐいが大変だからな」
「わかりました」
先人の言うことは聞くことにしよう。成功した人たちは運がよかったというけど、失敗した人はちゃんと原因を知っているからだ。
蓄魔器の仕組みを教えれば俺の名前を使って悪いことをする者もいるかもしれない。もちろん、蓄魔器の製作が得意な学生もいれば下手な学生もいるだろう。器用さは違う。ただ、蓄魔器さえ覚えておけば魔道具の仕組みも理解できるし、修復作業で食べていけるだけの技術は身につけておいてもらいたい。
まだ、武術系の学生や回復系の学生の中には、魔道具への不信感を持っている者も多い。事故が多くて、扱いも簡単なだけに危険だからだろう。
実際に火が出るような魔道具は危ない。だけど、ちゃんと使い方を知ることも大事だ。刃物は食材を切るのには便利だが、人に向ければ強盗になる。誰もが安心できるということはないにしろ、事故が起こらないように知ることは大事なんじゃないか。
俺は頭の中で学生たちに興味を持ってもらうための文言をどうしようかと考えながら、ラジオ局へと向かった。
「そんな……、この学校にいて魔道具に興味のない学生なんているの?」
ウインクは想定していなかったらしい。
「俺は生まれた時から親父が使ってたから、特別に気にするような物でもなかったんだけど、普通の家庭に魔道具なんて馴染みがないんじゃないか?」
「確かにな。それこそ、田舎だと本当にここ数年だと思うぞ。冒険者でもないと使い道があんまりないし、そもそも高いだろ?」
「ああ、そうか。そうよね」
ミストもあまり気にしていなかったようだ。
「死者の国は、ほらエディバラとの付き合いもあるし、北極大陸の基地やダンジョンも近いから、意外と触れてきたのよ。それこそコムロカンパニーとの関わりもあるからね。暖房器具も含めて魔力の大事さは生活の中で学んでたんだって、グイルに言われて今気づいたわ。ウインクは?」
「私も師匠が使ってるからね。注文から料理から、だいたい魔道具を使っていたよ。でも、魔力を使わない技術の方が重要だって言われてたかな」
「いや、俺だって別に触れて来てないってわけじゃないんだぜ。商品として扱うことだってあったし、もしかしたら家にあったっていう貴族の学生もいるだろう。でも、そうじゃない学生もいるし、ここは総合学院だから誰もが魔法使いってわけじゃない。だろ?」
「グイルの言っていることはわかるよ。だからこそ、きっとそういう人たちにも売らないと広がっていかないと思うんだよ。気づかぬうちにできている格差が、何年後かに大きくなっているような気がしてさ。歴史の授業でもエルフとダークエルフの話を聞いたし、冒険者たちは相変わらずランクで分けられている。知らない、わからないから魔族は長い間差別されてきた。俺はこの学校で多くのことを学んだから、馴染みがない、わからない学生にこそ、蓄魔器に触れてほしいんだ」
「そうね。そういう願いで人間の社会って成り立っていると思う」
「やろう。魔道具に触れてこなかった学生たちもチャンスだよ。コースやルート決めには参加できないけど、蓄魔器そのものには私たちも参加できるんでしょ?」
「そうだな。もしかしたら急に魔道具を使う天才が生まれるかもしれないしな」
グイルは可能性の話をしていたが、俺にはすでに頭に浮かんでいる人物がいた。
「……なんか、ヤバいことを言っちまったか?」
真顔になっている俺をグイルが覗いてきた。
「いや、ごめん。天才は何人もあってるからさ。この学校ならその可能性は大いにあるなと思ってさ」
「もちろん魔道具に関して、アーリム先生は天才だぞ」
「そうじゃないわ。コウジの頭に浮かんでいるのはマジコさんじゃない?」
「ミスト、俺がいない間にあの人何かやらかさなかった?」
「たぶん、やらかしている。自分で言ってたから。この前、図書館でシンメモリーズについての死霊術を教えたら青ざめて、『もし自分が死んだら生き返らせてね』って言ってたから」
「今、どこにいるかわかる?」
「うん。鍛冶場かダンジョンだと思う。そこにいなかったら、死んでるって」
「今日の放送は……」
「大丈夫だ! 蓄魔器について呼び掛けておく」
「説明会は地方の収穫祭の前でいいんでしょ?」
「ああ、頼む」
「時間がないよ」
「試作品を作ってもらうってことでいいんだな?」
「いいよ。レビィさんとマフシュさんに連絡してくれる?」
「了解」
計画は動き出しているのに、俺はマジコを探さずにはいられなかった。目まぐるしく変わる現実に俺の頭が追い付いていないだけかもしれない。
鍛冶場に行くとゲンローたち鍛冶師たちが蓄魔器用の銅板を叩いていた。マジコの姿はない。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ。結局、会社は作ることにしたのか?」
「ええ、たぶん。今夜、セスさんに連絡を取ってみようと思います。それより、最近マジコさんを見ませんでした?」
「見たよ。コウジがいない間に、『宝箱を作ってくれ』っていうから、6個くらい作って渡した。また、魔石の実験でもするつもりなのか?」
「いや、それは俺にもわかりません。今はダンジョンにいるんですかね?」
「ああ、そうじゃないか。罠もいくつか持って行ったぞ」
「わかりました。ありがとうございます!」
俺は全速力でダンジョンへと向かった。嫌な予感がする。
「お、コウジ。ようやく帰ってきてくれたみたいだな。マジコ姉さんをどうにかしてくれ」
リュージが困ったようにダンジョンの前で座り込んでいた。
「何があった?」
「寝床を取られちまったよ。魔物を出してくれってマルケス先生に頼み込んでさ」
マルケスさんも俺と一緒に駅伝のコースの下見に行っていたから、よくわかっていないだろう。
「とにかく上級者向けダンジョンにいるんだな?」
「ああ、俺が見た時は暴れていた。気を付けろよ」
「わかった」
俺は上級者向けダンジョンのリュージの寝室まで急いだ。
「マジコさーん!」
藁や枯れ枝が敷き詰められたリュージの寝室には、火吹きトカゲと溶岩蛙と言われる樽のように大きな蛙の魔物がミミックの群れに襲われていた。
「あ、コウジ」
いつの間にか背後には天井からぶら下がったマジコさんがいた。魔物同士の戦いを見ていたのだろう。
「何をやってるんですか!?」
「そこから動かないようにね。邪魔されないように罠を仕掛けてあるから」
注意深く見ると、確かにアラクネの糸が張り巡らされている。止められていなかったら毒矢が飛んでくるところだった。マジコと一緒に丁寧に罠を回収して、魔物たちの戦いを見守った。
「あ、ようやく終わる」
マジコがそう言った次の瞬間、ミミックが炎ごと魔物の群れを食べてしまった。ダンジョンの魔物なので血も噴出さずに後にはドロップアイテムが落ちているだけ。リアリティを大事にしているマルケスさんが出した魔物だと考えると珍しい。
6体のミミックは嬉しそうに飛び跳ねながら、マジコに向かってくる。マジコも両手を広げてミミックたちを受け止めようとしていた。
だが、ミミックたちはマジコの足元まで来ると、煙のような魔力を吐き出して動きを止めた。
「え? どういうことですか?」
「これが私の運命だよ。ウタが考古学に人生を捧げる覚悟をしたように、私もこれに人生を賭けてみる」
「これってなんです?」
「私たちって、今まで自分の人生を豊かにするスキルを探してきたじゃない? ようやく見つけたわ。魔物の発生原因を探る研究」
「じゃあ、ミミックはマジコさんが?」
「そう。死霊術で私の魔力からシンメモリーズを吐き出して宝箱を満たし、自分の身体から出てくる魔石を入れたら、ちょうどよく魔物を発生させることができたわ。もちろん制限時間はあるけれど、ダンジョンの魔物とも戦えるし、レベルだって上がる。あとはどうやって寿命を延ばすかということだけ……」
「つまり、マジコさんはどんな無機物でも物質系の魔物にできる能力を手に入れたってことですか?」
「いくつかの条件と、魔族特有の魔力が関係しているのかもしれないけれどね」
「それって魔族の村ごと作れるってことじゃないですか?」
「そうかもしれない……。でも、ダンジョンマスターはずっとやってきたことでしょ?」
『できないよ。魔物のリアリティは追い求めても、あくまでもダンジョンの中だけだ』
ダンジョンマスターのマルケスさんの声が響いた。
「この学校じゃ、ゴーレムを連れた学生だっているし、森の精霊を従えるエルフもいるじゃない? 単純な組み合わせをしただけよ。でも、それが個人的には重要だったの」
「マルケスさん、これは結構ヤバいんじゃないですか?」
俺は天井に向けて言った。
「ヤバいよ。命を生み出しているからね」
天井の鍾乳石が開いて、マルケスさんが飛び降りてきた。
「マジコちゃん、その能力ってそれほど難しくはないと思ってないか?」
「思ってますよ。それぞれそれほどスキルレベルは要りませんから」
「レベルはそれほど高くないだろう?」
「40半ばで止まってますね。コウジやウタみたいに野生児のまま育ったわけじゃないし、呪いもあったからできるだけレベルを伸ばすのは止めてます」
見た目はゴブリンのようなマジコだが、身体にできる魔石の位置が安定せずに困っていた。
「コウジ、これが天才だ。自分の才能と知識、環境をすべて使い、今の常識を飛び越えていくんだ。そこにレベルはほとんど関係がない」
「そう言われると悪い気はしないですね」
「すげぇ……。マジコさん、命を吹き込んだ魔物ってどれくらい性格を付け加えられるんですか?」
「性格や人格みたいな個性は、たぶん土地の記憶に関係しているね。どこでシンメモリーズを発生させるのかとか、あとは物体を作った鍛冶師たちとかの影響が色濃いわ。ゲンローくんみたいによく笑って、リュージくんみたいに真面目だけど好奇心旺盛なミミックたちだったよ」
「それって自分の身体から出た魔石だから、性格までわかるって感じなのかい?」
「それもあるかもしれないですけど、初級でもいいから使役スキルを持っていれば誰でもわかるんじゃないですか?」
「いや、そこまでは詳しく見てなかったな」
孤島のダンジョンでは魔物の扱いは酷い。情を持ちすぎると消しにくくなるからだろう。
「まぁ、無機物に命を与えたところで、物を運ぶのが楽になったり、連絡を取る手段が増えるくらいでしょ?」
「いやいや、魔道具に命を与えたら、だいたいの物は自動になりますよ。洗濯樽も洗濯物を入れるだけで洗濯してくれるようになるでしょうし、料理だって死んだ婆さんの手料理だって再現できるようになります。馬車は勝手について来てくれるようになるし、印刷も機織りも一日中働かせることだって可能です。そもそも蓄魔器自体を飛ばせるようにしてしまえばいいんです」
「なんか幼い頃に夢見た魔女の生活みたいね」
「その通りです。生活のすべてで魔力を使うようになっていきます。本当、すごいなぁ。俺なんか、ただ蓄魔器を開発しただけだ」
「いや、コウジだって十分すごいんだ。幼馴染の魔族が天才だったというだけさ」
「マジコさん、駅伝は出るんですか?」
「うん。出ないつもりだったんだけど、大統領命令と、母さんたちが出ろって……」
俺とマルケスさんはお互いを見合わせた。
「魔族領に勝てるのか、これは?」
「運営側としてはハンデを付けた方がいいかもしれないですね」
「ええ? 一応、駅伝では存在感を出せって言われてるんだけど……?」
「無理にそんなもの意識しなくても出るから大丈夫だよ」
「いやぁ、まいったな……」
「そう? でも、もう止めても無駄よ。研究はするからね」
「ええ。誰も止められませんよ」
ダンジョンを出て、蓄魔器について学生に呼びかけているラジオを聞きながら、俺はセスさんに連絡を取った。
「すみません。蓄魔器の会社をどこに建てるのかの相談をしたかったんですけど……」
『おう。どこでもいいんじゃないか? 税金が安いところがいいと思うぞ』
「それどころじゃなくてですねぇ……」
俺はマジコさんの研究と魔道具の自動化について、説明した。
『なんだってぇえ!? ちょっと待ってくれ。それはベルサさんの領域だから連絡をしておく。あと、社長にも連絡を取ってみてくれるか』
「わかりました」
親父に連絡してすべて説明すると「うおっ!」と唸るように驚いていた。
『リープフロッグどころじゃないな。オーバーテクノロジーだ。今度、図書室で喋る魔道具を作ってみてくれ』
「しかもマジコさん、駅伝にも出るって言うんだ」
『それはいよいよ面白くなってきて、マズいな。あんまり面白くしすぎると邪神に目を付けられるかもしれない。不測の事態には気を付けてくれ』
「ええ!? 神々とは関わるなって言ってたじゃないか?」
『仕方ないだろ? 命を吹き込むなんて神々の領域だ。まさかそんな種族特性の呪いとスキルのバグがあるなんてな。誰にとっても想定外だ。わからないことは……?』
「怯えるな、崇めるな。よく見定めろ、か……」
『そういうことだ。健闘を祈る。いつでも応援はしているよ』
「……駅伝、できるのかな?」
俺がそう聞いたときには通信袋は切れていた。
秋の夜風が、吹き抜けていった。