47話
「これが我輩の知っている地図だ」
黒竜が、地図を渡してきた。
ボロボロの帆船の上である。
俺は、黒竜からゾンビ駆除の報酬を受け取っていた。
地図には、2つの大陸と、その間に複数の島々が丁寧に描かれていた。
そして、南の方には真っ直ぐな線が引かれ、その南に、ぼんやりと島の影が描かれている。
「これは?」
俺が黒竜に聞くと、
「我輩は南半球の生まれだ。ただ、幼き頃のため、あまり覚えていないのだ、すまん」
「南半球?やっぱりあるんですか?」
「無論、ある。神々の戦いによって消失したのか、精霊のイタズラか、およそ千年前から、行けなくなってしまったがな」
俺は勝手に、太陽と月と呼んでいるが、恒星や衛星があるのだから、世界が惑星であるのは当たり前だ。
それよりも、何故行けなくなったかのほうが重要だ。
「南半球に行こうとするとどうなるんですか?」
「押し返されるというか…行けない。いや、我輩も行ってみたことがあるが、いつの間にか北半球の方に戻ってきてしまっている、という感じだな」
「うーん…」
そんな不思議現象があるのか。
前の世界で「ぬりかべ」と言っていた妖怪に似ている気がするが、赤道すべてがぬりかべになってしまったということか。
大規模な魔法でもかけられているようだ。
空間魔法なら出来るのか?赤道すべてに?
「どんな神だよ」
「まさに神の所業だな。ま、その神に立ち向かう者たちが後を絶たないようだ。この船もそうだ」
船は立ち向かったであろう傷跡が無数についている。
船室に入ると、壁に『冒険者に冒険を』と書かれた羊皮紙が貼られていた。
船室には壺や食器などが床や机に散乱している。
別の部屋を覗くと、破れたハンモックが張られた部屋や、酒樽が詰まった部屋などがあったが、人の骨はなかった。
きっと、黒竜が気を使って片付けたのだろう。
帆を新しく張り直し、壊れた箇所を修復していけば、使えるようになるだろう。
「うん、いい船ですね」
「ならば、良かった」
「ただ、俺達3人だけで、この大きな帆船はうごかせませんし、船乗りでもないんで…」
「それなのだがな。水竜に近くの港町まで送らせるので、そこで船乗りを見つけてくれんか?」
「ああ、そうですね。そうします」
「すぐに出発するか?必要な物があれば、うちの屋敷からでもいいし、町の家からでも構わないから、持って行くといい」
「ええ。ありがとうございます」
屋敷に戻ると、アイルが騒いでいた。
「どうした?」
「見ろ!私の冒険者カードに称号が!」
アイルが自身の冒険者カードを見せてきた。
カードには『竜の守り人』と『剣王』と記載されていた。
レベルも58とかになっている。
先代の勇者を超えたんじゃないだろうか。
「あ、私もだ」
ベルサが自身の冒険者カードを見ている。
「ベルサも冒険者カード持ってたのか?」
「ああ、一応、船旅をするかもしれないと思って、マリナポートで取っておいたんだ」
ベルサのカードにも『竜の守り人』と記載されていた。
レベルは25と、そこそこだった。
「レベルも上がってる。マスマスカルを殺しすぎたかぁ」
ベルサは実験でマスマスカルを解剖するし、回復団子を仕掛けまくったので、ゾンビ化した魔物を倒したことになったのだろう。
「あ、俺にはない」
俺の冒険者カードには、特に称号は記載されてなかった。
レベルは95と、なんかヤバい。こいつは見せらんないな。
「我輩たちは、お主たちに感謝しているから、称号を得たのだろう。ナオキに称号がつかない理由はわからん」
「称号ってなんか得することとかあるんですか?」
「ステータスの成長速度が上がったりするのではなかったか?我輩はレベルが上がらなくなって久しいから、よくはわからんが」
黒竜が答える。
「数値に特定の補正がつくんだ。むぅ…鑑定スキルが欲しい!」
アイルは喜んでいる。
「なぜ、ナオキにつかなかったのかなぁ?」
ベルサの疑問に、俺は「異世界人」だからかな、と思った。
「まぁ、特に俺は要らないから。それより、船旅の準備だ!必要なもの揃えて、出発しよう!」
「了解!」
「OK!」
荷造りをして、俺達は船に乗り込んだ。
荷造りと言っても、アイテム袋に入れるだけなので、そんなに大変ではない。
必要そうなものを、かたっぱしから入れていくだけである。
あとはイヤダニが入ったビンを抱えて、船に持ち込んだ。
二人は「まだやってるよ」という目で見てきたが、まったく、ダニの重要性があの二人にはわかっていないんだ。
竜の娘さんたちに、菊のような花はないか聞いたが、白い眠り薬を作る時の花しかわからない、とのことだった。
島を丹念に調べたわけではないが、なさそうなので、この島では諦めることにした。
出港の時には、竜たちが見送ってくれた。
「早く乗るのよ。あーしが送ってあげる」
と、水竜が言っているのを、黒竜がたしなめていた。
「では、また、いつか会おう!しばらくは、ここにいるつもりだ。もしはぐれ竜がいたら、ここに連れてきてくれると助かる!」
「ああ、もちろんだ!我々は『竜の守り人』だからな!」
アイルが安請け合いしている。俺は知らんけどね。
水竜が竜の姿で、船の先端ロープを引き、ゆっくり出港した。
竜の娘さんたちと俺たち3人は、姿が見えなくなるまで、手を振っていた。
島が小さくなり、水竜ちゃんをガン無視して船室に向かう。
船室で、今日の寝床を作りながら、俺は我慢していたことを宣言した。
「すまない。ちょっといいか?最近、俺がちょっとおかしいことは気づいているだろうか?」
「いや、会った時からナオキはおかしいが」
アイルが言い、ベルサが同意するように首肯する。
「そうか。実はな。最近、いろんなことにムラムラしちゃって、しょうがないんだ。アイルの匂いでムラムラするとか、竜の娘さんたちの格好に目が行ったりしちゃうんだ」
「なんだ、そんなことか。しょうがない奴だな。男ってのは。まったく」
「生物のオスとして、当然のことだ。ナオキなら私も知らない仲でないし、吝かではない」
アイルとベルサはそう言いながら、服を脱ごうとした。
「待て待て!俺が吝かだ。今後、君らと付き合っていくうえで、そんなことはしたくない。いや、何が言いたいかというと、次の港町についたら、別行動をしよう。ちょっと俺は娼館行ってくるから」
「それを先に言えよ。まったく」
「なんだぁ、そうか。わかった」
窓の外に水竜ちゃんの目が現れた。
「あーしの話、聞いてる?」
「「「聞いてない」」」