『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』45話「秋の忙しない日」
「大変なことになってまいりました!」
ウインクの声がラジオから聞こえてくる。
国王の一声により、新年の駅伝は決まったものの、地方の貴族たちから「準備が間に合わない」という意見が王都に多数寄せられたらしい。
「道の補修作業が間に合わないらしい。でも、別にいいのだろう?」
「壊れた道でも別に駅伝はやりますよ。それを含めて選手は4人揃えるわけですから。石畳にする必要はないし、走りやすい方が選手たちにとっては楽だと思いますけど」
ラジオが放送している裏で、俺は図書室にて国王のお付きという人に駅伝の計画書について詰められていた。
アリスフェイの各地に行ったこともあるが、それほど危険な地域は少なかった。ただ、貴族たちにとっては、駅伝という新しい行事を理解できないようだ。
「他国に荒らされると考える領主たちが多くてな。サポートの人員もいるとなると、各地の宿代などから利益も得られると言ってはいるが、観光業に手を入れていない地域では宿にシーツもない有り様でな」
「少しこちらから補助金を出しましょうか」
「それが国王の一言で決まった事業だからな。領主たちにも面子がある。ただ国王が泊まるわけでもないから、どれくらいの用意をすればいいのかがわからんということさ」
「そもそも宿に泊まる選手は少ないかもしれません。四人一組のレースなので、急げば急ぐほど宿なんかに泊まっていられませんよ。もちろんサポートの人たちは宿に泊まるのかもしれませんが、王都にある安宿を基準にしていいんじゃないですか」
サポートも含めて国力を測るにはいいレースなのかもしれない。
「あとはコースを決めてほしいという要望が多いな」
「それは不正が多くなるので、直前で決めることになってます」
「計画書にも書いてあったな。ただ、そうなると魔物は元より山賊の襲撃みたいなリスクもあるってことになるが……」
「それもやはり四人でどう解決するのかが重要なんじゃないですかね。もちろん他国の選手たちと連携してもいいですし。戦争は反対していますが、共同戦線や交渉は禁止してません。行商人を一人入れるということはそういうことです」
「アグニスタ家が山賊掃討作戦を開始するそうなんだが……」
「それは俺の管轄じゃないので、なんとも……」
「学生ではあるが、冒険者ギルドの外部補助員なんだろ?」
「そうですね。冒険者としては登録できないって言われてるんで」
お付きの人は大きく息を吐いていた。
「せっかくだから何か魔道具を開発してはもらえないか。山賊捕縛のために」
「塔に行くといいです。魔女たちが日々魔道具の研究をしていますから」
「わかった」
俺からは何も出てこないことを覚ったお付きの人は図書室を出て、魔女の塔へと向かった。
許可は出たので夜のラジオで、新年明けの駅伝について放送した。
「この放送を聞いているラジオ関係者はぜひ録音して周辺国にも放送していただきたい」
火の国の砂漠、アペニールの農学校、エルフの国の大森林、果ては世界樹まで、駅伝の情報が広がっていった。アリスフェイからも録音放送で、何度も放送するつもりだ。
翌日、すごい量の問い合わせがあったらしいが、学校の事務局がパンク。俺はアグリッパと共に、冒険者ギルドに協力を要請することになった。
「どうして俺がコウジの尻ぬぐいをしないといけないんだよ」
「すみません。駅伝の受付も出来ないらしいので」
「今、来ている問い合わせはほとんど国の代表を騙った偽物だよ。本当に駅伝に参加するなら使者を送ってよこすに決まってるだろ?」
「確かに……。でも、南半球の国は来るだけでも大変ですし、やっぱり冒険者ギルドを通すのが一番間違いないんじゃないかと思うんですよ。各国にありますし」
「ルールブックを作って使者に持たせる方が楽なんじゃないか?」
「ああ、ルールブックですか。作らないといけませんね」
文句を言いながらもちゃんとアドバイスをくれるアグリッパは先輩として頼もしい。
そう思っていたら冒険者ギルドの周りには冒険者たちが異常に集まっていた。
「レべル50以下なら誰でも参加できるのか!?」
「どうやって代表を決めるんだ!? 何組出場できる!?」
「選考会をしろ!」
「冒険者ギルドで選考会はするのか!?」
怒号が飛んでいる。
「我々も聞いたばかりで何も決まってません! 詳しくはラジオをお聞きください!」
ギルド職員のアイリーンさんが対応している。
「すみません。そのラジオの者です」
群衆が一斉に振り返った。
「コウジ・コムロ。冒険者ギルド、要注意人物兼外部冒険者補助員で、ラジオ局局長です。選考会についてですが、国の代表は各国の裁量で決められますので、おそらくアリスフェイでは冒険者ギルド及び商人ギルドも含めた選考会になるかと思います」
冒険者ギルドだけで決められるわけではないと言って、ちゃんとギルドの責任をズラしておく。
「依頼も碌にしてないのに国の代表になれるなんて勘違いしている中堅の冒険者たちはいねぇよなぁ!」
アグリッパが冒険者たちに大声をあげていた。
「それからラジオではレベル50以下と言っていたが、50を超えた場合はその時点で交代してもらうというルールも聞いたと思うが、裏を返せば、戦闘職の冒険者はレベル40後半じゃないと務まらないということだ。ましてや守るべき行商人よりも修行をしていない者など論外だろ。自分で仕事を請けて、こんなことも考えられない冒険者なんていねぇよなぁ!」
先ほどまで騒いでいた冒険者たちが静まり返っている。
「悪いがちょっとポチが通れないんで、開けてもらえるか?」
オルトロスのポチが、ボフッとの炎を空に向かって吐き出しながら、道を開けさせていた。俺たちはその道を通って、冒険者ギルドに入る。
「すみません。お騒がせしているようで」
「本当よ。だいたい、どうして駅伝なのよ!」
アイリーンさんにはその後、こっぴどく叱られた。
「じゃあ、渡すものがいくつかあるから持って行ってね。中身はすべて検分済みだから。呪いや攻撃なんかはないはずよ」
朝から駅伝に関する要望書や意見書などが送られてきているらしい。
「ありがとうございます」
「犠牲を最小限にしてほしいというのが冒険者ギルドからの要望よ」
「犠牲は出ない予定なんですけど、そんな強い魔物はいますか?」
「だいたいコムロカンパニーが討伐してしまっているから大丈夫だとは思うんだけど、こういう大会はなにが起こるかわからないから」
「そうですよね。一応、セーラさんにも応援を要請してはいるのですが……」
「あ、そう言えば、今夜、久しぶりに勇者一行が来るらしいわ」
「え? そうなんですか」
「それから各国の冒険者ギルド職員も選考会の基準について会議をする予定になっているわ」
「大変そうですね」
「大変よ! わかってる?」
「はい、すみません」
「それから、参加人数が増えればそれだけ順位を付けるのが難しくなっていくから、ちゃんとコースについては考えてよね」
「なるべく街道は通らず、ルートがいくつもあるようなコースにしたいと思ってます」
「ええ? そうなの? 行商人がケガしない? そうなると、決まった場所があるのかしら?」
「ケガ人を治すのも駅伝のうちでしょう」
俺じゃなくてアグリッパが答えていた。アイリーンさんはアグリッパを睨んだ。
「どこかの国が有利になるような情報は出しませんよ。駅伝も蓄魔器もね。コウジがお人好しでも、後ろには我々総合学院の全生徒がいると思っていただきたい。代表の選考もレベルよりも他者を助けられるかどうかを見てくださいね。一緒に走るメンバーを捨て置くような国は勝てませんから」
「アグリッパくんも選考会には出るの?」
「もちろんです。家系や家柄の太さではなく、公正な基準を元に選考してください。不正があった方が後々面倒なことになりますから」
アイリーンさんは大きくため息を吐いていた。アグリッパとしては貴族やお金持ちの子息が選ばれないように牽制をしただけだと思っている。
「残念ながら、選考に関して厳密にやればやるほど、貴族の子になっていくのよ。幼い頃から振る舞いやマナーなんかを厳しくしつけられている人はルールへの順応性が高いのよ。ただ、その分裏技を見つけるのは遅くなる。柔軟な思考と枠内に収まる思考の両方を兼ね備えた人物となると、どんどん選考基準は狭くなっていく。国によっては人が足りない事態も考えられるわ」
「その場合は交代できるだけで構いませんよ。体力的には厳しくなりますが失格にはなりません。あ、そういう少人数で参加する国は逆に荷物を軽くして時間的な余裕を持たせた方がバランスは取れますかね?」
「コウジが試しに走ってみればいいんだけどな。ちょっと忙しすぎるぞ」
「そうですよね」
「ちなみにコウジくんは出られないからね。レベルが水晶でも測定できなかったので、100を超えているから」
「ええ? やっぱりかぁ。そうじゃないかと思ってたんだぁ」
何度聞いてもショックを受ける。親父にはレベルとランクは意味がないと教え込まれた結果だ。意味がない物が高いというのはそれなりに辛い。
俺が天井を見上げていると、アイリーンさんもアグリッパも肩を叩いてきた。
「よく考えなさい。自分で倒してきた魔物の数を」
「それでレベルが50以下だったら、おかしいだろ?」
全然、フォローになっていないことを言われて、吹っ切れた。
「確かにおかしい。レベルを100超えたからってなんだって言うんですか? 一日の長さは決まっているし、人間には仕事量の限界というものがあります。駅伝の選手選考に関してはお二人に任せますから、自分はコースとルートを確認しに行きます。いいですね?」
「いや、なんでよ!」
「そんな責任をもてるわけがないだろ? 学生だぞ!」
「いえ、レベル40ならきっと学生にもチャンスがあります。よろしく頼みますよ。アイリーンさんも今こそアリスポートの冒険者ギルドが活躍する時です!」
「言うようになったわね! いいでしょう! やってやりますよ!」
「じゃ、俺は別の用があるので」
ポチを撫でてから、ギルドを出て総合学院に戻る。
中庭では体術と攻撃魔法の授業を合同でやっていた。
「すみません。遅刻しました」
「聞いてるわ。国王の側近に呼ばれた後、冒険者ギルドに報告をしに行ってたんでしょ」
ソフィー先生は出席扱いにしてくれたようだ。
「コウジくんは魔法も体術も使うから、もう習得しているかもしれないけれど、わからない学生にとっては別のものだから教えてあげてね」
「はい」
魔力の流れと体術の基本を学びながら、魔体術を学んでいるらしい。
「ただの魔力でも相当な威力が出ますし、体術の基本ができていれば接近戦では有効です」
「強化魔法を使って身体を強くすると、固まってしまうこともありますが、魔力の流れを意識してなるべくリラックスしながら受け流していくのが基本だと思ってください」
体術の先生とソフィー先生が、ゆっくり演武を見せながら教えてくれる。
「じゃあ、ちょっとリュージくんとコウジくんで演武を見せてもらいましょう」
「ええ?」
「よし、やるか」
リュージを引っ張りだして演武を見せる。
「ゆっくりやるから大丈夫だよ」
「コウジは魔力加減がわからないから、ちゃんと見ておいて」
パパパンッ!
俺とリュージが拳を軽く打ち合う。
「これが痛いわけ! 軽く打っているように見えて、腕だけの力じゃなくて腰や魔力を使っているから、重いんだ。この時点で種族値なんか関係ないわけ。これで竜の鱗は剥がれるからね」
リュージがたくさん文句を言っている。
「これはリュージの見切りが遅いだけだろ。攻撃って不意打ちは絶対にくらうから、せっかく対面しているんだから予想すればいいんだよ」
俺がそういうや否や、リュージが腕を鞭のようにしならせて拳を打ってきた。
半身で躱してそのまま腕を取って、身体を一回転させて地面に叩きつける。
バフンッ!
地面当たる瞬間、リュージはバウンドして跳ね返りながら立ち上がった。見ている学生たちは一瞬の出来事に驚いていた。
「こういうのは初動を止めようと思っても当たっちゃうから、投げちゃえばいい」
「受け身はたくさんやるようにね。咄嗟に出せるようにしておくようにね。ついでに土でも掴んでたら目つぶしもできる。ピンチこそチャンスだから」
リュージが投げてきた砂を魔力で掴んで、丸く固めてしまう。
「あと、これもやっておこう」
大きく息を吸ったリュージが俺に炎のブレスを吐き出してきた。
ボフッ!
俺は突っ立ったまま、魔力を展開し身体の周りを冷やしていく。
「火が見えちゃってるから固まっちゃうんだけど、逆に極寒の中からやってきたって思うと温かいイメージができると思うんだよ。そうすると、熱さはないんだけど、炎で燃焼しているから息苦しくなってくるんだよね。だから、先生たちがやっていたみたいに、炎が当たっている部分だけ壁を作る感じでできるとだいたいの魔法や刃物の攻撃も防げるよ」
「君たち、妙に慣れてるね」
体術の先生に感心された。
「竜の学校で何度もやっているので」
「武器を持ってもやれますよ」
「本当に?」
体術の先生は俺たちに木剣を渡してきた。鉄製じゃない分、竜より優しい。
「木の場合は魔力通すと割れちゃう素材もあるので気を付けて選ぶようにね。長く使うなら木製の方がいいかも。魔力も使えるようになるといろんな使い方ができるから」
俺は一振りで、五本の魔力の刃をリュージに当てた。リュージは何事もなかったかのように受け流して魔力の刃をすべて地面に突き刺している。
「鉄だとね、固い物しか出せないようなイメージがあるんだ。その思考が魔力の運用では邪魔するから、木材とか自然由来の物を使うといいよ」
「魔法使いはローブがあるから、いろんなものを隠れて握って硬さとか性質とかを日頃から確認しておくと、徐々に魔力でも再現できるし咄嗟の時でも出るからね。実は魔力は生活から学ぶことが多い。じゃあ、皆で組み手やりますか?」
先生たちに聞いて、一斉に組み手を始める。ケガをしても回復魔法や薬草があるので、思い切りできるようだ。俺とリュージが思い切りやると、中庭が燃えそうなのでやらないけれど。
「竜の学校では戦う方法ばかりを教えてるの?」
ソフィー先生が気になったのかリュージに質問していた。
「いや、そんなことないですよ。地理学とかの方が多いかもしれません。あとは人間学ですね」
「人間を学ぶの?」
「ええ、歴史もそうですが政治とか、商売の仕方とかですね。竜は長い間暴力でどうにかしてきた種族ですから」
「なるほど、面白いのね。あなたたちのお陰で授業もだいぶ進んだわ。また合同授業をやりましょうね」
先生や学生たちに実りある授業だったのならよかった。
授業終わりに鍛冶場に行く。部品だけだが、ゲンローたち鍛冶師連合に頼んでおいてある。高学年の彼らはほとんど授業を取らずに研究をしている学生も多い。その上、卒業後は魔道具のエンジニアとして働く者もいるので、彼らが蓄魔器の運用の主力になる。
「ほとんど終わってるぞ。鋳型に入れてバリを取るだけだから、そんなに時間はかからないんだ。ただ、ガラスだけは必要になってくる。しかも強化ガラスを使うんだろ?」
「その予定なんですけど、高いですかね?」
「高いけど、何年も使うなら安上がりにはなるんじゃないか。メンテナンスも楽だ。一応、強化ガラスを習得するために、連合の中から数人ガラス職人の工房に行ってるから、まぁ、楽しみに待っていてくれ」
「ありがとうございます」
そのまま植物園に行き、マフシュに会った。
「なに? 蓄魔器の溶液は出来てるよ。まだ、作るなら用意するけど?」
「いや、それなら大丈夫です」
「駅伝とはまた大きい企画を考えるね?」
「蓄魔器の売り先同士で揉めたら、こっちも面倒じゃないですか」
「そこまで考える?」
「親父はその先まで考えてました」
「コムロ家の血筋ね。こっちは、どれだけ足りなくなってもすぐ補充できる分は用意しているからね」
「ありがとうございます」
「こっちこそ、ありがとう。レビィと店を持つか考えているところだから。人生の早めにお金から解放された気分よ」
植物園を出て食堂により、夕飯を受け取ってラジオ局へ向かう。
「……じゃあ、どうすんのよ!」
外からでもウインクの怒号が聞こえてきた。
「何の喧嘩?」
俺はラジオ局のドアを開けると、ウインクが仁王立ちしてミストとグイルが小さくなっていた。
「ミストとグイルが駅伝に出るって!」
「そうなの? 頑張れよ」
「え? それだけ?」
「応援するよ。ん? ああ、実況するのに人手が足りないって話? それは誰か雇えばいいじゃない。それよりも二人の気持ちの方が大事だろ? 駅伝は国の代表が出るんだから、ミストもグイルも十分要件は満たしてるんじゃない? 夏休みでかなりレベルも上がっただろうし……」
「あれ? そうなの? ショックじゃない?」
「なにが?」
「ほらな。俺の言ったとおりだったろ?」
小さくなっていたグイルが、普通に弁当を大きい机に広げていた。
「いや、私たちが唐突に駅伝に出るって言ったらショックを受けるんじゃないかってウインクが言うから、先にウインクが取り乱しておいたのよ」
ミストが説明をしてくれた。
「ああ、そうなの。全然、大丈夫だよ。レベル50以上の人たちに手伝ってもらうつもりだからさ」
「そうか!」
「でも、ロケ用の発信機の使い方がわからないか。二人とも自分の区間が終わったら手伝ってね」
「激務すぎるだろ!?」
「私たちだけ、全区間走るの?」
「ちょっと待って! ラジオ局員って全区間の実況をするから同じように走るってこと?」
「空飛ぶ箒を使ってもいいよ」
ウインクは鬼瓦みたいな顔で俺を睨んだ。
「あれ苦手なのよ。練習付き合ってね」
「いいけど、普通に乗れるだろ?」
「普通に乗れたとしても私は実況しないといけないんでしょ!? しかもラジオのセットも持って」
「そうでした」
結構、ラジオのセットは重量がある。
夕飯を食べながら、予定を書いておく。ミストもグイルも選手になるかどうかはまだわからない。今のところ選考会に出るというだけだ。
「死者の国は人数が少ないからね。私は無理やり出させられるかもしれない」
「行商人の中でレベルが40くらい高い人間を探すと少ないんだよ」
「ほぼ決まりかぁ……。これから、コース決めをしたかったんだけどなぁ。あ! やべぇ! 今夜、勇者一行がやってくるって! 忘れてた!」
「え!? 勇者セーラたちが!?」
「そう。適当にインタビューしておいてね。俺は駅伝のコースを決めに行くからいないことにしておいて」
「なんで? 会いたくないの?」
「ん~、セーラさんだけとかドヴァンさんだけならいいんだけど、一行になると厄介なんだよね。あの人たち」
パーティーメンバーの中で競い合っているような時もあるし、それぞれに対応していると時間はすぐに溶けていく。
夕飯の餃子を口に詰め込んで、急いで台本を書き上げて、俺は一度ラジオ局を離れた。
「いいの!? 人類の勇者一行なのに!?」
「うん、たぶん冒険者ギルドにいると思うから。健闘を祈る!」
俺はダンジョンに行き、マルケスさんにコースの相談をする。
「それは結構、大変だな。空を飛ぶ選手もいるだろうからさ」
「そうなんですよね。だから、魔物がいる森の中に中間地点を作った方がいいですかね。でも、夜間になると、また環境が変わったりするかもしれないですよね」
「野営しながら決めていくしかないんじゃないか? 栗拾いでもしながらやるか?」
「付き合ってくれますか?」
「いいぞ。ソニアもいいよな?」
「キャンプかぁ。楽しみだね」
シェムとダイトキにダンジョンを任せ、俺はマルケスさん夫婦と一緒に竜の乗合馬車から、野営地を探した。
すでに空は真っ暗。ダンジョンマスターの夫婦はなんだか楽しそうだった。
「コウジ! あのジビエディアは狩るか?」
「俺は夕飯を食べたばっかりですよ」
「暗くて見えやしないよ」
「月明りに慣れれば見えてきます」
「あそこにいるのは山賊?」
「鉄鉱山の鉱夫でしょ?」
「いや、あれ山賊じゃないか? 野営地のために山賊のアジトを潰してもいいんだろ?」
「駅伝は吹雪いた方が面白いかもね」
ダンジョンマスター夫婦は好き勝手言う。