『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』42話「学徒の思いと、コムロカンパニーの計画」
翌朝、教会からカラーンという鐘が鳴った。誰かの結婚式だろうか。
「こんな明け方に結婚はしないか?」
「誰かが時の鐘を間違えたんじゃないか」
隣のベッドで寝ていたグイルは、そう言って毛布の中に潜っていた。
「のんきでござるな」
窓を開けて、ダイトキが入ってきた。
「四人とも今すぐ着替えて」
シェムは通気口から下りてきて、壁にいつか見たダンジョンの入り口を作るテープを貼りだした。
「おはようございます。なんです?」
「衛兵の部隊、おそらく国家安全保障局がこちらに向かっているのでござる」
「どうして!?」
ミストはうんざりしたような声を上げながら跳ね起きて着替え始めた。ウインクはシーツをそのまま体に巻き付けて、ドレスにしている。着替えるのが面倒なのだろう。器用だ。
「十中八九、蓄魔器のことよ」
「だと思ったよ!」
グイルも跳ね起きて、靴と緊急用のリュックを背負った。
「でも、どうしてそんなことをダイトキさんたちが知ってるんです?」
「去年、しばらく衛兵の兵舎でやっかいになっていたから、何かと情報は聞こえてくるのでござるよ」
「さ、入って。何もない空間だけど、遠くへは行かないように。位置がズレることがあるから」
シェムがシールをドアと同じ大きさに貼ると、魔力が噴き出して、別の空間に繋がる門ができた。即席のダンジョンだが、去年より精度が上がっているらしい。温度も含めて快適だ。
俺たち、四人は即席のダンジョンに入り、シェムから夜食用のサンドイッチを渡された。
「途中でゴズさんに預けるから、しばらく待ってて」
「了解です。ジルとゲンローさんにラジオの放送は頼むと言っておいてください」
シェムとダイトキは、俺の言葉を聞いて笑っていた。
シールが剥がれる音が鳴ったかと思うと、門が閉じていった。
「これ、どうするの?」
「とりあえず、寝よう。俺たちが動くのは先だって話だ」
「いいの? 蓄魔器に関することでしょ?」
「というか、俺たちは何処に連れていかれるんだ?」
「さあ? 少なくとも死にはしないんじゃないか? 殺すために攫わないでしょ」
「ああ、そうか。私たちは特待十生に誘拐されたのね?」
「じゃあ、しょうがないな。受け入れよう」
「なんだぁ。それなら、ちゃんとした服を着てくればよかった。グイル、鞄の中に服は入ってないの?」
「あるぞ。下着とシャツでよければ着ていい。ああ、でも、ハーフパンツしかないや。ジャングルに行かないといいけど」
「コウジ、ウインクに身に纏う魔力を教えてあげれば?」
「そうだな。よく俺が眠れない時にやる瞑想ポーズがあるだろ。あれをやると骨に魔力が通る感覚があって……」
結局眠らずに四人で、魔力の運用方法や死霊術から考える意識と魔力の講義をしていたような気がする。ラジオに関係ないし、蓄魔器とも関係のない話をするのは久しぶりだったからか、ただただ楽しい時間が過ぎていく。
「もう眠れなくなっちゃったから、一応、蓄魔器の話もしておこうぜ。実際のところ蓄魔器ってどれくらい売れると思う?」
グイルはやはり魔石市場に与える影響が気になるらしい。
「思った以上に魔石になるのが早かったよね? 気づいた人たちにとっては、すぐに魔石がお金になるわけだから田舎の富のバランスって変わっちゃうレベルなんじゃない?」
「あ、そうか! 貴族が変わっちゃうってこと!?」
ウインクは海で各国の貴族たちを見ているから、関わる相手が変わるのかもしれない。
「たぶん、騎士爵、準男爵なら買えるはずだから爵位を買い始める人もいると思うんだよね」
「ちょっと待ってくれ。貴族って敵の領地から領民を守るためにいるんじゃないの? 傭兵とか私兵を鍛えるのも役割って言うか」
教科書で読んだのとは違うのか。
「でも、今の時代にどの国でも内戦なんてやってる場合じゃないんじゃないか。特に南半球の勇者の国騒動が知られているだろ?」
「ああ、そうか。経済発展がまず第一なの?」
「商売人からすれば、そうだね。そっちの方が商品も増えるし、蓄魔器なんていいことしかないように思うんだけど、どうなんだろうな。魔道具の武器は増えると思う」
「魔物に対しては有効だよな」
「野生種が減るんじゃないの?」
「ああ、それはありうる」
「魔族は狙われたりしない?」
「魔石の希少価値が減るのに?」
「もしかして情報を出す順番を間違えると大変なことになるんじゃない?」
「そうかもしれない……」
「あなたたちは若いのに心配ばかりしているのね」
いつの間にか中年女性が俺の背後にいた。先ほどウインクが着ていたシーツを勝手に着ている。
「誰!?」
「親に聞いてないの? あなた、駆除人の息子でしょ?」
「もしかして精霊!?」
「そう。空間のね」
一番会ってはいけないと言われていた精霊だ。
「なんでしょうか。どうかしましたか。我々は、ここを一歩も動きませんよ。門が開くまではここから離れられません」
「随分、私を警戒しているのね」
「はい。家訓ですから」
「光の精霊をぶん投げたそうじゃない?」
「いや、一部です。一部。先輩が身体を乗っ取られたから」
俺以外の3人は精霊と聞いて、言葉を失っている。
「でも、精霊の力に届きうるということでしょう」
「いや、偶々じゃないですかね」
「でも、ダンジョンにも関わっているということでしょ。あのね、アイテム袋の整理もままなっていないのに、新しいダンジョンを作られると結構大変なのよ。今はいいけど、これ増えるの?」
「増える予定です」
シェムの計画は、全世界の人々がダンジョンを気軽に使える世の中にすることだ。
「私の魔力にも限りがあるというか、空を見上げて祈る人間も少なくなってきたから、システムというか、仕組的な話をもうちょっと考えてもらいたいのよ」
「大きさとか重さですか?」
「いや、空だからスペースのことは考えなくていいわ。そうじゃなくて、複雑なものとか意味がありすぎるものとか、別の場所に保管した方がいいのよ。一応、小分けにしているんだけど、思いが絡んでくると崩れることもあるし、ちょっと考えてもらえない?」
シンメモリーズが思いと結びついて、空間の壁に穴を空けてしまうことがあるらしい。保管していた空間が崩れてしまうのだとか。
「ああ、わかりました。言っておきます」
「あと、アイテム袋の整理はしておいてね」
「俺は使ったことがないのでわかりかねますが、言ってはおきます」
「頼むわ。じゃあ、シャルロッテによろしく」
「はい」
空間の精霊は折りたたまれるようにして消えてしまった。
「なに? 誰?」
「なんか……、何を言っているのかわかるのに、全く内容が理解できなかったけど、何を喋っていたの?」
「神か精霊か?」
3人とも混乱していた。
「空間の精霊だよ。祖母ちゃんの知り合いなんだ。もうちょっとダンジョンとかアイテム袋の使い方をちゃんとしろって釘を刺された」
「アイテム袋って本当にあるんだな」
「コムロカンパニーしか使ってないと思うよ」
「私はメルモさんに作り方を教えてもらったけど、全くできる気がしなかったわ。そもそも魔力切れを起こしちゃうでしょ」
ウインクはモデル業だけじゃなくて、裁縫もちゃんと受け継ごうとしている。
「それも魔石があれば解決できるかもよ。大変だって言ってたけどね」
「じゃあ、無理そうね」
「改めて思うけど、精霊ってこんな簡単に出て来ていいの? コウジの家族があれだから会えちゃってるけど……。普通、教会で神とか精霊に会ったら、鐘を鳴らして国中に広めるようなことじゃない?」
「ああ、そうかも。え? あれ? じゃあ、今朝の鐘ってもしかして……」
「どこかの精霊が教会の神父に神託を授けたってこと?」
「勇者が変わったのかしら?」
「いや、蓄魔器を狙われたのかもよ」
「うわぁ、そういうのは面倒くさいな。親父の代で済ませたって言ってたんだけど」
そんな会話をしていたら、ペリペリとテープを貼るような音が聞こえてきた。
「すまんな。随分待たせた」
門の向こうにはゴズが待っていた。
潮の匂いがする。俺たちは海の上にいるらしい。
テープで作った門を出てみると、青い空と大海原が広がっていた。
「わあ! 気持ちいい! 海だぁ!」
船旅生活の多いウインクは両手を広げて、潮風を浴びていた。
「魔族領へ行く定期便に運よく乗れたんだ」
「魔族の国に行くんですか?」
「そうだ。どうやらラジオ局が開発した蓄魔器が誰かに狙われているらしくてな。雲隠れしておいてくれ。大丈夫、そんなに長引かせるつもりはないと竜のお偉いさんも言っているそうだから」
黒竜さんが、手を回してくれたのかもしれない。
「でも、なんで魔族の国へ?」
「ああ、ゲンズブールさんが学生になにかあったら、魔族領に来てくれって前から言ってくれていたんだ。パレードを見て、思うところがあったらしい。学生たちで解決できることは学生たちで話し合えばいいんだけど、どうも大人が絡んでくると難しい局面もでてくるだろうってさ」
「卒業しても気にかけてくれる先輩でよかった」
「変人なのにね」
「コウジは会ってるんだろ?」
「会ってますよ。相変わらず要領がよすぎて一年分の仕事を二週間で終わらせたって言ってたんで、たぶん暇していると思います」
「あの人、本当に卒業しても相変わらずなんだな」
皆、ちょっと呆れていた。
魔族領までは最短でも三日以上はかかるらしく、結局俺たちは船の上でラジオを聞くことになった。
『え~、今日もラジオ局員たちはいません! 何者かに誘拐されました~!』
『でも、安心してください。我々総合学院の学生は何処にいても、ラジオ局員四人の味方です! どうかこの放送が届きますように~!』
なぜかジルとゲンローは明るく俺たちの誘拐事件を話していた。誰に誘拐されたかは全員わかっているのだろう。
「どうして俺たちが誘拐されたことを知ってるんですか?」
「衛兵たちが学校に入ってきたからだろう。去年、ダイトキが連れていかれたのを他の学生たちも見ている。なにか事情があることは察しているのさ」
ゴズさんは甘いジュースを飲みながら、魔法書を読んでいた。
「お、貴族の坊ちゃんも出てきたぞ」
『自分は入学して初年度の学生で、コウジさんには結構お世話になっているヒライと申します。それほどラジオ局員は危険だとは思えなかったんですけど、実際どうなんですか?』
ダンジョンでよく貴族連合の学生たちを助けていたから、擁護の声を上げてくれているのだろう。しかも、貴族連合の中でも肩身の狭い思いをしているヒライが頑張って出て来てくれるのもわかるだけに、ありがたい。
『危険は危険なのよ。だって文科系の集団なのに、体育祭で優勝するっておかしいでしょ?』
答えているのはラックスだ。
『でも、普通に考えてほしいんだけど、落とし穴を作ったりして遊んでいるように見えて、いろんな人にインタビューをしたり、先日も攻撃魔法の授業でアンチ防御魔法を開発していたでしょ。要するに学ぶということに貪欲だったのは、皆、見ていた通りだと思う。彼らは常に学んでいたし、常に忙しかった。それに関しては学生全員が信じていることだと思う。サボっているのを見たことないんじゃない?』
『私は魔女連合の学生だけど、ラジオ局員たちは同じ部屋で寝泊まりしているから、ちょっとサボる時間がないんじゃないのかと思ってるわ。そもそも同じ授業を受けていた学生ならわかると思うんだけど、それぞれがちょっと変でしょ?』
『いや、だいぶ変だぞ』
ちゃんとラックスが回して、ラジオによく出ているゲンローが盛り上げている。
『たぶん授業で習うこと以外に、学んだことの穴を見つけたり、学習内容の使用法が他の人とは違うのよね。で、今回も蓄魔器を研究している中で、常識の穴のようなものを見つけてしまったのよ。だから誰かが誘拐せざるを得なかったんじゃないかしら』
『それは確かにありうる! あいつらは本来、こんな小さな部屋でずっと喋り続けているような、根暗なお喋りなだけだ。しかもラジオのネタになるならなんでもやる。だから彼ら彼女らが危険なんじゃない。世の中にあるちょっとしたズレと危険を見つけちまったんだろうよ……』
ゲンローは、今の事態を的確にとらえている。
『まぁ、でもこの辺で立ち止まってもらわないと、貴族連合としても困るんですけどね。夏休み中もあの人たちは修行してたって聞きましたけど、本当ですか!?』
『それは本当よ。私は北極大陸のダンジョンで修業していたから。レベルが段違いに変わっていると思うわ。もし彼らに近づきたいなら、今がチャンスよ!』
ラックスもラジオに慣れてきたのか楽しそうだった。
その後、俺たちへの愚痴などを聞かされ、続けた。
『ただ、少なくとも俺たち鍛冶屋連合は学ぶ者の味方でありたいってことだ』
『それは貴族連合もそうです』
『おそらくここにいない学生たちも、インタビューを受けた職員の方々もそうだと思うわ。窓の外を見てごらん……』
『すげぇ。学校の人が全員いるのか?』
鍋を叩く音や鉄鎚で金属を叩く音が聞こえてきた。
胸にぐっとこみあげてくるものがある。俺たちはこれほど応援されてきたのか。
「期待に応えるつもりはなかったんだけどな……」
「いいじゃない。無理に期待に添わなくても。好きにした方がいい。たぶん、それを皆望んでいるわ」
「そうかな」
水平線に夕日が沈んでいく。
「じゃあ、魚でも狩りに行こうか」
「いや、定期便でしょ? 漁船じゃないのよ!」
「でも、身体が鈍るし、移動中は好きにしていいでしょ」
その日から夕食のメニューが増えていった。
三日後、魔族領の港町に辿り着いた。仲良くなった料理人のサハギン族に別れを告げて、定期便を下りると、魔族たちが集まっていた。その中にゲンズブールさんも普通に紛れ込んでいる。
「おう、こっちこっち!」
手を上げて俺たちを呼んでくれた。
「俺たちが来ることを知っていたんですか?」
「そりゃあな。通信袋じゃない通信方法はいくらでもあるんだぜ」
「あ、そうか」
ゲンズブールさんは全員と握手をしながら、俺たちを案内してくれた。
「こっちだ。騒ぎになっているから急いでくれると助かる」
「どうして?」
馬車をケンタウロスが牽いていた。
「いいっ!?」
魔族のゴズは驚きすぎて顎が外れていた。
「すまない。急ぎでね」
「本来、我々ケンタウロスが、馬車を牽くなど長い歴史でも、ないことなんだがな。状況が状況だ。すぐに乗ってくれ。乗り物酔いをするなら、馬車の中に薬が入っている」
俺たち五人は急いでケンタウロスたちが牽く馬車に乗り込んだ。
「ゲンズブールさん、どういうことなんですか? ケンタウロスの皆さんが馬車を牽いているなんて……」
ゴズが、恐る恐る聞いていた。誇り高き種族であるケンタウロスが荷運びをするというのは、魔族の国にとっては一大事だ。
「いろいろと理由はあるんだ。魔族領の軍部の運用を見た判断であり、他国から来る難民や要人への対応を魔族全体に報せるということでもあるんだよ。魔族全体の人道意識を引き上げるのに、ものすごく有効な一手なんだ。もちろん、ケンタウロス族もちゃんとこの仕事の重要性を理解しているさ」
「ちなみに俺たちはどれくらい重要な仕事なのかはわかってませんよ」
俺がそういうと、ゲンズブールさんは爆笑していた。
「コウジ、この野郎! 大人は蓄魔器のせいで大変だよ」
「俺ですか?」
「ん~、まぁ、誰かが作るのはわかっていたんだけどな……。今年がきっかけになるとは思ってなかったんだよ。もうちょっと先の話だと思ってたんだ」
「わかってしまえば、それほど難しくなかったですけどね」
「ラジオ局もそうだけど、普通は簡単に作れるようなものではないんだ。そもそも挑戦する者もいなかった。まぁ、それはコムロカンパニーの影響なのかもしれないけどな」
「そうなんですかね? 冒険者なら誰でも開発できそうですけど」
「国が変われば論理も変わる。視点も違えば、価値観だって違う。コウジは金貨の価値もよくわかっていなかっただろ?」
「確かにそのとおりです。俺は何処にも属していなかったのがよかったんですかね?」
「いや、いろんなものを見てきたからじゃないか。いい意味で枠にとらわれない。悪く言えば常識がない。だからこそ友達がいてよかったよな」
「それは本当そう思います」
「ゲンズブールさん、こんなルームメイトがいたら、はっきり言って普通の学生生活は無理よ」
「それはそうね。私はこんなに関わるつもりがなかったから」
「そう言った意味ではコウジが学生の範囲から超えていると思ったのは、早かったよな」
それぞれ思うところはあったらしい。
「で、この馬車はどこに向かってるんですか?」
「魔王城だよ。お城」
「城って、そんな簡単に行けるところなんですか?」
「普通はいけない。ただ、コウジは大統領と知り合いだろ?」
「そうですね。生まれた時から知り合いだと思います……」
半日かけてケンタウロス族が急ぎ、さらにグリフォン族に運ばれて俺たちは魔王城へと辿り着いた。
「陸海空と全部旅したな」
「心臓が疲れたわ」
「じっとしているだけなのにね」
ラジオ局の3人はそれなりに疲れていた。俺とゴズさんは、適度に走ったり箒で飛んだりしていたので、身体はいつでも動ける状態だ。
魔王城の裏口から入り、俺がいた託児所などを見てから、大統領に会いに行った。
コンコン。
ゲンズブールさんはちゃんとノックをして、大統領の返事を聞いてからドアを開けた。
「アリスフェイ王国、総合学院ラジオ局員の方々をお連れしました」
「うん。ありがとう。長旅ご苦労さん。フハ」
執務室には長い机があり、世界地図が広げられていた。そして、なぜか親父を含めたコムロカンパニーの面々が椅子に座ったり、窓の外を眺めたりしていた。
「親父、何でいるの?」
「蓄魔器をコウジが開発しちゃったんだろ?」
「そうだけど……、なんで会社の皆さんも?」
「私の責任でもあるからな。仕方ない」
ベルサさんが机の近くにある椅子に座った。
「始めますか?」
「メルモさんもどうして?」
ウインクも師匠に会って驚いている。
「紡績産業に関わることだからよ」
メルモさんの答えは端的だった。
「俺も同じだよ。輸送関係に関わることだからだ」
セスさんも答えていた。
「アイルさんは?」
「これでも一応、冒険者ギルドの元職員だからな」
コムロカンパニーがいろいろ理由があってここにいることはわかったが、蓄魔器とどう関係しているのかはわからない。
「フハ、始めるか」
魔族領の大統領、ボウさんが切り出した。
「蓄魔器の開発、販売を止めることはできない。時代のうねりだ。今後、紡績産業、それから輸送産業、冒険者雇用問題が発生するのはもちろん、印刷産業による知識の拡散、それから……」
「ちょっと待ってください。それって……」
グイルが声を上げた。
「頭に浮かんでいる通りだ。産業革命が起こる。すでにグレートプレーンズでは肥料開発が始まっていて人口も一気に増えた。蓄魔器によって魔道具産業はさらに伸び続けるだろう。でも、ここに問題がある。フハ」
「国家戦略による国家間の格差だ。世界を巻き込む戦争、つまり世界大戦が起きることが予想される。俺たちコムロカンパニーはこれを止めたい。言うなれば、戦争そのものの回避、防除だな」
親父が、涼しい顔でとんでもないことを言い始めた。コムロカンパニーの社員たちも普通の顔で聞いている。後に聞いたが、この時ラジオ局員とゴズ、ゲンズブールさんは俺と親父が親子であることを確信したという。