『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』37話「ラジオ局、下半期計画」
朝方、風呂に行こうとしたらジルに呼び止められた。
「おはよう。どうした?」
「おはよう。朝のラジオを放送してもいい?」
「別にいいよ。何かするの?」
「いや、花屋の仕事をしていると朝早いんだけどさ。音楽でもかけていた方が楽しいでしょ。別に聞きたくなければ音量を下げればいいだけだし。あとはアリスポートで話題になっていることとか話せればいいかなと思ってるんだけど……」
「それ、いいね。でも、ジルは花屋の仕事もあるんだろ?」
「そうなんだよね。録音して放送しようかとも思ったんだけど、誰かいないかな? やっぱり、働いている人からすれば、他の人もこんな朝早くから放送してるんだと思えるのは結構心強いと思うんだよね。酔っ払いに絡まれたりするからさ」
「ああ、人の声があるだけで結構雰囲気は変わるよね。でも、朝にウインクはちょっとうるさいし、誰かいるかな……。音楽もゆったりしたものがいいよね」
「そうそう」
「ちょっと探しておくよ」
「ごめんね」
「いや、いいよ。俺もせっかくラジオがあるのに、放送してない時間があるのはもったいないと思ってたんだ」
その後、ジルも風呂に行くらしく、一緒に向かった。
「知ってる? 『月下霊蘭』の開花が終わって、エルフたちが急に真面目になってるって」
「ああ、なんかマフシュ先輩が言ってたような……」
「自分の種族だけど、なにかを失って取り戻したいみたい。所謂、賢者タイムってやつ?」
「あれだけ世界中で大騒ぎしたんだから、急に印象が変わらないんじゃない」
「私もそう言ったんだけどね。夏休み明けにエルフの編入生が増えているみたい。いなくなった留学生と入れ替わりにね」
「その前に大森林に移民を受け入れた方がいい気がするけどね。ただでさえ里で固まっているからさ。なかなか他の種族の意見も聞けないでしょ。そもそも種族差別なんて、他の国では聞かないし」
「それ、同じことをカミーラさんが宣言していたって、この間手紙が来てた」
「カミーラさんはアリスフェイにいたからね。思うところがあるんだろうな」
「そうよね。あ、私こっち」
風呂は男女で違う。
「ああ、またな。たまにラジオ局かラジオショップに遊びに来て」
「わかった」
都市で生活していると、人それぞれで活動している時間が違うことがよくわかる。ラジオはその垣根をなくせるメディアだろう。案外、働いている時間帯で考え方も違うのかもしれない。
風呂から出たら、朝食を食べて、授業へと向かう。
今日はダンジョン学からだ。
マルケス先生の助手と言っても、やることは死にかけている学生を助けに行くくらい。初級者向けのダンジョンは、すでに魔物の配置や環境管理は出来ているし、中級者向けのダンジョンではエルフたちが薬の実験。上級者向けのダンジョンはパレードの時に竜たちを泊めたままの状態になっていたから、リュージに責任を取らせて改装工事をしている。
俺はケガ人が出るまでダンジョンマスターの部屋で寝っ転がっていた。
「おい、授業中だぞ」
「ええ、一応気にしてはいますよ」
「なんだ? 下半期になってソニアが来ないから拗ねてるのか?」
「それはマルケスさんです」
「久しぶりに食糧管理をミスしてな。買い出ししないといけなくなって、ソニアがやってくれているんだ。で? コウジは?」
「魔力を補充する魔道具を作ろうとしているんですけど、親父が先にやっていたみたいで……、昨日ベルサさんからなんで広まっていないのか話を聞いたんですよ」
「蓄魔香炉とかか? 結局、魔石の方が効率がいいからな」
魔力を煙状にする魔道具がある。あとでアーリム先生に聞かなくちゃな。
「でも、それだと足りなくならないですか?」
「まぁ、このまま魔道具を使う生活が広まれば、いずれ足りなくなるかもしれないな。なんだ? コウジは魔石の利権を冒険者たちから奪うつもりか?」
「いや、そんなつもりはないんですけどね。技術はあるし生活も便利になっていくのに、何かが上手くかみ合っていない気がして」
「人間社会っていうのはそういうもんだろ」
「そうなんですけどね。文化祭もあるんで、せっかくなら学生のうちに考えてもいいんじゃないかと思ってるんですよ」
「学生気分で、仕事を奪われちゃ冒険者たちも立つ瀬がなくなるぜ。一応、ダンジョンのお得意さんなんだからな」
「マルケスさんのダンジョンには、そんなに冒険者は来ないでしょ」
「バカ言え。これでも年に数人は来てくれるようになったんだぞ」
マルケスさんのダンジョンは孤島にあるので、見つかり難い。しかも、魔物も多い上に階層も広いので、ほとんどの冒険者が二階層に辿り着く前に帰ってしまうらしい。
「魔力を保存出来て、冒険者も失業しない魔道具ってないですかね?」
「まぁ、そんな魔道具を見つけたら、人生三回分は遊んで暮らせるさ」
ちなみにマルケスさんは実際人生三回分以上は生きている。
授業は貴族連合の学生が軽い毒になったくらいで終了。マルケス先生が毒になっても慌てずにアンチドーテなどの毒消しの効能を教えて、「植物園の復興にも手を貸すように」と言っていた。
魔道具の授業ではアーリム先生から過去にあった蓄魔器を教えてもらった。
皆、魔道具作りをしている中、アーリム先生は倉庫の中から魔力を溜める道具を出してきた。
「蓄魔香炉は知ってる? これはコムロカンパニーが作った吸魔草を改良したものね。こっちはキングアナコンダの革を使った高級志向の蓄魔器。これが一番売れたんじゃないかな。竜木と言って、魔力を溜め込む木材に麒麟の鬣を入れた物ね。魔力量がちゃんと表示される。でも、どれも高価すぎて広まらなかったわ。素材を考えると価格は当然なんだけど」
「じゃあ、安い価格で作れるようになったら……」
「たぶん、冒険者ギルドに消されるんじゃない?」
やはり冒険者ギルドの利権は強い。
「どうにか冒険者にも利益が出るようになるといいんだけど……」
コムロカンパニーはどれも植物や魔物の素材を使った蓄魔器を考えていたようだ。実際、手に入りやすいのは植物だろう。多産の魔物でもいいが、ダンジョンのような大量に飼育できる環境がなければ素材が手に入りにくい。
周囲から木を彫る音が聞こえてくる。魔道具を作るには、それなりに魔道具や魔法陣を学んだ人たちが必要だ。しかも、魔道具になれなかった廃材も大量に出る。実際、学生が作ったヒートボックスはいくつか燃えていた。
冒険者ギルドの利権は置いておいても、そもそも量産ができないから普及するめどは立たないんじゃないか。
「随分、悩んでるね」
「答えがありそうなのに辿り着けないもどかしい感じがしますね……」
「コムロカンパニーの人たちも同じように悩んでいたわ」
俺より圧倒的に知識もあって多くの発想をしてきた人たちでも答えが出ないということは容器そのものには答えはないのかもしれない。
授業が終わりに、植物園を見たり、森の中を散策してからラジオ局へ向かった。
「ラジオ局の文化祭での役割は、商品や文化の紹介になるよね?」
「うん……」
「コウジ、聞いてるか?」
後期の会議中にもかかわらず、全く身が入らない。ミストに熱いお茶を淹れてもらったが、舌が火傷するだけだった。
「聞いてるんだけど、頭に入ってこないな。ラジオの影響で、地方で魔道具が使われるようになってるのはいいんだけど、魔石が足りなくなるっていう未来をどうにか変えたい気持ちが頭の中でグルグル回っているんだよね」
「でも、それってコムロカンパニーでもできなかったんでしょ?」
「そもそもラジオの影響じゃないんじゃないの? どうせ、いつかは地方でも使われ始めるよ。王都にいる学生たちだって、地方に帰るんだからさ」
「そうだよなぁ。やっぱり馬鹿のふりしてでも冒険者ギルドに聞いてみるか。そこにヒントがあるような気がするんだ」
「それを文化祭で発表するの?」
「そう。それがラジオ局の下半期の計画にするのはどうかな? 幸か不幸か、エルフたちのお陰でラジオは全世界に広まった。文化は守らないといけないけれど、文明の利器は広がってしまうと思うんだよ」
「いいんじゃない? そもそもコムロカンパニーでさえできてないことなんだから、学生ができるわけないって大人たちは思っているわ。きっと」
ミストは現実的なことを言う。
「じゃあ、なにか。俺たちは出来ないとわかっているけれど、進んでみるっていうのか?」
「いや、そうとは言っていない。冒険者ギルドの利権のせいで魔道具として広まっていない気がするけれど、そもそも素材が高価だから広まっていないだけなんじゃないかと思うんだよ。だから、安い素材で作れれば一気に広まると思うし、もっと言うと植物も魔物も魔力を自然に吸収しているだろ? 人間だって寝れば魔力を吸収しているから魔力切れでも回復するわけだよね?」
「確かに。そう考えると、なんでないのかという疑問が湧いてくるわね」
「そうだろ? 今までだって魔道具は使っていたはずなのに、どうしてコムロカンパニーしか作ってなかったんだ? 魔石灯なんて、ものすごい前からあるわけでしょ」
「でも、ほとんど毎日、町の魔石灯を役所に雇われている魔法使いが補充しているよね? それってつまり魔力の固定化が難しいからじゃないの?」
ウインクが尤もな理論を言った。
「ああ……、本来は生きている者の身体の中で循環しているものなのか。魔物はそれが身体の中で溜める能力があるってこと? 確かに弱っている魔物の魔石は小さいんだよな。逆に人間の体の中に魔石ができると魔石腫っていう病気になるし……。肺に溜まるとグールになっちゃうこともあるんだよね」
「それ、この間の歴史学で学んだな」
「魔力ってわからないことが多いね」
「ねぇ、この話、面白いんじゃない? 研究を丸ごとラジオで放送しようよ。順を追って説明していくことで、誰かが矛盾を見つけてくれるかもしれないし」
「ミストは、面白いこと言うなぁ。そうしようか。誰も知らないから、知っている人たちの間でだけ利権ができるっていうのも変だよな」
「それはそうだよな。冒険者ギルドだって、そんなにおかしなことをしていないはずだよ。これだけ長く冒険者っていう職業が世に広まっているんだから」
「うん。一回、冒険者ギルドに聞きに行って、魔石の鑑定士にもラジオに出てもらうのがいいな。ああ、夏休みで稼いだお金も突っ込んでみるわ」
「ええ? 本当に!?」
「それが一番しっくりくるよ。ラジオの企画ではあるけれど、魔力について考えるきっかけにもなるだろうし、わかってないことがおおいだろ? しかも、この研究自体が未来の生活にもつながるだろうしさ。失敗しても、俺の金がなくなるだけだし、どうかな?」
「コウジの金をどう使うのかは俺たちは関与しないけど、ちゃんと未来に投資しているのはいいと思うよ」
「しかも文化祭で発表するって、一石二鳥だね」
「ちなみに、コウジが今のところ考えている魔力を溜める魔道具ってある?」
ミストは新しいノートを取り出して、「下半期ラジオ計画。魔力を溜めるにはどうすればいいのか」と書いていた。
「単純にコムロカンパニーが作ったような容器の魔道具じゃないんじゃないかな? 魔力を循環させるシステムの方が重要で、溜めておく入れ物は案外なんでもいいかもしれないと思ってる」
「よくそんなこと思いつくな……」
「先人が失敗してくれているからさ」
「考えてみれば、そうよね。今のコウジの発言で一気に考え方の可能性が広がった気がする。魔力を溜めておくものだから、てっきり入れ物を考えていたけれど、そうじゃないのよね」
「これだからラジオ局はやめられないのよ。やめようなんて思ったこともないんだけどさ」
翌日、俺は王都・アリスポートの冒険者ギルドへと向かった。当然のように冒険者たちがたくさんいる中、学校の先輩たちの姿もちらほら見かける。
「あれ? お前、冒険者クビになったんじゃなかったのか?」
掲示板を見て依頼を探していたアグリッパが聞いてきた。
「いえ、今日は依頼をしに来たんです」
「コウジに限ってそんなことあるのか?」
「ありますよ。そりゃあ」
俺がカウンターに行って、名前を告げると職員が「特別要注意人物兼外部冒険者補助員の方ですね。少々お待ちください」と、奥からアイリーンさんを呼んできた。
「コウジくんじゃない? どうかしたの?」
「いや、あの魔石の鑑定士さんに、ラジオに出てほしくて」
「はい?」
「魔道具が地方にも広まりつつある中で、魔石の需要ってあるはずなんですよ。でも、鑑定が正しいのかとか、どういう魔石がいい魔石なのかっていうことは意外と知られていないんじゃないかと思って、ラジオ局でお話を伺いたいという依頼なんですけど……」
「ああ、冒険者ギルドの職員に対する依頼ということね」
「そうです」
「本当にそれだけ?」
アイリーンさんは疑っている。わざわざ、ラジオ局が鑑定士を呼ぶ理由としては弱いと思っているようだ。
「あとは魔力の保管箱みたいなものがなぜかないじゃないですか? あっても高価な代物で、庶民には手が出せないと思うんですけど、冒険者ギルドが魔石の利権を集めているからだっていう意見もあって……。でも、そんな不満が出る職業ってこれほど長く続いてないじゃないかと思うんですよ」
「ああ、それについては誤解があると思いますね。わかりました。ちょっと待っててね。適役を用意するから」
しばらく待っていると、アイリーンさんが眼鏡をかけた中年男性を連れて来た。戦いに向いているような体つきはしていないのに、古い傷痕が多い。
「カシモフと申します。なにか魔石についての質問があるとか」
「はい。魔石の需要が高まっている中、どういった魔石に価値があるのかラジオでお話をお聞きしたいと思いまして。もちろん、冒険者ギルドの魔石利権に関して民衆が持っている誤解があるなら話していただきたいのですが……」
「ああ、それは冒険者ギルドとしてもお願いしたいくらいなんですが、ちょっと今は仕事中でして……」
「ええ、仕事終わりで構いません。総合学院に来ていただいて、冒険者になりたい学生に向けて、また冒険者とともに働く人たちにも向け、ラジオ局でお話を聞かせてもらえませんか。僅かですが謝礼は致しますから」
俺がそういうと、カシモフさんはアイリーンさんを見た。
「話をしても、よろしいのですか?」
「ええ、それが依頼です」
「上司の許可が出たので、伺わせていただきます」
「よろしくお願いします。もし、ラジオ局の場所がわからなければ、用務員さんでも学生でも誰かしら知っていると思うので、聞いてみてください」
「わかりました」
その日の夕方、カシモフさんは学校へやってきた。ちゃんと一人でラジオ局までやってきて、夕飯前にラジオに出演してくれた。
ウインクが放課後のラジオを始め、今の魔石需要について語り、カシモフさんの紹介をし、すぐにインタビューを始めた。
「時間も限られていると思うので、早速なんですが、冒険者ギルドでは何を基準に魔石の価格を決めているんですか?」
「最も影響があるのは大きさですね。大きさによって魔力量が決まりますから。その次に傷や透明度が判断材料になります。どうしても毒や呪いなどで死んだ魔物の魔石は、濁ってしまうことが多いようです。もしかしたらストレスの値が関係しているんじゃないかと、研究されていますが、まだはっきりとしたことは言えません」
「なるほど、冒険者ギルドの鑑定士さんでも、魔石についてわかることとわからないことがあるということですね」
「もちろんです。鑑定士でもわからないことは多いです。学生の皆さんが魔石をどう見ているかわかりませんけど、実は魔石という固体であるにもかかわらず結構流動的でして……」
「そうなんですか!?」
「例えば、冒険者が持ってきた魔石として、自分の机に小さな箱が置かれているとしますよね? 開けてみたら、ミミックだったなんてことは日常茶飯事です。だから細かい傷が絶えないんです」
「なるほど、そういうことだったんですね! 全然戦っているような体つきではないのに、傷が多い人だと思ってました。仕事上の怪我だったんですね。失礼しました」
「いえいえ。だからこそ我々のような鑑定士が必要で、魔石だと思って売ったら魔物だったという事故が起きないようにしているんです」
「なるほど、納得しました。魔石の属性によっても価格は変わると聞いたんですが……」
「確かに属性でも変動はしますが、同じ大きさの魔石と比べて安くなることはありません。むしろ属性は付加価値と考えられています」
「そうだったんですね」
「結構、地方では鑑定士を雇っていない冒険者ギルドもあって、魔石を安く買いたたかれているケースもあるという噂もありますが、基本的には週に一度は価格表が届けられているので、心配しないでいただきたいですね」
「わかりました。続いて、その価格についてなんですけど、実際のところ冒険者ギルドで魔石の価格を決めているわけですよね? 利権が発生して、運営側が儲けすぎているのではないかと言われていますが、本当のところはどうなんですか?」
「利権が発生しているというのは、確かにしているとは思うんです。魔石の需要によって価格を決める会議をしていますから。ただ、運営側も含めて職員、冒険者の誰一人、働きに対する対価以上の金銭を受け取っている者はいません。これは断言できます」
「そうなんですか?」
「ええ。例えば冒険者が魔物を狩る依頼があるとするじゃないですか」
「はい」
「依頼書には、過去、その魔物の最低価格の魔石から算出した報酬を書いています。はっきり言えば冒険者の方々を安く雇っているわけです。その上で、実際の危険度や難易度によってプラスしていくことになっているわけですね。もし、いい魔石を持ってきた場合は、その週の価格に見合った額を報酬として出しているはずです。これについては、今はたぶんどの地方でも報酬を受け取る際に、価格表の写しと一緒に出すので確認するといいと思います。ほとんどの冒険者は見てくれませんが……」
「実際には説明もしていると。でも、週や季節によっても魔石の価格は変動するわけじゃないですか。だから、例えば、魔石の価格が低い時期に大量に依頼を出して安く買い取り、高い時期に魔石を売るということはしていないんですか?」
「冒険者ギルドの職員たちとしてはそれをしたいんですけど、ほとんどの週末には魔石は売れてしまいます。倉庫の奥に隠していてもなくなっています」
「なぜですか? 需要が高まっているからですか?」
「もちろん、昨今の魔道具による需要もそうですが、基本的にはインフラの整備です。魔石灯もメンテナンスしないといけませんし、昼間になかなか街道の補修作業ができないので、夜間にやるじゃないですか。そこでも魔石灯は必要になってきます。それから町の防衛にも使っています。衛兵の武具はもちろん防御壁の強化、地下水のポンプ等を考えると、使われてしまうのがほとんどでしょう。残っていても行商人が持っていってしまいます。商人たちの方が魔石の価格には目ざといですから。売らなかったら利権だと騒ぎ立てるわけです。魔物の大発生があれば、どうしたって残しておかないといけないのに、です」
「なるほど、冒険者ギルドとしても町の運営を考えても、そうせざるを得ないということですね」
「その通りです」
「では、魔力を溜めておく魔道具を開発したとしても、別に構わないということですか?」 「低価格の魔力を溜めておく魔道具があるなら、冒険者ギルドは買い取ると思いますよ。それで魔石の価格が暴落するとは思えませんし、魔物がいなくなるわけではないので、冒険者の仕事がなくなることはありません。もし魔力を溜める魔道具があったとしても、魔石の方が効率的じゃないですか。むしろ、そういう魔道具が魔物化する危険性の方が高いのではないですかね? 魔石ですら、流動性が高いわけですから」
「そうですね。いや、よくわかりました」
「学生の皆さんの疑問に解答できたでしょうか」
「ええ、本当にお話を伺えてよかったです。特に魔石と冒険者ギルドへの理解が深まりました」
「いえいえ、もしまだ疑問があれば、冒険者ギルドに尋ねて来てください。総合学院の学生たちは非常に優秀な冒険者たちですから、無碍に扱うようなことはしません。今後ともぜひよろしくお願いいたします」
「本日はありがとうございました」
ラジオの放送が終わる頃には、俺のノートには魔力を溜める装置のデザインが描かれていた。
カシモフさんを学校の外まで見送り、俺たちは再びラジオ局に戻った。
「コウジ、これを本当に作るつもり?」
俺のノートを見ながらミストが鼻息を荒くしていた。
「そのつもりだね。判断基準も含めて、これが一番いいんじゃないと思うんだけど。これだったら冒険者たちも持ち運べるでしょ。肝はここだよな。やっぱり重要なのは容器じゃないんだよ」
「でも、これは結構実験が必要なんじゃない?」
「うん。たぶん魔物学者にいろいろと聞かないといけない。そもそも出来るのかどうかも含めて……」
「計画を立てたのは昨日で、魔石の鑑定士に話を聞いたのは今日だぞ。それで、この案が出てくるのか?」
グイルもちょっと引いている。
「カシモフさんの話を聞く限り、俺の蓄魔器はこうなったんだけど……」
「……まぁ、文化祭までは時間があるから、別に何を考えてもいいけど、これってできることなの?」
ウインクも疑っている。
「出来ると思うんだけどなぁ……。ほとんど魔法陣はいらないし」
「理論的には可能なのかもしれないけど……、調べないとね」
ミストは図書館へと向かっていた。
「俺も植物園に聞きに行くよ」
「メルモさんに連絡を取るかぁ。コウジはベルサさんね」
「ああ……、そうだね」
俺たちの文化祭への研究が始まっていた。