『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』36話「時代の必然と駆除業者の葛藤」
後期が始まり、俺もダンジョン学の授業を手伝ったり、攻撃魔法の授業を受けたり大変だったが、何より大変だったのがラジオショップだった。
「ジル、稼ぎ過ぎじゃないか?」
「迎えの花屋と一緒に稼ぎ過ぎなのよ」
ラジオショップを辞めて、今は花屋を手伝っているが、パレードの最終地点で連れていかれた娘とされているジルは王都で評判になっていた。ラジオショップに売っていた品物はほぼ売り切れて在庫もなくなり、補充する日々が始まっていた。
「皆さん! 笑顔ですよ! 笑っていれば幸せもお客さんもやってきますから!」
俺とグイルは、頬筋が痛くなるまで微笑みの練習をさせられた。
ラジオでも話しているので、わざわざエディバラからスカウトに来る魔道具屋まで現れた。
魔道具学の授業ではアーリム先生も含めて武器防具コースの学生も含めて、生活に使う魔道具を作っていた。
「せっかくコースに分けた意味がないじゃないですか?」
「違う! これもコウジのせい。ラジオなんて広めるから、都市部では魔道具を使った生活をしているって田舎で思われて、急いでアリスフェイにも魔道具の工場を作らないといけなくなったんだよ。私たちはそれまでの繋ぎ!」
「そんなぁ。別に使う人もいれば使わない人もいるでしょう」
「主婦は便利が好きなんだよ。超簡単! 超便利! お買い得! に弱いんだ」
レビィが教えてくれた。
「洗濯樽は売れているよ。洗剤も含めて一気に広まるんじゃない?」
「冷却箱だって、結構売れてるみたいよ。食材を新鮮なまま保存できるってかなりいいよね。そういう馬車の荷台はあったけど、家庭にもあればそれは欲しくなるよ。しかも学校の厨房に魔道具を入れると広まっちゃうのよね」
塔の魔女たちも言っていた。
魔道具を使っている家庭は数多いが、必ずしも全家庭に行渡っているわけではない。ただ便利さや当たり前のように使っている学生たちの声がラジオによって遠くまで届き、自分たちでも使ってみたい、時代に遅れてしまうという心理が地方で広がっているらしい。
「コウジが魔道具工場を作ればいいんだよ」
「そんなこと言ったって、どうやって人を集めるんですか?」
「ここにいるじゃないか」
「俺たちは学生ですよ。それに一時的に作ったところで、メンテナンスだっているでしょう。面倒くさいですよ」
「でも、今年の夏休みもかなり稼いできたと聞いているぞ」
なぜか植物園を復活させているマフシュまで魔道具の授業を受けていた。エルフだから、俺が何をやっていたのか聞いているのかもしれない。というか、ある程度ラジオでウインクがバラしたのか。
「まぁ、確かにそうなんですけど……」
「何を買うんだい!?」
「ほれ、とっととアリスポートで使って経済を回しな!」
「まさか……娼館を買うなんて言うんじゃないだろうね!」
「自分の稼いだお金は自分で使ってもいいでしょう? ああ、ゲンズブールさんがいればなぁ……」
責められ体質の俺は、魔族の国にいる天才を思い出していた。
「実際、皆はコウジが何に使うのか興味があるだけだよ。貯めておいた方がいいと思うし」
レビィが先輩らしくフォローしてくれた。
「いや、そうなんですけど、壺に入れて貯めて置いたら絶対忘れると思うんで、なにか商売ごと事業を買い取ろうとは思ってるんです。だから、魔道具工場があって買い取れるなら買い取らせてもらうのがいいとは思います。ただ、なにか引っかかっていて」
「なによ」
「いや、魔道具が足りないから魔道具工場を作るみたいな短絡的なことでいいのかってことです。それも前にゲンズブールさんと話していて、ゴールドラッシュでどの業種が一番儲けるのかみたいな話をしていて、少なくとも見つけた金鉱を掘る会社じゃなかったんじゃなかったかなぁ、って思い出したんですよ」
「誰が一番儲かったの?」
「それは忘れてしまったんですが、宿屋とか馬車業とかじゃなかったかな。とにかく今は主婦層に生活魔道具が売れるという金脈を発見したのであれば、別のことで稼ぐのがいいんじゃないかと思うんですけど……」
魔道具学のクラス中が、作業の手を止めてまでこちらを見ていることに気が付いた。
「あ、いや、今のところ答えはないですよ。探しているところなんで」
「なんだよ。期待しちゃったじゃないか」
「期待させるなよ」
「ないなら作ればいいんだよ?」
アーリム先生がアドバイスしてきた。
「それは、わかるんですけどね。ピンとこないんですよね」
魔道具を作るための道具屋や壊れた魔道具を直す職人なんかも考えてはいたが、それを学生の片手間でしていいのかを考えると、一歩踏み出せない自分がいる。言ってしまえば、それに人生を賭けられるのかということだ。
結局自分の決断が鈍っているうちはなにも進められないし、客にもなにもおススメできない。
「コウジ、ちょっといい?」
授業終わりにマフシュが声をかけてきた。
「いいっすよ。何かありました?」
「エルフが『月下霊蘭』の影響で世界中にいろいろと迷惑をかけたと思うんだけど、それでこれからは国策としてちゃんと対応しようとすることになったのよ」
「それはよかったですね」
「そうなの。それで今回見つかった興奮剤と鎮静剤の研究をしようということになって、まだ学校に残っているエルフの留学生と私たち元からいたエルフたちが共同で試していくことになったんだけど。試すと言っても場所が必要でしょ。だからダンジョンを貸してもらえないかと思って」
「ああ、大丈夫ですよ。申請してくれれば、マルケス先生も許可は出してくれるはずですから。初級者向けのダンジョンは貴族連合の溜まり場みたいになってますけど、中級者向けのダンジョンはあんまり学生もいないので。上級者向けダンジョンは改装工事をしているんで待っててください」
一応、俺がダンジョン学の授業で助手をしているから断りを入れてくれたのだろう。
「醜態をさらしてしまったから、どうにか取り返したいと思ってるのよ。エルフは見栄っ張りでしょ?」
「いいじゃないですか。それだけ大変だったんですから」
「実際、歴史的に見ても、『月下霊蘭』の開花後に賢者が数人現れるようなの。エルフから文化祭の優秀者が出るかもしれないって今から気を張っている学生もいるからね。空回りしているエルフがいたら気にかけてあげて」
「わかりました」
マフシュは特待十生だからか、他のエルフたちにも気を遣っている。上級生になるとそういうことも考えるようになるのだろうか。
「同胞か……」
マルケスさんに通信袋で話を通しておくと、『わかった』と言って簡単に了承してくれた。
『そもそも学生のダンジョンなんだから、もっと使った方がいい。実験はやりたい放題なんだからな』
「確かに……。でも、もしかしたら何の実験をしていいのかわからないのかもしれません」
『ああ、学生は型を覚えている最中だもんな。型破りは型を覚えてからか。貴族の坊ちゃんたちにも声をかけてみるよ』
「お願いします」
人間の学校に来るといろんな人たちがそれぞれの事情で関係しているから、複雑だと思う。誰かを思い思われて、都市は回っているのかもしれない。きっとマフシュも学生生活の中で吸収したことを同胞たちに気を遣うことで発散しているのだろう。
吸収してリリースする。魔力も同じだ。人間関係は本当はもっと単純なのかもしれない。親子の繋がりは単純だ。ただ、人が大勢集まれば繋がりや結びつきにはグラデーションが出てくる。だから複雑になっていくのか。
また少し人間社会を知った気がした。
攻撃魔法の授業には、元々いなかったはずのエルフの留学生がたくさんいた。魔法の理論を学ぶつもりらしい。
「ソフィー先生! 先日話していた防御魔法についてなんですけど……!」
魔族・ラミアの学生が手を上げた。
「はい。なにかもう見つけた?」
「あの、無数の攻撃ではないのですが、同時に二発攻撃をすると歪む感覚があるのですが……」
「ああ、はい。ありますね。ちょっとやってみましょうか。誰か二人協力してくれませんか?」
すぐに質問したラミアとエルフが立ち上がって、ソフィー先生のいる闘技場の真ん中に出てきた。
「いいですか? 今の防御魔法では蜂の巣構造を採用している魔法使いがほとんどだと思います。これが魔法に対して最も固く柔軟性があると言われているからですね。では、属性は何でも構いませんので放ってきてください」
ソフィー先生は自分の前に防御魔法を張った。ラミアは杖を使って水魔法をエルフは風魔法を詠唱して防御魔法に放つ。
バシャン。
水魔法も風魔法も弾かれ、防御魔法は若干凹んだもののすぐに元に戻った。
「このように構造の結びつきが強いので多少凹んでもすぐに元に戻るんですね」
「無数の攻撃を受けた時よりも歪が強くなったような気がしていて」
「ああ、なるほど……」
「何人かとやってみたんですけど、同時に3方向から受けるよりも2点攻撃される方が歪んでいる気がするんですよ」
「それ面白い気づきね。ちょっと、もう一度やってもらえる?」
ソフィー先生は学生の言ったことをちゃんと確かめていた。
「本当だわ……」
「じゃあ、ハサミで攻撃すればその防御魔法は崩れるかもしれないってことですか?」
俺は思わず口に出していた。学生たちからは笑いが漏れる。ナイフや剣の魔法はあっても生活用品の魔法なんてない。
「そんなハサミの魔法なんてまだこの世に……。コウジくん、ハサミの魔法って作れる?」
「え~、今のは口から出まかせで……、出来るかなぁ」
俺は両手にナイフの魔法を作り出して重ね合わせてみたが、支点がないから上手くいかない。むしろ重ね合わせた時の支点を意識してみると、魔力で草刈りバサミのようなものができた。
「ああ、ちょっと大きいですけどできました」
「じゃあ、その刃をもう少し伸ばして、この防御魔法が切れるかやってみて」
「はい……」
イメージの精度を上げ過ぎたので、正直予想は出来た。
ジョキン!
防御魔法はあっさりと二つに切れて、魔法は解除された。
「先日よ。アンチ防御魔法が出来たら歴史に名を残せるかもしれないって言ったのは。もう出来たってこと?」
「でも、これは俺がイメージの精度を上げたからかもしれません。もっと鉄ぐらい性質変化で硬度を上げれば切れないと思いますよ」
「それはそうでしょうけど、その場合は攻撃側が火魔法を付与すればいいってことじゃないかしら? ラミィさんの気づきから、あっさりコウジくんが発想して作り上げてしまったアンチ防御魔法として十分通用します」
ラミアの学生は喜んでいるが、俺としてはキツネにつままれたような気分だ。
「でも、結構難しいですよ」
「でしょうね。そもそも魔力でハサミを再現できる魔法使いが世界に何人いるか。もしかしたらハサミという武器そのものの可能性を引き上げたかもしれません。ただ、魔法使いと戦うとわかっていないと戦闘で使う機会は少ないでしょうけどね」
普及するような魔法ではないだろう。
「あ、大丈夫です。しっかり論文に残してエディバラの図書館に送ってみましょう。歴史的には残るはずです」
ソフィー先生の言葉を受けて、エルフたちも目の色が変わった。
その後、授業ではどうやって魔力で支点を作るのかという話に移っていた。
「雑貨屋でハサミを買ってくればわかりますよ」
論文には俺の名前も載るらしい。授業を受けていただけなのに。軽口なんて言うもんじゃないなと反省した。
「また、何かやらかしたって?」
放課後、ラジオ局に行くとグイルが待っていた。
「ああ、アンチ防御魔法を開発したから、論文に書かれるんだって」
「いいじゃない? 別に悪いことをしたわけじゃないんでしょ?」
ウインクはそう言ってくれるが、俺の軽率な発言まで固い論文に書かれると思うと申し訳なさしかない。
「でも、俺以外、誰も使わないんじゃないかな。魔力のハサミ」
「なんだ、それは?」
「今日は、それでいこう」
「やめてくれよ」
「鉄は熱いうちに打てって言うぜ」
「そんなことより魔石のストックがなくなってきてるからね。コウジ、確認しておいて」
ミストが棚の整理をしながら言ってきた。
「魔石? 何に使ったんだっけ?」
「ロケ用の機材でしょ。あと夏休み中だってコウジがいなかったんだからね」
「ああ、そうか……」
ラジオ局の機材はだいたい毎日俺が魔力を込められるが、普通は魔石で魔力を補充する。夏休み中もジルが使っていたのか。
「コウジは魔力が多いから気づかないかもしれないけど、田舎に行くと魔石なんか滅多に見れないものなんだぞ」
「でも、冒険者は見るんじゃ……?」
「そう。冒険者ぐらいじゃないか。俺はこの学校に来るまであんまり見たことがなかった。そもそも冒険者ギルド自体ない村だってあるんだからな」
「それはわかってるよ。そのために竜の駅で魔力の補充サービスをやってるんじゃないか」
「え? なにそれ?」
ウインクが俺を見た。
「え!? 知らない?」
「知らないよ。どういうこと? 竜の駅で魔力を補充してくれるの?」
「してくれるでしょ? というか、竜の駅にある施設は魔力を使うためにあるんだから、駅馬車に乗らなくてもどんどん利用していいんだよ」
「そうだったの!? ミスト、知ってた?」
「知らなかった。じゃあ、竜の駅にあるお風呂は竜が入るためじゃなくて、人間も入っていいの?」
「いいよ。いや、汚したりしたらダメだよ。でも、普通に入る分には問題ないというか、魔法使いたちは積極的に入った方がいいと思うけど……。知らない?」
ガチャ。
「おいーっす! またコウジがやらかしたって!?」
ゲンローがラジオ局に入ってきた。
「魔力のハサミの件は後で話しますから、ゲンローさんは竜の駅で魔力を補充できるって知ってました?」
「なんだ、それ? 聞いたこともないぞ」
「ええっ!?」
竜と生活をしていた俺としてはかなり衝撃的だった。
「また竜の引っ込み思案な性格が災いしてる?」
「いや、そうじゃないかもしれないぞ」
グイルが腕を組んで言った。
「だって、魔石なんて冒険者ギルドが鑑定して価格を決めているわけだろ? どんな魔物から出てきた魔石なのか大きさだけでなく色味や性質まで調べて販売している。これって魔石利権だよな。でも魔力を補充できるサービスなんてあったら、そっちに行くんじゃないか? その魔力補充サービスは無料なのか?」
「竜の駅では、空を飛んで人や物を運ぶ以外はほとんど無料だよ。もちろん周りで屋台やっているところもあるから、そっちは有料だけどね」
「これは狙って知らされていない可能性があるぞ」
「冒険者ギルドで魔石を売るために?」
「その通り!」
「おいおい現代社会の闇に切り込むつもりか!?」
ゲンローはちょっと面白がっている。
「でもさ、現実としてこのまま魔道具が普及していくと、冒険者たちが集める魔石だけで足りるのか?」
「それは、わからない。でも歴史の授業でも習った通り、魔石によって火の国が戦争を仕掛けたのも事実」
「扱いを間違えるとまた戦争が起きるのか?」
「どうなるのかがわからないって話さ」
グイルの懸念は正しい。武器への転用を考えると、魔石の代替え品なんて作ってはいけない。でも、時代が魔道具を求めているのも確かだ。
「竜の偉い人に聞いてみれば? なんで魔力補充を広めていないのか」
「そうだな」
ミストに言われて、頭を切り替えラジオを始めた。
内容は魔力のハサミ事件と学校に戻ってきたエルフが妙に固くなっている件について。
「うちの局長がまたやってくれました!」
「やってないって! 事件にするなよなぁ!」
夜が更け、ラジオが終わり全員自室に戻る。俺は、ちょっとだけラジオ局に残って黒竜さんに竜の駅の運営について聞いてみた。
「竜の駅のサービスって充実しているのに、何で知られていないんですか?」
『ああ、まぁ、竜は元々嫌われ者だからな。それは仕方ない。コウジがラジオで宣伝してくれればいいんだぞ』
「宣伝してもいいんですか? いろんなサービスがあることも」
『してくれるなら、ありがたいぞ』
「魔力の補充サービスもですか?」
『すでに知られているはずのことだからな。何か考えたのか?』
「いや、これだけ魔道具が普及し始めているのに、どうして誰も竜の駅のサービスを使わないんだろうと思って。なんだったら魔石に変わる魔力を溜めておく魔道具があったら売れるんじゃないかとすら思ってるんですけど……」
黒竜さんには正直に話しておく。事業を買うなら、普及していく物がいい。黒竜さんは竜の馬車を運営しているので、なんだったら共同出資してくれるかもしれない。
そんな淡い期待をしていたが、俺の予想とは全く別の答えが返ってきた。
『コウジは本当にナオキの息子なのだな』
「どういうことです?」
『同じことをやろうとして悩んでいた』
「そうなんですか?」
『ああ。間違ってもナオキにこのこと話すなよ。時代が追い付いてきたかと一気に進めてしまうかもしれん。ベルサに相談してみろ』
「ええ? 怒られないですか?」
『怒られるだろうが、我輩からも口添えしておく』
「わかりました。頼みます」
俺はそこで通信袋を切り、窓の外を見ながら、しばらくベルサさんに連絡する勇気を振り絞っていた。
『コウジ!』
立ち向かう相手から連絡があった。
「はい、こちらコウジです。ベルサさん、すみません!」
とりあえず謝っておく。
『なにを謝ることがあるんだい?』
「いや、そのぅ……。魔力の補充サービスを普及させようと思ってしまって」
『そんなことに対して怒ってるんじゃない。どうせこういう時代は予測できた。ナオキやコウジがやらなくても、誰かがきっとやっているさ。事実、うちの会社でも過去にいくつか魔力を保存する魔道具は開発してきた。それについてはアーリムに聞くといい。ただ、そんなものを普及させたらどうなるのか、少し想像してごらん』
「都市部だけでなく田舎でも魔道具を使えるようになるのでは?」
『それがいい面だ。悪い面は?』
「冒険者ギルドの魔石利権をぶっ潰すことですか?」
『まぁ、そうだな。つまり魔石の価値が下がる。それは冒険者たちが失業する可能性が高くなるってことでもあるんだ』
「あ……。そういうことですか」
俺はそこまで聞いてようやく理解が及んだ。
『わかるか?』
「はい。武力が余り、山賊や海賊が市中に溢れるということですか」
『そうだ。そもそも冒険者ギルド自体の構造もおかしいんだ。田舎にこそないと魔物なんか狩れないだろう? しかし大きな町には大きな冒険者ギルドがある。魔石の鑑定士の影響でもあるんだけどね』
「なるほど」
『鑑定とは名ばかりで、要するに魔石の価格を決めてるのさ。市場に出回っている魔石量から算出している。値崩れが起こると、一気に冒険者の大失業時代がやってくる。私たちは一人だけでも世界樹に行けば、大量に魔石を取ってこられるからそれが可能となってしまう。だから、冒険者ギルドから要注意人物に指定されてるんだ』
「でも、だったら、いつかそう遠くない未来、世界樹産の魔石が世界中に出回るということですか?」
『ああ。でも、そうなると輸送費の関係で、また田舎で魔道具が使えない事態が起こる。その都市と田舎の不平等をどう解消するのか、冒険者を失業させないかを考えないと普及させてはいけないというのが、今のところコムロカンパニーの結論だ。魔石で戦争している国を見てきたからな』
「新しい生活の技術はあっても、新しい職業の提案ができないために?」
『ナオキは失業した冒険者に、魔力を補充する魔道具を修理するエンジニアになればいいと勧めていた。理解してくれる冒険者はいなかったよ』
「じゃ、魔道具を作るもののカッコよさが伝われば、変わりますかね?」
『ああ、それは変わるかもしれん。コウジもいろいろやってみてくれ。私たちもこれまでいろいろとやってみたから』
「わかりました。ありがとうございます。すみません、夜遅くに」
『こっちは朝だよ。じゃあ、頑張って勉強してくれ。奮闘している姿を見せるのも学生の特権だ』
ベルサさんの励ましを受けて、俺は月を見上げた。少しだけ、親父が何と戦っていたのかわかった気がする。精霊や神々と戦っていたことばかり注目されているが、コムロカンパニーは、この時代を受け入れ生活する人たちのために仕事をしてきたんだ。
「そりゃ、なくならないわけだ……」