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駆除人  作者: 花黒子
『遥か彼方の声を聞きながら……』

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『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』25話「ラジオ局員たちの珍道中」


 砂嵐を避けてタイミングを見計らって砂岩の町へと向かう。

 幸い行商人のキャラバンと一緒に行くことができた。デザートサラマンダーに風よけになってもらったので、砂漠の旅も快適だ。俺は代わりに、砂漠の魔物を討伐する。

 砂嵐でそれほど魔物も出てくるわけではないが、時々サンドスコーピオンなど小屋くらい大きな魔物も出てくる。毒と魔石を採取して、行商人と一緒に解体すればすぐに仲良くなれた。


 砂岩の町に入ると、風はすっかり止んでしまう。

 行商人たちとはそこで別れて、身体中の砂を洗い流すために宿に直行。解体したサンドスコーピオンの毒と魔石を行商人たちが買い取ってくれたから、割といい部屋を取れた。共同シャワーの水も砂色ではなく透明度が高い。石鹸は母さんが店で売っているものを使っている。茶屋だというのに、化粧道具などや雑貨も売っているから不思議だったが、パレードの看板と知ると、なんとなく理解した。


 さっぱりしたところで、ラジオ局へ向かう。

 ガラス張りのブースの外に見覚えのある後ろ姿があった。


「あれ? グイル、何してるんだ?」

「おおっ! コウジ! お前こそ、どうした?」

「俺は火の国まで来たから、ちょっとラジオドラマについてどんなふうにやっているのか見たくてさ」

「そうか。俺は実家の手伝いでこっちまで来て用は済んだんだけど、せっかくだから本場のラジオ局を見たくなって俺だけ来たってわけさ」

 学校以外の場所でルームメイトに会えるなんて、嬉しいやら照れくさいやら、笑ってしまう。


「すっかりラジオ局員だな」

「コウジのせいだろ」

「ラジオドラマ聞いてるか」

「もちろん聞いてる。いやぁ、あれはすごいぞ。田舎でも演劇が聞けるんだから。しかも文字を読めない人にも伝わるだろ?」

「人気になった本の朗読劇もできるだろ?」

「あ、本当だ。そうか。本探しもしたいな……。でも、やっぱりできれば会話劇がいいよな」

「役者を何人か揃えられるといいんだけど……」

「ウインクだけじゃなぁ」

「ゲンローさんが演技できるといいんだけど、リアクションがよすぎるからなぁ」

「意外と、呼びかけてみたらいるんじゃないか? ほら、貴族の息子なら表にも出てるかもしれないし」

「ここのラジオドラマは誰が出てるんだ?」

「旅芸人さ。やっぱり会話と会話の間が上手いよな」

「抑揚もまるで台詞を喋っているようには聞こえないんだよ」

「そんな奴いるか?」

「声の専門家かぁ。ミストは!?」

「死霊術師か! 確かに死霊術は腹に響くような呪文の唱え方をするけれど……、それってマイクでどうにかならないのかな。あ、ほら、あのマイク最新式じゃ……!」

「あ、本当だ!」


 俺たちのラジオトークが止まらずブースの外で騒いでいたら、ディレクターにバレた。


「お前さんたち、ラジオ好きなのか!?」

「あ、その、学校でラジオ局を作っていて……」

「え!? ああ、もしかしてアリスフェイの総合学院のラジオ局か!?」

「そうです」

 知ってくれていたのか。


「せっかくだから番組に出ろ!」

「「ええっ!!」」

「あの体育祭で優勝したコウジだろ!?」

「はい!」


 その後、俺たちは砂岩の町でラジオ出演した。番組は急遽俺たちへのインタビュー番組に変わり、どうしてラジオが好きなのかとか、パレードはどうだったか、体育祭ではなにが起こっていたのかなどについて聞かれ、俺たちの方も台本を誰が書いていてどうやって出演者を呼んでいるのか聞いた。

 やはり出演者を呼ぶのは難しいらしい。どんなに面白い行商人がいても、彼らには本業がある。ラジオを仕事にできる人は稀なのだとか。


「もっと宣伝費があればなぁ」

 プロデューサーの言葉が印象的だった。

「それにしても頑張ってるなぁ。学生たちは」

 出演者の司会が褒めてくれた。


「まだよくわかっていないのでいろいろ試してます」

「いいなぁ! 若いって!」


 俺たちはお礼を言って、宿へと戻った。


「どうする? エディバラまで行って、新しいマイクを頼んでみるか?」

「いや、俺は旅費もないぞ」

「旅費は稼げばいいじゃないか。むしろ、地続きだし走るか」

「走るって。コウジ、俺はお前と違ってなぁ……」

「夏休み、何かあるのか?」

「ないけど……」

「あ、ちょっと待て。なんか連絡が来てる」


 俺は通信袋に魔力を込めた。


『コウジ!?』

 声の主はミストだった。


「どうした? 通信袋を作ったのか?」

『そうじゃない。今、北極大陸の基地にいるんだけど』

「あ、本当。夏だから、花畑がきれいだろ?」

『うん。本当にきれい。そうじゃなくて、あんたたち火の国でラジオに出たでしょ?』

「出たぞ。聞いてたのか?」

 グイルが声を出した。


『ええ、聞いてたわ。皆でね』

『おい! なんだ? 暇ならこっちに来いよ! ダンジョン探索しようぜ!』

 ゴズの声だ。

『コウジは来たことあるんでしょ?』

 ラックスもいるらしい。

「ありますよ。竜の学校に行く前だから結構前ですけどね」

『どういう少年時代なのよ、それ!?』

 ラックスには引かれた。

「あ、ミスト。ラジオのマイクを新調したいんだけど、基地に音の研究者がいなかった?」

『たくさんいるよ。私が総合学院のラジオ局員だって言ったら、すごいよくしてくれる。子守歌とか民俗音楽を保管しているでしょ? あれを持ってきてほしいって頼まれたんだけど』

「ああ、いいけど。録音機学校だよな。今からグイルとエディバラに行ってマイクを作ろうと思ってたんだ。そっちで、マイク作ってくれるよう頼んでくれる?」

『わかった』

「じゃ、頼みます」


 俺は通信袋を切った。


「そういうことになったぞ」

「待て。俺も行くのか?」

 グイルが驚いていた。

「暇だろ? 夏休みだぞ」

「俺、今日の今日まで実家に帰るつもりだったんだけど、北極大陸に行くのか?」

「なんだよ。グイルだってラジオ局員じゃないか」

「そうだけど……。ウインクを呼ばなくていいのか?」

「ウインクは仕事だからな。どこにいるのか……。ちなみにメルモさんに連絡するのは嫌だぞ」

「仕方ないか。どうやって旅費を稼ぐんだ? というか、どうやって行くんだ?」

「夏の間は竜の乗合馬車が近くの島まで飛んでるはずなんだ。そこからボートか、箒で行こう。大丈夫。子どもの頃、俺は行ってるから。旅費はどうにかならないか? 今、どのくらい持ってる」

 俺はベッドの上で財布袋を逆さにした。

 銀貨がたくさんじゃらじゃら出てきた。


「なんでそんなに持ってるんだよ。俺は銀貨三枚だけだぞ」

「砂漠でサンドスコーピオンを倒して、そのまま行商人に毒と魔石を売ったんだ」

「だったら、もっと高く買い取ってもらえばいいじゃないか。だいぶ損しているぞ」

「そうかな。この宿の部屋代もあったんだけど」

「いや、金貨くらいは貰っていいはずだ。そうか……。コウジは金銭感覚がバカだったな」

「仕方ないだろ。俺は冒険者ギルドから弾かれちゃったんだから、魔物討伐の依頼がどれくらい報酬を受け取れるのか知らないんだ」

「よし、じゃあ俺が冒険者になるよ」

「え!?」

「一緒になら依頼できるんだろ? 冒険者補助員だって言ってたじゃないか」

「確かに……。それならいいのか。でも……」

「そんなに俺に期待するなよ。俺はただの商人の倅なんだからな」

「わかってるよ。そんな裏技あるのか?」

「俺が正攻法で、コウジが裏技っぽいけどな。とりあえず、この町の冒険者ギルドに行ってくるよ」

 

 俺はグイルが冒険者ギルドで初心者講習を受けるのを近くのお茶屋のテラスで、お茶と甘い砂漠のスイーツを食べながら待っていた。


「甘いなぁ。お茶のおかわりを」

 2杯目のお茶を飲んでいたら、講習を終えたグイルがすっ飛んできた。


「おい、コウジ! 冒険者業界ってのは、一体全体どうなってんだ!?」

「どうした? 初心者いじめにあったか?」

「回復薬も魔道具のナイフも価格が異常だ」

「軍手とナイフだけは買っておけよ」

「ああ、大丈夫」


 グイルは初心者講習そっちのけで、売店の商品棚をずっと見ていたらしい。ある程度は知っていたつもりだったが、冒険者が扱う品に目が飛び出たと言っていた。


「品質の差で効果が変わるのはわかるが、価格が跳ね上がってるぜ」

「それだけ品質の高い商品が少ないんだよ」

「あと日頃、コウジの作った魔道具を見ているせいか特別なものだと思ってなかったけど、魔道具の武器や防具ってあんなに高いのか?」

「高い物は高いんじゃないかな。それによって生き延びられるかどうかも変わってくるからね。だから、学校にいる塔の魔女たちって、いずれ高給取りになると思うよ」

「それを早く言えよ。すげぇ業界だな。なんでも知ったつもりになってる場合じゃないな」

「それで依頼は取ってきたのか?」

「当り前だ。3枚ある」

 グイルは依頼書を見せながら、俺のスイーツを食べて「甘いなぁ!」とお茶を飲んでいた。


「俺でもできそうな、屋根の掃除とサボテンの実の採取、あとあやしい遺跡探索。ゴースト系の魔物がいるかもしれないから様子を見に行くだけでいいらしい。コウジにとっては簡単か?」

「いや、どんな仕事でもちゃんとやると難しいよ。順番にやっていこうぜ」


 砂岩の町は砂漠の中にあるので、砂が飛んで屋根に積もっていく。たまった砂は重い上に隙間に入り込むから、結構大変だ。スコップで地面に砂を下ろし箒で掃いて、水魔法できれいにしておく。やはり属性魔法を習得すると、仕事の幅も広がる。

 グイルは魔法以外の仕事はめちゃくちゃ働く。

「俺には体力しかないからな」

 しっかりサインも貰って初依頼達成。旅費という明確な目標があるのもよかったのかもしれない。


 サボテンの実も、砂嵐が止むタイミングで町を出てサボテンの群生地へ行き、大きな革袋三つ分しっかり採取。革袋で棘を押さえれば、割と簡単に採取できた。

「どんな時でも軍手とナイフは必要だな」

「今のうちに、遺跡の方も回っちまおう。砂嵐が来ると面倒だ」

「わかった」


 冒険者ギルドで教えてもらったという地図通りの場所に行くと、確かに遺跡があったが、観光地としては廃れていて半分砂に埋もれていた。中には死霊術師らしき人物たちが発掘作業中だった。


 遺跡から離れて、ミストに連絡して死霊術師が火の国で仕事をしているのか確認を取った。

『夏に北極大陸にいない死霊術師はもぐりだよ。ネクロマンサーかもしれないから、衛兵に通報しておいて』

「了解」


 砂岩の町へ行き、すべての依頼達成をギルドに報告。グイルの二日分の旅費は稼げた。


「おおっ。戦闘しなくてもちゃんと稼げるんだな」

「討伐の依頼は解体もあるし、時間がかかる。わざわざ見つけに行かないといけないし、魔物によっては準備も大変だ。もしかしたら稼ぐ効率が悪いのかもしれない」

「怪我のリスクもあるぞ」

「そう考えると普通はシーフがパーティー内での稼ぎ頭なのかな」

「ああ、どうなんだろう。次の町で見てみるか」

「そうだな」

 その日は砂岩の町で一泊。


 翌日、風のない朝方に出発して砂漠を抜ける。うまくキャラバンの荷台に乗せてもらえたので、昼まで楽だった。

 砂漠にオアシスが現れたかと思ったら、そこから草木が生えてきて一気に植生が変わる。ちょっと丘になっているらしい。

「たった、これだけで全然風の流れが変わって、草が生えるんだな」

「あ、コウジ、遠くに魔物がいるぞ。こういう時はどうするんだ?」

「襲ってこないなら放っておく。討伐の依頼書があったら、石でも投げて討伐するんじゃないか」

「普通はそんな討伐は出来ないだろ? 冒険者ギルドに報告して、討伐部隊を編成してもらってから準備して……。一日、二日はかかると見た方がいいんだろうな」

「ああ、だから大きな魔物の討伐依頼は報酬が上がるのか。解体したり、運ぶのが面倒だからだと思ってた」

「冒険者補助員、しっかりしてくれよ」

「俺、冒険者のことを全然わかってなかったな。アグリッパさん、大丈夫かな」

「なにが?」

「砂漠に来る前に会ったんだよ。変なアドバイスをしたかもしれない」

「先輩って大変なんだな」

「俺の言うことだからな。話半分で聞いてくれてるよ」


 近くの村まで行って、酒場に併設された冒険者ギルドで討伐依頼を見る。


「ヘビの魔物が多いな」

「草むらに隠れやすいからだろう。あとは、グリーンディアやグリーンタイガーもいるのか……」

「グリーンタイガーなんて遭ったら逃げないといけないんだろ?」

「そうでもないさ。それよりさっき見たグレズリーの方がヤバい。肉も分厚いし運ぶのが大変だ」

「それは倒せる前提だろ?」

「あ、そうか。でも、倒し方なんて何でもいいだろ?」

「いや、安全に倒すのが冒険者の腕の見せ所なんじゃないか」

「安全な魔物なんていないよ。だから報酬が出るんだ」

「それは違いない。で、どうやって倒すんだ?」

「石投げて」

「いや、それじゃ俺が依頼の達成報告しにくいよ。武器は?」

「武器!? 武器なんて何でも……」

「初心者にお勧めの武器とかないのか?」

 グイルにそう聞かれて、冒険者ギルドの棚に並んでいる剣や盾を見た。

 品質のいいものは高い。刃こぼれしたり修理された古い武器は価格が低い。


「必要なのか? 武器が」

「そりゃ、戦うんだから必要だろ?」

「いや違う。魔物を仕留めればいいだけだろ? 戦う必要はないんじゃないか? このヘビの魔物の依頼っていくらでも請けられるのか?」

「請けられるけど上限があるよ」

 酒場のマスター兼冒険者ギルド職員のおっちゃんが答えた。


「100匹以上から価格は下げさせてもらってる。昔、マスマスカルってネズミの魔物を大量に駆除した冒険者がいてな。依頼主も冒険者ギルドも払えなくなったことがある。そのためのルールさ」

「それって……」

「文句があるならコムロカンパニーに言ってくれってギルドに伝わるマニュアルだ」

 グイルは俺を見て笑っていた。コムロカンパニーは依頼のルールを変えてしまったらしい。

「討伐して来たら、討伐部位と魔石を買い取ってくれますか?」

「もちろんだ。どっちかが冒険者であれば、買い取る。ちゃんと装備を揃えろよ。草原は魔物がたくさんいるからな」


 俺たちは依頼書の写しを貰って、どうやって魔物を討伐するのか話し合った。


「グイルは高い装備は買えないよな」

「ああ、短剣くらいかな。でも、ないよりはあった方がいいだろ?」

「いや、もっと商人っぽい仕事をした方がいい」

「どういうことだ?」

「収支のバランスと討伐にかかる時間を考えてくれ。討伐に掛ける時間を極力短くするんだ」

「作業として考えてみろって言ってるのか?」

「そうだ。ブーツは履いているし、丈夫な鞄はあるだろ? あと必要なのはスコップくらいだ」

「へ? 落とし穴でも掘るのか。コウジ、もしかして俺たちは魔物と戦わないのか?」

「ああ、とどめを刺すだけ。あとは、討伐部位や死体を運ぶだけにしよう」

「わかった」

 俺は雑貨屋に行って、一番安いスコップを二本買い、草原へと向かった。


「獣道が見えるか? ちょっと草が踏まれて倒れたりしているところがあるだろ?」

「あ、本当だ。そこに落とし穴を仕掛ければいいのか?」

「その通り。あと、馬車の荷台が壊れて捨てられたり、小屋が捨てられたりしてるだろ。たぶん、小型の魔物の巣になっているはずだから、周囲に罠を仕掛けて煙で燻せばいい」

「もし大型の魔物が来たら?」

「石を投げて逃げよう。砂でもいい。いや、砂を目にぶつけた方がいいのかもしれない」

「その間に逃げろってことか」

「そう。無理して戦う必要はない。とにかく無駄な作業を増やさないことだ」

「効率的な稼ぎ方だな」

「仕事だから」

「確かに」


 どうやって稼ぐのかがわかると本当にグイルは働き者だ。落とし穴の深さや大きさ、草を被せる隠し方もきれいにこなしていく。


「よし、次!」

「グイルは優秀だったんだな」

「作業さえわかってしまえば後はやるだけだろ? しかもリスクもちゃんと考えられている」

 落とし穴を作りながら砂が入った袋を作っていたらしい。

 魔物が落とし穴にかかるのを待っている間に、次の落とし穴を作る。固い草の茎で返しを作れば、それだけ落とし穴から出るのが難しいと教えると、すぐに採用していた。


 廃屋で計画通りにヘビの魔物を捕獲。火魔法を使えるようになったので、かなり楽だ。罠にかかった魔物をナイフでとどめを刺して、魔石を取り出し袋に入れていく。


「全然討伐って気がしないな」

「捕獲は罠がしてくれるからな」

「後は、討伐した魔物を冒険者ギルドに持って行けばいいだけだな」

「そう。罠は直せばまた使えるから、やっぱり魔石を取り出して運ぶ方が時間はかかるよな」

「村に帰る間にも罠は働いてくれるのか。罠があるだけで、何度も収穫できるみたいだ」


 グイルのやる気は一気に上がり、何度も草原と村を往復していた。

 そのうちに落とし穴の罠が壊れた。


「もうちょっと丁寧に返しを作らないとダメだったのかな」

「いや、グリーンディアだろ? ほら、あそこ。片足怪我してる。落とし穴にはまって無理やり抜け出したんだ」


 草むらの中にグリーンディアが歩いている。


「倒すか? 討伐依頼が出ていただろ?」

「グリーンディアの重さと今の体力を考えると報酬に見合うかな」

 グイルが腕を組んで考え始めた。

「考えている時間はないぞ。ほら、グレズリーがケガしたグリーンディアを狙って出てきた」

「え!? 逃げよう!」


 グイルが逃げようとしたときには、俺は石をグレズリーに投げていた。

 鼻を潰し目玉にぶつかった小石は、勢いよくグレズリーの頭蓋骨を割り、そのまま後頭部を突き抜けていった。


「あ、ごめん。倒しちまった」


 ズンッ。


 グレズリーが仰向けに倒れ、周囲の小鳥たちが一斉に飛び立った。


「ええっ!? 結局コウジが倒してるじゃないか」

「うっかり咄嗟に石を投げちゃったんだ。でも討伐時間は短かっただろ? 一瞬で済んだ」

「だからって、あんな巨体、運べないぞ」

「俺が運んで冒険者ギルドには説明するよ」

「いや、しっかり報酬は貰おう。俺も手伝う。これでも荷運びのスキルは取ったんだ」

「それを早く言えよ」

「いや、自分で鍛えた方がスキルポイントを使わなくて済むだろ?」

「確かに」


 俺たちはグレズリーの腹を開いて魔石を取り出し、落とし穴に血を流した。ロープで縛り運びやすいようにしてから、村へと運んだ。


「おいおい! お前たち、ルーキーじゃなかったのか!」


 酒場は大盛り上がりで、飲んでいた冒険者や肉屋がやってきて解体をしてくれた。夕飯は熊肉が村人たちに振る舞われた。

 周辺では最も凶暴な魔物だったらしい。

 報酬も一気に増えて、北極大陸までの旅費は稼げた。リュックも服もすべて洗い、洗濯紐に干す。


「冒険者の仕事ってこれで合ってるのかな?」

「俺にもわからん」

「突発的に金が必要になった時、稼ぎやすいってことはわかったよ。でも戦闘がいつ必要なのかはわからなかった。魔道具の剣っていつ使うんだ?」

「それがわかれば、補助員じゃなくて立派な冒険者になれるんだろうな」


 翌日には一番近い竜の乗合馬車に乗って、アリスフェイへと向かう。

 総合学校のラジオ局から、録音した機材をピックアップして、再び竜の乗合馬車に乗って、北極大陸に近い島へ向かう。

 海鳥の魔物だらけで、白い糞が降ってくる。ただ、この糞はいい肥料になるらしく、集めている人たちもいた。


「なんでも売れるんだな」

「俺は商売の見方が変わったよ」


 俺とグイルは荒れ狂う海を定期船で渡り、北極大陸に到着。一面の花畑で休憩して船酔いを覚ました。


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