44話
アイルに一匹だけ、ゾンビを引っ張ってきてもらって、捕獲。ベルサにゾンビの種類を特定してもらう。
捕獲後、そのゾンビに効く薬を特定し、散布していく計画だ。
「おーい! 連れてきたぞー!」
意外にアイルの仕事が早い。
手に酒瓶を持った片目のゾンビを一匹だけ引っ張ってきた。
朝に弱いのか、そもそもなのかわからないが、ゾンビの進む速度は非常に遅い。
「うん、あれは普通の『動く死体』つまりゾンビだ。空気感染はしないが、噛まれたりすると、ゾンビ化するタイプだな。回復魔法や、回復薬、聖水、何でも効くぞ」
「とりあえず捕獲だな」
俺はそう言うと、浜辺で拾った破れた投網をゾンビに向かって投げる。
網に絡まったゾンビは、その場にうずくまるようにして捕獲された。
一応、アイテム袋から、回復薬を取り出し、ポンプに入れ噴射し、効果を確かめる。
ゾンビは白い煙を上げながら、溶けていった。
効果は抜群だが……。
「ん~しかし、町全体にいるゾンビに使うとなると、回復薬の量が心配だな」
「聖水はないか?」
「ないなぁ。そもそも教会と関わってこなかったからなぁ」
「町の教会にあるかもしれないぞ」
「確かにあるかもしれないが、聖水が汚染されている可能性もある」
「じゃ、塩は?」
清め塩ということだろうか。
塩なら、料理する時に使うので、あるにはあるが……。
「塩水だったら、大量にあるんだけどね」
海を見ながら言う。
「試してみよう」
海水を汲んで、ゾンビにかけると、回復薬ほどではないが、そこそこ効く事がわかった。
「だったら、ゾンビを海に放り込めばいい」
アイルがナイスアイディアを出す。
海に放り込めば、効果が薄くてもいずれ死ぬだろう。
「でも、その場合、経験値って誰に入るんだろう?」
「さあ? ま、試してみよう」
「私はゾンビ化の解毒薬を作ってみるよ。こんな機会なかなかないし、誰かが噛まれた時用にね。ナオキ、マスマスカルを捕まえる罠を貸して、あと回復薬も」
「OK」
俺はベルサにアイテム袋に入ってるベタベタ罠をあるだけ、回復薬を半分ほど渡す。
ベルサは、周囲の藪や、道にベタベタ罠を仕掛け、竜たちがいる建物に入っていった。
今のところ、建物の中には竜たちしかいない。
ベルサは水竜ちゃんの周りにも罠を仕掛けていた。
「さてと、どうする?」
港町をうろつくゾンビたちを見ながら、アイルが聞く。
「とりあえず、生肉には群がるのかな?」
試してみる。
幸い、スノウフォックスの生肉が大量にアイテム袋に入っているので、それを使った。
ゾンビが生肉に群がることを確認後、罠を仕掛ける。
廃墟となった船小屋から釣り糸と釣り針を借り、生肉を餌に、桟橋の突端の柱に括りつける。
肉に向かって飛んだゾンビが海に落ちるようにしてみた。
パン食い競走のパンのように、いくつも生肉を仕掛ける。
壊れたボートも使った。
ボートの中に生肉を入れ、ロープで桟橋に括りつけ、海にボートを流す。
ボートめがけて飛び込んだゾンビが海に落ちるように、ロープの長さを調節。
二人で手分けをして、港町の坂の上から、海に向かってスノウフォックスの血を垂らしていく。
所々で、肉の破片を置いておけば、ゾンビも期待するだろう。
垂らした血の最終地点は罠を仕掛けた桟橋だ。
血の匂いに誘われて、動きが緩慢なゾンビたちが群がってくる。
ゾンビの動きは遅いので、ほとんど危険な場面はなかった。
唯一、教会の脇から出てきたゾンビ化した神父が俺たちに向かってきたが、足元にあった水瓶をひっくり返して、勝手に溶けていった。
水瓶には聖水が入っていたのだろう。
「あの人が、今日一で間抜けだったな」
「うん。あとはゾンビが海に飛び込むのを見てるだけ?」
「そうだな。じゃ、俺、教会で寝てるから、アイルはベルサの方手伝ってきて。時間あったら、回復薬に使う薬草採ってきてほしいんだ」
「わかった。しかし相変わらず、魔物倒している気がしないよなぁ」
「駆除だからね」
アイテム袋をアイルに渡し、俺は教会に向かう。
俺は、教会の中にあった聖水らしき水を、入り口の扉にかけておく。
ゾンビ神父が溶けた後、探知スキルで教会を見たら、魔物の気配がなかったので、寝床にちょうどいいと思っていた。
久しぶりの睡眠。教会のベンチに横になると、すぐに眠ってしまった。
「コムロ氏……、コムロ氏……」
途中で俺の苗字を呼ぶ声がした気がしたが、この世界に苗字で呼ぶ奴なんていないので、俺は再び深い眠りについた。
起きたのは昼過ぎ。
自分の体に噛まれたりしている傷はなし。
探知スキルで町を確認すると、桟橋にゾンビたちが集まっているのがわかる。
教会を出て、ゾンビたちがバチャバチャ海に落ちる音を聞きながら、黒竜の塾へと戻る。
「くあっ~~あ、ねみ」
あくびをして、寝ぐせのついた頭を掻く。
「腹減ったな。竜って何食べてんだろ。虫かな? あ、ワイバーンか」
などと、ひとり言をつぶやきながら、港町の坂を下る。