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駆除人  作者: 花黒子
『遥か彼方の声を聞きながら……』
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『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』12話「食事会と一筋の光」


 参加者のポスターを廊下に貼り出した日から、明らかに学生たちの視線が変わっていった。ホールで立ち姿や歩く姿の練習をすると、学生たちが集まってくる。

 休み時間や昼休憩など玄関ホールに集まるので、ポスターと学生を見比べているだけかと思ったら、見惚れている学生たちも多い。

 なにより参加者たちが急激に顔が変わったように見える。


「どうなってるんだよ?」

「人は見られていると思うと変わるのよ。一挙手一投足に緊張感が宿る」

 ウインクは笑みを浮かべながら説明した。


「言ってきたように、あなた方は今どこに出してもおかしくない美人だわ! 背筋を意識して、手先つま先まで見せつけてあげなさい! 魅了するんです! 周りの学生たちはあなたたちしか見てないわ!」


 女性参加者たちは化粧もしているせいか、本当に応募してきた頃とはまるで別人になっている。時々ウインクが着る衣装によって性格まで変わることがあるが、彼女たちもいつの間にか迂闊に喋りかけられない雰囲気を纏い始めていた。

 どんな冗談も鼻で笑われて終わりそうだ。すごいのは、笑みを浮かべた時に自分を見られているような感覚があることだ。「自分に微笑んだと思わせれば勝ちだ」とウインクは言っていたが、まさにそれだ。本人たちはどこでもなく遠くを見ているらしい。


 ただ、ものすごく疲れるらしい。練習終わりには参加者全員がゼイゼイと肩で息をしながら座り込んで汗を拭いていた。ウインクはその参加者全員の前に立っていた。


「食事会まで3日、皆、お尻掻かないようにね。常に見られている感覚を持って、逆に魅入らせていって。会話はさしすせそね。さすが、知らなかった、素晴らしい、センスある、そうなんですね。何を話しているのかわからなければこれだけ覚えて」

 ウインクが手を叩くと、女性参加者が立ちあがる。


「さあ、残り3日、生まれ変わった姿で青春を楽しんでいきましょう!」

「「「はい!」」」


 全員疲れているはずなのに、テンションが上がっている。学生たちは元より、教師たちや用務員の人たちまで見に来た。

 エルフの留学生たちもいるが、参加している同胞たちの変わりように目を丸くして言葉を失っている。元々整っている顔が多いエルフたちが、化粧をして仕草まで変えるとここまで変わるのかと俺も思った。


「ストレスでニキビできてる人は回復薬の塗り薬あるからね。マフシュさんの睡眠導入具もあるから試してみて」

 グイルは無料で参加者たちに配っていた。

「彼女たちが使っていると、勝手に売れるからさ」

 商機を取りこぼさないのがグイルのすごいところだ。


 貴族連合の方も徐々にレベルが上がっていっているらしい。

「ヒライとエリックが別人になって帰ってきたぞ。何をやったんだ?」

 雇われ教官のドーゴエが聞いてきた。

「一緒にワイバーンを倒しただけです」

「無駄がないし、魔物に近づきすぎた先輩連中の首根っこを掴んで引き戻したりしている。補助に回った時の立ち回りがよくなったな」

「たぶん、魔物の動きが見え始めたんだと思います」

「そうか……。元々素質もあったのだろうが、成長は一瞬で決まるな」

「今までの努力が表に出て来てるんですかね」

「ああいうのを相手するのは疲れるんだ。軍の兵たちもそうだけどな。ギリギリで引いていくから、追わないといけない気がしてくる。準備の差で負けることもあるからな。ああ、くそっ。今年の体育祭はどうするんだ?」

「俺はラジオ局に張り付いてますよ。ラックスさんが行くんじゃないですか?」

「そんなに強くなってるのか?」

「教会に行ってからの魔力の伸び率がおかしいのだ」

 ダンジョンから出てきたゴズが横から口を挟んできた。


「ラックスの話か。あれ、本物の精霊連れてきちゃダメだよ」

 エルフのガルポも会話に参加してきた。

「本物の精霊?」

「ああ、魔力に人間の匂いがしなくなってきてるって話さ。あのまま勇者になるのかな」

 勇者は精霊が選ぶと言われている。今の光の勇者を見ると、光の精霊が後継者を探していると言われても納得してしまう。


「よし、だいたい終わったぞぉ!」

 アグリッパが貴族連合の面々を連れてダンジョンから戻ってきた。

「あとは二人組で潜り続ければ、そのうち初級者用のダンジョンでは敵がいなくなるはずだ」

「「「ありがとうございました!」」」

 貴族の息子だからか皆礼儀正しい。

 ケガをしている者も多いが、それほど傷は深くないようだ。突き指や擦り傷程度だろう。


「食事会まであと何日だっけ?」

「3日です」

「じゃあ、それまでに自分でついた嘘くらい本当にしてきてくれ。本物になれるかどうかはここで決まる。油断するなよ!」

「「「はい!」」」


「男女揃ってきたな」

 ゴズはここから上級者向けダンジョンでリュージと手合わせだそうだ。体育祭の準備も始まっている。


 食堂を飾りつけるための蠟燭や空中に浮かぶ燭台などを作り、料理などを決め、学生たちの故郷の音楽などを探して録音など、ラジオ局メンバーは動き続けていた。


 3日などすぐに過ぎ去ってしまう。

 食事会当日は皆、寝不足だったが気つけ薬を鼻に突っ込み、大音量で戦いの民族音楽を聞いてから着替えた。今日はいつもであれば授業のない休日のはずだが、学生たちも職員たちもどこかそわそわと緊張している。


「やるだけのことはやった。あとは参加者が楽しんでくれることを願うだけよ。さあ、いきましょう!」

 ウインクの掛け声で部屋を出た。

 厨房からすでにいい香りが漂っている。

 控室である教室では、女性参加者たちがメイクをしていた。髪型もほとんどきっちり固まっていて、身体もぴったり服に合っている。ダンサーの様だ。


「さ、皆、準備はいい?」

「「「はい」」」

「前半は食事でお腹いっぱいにしないように。女性たちの皿は少なめにお願いしているから。後半のダンスは殿方に任せるところは任せて、エルフの激しい音楽が始まったら、自由に楽しんで」

「わかりました」

 音楽は演奏の里からやってきたエルフの留学生たちが担当してくれる。弦楽器も太鼓もめちゃくちゃ上手いので即採用した。音楽が始まると、貴族たちがエスコートして社交のダンスを披露。後半は慣れてきたらテンポの速い曲で楽しい食事会だ。

 成人に達している学生には酒もふるまわれるという。


「注意事項は飲み過ぎないこと。初めに登場から行くよ! 準備はいい!?」

「「「「はい!」」」」


 ウインク以外の三人は教室から飛び出して、ホールの窓や扉を閉めていく。


「入るなら入ってください。間もなく食事会を始めます!」

「ゴズさん、明りをお願いします」

「おう、わかった」

 影魔法を使えるゴズに魔石灯の明かりを消してもらう。昼の日差しが消え、ホール全体が暗くなる。

 食堂には空中に浮かぶ燭台に灯された蝋燭の明かりだけ。すでにテーブルクロスがかけられ銀の食器が並べられている。 

 階段や壁際には学生や職員たちが並び、今か今かと待っていた。ファンになった女性参加者の話をする者たち。貴族連合の女子学生は男子学生たちの噂話をしている。


 ラジオから小さな音量で音楽が流れ始めた。気づいた者たちから黙り始める。音楽のボリュームが上がり始めると、自然と全員黙る。音楽が止まると緊張感がホール全体を包み込んだ。


 コンコン。


 静寂の中、玄関ホールの扉を叩く音がする。


「貴族の皆さまがご到着です」


 正装したグイルが扉を開けると、逆光の中、貴族連合の参加者たちが二列になって入ってくる。魔石灯の明りが貴族連合たちに当たった。

 皆、地元の正装をしているが、明らかにいつもより自信に満ちた顔をしていた。髪型も極まっている。何かを繕うつもりもなく驕ることもない実直な人柄をそのまま出したような歩き方で笑みを浮かべていた。爽やかで清潔感溢れる男子学生たちに、同じ貴族連合の女子学生たちが顔を赤らめている。

「そりゃ、モテるわ」

 ゴズの小声が聞こえてきた。


「お嬢様たちの準備が整いました」


 ウインクの声が玄関ホールに響く。廊下に明かりが灯り、ドレス姿の女性参加者たちが一斉に教室から出てきた。頭は動かさず全員自信に満ち溢れた姿をしている。足並みはそろっていて、誰一人遅れるようなことはない。肩の力が抜けていて誰もが笑みを浮かべ気品があった。歩いているだけなのに惹きつけられる。化粧の中にキラキラと光る魔石の粒が入っていたようで、女性参加者たちは全体的に輝いて見えた。移動すると春の花の香りもしている。

 

 壁際で待機していた貴族連合の参加者たちは、魅了されているようだ。見に来た学生たちや職員たちも呆気にとられたように口を開けたまま動けないでいた。


「どうぞ、皆さま食堂の方へ移動してください」


 皆、それぞれが緊張しているのは伝わってくるが、女性参加者の誰一人、雰囲気にのまれていないように見える。それだけでもウインクと特訓した甲斐があるのではないか。


 食堂のテーブルにはネームプレートがあり、それぞれの椅子に座った。

 厨房からエリザベスさんとレビィが出てきた。

「料理長のエリザベスと……」

「レビシエです」

「私たちはラジオ局から話を貰って、随分悩んだんだけどね。見た目も含めて腕によりをかけて作らせてもらったわ」

「ナプキンは膝の上、フォークとナイフは両端から使っていって、足りなければ言ってくれる? あ、でもそれは後半からの方がいいのかしら。皆の故郷の味もふんだんに取り入れてみたから、どうぞ楽しんでいって」


 2人が厨房に行くと、料理人たちが出てきて、参加者たちのテーブルに料理を並べていく。前菜からスープ、魚料理、肉料理、スイーツの順で出てくるらしい。胃に優しいのだろう。

 飲み物は自由だが、お酒はもう少し後になってからしか出ないようだ。


 皆、黙々と食べているものの、なかなか話し出さない。


「喋って貰って構わないんですよ。貴族のお兄様方、最近何の魔物を狩ったんです?」

「いや、大した魔物を相手にはしてませんから……」

 しびれを切らしてウインクが笑いを誘っていたが、なかなか緊張感を解くのは難しい。会話のさしすせそも使えない。


「ちょっとコウジ、鍛え過ぎたんじゃないの?」

「そんなことはないと思うよ。皆、頑張ってたから、たぶん正直に話してくれると思う。な! エリック」

 俺も給仕をしながらエリックに振った。


「先日、ワイバーンを狩りに行ったんだけど……。貴族連合の後輩とコウジと一緒でさ。正直、それまで一年何をやっていたんだろうと思うくらい何もできなかったんだけど、コウジと狩りをすると、やることはいかにコウジの近くにワイバーンを打ち落としていくかだけなんだよ。そこで、ようやく自分が倒さなくても倒せる者に任せればいいんだということがわかった。つまり倒しやすいようにするまでが自分の仕事なんだと気づけた。本当にこの食事会があってよかったよ」

 エリックが語り始めてしまった。

「エリック、話がちょっとズレてきてるから、自分の自慢話をした方がいい」

「いや、自分が自慢できることなんてないよ。田舎貴族出身で、なんにもできなかったのにこんな豪華な食事会を用意してもらって恥ずかしくてしょうがないよ」

「それを言うなら、私もそう。この年になるまで化粧なんてしてこなかったの。勉強さえできればいいと思っていたし、誰かの視線なんて気にしたこともなかった。でも、見て。この姿を。皆、見惚れるくらい美人になったでしょ。女の私でも見惚れるのよ」

 エルフの女子学生が話し始めた。花屋の娘の友達だったかな。

「そうじゃなくて、自分を出して……」

 ウインクが小声で教えていた。


「貴族連合の男性も気づいていると思うけれど、美しさのためにはものすごく努力が必要なの。一朝一夕で誤魔化せるような美しさはすぐにばれてしまうわ。私はこの中にいてもいいだろうかって毎日悩みながら生活していた。どうにか周りの足を引っ張らないようにって。だから、今一緒にいる女性陣は本当にものすごい努力家で、皆励まし合ってこの美しさを手に入れたの。思慮深く、すごく心根の優しい女性たちです。だから、本当に幸せになってほしい。ここにいて一緒に食事ができることを誇りに思うわ」

「あれ~? そうじゃないのよぅ!」

 ウインクが涙を浮かべながら困っていた。

「ウインク、ごめんね。私たちが話せるのはこれくらいしかないわ」

「いや、趣味の話とかさぁ。ビンゴする?」


 困ったウインクを見て、参加者たちは全員笑っていた。場が崩れたので一気に和み、皆、共通の話題である料理の話や授業の話なんかをしていた。結果的に楽しければそれでいい。

 ワイバーンの肉を食べたことない学生たちが多く、かなり喜ばれた。デザートはレビィ特製のケーキで、ものすごく美味しそうだった。後で貰おう。

 そのうちに食堂の後方に作られたステージに楽器を持ったエルフたちが登場。演奏が始まり、男性陣が女性たちを誘ってダンスを始めた。


 料理が終わり、お菓子や飲み物を出すようになってきたので、とりあえず俺は厨房の裏から外に出て休憩。お茶を飲み、シャツのボタンを外したところで、ガルポとリュージが走ってきた。


「森がアルラウネの群れに襲撃されている!」

 見れば森に土煙が立ち上っている。アグリッパのポチだろうか。

「どこから?」

「ダンジョン跡だ。トンネルになっていたらしい」

「たぶん、エルフの人攫いたちだ。『月下霊蘭』の開花時期が近づいてきていて、学生たちを誘拐しようとしているんだと思う」

「わかった。今、食事会をしている最中だから、静かにやろうか」


 俺は武器を取りに鍛冶場へ向かった。

 ゲンローがすでに準備を始めていた。


「襲撃だって? ほら、コウジならこれくらい振り回せるだろ?」

 ゲンローは大槌を放り投げてきた。俺は空中で掴むと軽く振ってみる。

「悪くないっすね」

「緊急事態だ。それで暴れてくれ」

 リュージとガルポにも剣と槍を渡していた。


 俺たちは森へ走った。

ダンジョンを通り過ぎる時に、「コウジ!」と上から声をかけられた。

見上げるとマルケスさんとソニアさん夫婦がダンジョンがある世界樹の切り株の上からこちらを見ている。襲撃を見物しているのか。


「ソニアさん、久しぶりです!」

「このくらいの森なら、すぐに復活できるから、思い切り暴れなさい! いい音楽も聞こえてくる!」

 ソニアさんは明るく笑っていた。

 確かに食堂で演奏している音楽がラジオから流れている。ミストが町の人たちにも聞かせていたのか。


 ゆっくりとした音楽に合わせて、俺は魔力を練り上げる。


「遅いわ!」

「ダンジョン跡地でアグリッパとラックスが止めてる!」

 森の中でアルラウネと戦っているシェムとダイトキには怒られた。


「ちょっと給仕をしていたんでね」

 アルラウネを大槌で粉砕しながら、通り過ぎる。


「ガルポ、森の精霊を呼べるか? 校舎の方に被害が行かないように壁を作ってほしいんだ」

「わかったぞ」

「リュージ、取りこぼしがないように空から見張っておいてくれ」

「仕方ない」

 リュージは竜の姿になって空を飛んだ。

 

 目の前でアグリッパとラックスがアルラウネの群れと戦っていた。

「ほんじゃ、やりますか!」


 ドゴン!


 大槌を振り回し、アルラウネを吹き飛ばした。


「胸の魔石さえ外せば動きは止まります!」

「コウジ、遅い!」

「すみません。その代わりいい曲流してますから」

「どう関係あるのよ」

 ラックスは困りながら笑っていた。


「向こうでドーゴエとゴズがエルフの山賊と戦ってるんだ」

「応援行ってあげてください。こっちを片付けたら、俺も行きますから」

 アグリッパは双頭の狼オルトロスのポチを連れて、森の奥へと向かった。


「ラックスさん、今の光魔法の全力って出したことありますか?」

「コウジ……、知ってたの?」

「皆、ラックスさんの魔力量が上がっていることは知ってますよ」

「そう。全力か……。やってみるか。時間かかるよ」

「大丈夫です。道だけ作っておきますから」


 ビュッ!


 ダンジョン跡から出てくるアルラウネを粉砕。エルフの民族音楽がアップテンポに変わった。今頃、食堂では皆、楽しく踊っている頃だろう。


 俺も大槌に魔力を込めて、大気中の水分を集める。そのままダンジョン跡のトンネルに流した。大槌がどんどん冷えていくが気にせず、そのまま水が溢れるイメージを保ち続け、温度を氷点下以下まで下げた。

 流れた魔力が俺のイメージに呼応するように凍っていく。


 パシィッ!


 ダンジョン跡のトンネルにいたアルラウネの足が凍って、動けなくなっている。


「頼みます」

「ちょっと離れてて」

 ラックスの体全体が魔力で光り輝き、指先に集まっていく。濃度が濃い魔力と眩しい光が小さな球型に纏まる。


「光の力よ。応えておくれ……」

 ラックスの声が聞こえた。


 パッ!


 眩しくて一瞬周囲が光に包まれた。何が起こったのかわからなかったが、ラックスが放った光魔法はダンジョン跡のトンネルを貫き、森の奥まで続き反対側の出口から光の柱となって噴出していた。反対側の穴は王都の外、軍がいつも訓練をしている森だろうか。


「へへ……」

 ラックスは自分の光魔法の威力に戸惑いながら笑っていた。


「すげぇ。なんすか、その必殺技」

「コウジが思い切りやれって言うから、音楽に合わせて魔力を込めたのよ……」

 トンネルがあった穴は広がり、地面が隆起している。アルラウネは跡形もない。


 ドーゴエやドズたちがエルフの山賊を縛り挙げて森から出てきた。


「なんだ? 今の光は」

「ラックスさんの必殺技です」

「反則だろ。あれは……。見ろ。山賊が呆気に取られて動けなくなってるぞ」

「とりあえず、何事もなく終わってよかったよ」

 

 特待十生が捕まえたエルフの山賊たちは、そのまま学外に出され衛兵に引き渡した。

 食堂で奏でられている音楽はラジオから響き続けている。


 ダンジョン跡地から続くトンネルのことや、エルフの山賊のことは後日学生たちに知らされることになった。


 食事会は成功のまま終わり、カップルができることはなかったものの参加者たちは顔見知りになった。もしかしたら、ラジオ局が知らないところでカップルになった者たちもいるかもしれないが……。


 参加者たちがお礼を言う中、俺たちは食堂の片づけをして食器を洗い、協力してくれた人たちに感謝を込めて頭を下げに行った。

 休日だというのに協力してくれた料理人たちやエルフの演奏家、理解してくれた教師陣、参加者のファンになってくれた学生たちにもお礼を言った。


 全て終わったのは夕方頃。俺たち4人はラジオ局に集まっていた。


「途中でコウジ、抜けたでしょ? 何かあったの?」

 ミストが一歩も動きたくないと寝転がりながら聞いてきた。


「森で山賊とアルラウネが襲撃しに来たんだ」

「え!?」

「大丈夫だよ。特待十生だけで対処できた。ほとんどラックスさんがやったようなもんだけどな」

「音楽とダンスで全くわからなかったな」

 グイルも伸びをしてから、床に寝転がった。ウインクはすでに寝て目をつぶりながら俺たちの話を聞いている。

「いい曲だったな。ミストがラジオで流してくれたんだろ?」

「そう。私たちだけで楽しむのはもったいないじゃない。玄関ホールでもオードブルが皆に振る舞われていたのよ。余りものだって言ってたけどね」


 俺も疲れていたのか寝転がると床が冷やりとして気持ちがよかった。給仕の服も汚れてしまうが、後で洗濯をすればいいだろう。


「ねえ。また、やらない?」

 黙っていたウインクが口を開いた。

「しばらくはいいや」

「ウインクはちょっと悔しいのよね?」

「トークの練習をもっとさせとくんだった。あいつら正直に話せばいいと思って……。ね、また年末に食事会やろうよ!」

「年末なんてどうなるかわからないだろ。来年でいいんじゃないか」

「そうそう。靴も返しに行かないといけないしさ」

「靴かぁ。そうだよねぇ。でも、来年ならやるのね? 言ったからね!」

「「「考えとく……」」」

 今はなぜか心地いい床で眠りたい気分だった。



 事件は食事会から四日後に起こった。



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