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駆除人  作者: 花黒子
『遥か彼方の声を聞きながら……』
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『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』9話「60年に一度咲く花・月下霊蘭」


 貴族連合は新入生のヒライを育成し、特待十生を目指すと宣言。荷物持ちで学生生活は終わると思っていた本人は、どうすればいいのかわからず、外で朝練をやっている俺とラックスに声をかけてきた。


「すみません。訓練中に! ですが自分に貴族連合の秘蔵っ子というのは務まりません。どうにか撤回できないものでしょうか」

「撤回したところで実力は変わらないよ。彼らは自分が強くなるよりも君を応援することに決めたのだろう」

「貴族はお金と時間としつこさがあるからな。諦めて鍛えてみるのもいいと思うぞ」

 ラックスも諦めろとアドバイスをしていた。

「そう言われても……」

「ちょうどいいところにリュージがやってきた。おーい!」

 ダンジョンから出てきた寝起きのリュージを呼びつけ、ヒライを訓練するよう頼んだ。


「同級生だし、いいんじゃないか?」

「君は……、ゴズさんを一撃で気絶させたという……」

「リュージだ。よろしく頼む。ただ自分は戦闘に関して基礎しか出来ん。それでもいいのか?」

「基礎だけでゴズを倒したのか?」

 ラックスはリュージの身体を見ていた。人化の魔法を使っているので、普通の黒縁メガネをかけた老け面の学生に見える。筋力も魔力も服の下に隠しているから、わからない。


「ああ、腹が減っていたもんで加減が利かなかった。あのあと謝りに行ったのだが、気にするなと豪快に笑っていた。最上級生ともなると懐が深いな」

「いや、本人は相当ショックを受けているはずだ。竜とはいえ同じ魔族。反応すらできなかったと聞いているから、どこかで特訓をしているよ」

「そうか、悪いことをした」

「そもそも俺に隠れて人間の学校に通うなよ」

「久しぶりにコウジが驚く顔が見たくなってな」

「驚いたよ」

「これで少しは返せたか。自分はコウジに驚かされてばかりだ」

 リュージは人間の生活を学ぶついでに、俺に仕返しをしたらしい。


「それじゃ、リュージはヒライに戦闘の基礎を教えてやってくれ」

「いいだろう。その代わり、ヒライよ。俺に人間が朝何をやっているのか教えてくれ」

「構わないけど、普通のことだよ」

「自分は普通の生活を学びに来たのだ」


 その日から、俺とラックスの朝練に、リュージとヒライが混ざるようになり、魔体術における「流れの稽古」をひたすら繰り返していた。攻撃と共に流れるように魔力を使う鍛錬だ。コツを掴むまではどうしても時間がかかる。


「魔法のスキルもあるならそれを使ってもよいが、コウジはスキルをまったく持っていないのに、竜の学生たちはまるで太刀打ちできなかった」

「竜は筋力と魔力に頼りすぎるから割と簡単なんだ。食べかすを取るみたいに喉の逆鱗を押えるとそれほど強くはない」

「意識していない攻撃ほどよく当たる」

 俺とリュージは自分たちでやって見せる。単純だが、意識と動きの切り替えが難しい。



 その日も俺たちは朝から集まって始業まで基礎訓練をしていた。

 朝日を浴びて、汗をかいていると真っ当な人間になれているような気がする。


「おーい!」

 革パンエルフことガルポが森の中から走ってきた。

「なんかあった?」

「精霊を呼び出してたら、変なところに穴が空いてさ。ちょっとヤバいんだ」


 とにかく焦っているようなので、案内してもらった。一緒に見つけたドーゴエは冒険者ギルドに向かったらしい。

 森の奥、以前ダンジョンがあった場所に大きな穴が空いていた。中から濃い花の匂いが香ってくる。穴の中は曲がりくねっていて真っ暗だ。


「誰か光を当てられる?」


 ラックスが光魔法で、穴の中を照らした。中は植物の根が張られている。


「なにか魔力が残っていて変なものが咲いているかな?」

 リュージとヒライに待っているように言って、俺とラックス、ガルポで入っていく。人一人分の通路があり、誰かが使っている跡があった。

 ダンジョン跡地に何か植えた者がいるらしい。


「ダンジョンの再建してるのか?」

 光魔法を放ちラックスは通路の先を照らしてくれた。


「誰が何のために?」

「さあ?」

「あ、部屋がありますね」

「おい、ちょっと待ってくれよ。あれって……」


 ガルポが顔に手拭いを巻いた。つられて俺たちも巻くが、ガルポほど強烈な臭いは感じない。

 部屋の真ん中に大きな多肉植物のような草が生えていた。茎が出ていて先に大きなつぼみが膨らんでいる。赤ん坊ならはいるくらい大きいつぼみだ。


「月下霊蘭。エルフの国で60年に一度咲く花だ」

 見上げれば部屋にはちょうど花に当たるように天井に穴が空いている。


 ウウウウッ……。


 壁に張り巡らされた根から、アルラウネという植物の魔物が起きてきた。人型の魔物で、生気を吸い込むとも言われている。


「魔族ではない魔物に容赦はしなくていい?」

「ちょっと待て、何体いるんだ!?」


 カサカサカサカサ……。



 ラックスとガルポの声を聞きながら、次から次へと出てくるアルラウネの胸に剣を突き刺し、魔石を取り出していった。


 コロコロ……。


「誰か袋持ってる?」

「コウジ、あんたにはちょっとくらい躊躇ってもんがないの?」

「へ? なんすか、それ」

「今の一瞬で仕留めたのか? この数のアルラウネを?」


 全部で14体のアルラウネが壁から出てきた姿のまま枯れていた。

 明らかに人為的な罠だ。アルラウネを作り出せるくらいだから魔物使いだろうか。植物に詳しいエルフならもしかしたら……。


 周囲を見て回ると『月下霊蘭』の部屋にはいくつかドアがある。失敗した出来損ないのアルラウネやエルフの民族衣装などが置いてある部屋もあった。

 倉庫には体液らしき液体が入った瓶や杖などもある。さらにスコップやつるはしなど採掘の道具まで用意されていたので、一人ではなく集団で学校に潜り込んでいるのかもしれない。


「エルフに化けている奴がいるのか?」

「もしかしたら、エルフが化けているのかもしれないよ」

 民族衣装を見ながらガルポとラックスが喋っていた。

 調べていると、外が騒がしくなった。


「こっちです!」

 緊急事態につき、冒険者と警備の衛兵までがやってきたらしい。


「これは……?」

「60年に一度咲く『月下霊蘭』です。エルフなら、これがどれくらい危険な花なのかは知っています。今のうちに処理をしていただけませんか?」

 ガルポが衛兵たちに言っていた。


「このアルラウネの死体は?」

「ああ、罠でしょうね。私たちが入った時に壁から出てきましたから」

「誰が倒したんだい?」

「俺です。バイトの時の癖で、つい」

「止める間もなかったですよ」

「そうか。あ、君はコムロさんのところの」

「コウジ・コムロです」

「なるほど。また協力してもらうかもしれないが、一旦外で待っていてくれ」

「わかりました」

「何も持ちだしていないな?」

「ええ、アルラウネの魔石も取り出した時のままです。気をつけてください。まだ、体内に魔力が残っているかもしれませんから」

 

 俺たちは穴から出た。


「大変だな。こういうのは捜査対象になるのか?」

 人間の生活に興味があるリュージが聞いてきた。

「なるんじゃないかな。学校にこんな秘密の洞穴を作っちゃダメだろ」

「ダンジョンはいいのに?」

「ダンジョンとは違うさ。これは犯行の意思がある。たぶんエルフたちを混乱させるためだろうな」

「エルフを混乱させたって意味ないでしょ?」

 ラックスは発情期のエルフが混乱したところで、大した被害はないだろうと思っている。


「実際のところ、あの『月下霊蘭』だっけ? あれが咲くとエルフにどれくらいの被害が出るんだ?」

 ガルポに聞いてみた。

「俺もよくわかってないが、たぶんあの一つで王都中のエルフの気分がよくなる。酒を飲んだ時みたいになる感じに近い。何を見ても性欲が湧いてきて、何かにしがみつかないと立ってられなくなる者も多い」

「めちゃくちゃ大変だな。対応策はないのか」

「もちろんあるさ。気つけ薬をずっと鼻に突っ込んでるんだ。それからエルフじゃない信用できる者と過ごすことだ」

「友達か」

「ああ。そうじゃないと『月下霊蘭』の咲く時期にエルフの同胞たちがわけのわからぬまま奴隷落ちにされる事件もあった。エルフの記憶にないだろうと思って、酷いことをする他種族もいるんだ。もちろん、エルフの人攫いもいるけどな」


 そう言えば、クーべニアでエルフの人攫いが出たと聞いた。


「アルラウネは人型だし、植物で両性具有っぽさもある。どうにかそれでやり過ごそうとしていたエルフの仕業じゃないか?」

 話を聞いていたドーゴエが聞いてきた。


「可能性はあるが、人化の魔法だってあるんだ。いくらでも化けられるだろ?」

「そうか! 人間が人化の魔法を使うってこともあるのか!」

 リュージはものすごく驚いていた。


 その後、いろいろと衛兵から事情を聞かれ、ベルベ校長まで出てきて捜査をしていた。

 俺たちは朝飯を食べて、授業には間に合った。


 カラーンカラーンカラーン!


 俺はちゃんと着席しているのに、なぜかアーリム先生は機嫌が悪そうだ。


「各々、自分の魔道具の製作に入って。で、コウジは何を作るの? 今のところ、提出期限が遅れているのはコウジだけなんだけど?」

「まだ、考え中なんですよ」

「考え中って言ったって、何か方向性だけでも決めてくれないと、こっちだって教えようがないのよ。しかも魔石も全然ないし……」

「今、ダンジョンが再設定中だから、魔石なんか取ってこられないですよ」

「だったら、外で取ってくればいいじゃない?」

「だから、冒険者はクビになったんだから無理ですって。アグリッパさんに交渉してもらってるんで待ってくださいよ」

「じゃ私がコウジに教えることないじゃない?」

「単位はくれるってことでいいですか。魔道具師のお墨付き、免許皆伝ということで」

「いいわけないでしょ」

「だったら、考えるのを手伝ってくださいよ」

「何を手伝えっていうのよ。どうせラジオのことでしょ? ラジオのことはわからないとでも思ってるのね? 春休み中に火の国で、いろいろと覚えたんだから。ほら、小型ラジオたくさん買ってきちゃった……」


 アーリム先生は手のひらサイズの小型ラジオを大量に輸入して、ラジオショップに置くつもりらしい。


「去年たくさん作ったので、今年は別のものが作りたいんですけど……」

「え!? 聞いてないよ!」

「言ってないです。できれば録音の魔道具を作りたくて。去年アンティワープ校長の足跡をたどりながら、アリスフェイの各地を回ったんですよ。そこで独自の文化を探していて、衣装とかアクセサリーは残すことができるけど、そこで奏でられる音楽やダンスは受け継いでいかないといけないじゃないですか。でも、録音できる魔道具はあったんで音楽も残せるようになったんですよ」

「録音する魔道具を作って、各地に音楽を収集しに行きたいってこと?」

「そうですね。そしたら途中で魔物も狩るから魔石も取れるし一石二鳥じゃないですか?」


 アーリム先生は訝しげな顔をして俺を見た。


「それは嘘ね。本当は?」

「いや、本当ですよ」

「本当の部分もあるけど、魔石のことなんてどうでもいいと思っているでしょ?」

「うっ……、そう言われると否定できないですね」

「本当は何をやりたいの?」

「これは初めにラジオ局員に話したいことなんですけど……」

「いいわよ。3人ともいるから」

「え?」


 ミストとウインク、グイルは普通に魔道具の授業を取っていた。ラジオの機材を直すのに、必要だと思っていたらしい。


「なに? 自分の製作で忙しいんだけど……」

「どうせ碌なことを言わないぜ。きっと」

「言うなら早くしてくれる。私たちに話しながらまとめる気でいない?」

「おおっ! すげぇ、俺のことをよく知ってるなぁ。それでこそルームメイトだ。えーっと必要に迫られたから説明するんだけど……、紙に書くか」


 俺は机に紙を広げて、今後の予定を書いていく。


「結構、すでに体育祭まででも予定が溜まってるでしょ? 食事会とかラックスさんとかダンジョンとかさ。だからあんまり言いたくはなかったんだけど、たぶんどうやっても逃れられない予定があるよな」

「なに?」

「それ、ほとんどラジオ局の予定じゃなくてコウジの予定じゃないの?」

「そうなんだけど、エルフの発情期、つまり60年に一度咲く花に関してはどうやら必ず起こるらしい。朝も森のダンジョン跡で見つけたんだ」

「ええっ!?」

「ダンジョン跡に咲いてたの?」

「いや、『月下霊蘭』って花らしいんだけど、穴倉の中で育てている奴がいた。しかもアルラウネまで仕込んでいたから、集団だと思うんだけど……」

「エルフを発情して何をしようとしているのよ? その集団は」

「たぶん混乱状態になったエルフを奴隷にするんだろ? エルフの人攫いも出るけど、エルフを攫う者の方が多いって聞いたぜ」

 グイルはやっぱり情報通だ。


「そうなんだよ」

「エルフの混乱期にコウジが対処したいって話? でも、それってラジオ局がやるような事じゃないでしょ?」

 ミストの言っていることは尤もだ。


「そうなんだけど、対処法がすでにあるみたいでね。気つけ薬を鼻に突っ込むらしい」

「へぇ。それはそれで大変そうだけど……。でも、それで混乱しないのであればいいんじゃないの?」

「そう。で、俺は去年、アリスフェイ王国のいろんなところに行っただろ? 前の校長の足跡をたどってさ。そこでいろいろ文化に触れて、民族音楽を録音してきたよな?」

「ああ、あったね。それがなにかに使えるのか?」

「いや、こんなにいろんな音楽があるのかって思わなかった?」

「確かに旋律も違えばリズムも違うわね。私もモデルで世界各地に行くけど、未だに聞いたことがない音楽がたくさんあるわ」

「ただ、世界のどこの地方でも子守歌はあるんじゃないか?」

「あるわ。泣き続ける子どもに聞かせる歌は、必ずあると思う。コウジ、よくそんなこと思いつくね?」


 ミストが俺のやろうとしていることに気づいた。死霊術師だから音楽には人の感情を揺さぶる効果があることを知っているのだろう。


「どういうことだ?」

「だから、今でも録音機材があるだろ? 俺はそれをたくさん作って、世界各地の子守唄を録音してくるんだよ。それに子守歌があるってことは、逆に人を起こすための音楽もあるかもしれない。気つけ薬ならぬ気つけ音楽を探せないかと思ってさ」

「これ、たぶんコウジが思っているよりかなり重要だわ。発情期ってことはものすごく興奮してしまうということなのよ。その興奮を鎮める子どもの頃に聞いた子守歌や音楽を流すって、もっとエルフの間で広まっていいと思う。人間の気分は匂いだけで操られているわけじゃないから」


 ミストはすでに自分が作っていた魔道具を失敗作ボックスの中に入れて録音の魔道具を作り始めた。


「ミストにはもう見えているのか?」

「だって、コウジならできるじゃない? しかも、これは学校にとってとか自分たちにとってじゃなくて、エルフにとって重要なことよ。しかも、音楽なら私たちが届けられる。ラジオがあるんですもの! こんなにはっきり道筋が立つことなんてそうないと思うけど?」

「ああ、そうか。音で対処することは俺たちの役割か」

「コウジは、やっぱりラジオ局の局長なんだね。アーリム先生、私たちは録音する魔道具を作ることにします」

「わかったわ。私はあなたたちの自主性を尊重します。でも、ちょっとあなた方の教師としていい? 音に関して、北極大陸で研究している学者がいたはずなのよ。連絡してみるから、もしかしたらもっと単純な魔道具があるかもしれないってことは覚えておいて。それから、もしこれが上手くいくと、ラジオを広げるきっかけになると思うのよ」

「そうかもしれませんね」

「ミストさんが言ったことも正しくて、もしかしたら総合学院の学生がやるにしては事が大きくなりすぎるかもしれない。ただ、この世界にはうってつけの会社があって、しかもコウジの父親が経営しているのよ」

「コムロカンパニーに何か言うんですか?」


 親父に何かを言うのは面倒だ。そもそも忙しくて聞いちゃくれないだろう。


「嫌そうね」

「ん~、忙しいですからね。あの人たちは。それにあんまり手を煩わせるようなことはしたくないんですよ。自分たちでできることは自分たちでやります。でも、もし別の魔道具の情報があるなら下さい。録音の魔道具は価格が高いし、作るのも大変なので」

「そう。わかったわ」

「せっかく世界的に有名な会社から有用な情報を聞けるチャンスだったんじゃないの?」

 ウインクが聞いてきた。

「いや、あの人たちは全てのエルフを眠らせるための薬剤を散布したり、王都中の水がめに痺れ薬を混ぜるようなことをするから危ないんだ。そんな薬より音楽の方がよっぽどいいよ」

「そっちの方がコウジらしいよ」

 

 その後、北極大陸の学者から音の波を記録する円盤のようなものがあることを聞いた。ただ、それを作るのはとても難しいのだとか。


『今使っているような録音機材でも魔石を半円に切って、平らな部分に記録できるはずなんだ』

「え!? そうなんですか!?」

 それが出来れば、魔石の分だけ録音できるということではないか。でも魔力を放出し続ければ消えてしまう。それも魔力の補充機と保管機があれば、ずっと残るらしい。


『保管機なら、小人の国・シャングリラから取り寄せられるはずだ。商人の息子で学生をやっている奴はいないか?』

「います。隣に」

「取り寄せてみます!」

 グイルが実家に連絡していた。


 その夜、なぜかベルサさんから連絡が来た。


『コウジ、面白いことやっているそうだね?』

「なぜ知っているんですか?」

『竜の知り合いがいてね』

「リュージが何か漏らしましたか?」

『下手人を探るんじゃない。でも、自分でやろうとするのはいい心がけだ。こちらの仕事の邪魔もしないようだから問題はない。ただ、一つだけコウジに言っておくことがある。ラジオのアンテナなんだけど、竜の乗合馬車の駅に付けることになっているんだ』

「なんでですか!?」

『まぁ、いろいろあるんだ。世の中は複雑だから。年末辺りにまたうちの会社の仕事を手伝ってもらうことになるかもしれない』

「年末って!?」

 随分先の話に聞こえる。『月下霊蘭』は夏頃咲くはずなので関係ないのか。


『あんまり無茶して死なないようにな。呼び出すのが面倒だから』

「俺って勝手に死ねないんですか?」

『死ねない』


 プツッと通信袋が切れてしまった。


「大人もいろいろ大変なんだな」

「こっちも大変なんだけどね。コウジ、ちょっとお金がかかるかもしれないんだけど、衣装のレンタル業者に当たってもいい?」

 ウインクが食事会で使う靴を探しているが、まだ見つからないらしい。


「構わないよ。どうにか冒険者として潜り込んで稼ぐから」

「いや、一度ラジオで呼びかけてみたら? 王都の誰かが聞いているかもしれないよ」

 ミストが提案していた。

「そうね」


 夏はまだ先だ。


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[一言] ラジオ局仲間の逞しい成長が良良
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