『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』7話「先輩と言われて……」
翌日、学校の授業は休日となっているが、いろんな教室で臨時の補習授業をやっていた。
俺たちは朝からラジオショップで店番だ。ほとんどの客は固形のお茶風スープの素を買っていったが、やはり中にはマズいスープを求めてきた客たちもいる。
一切のクレームは受け付けないという条件で売ったが、開店して、ものの数分で完売した。
「なんで、あれが売れるんだい? 作った者としては、納得いかないよ。また作ればいいんだけどね」
同じく店番をしていたレビィは文句を言っていた。
「全然ラジオで宣伝させてもらえなかったから……」
睡眠導入具を売るマフシュははじめ悔しそうにしていたが、冒険者や衛兵、僧侶などの団体が来た時に、あっさり売り切れになった。
「売れる層がいるってこと?」
「そうだと思います。精神的に疲れる職業ほど、こういう物は売れるんでしょう」
「じゃあ、そういう人向けに作った方がいいのか……」
マフシュは空の木箱を持って学校へ戻っていった。レビィの作ったスープの素も午前中には売り切れてしまい、早々に店じまい。
お金の計算をグイルに任せて、ウインクを手伝いに行く。
ウインクは玄関ホールと廊下を借りて、食事会の応募者に立ち方と歩き方を教えていた。
「立ち姿に自信がないから、人としての自信もないの。まっすぐ立つことが基本。そのままブレずに歩ければ気持ちも変わってくるから、しっかりリラックスしたまま、前だけ見て歩いてみて」
女性の応募者たちはウインクの言うことを聞いてはいるものの、どうしても人の目が気になるらしい。
「今のあなた方に誰も興味なんてないの。立ち姿で人の視線を惹きつけて、歩き姿で見惚れさせて御覧なさい。それだけで、黙ってたってモテるようになるわ。いいこと? 自分が話しかけるんじゃないの。話しかけさせるのよ。もっと視線を感じて引き寄せる。天井から釣られた人形のように歩いて……」
ウインクの熱を帯びた声が響いている。
廊下の端から見ているミストに近づいた。
「ああ、ラジオショップは終わった?」
「うん。どう?」
「やっぱり自信がないみたい。歩き方に意志がないでしょ。バランスが悪いのよ。そり腰になったり、猫背になったりしているから」
「自分の重心がわかってないんだろ。吹っ飛ばされたりして回転しないと身に付かないからな。骨格矯正は?」
「今から。コウジも手伝って」
「わかった」
柔らかいベンチを廊下の端に持ってきて、身体のバランスに左右差のある応募者を呼ぶ。ベンチに寝かせて、俺とミストで施術をしていった。
「肩が凝るでしょう。頬杖をついて勉強している時間が長いのよ。肩から首にかけての流れをよくするためにここを……」
ミストが説明しながら上半身のコリを解していくので、俺が腰の歪みを修正していく。
施術後は皆決まって、目を見開いていた。
「すごい。身体が温まっていく感じがするわ」
「トイレ行きたかったら行ってきてね。便秘が治る時があるから」
魔族の学生に関しては俺が施術する。ミストは横で興味深そうに見ていた。
「施術するとわかるけど、魔族の弱点が丸わかりになっていくんだよ」
「なるほどね」
「難しいと思うけど歩くときは頭を上下に動かさず左右にもブレないように歩くと、距離を見誤らないで済むよ。だから頭のてっぺんから背骨のちょっと前に長い槍が突き刺さったようなイメージで。そうするとブレないから」
応募者にも教える。時々、バキバキと骨が鳴る者もいるが、施術が終わると血流がよくなり目が見開くらしい。
全員の施術が終わって、再びウインクの立つだけの授業が始まる。
「自分の軸を感じて、足の裏に根を張ってブレないこと……。軸を腕だけ回して……」
武術的な動きも取り入れて、応募者たちに教えていた。効果があるからなのか、皆真面目にやっている。辞めたいという学生たちは今のところいない。
ホールで見ていると、玄関からアグリッパとシェム、ダイトキが入ってきた。
「あ、コウジ、いいところにいた。今、マルケス先生を送りに行ったところなんだ」
「本当ですか。よかった」
ちゃんと学生たちと交流できているようだ。
「昨日、アグリッパさんと外を見に行って全く目線が変わっちゃったわ」
「しかも、ダンジョンを整えてくれていたのだろう? 助かったよ。危うくダンジョンの魔力が枯渇するところだったのでござるよ」
「いや、全然。むしろいない間に変えてしまって、申し訳ないです」
「マルケス先生にも謝られたけれど、気にしないでね。間違っていたのはこっちなんだから。これほど繊細なものだと思っていなかったのよ」
「そうでござる。今から、どんどん実験を繰り返しながら作り変えていかないとどうにもならん。そもそも我々はダンジョンというものを単純に考えすぎていたようなのだ」
ダンジョンを広めようとしている人たちはダンジョンを誤解していたらしい。自分たちで研究していたのだから当たり前と言えば当たり前だ。それだけに、ここから伸びしろしかない。これからこの人たちはどこまで行くんだろう。
「それで、今二人がダンジョンを作り変えてる途中なんだけど……」
アグリッパが話を切り出した。
「はい。がんばってください」
これ以上、他の誰かを手伝える余裕はない。魔道具の授業だって出ていないのに、いろいろと関わり過ぎている。今はできればラジオのことに集中させてほしい。
「それがな。今朝から貴族連合に初心者向けのダンジョンに入って貰ってるんだが……、マルケス先生がコウジに見てもらえっていう奴が現れたんだ」
マルケスさんが要注意人物というなんて珍しい。
「アリスフェイの貴族ですよね? そんな人いるんですか?」
「今は全然強くはない。新入生だしな」
「私たちの目線から見てもまだ戦いにもならないと思うんだけど、このまま貴族連合にダンジョン製作で協力してもらうとなると成長率がどうなるか……」
「特待十生になりそうってことですか?」
「言ってしまえば、一年後には届きそうでござる」
ラックスとゴズが卒業するため、今年のうちに二人以上は候補を見つけておかないといけない。特に言われたわけではないが、現役の特待十生として優秀な学生を見つけたら、共有しておく決まりになっていた。
「なるほど。じゃあ、今度ダンジョンの授業で見ますよ」
「いや、そうじゃなくて……」
「え? どういうことですか?」
「とりあえず来てくれないか」
「ミスト、行って大丈夫か」
一応、ミストに許可を取る。
「ああ、もう今日は大丈夫だよ。特待十生のことでしょ。ラジオまでに戻ってくればいいから」
「わかった」
俺はアグリッパたちに連れられてダンジョンへと向かった。
中級者向けダンジョンから入り、ダンジョンコアがある部屋へと招かれた。
「これが今朝の記録なんだが……」
ダイトキに過去の授業を見るようの板を渡された。そこにはダンジョンの魔物が倒されていく様子が描かれている。おかしいのは必ず最後にトドメを刺している学生がいることだ。いや、むしろ戦闘中にもかかわらず、なぜかその場から離れている学生たちの方がおかしいのか。
青い丸印や赤い丸印でしか表示されていないので、実力は何とも言えないが、戦闘そのものがおかしいのはわかる。
「なんですか? これは」
「やっぱりおかしいか?」
「戦闘だとしたら異常じゃないですか? 仲間に魔物を弱らせたところで、美味しいところを持っていっている者がいるということですよね?」
「それが違うんだよ。トドメを刺しているのは荷物持ちだ」
「はあ?」
素っ頓狂な声を出してしまった。
「いや、さすがにそれはないんじゃ……」
「それがそうなのでござる。しかも新入生だからか、パーティーメンバーとして登録もされていない。ほら、ここでも貴族連合のパーティーが部屋から出ていった後にトドメを刺しているだろ?」
動かない青い丸印と、赤い丸印が消える瞬間が映し出されていた。
「現場を確認したんですか?」
「マルケス先生と一緒に確認したら『あれは伸びるからコウジに見せてやってくれ』って言われたよ」
「まぁ、俺たちは『貴族連合から離れた方がいい』としか言えないからな」
「できれば、彼にダンジョン運営の協力を頼みたいくらいなのでござる。後はちょっと……」
「荷物持ちって、出身とか身元は知ってるんですか?」
「さっき、事務局で確認してきた。クーべニアの北東出身で、田舎騎士の息子だ。ギリギリ貴族連合に入れたような青年で、身体も大きいし魔法もそれなりに使える器用貧乏と思われているな」
「クーべニアの北東って雷魔法を使う学生がいるんじゃなかったですか?」
「ああ、雷帝の……、なんといったかな。名前は忘れたけど、その彼とは別だ。むしろ彼のお付きみたいに扱われているようだった」
「なるほど。今のままだと貴族連合の荷物持ちで終わってしまうが、ダンジョンを運用している側からすればもったいない才能ってことですかね?」
「その通りだ。地方貴族だからな。貴族連合から追い出されたなんて親が知ったら大事にもなる」
「ラジオ局に引き入れてもいいんですけど、本人の希望もあるでしょう?」
「そうなの。なにか話すきっかけがないかと思ったら、〇コ印の回復薬を使っていたから、コウジにスカウトしてきてもらえないかって」
「ええ? 俺かなぁ。貴族連合的にはどうなんですかね? もし特待十生になれる学生が連合にいたら引き止めるんじゃないですか?」
「だろうな。俺はかなり勧誘された。親父も爺様も無視しろと言っていたけど……」
アグリッパさんの家族は、アグニスタ家という代々軍人の家系でアリスポートでも大きな屋敷に住んでいる。アイルさんの実家でもあるので、誘われるのは当然だ。
「とりあえず実力を隠しているならバラした方がいいんじゃないですか?」
「本人が隠しているからなぁ」
「何の意味があるんです?」
「コウジだって自分の家族を隠していただろ?」
「そうですけど、実力はどうしたっていつか見せることになりますよ。俺だって体育祭までしかもたなかったですから」
「いや、コウジは入学試験の段階で実力がバレて話題になっていた。むしろどこから来たのかが問題だったんだ」
「じゃ、俺がちょっと行って、荷物持ちの学生の実力を貴族連合に見せつければいいってことですか?」
「それが最適解かな。私たちだと加減がわからないし」
「俺は貴族たちの動きを止めてしまう可能性が高い」
「ポチが貴族たちを威嚇すると思う。あいつらダンジョンでも香水を使ってるんだ。馬鹿じゃないかな」
「魔物寄せじゃないですか?」
「魔物除けの香水よ」
いろいろとわからないことだらけで頭がこんがらがってきた。
「とりあえず、荷物持ちの新入生と組み手をして来ればいいんですね?」
「そう。頼んだよ」
俺は初心者用ダンジョンへ向かった。
先に本人に事情を聴いた方がいいか。
俺は遠回りして、貴族連合のパーティーの後ろに回った。岩石地帯で休憩していたらしく、食事をしてようやく動き出したところだ。残って片付けをさせられている彼が荷物持ちか。
「ヒライ、悪いな!」
「いえ、エリック坊ちゃん」
雷魔法を使うエリックという貴族の学生は、連合のパーティーと一緒に別の部屋へと向かった。ヒライと呼ばれた学生は、気絶している魔物を火魔法で燃やしてしっかり討伐。ドロップアイテムを拾いバックパックに入れていた。焚火の跡に土をかけて始末をちゃんとしている。
「こんちは」
「え!? コムロ先輩ですか?」
そう言われて俺は初めて自分が先輩になったことを感じた。
「違うわけではないんだけど、コウジと呼んでくれないか?」
「特待十生に呼び捨ては、ちょっと……。せめてコウジさんでしょうか」
「わかった。それで頼む。いつもこんな感じで貴族連合の後始末をしているのか?」
「ええ、まぁ。俺は新入生ですから荷物持ちとしてダンジョンに連れて来てくれるだけでもありがたいんです」
「同じ学生だろ?」
「いや、全然身分が違います。俺は田舎のさらに辺境の騎士の家柄で、皆さんは大きな領地のご子息ですから」
「だから、そのまま学校でも付き従っているのか?」
「従っているというか、他に友達もいませんし、貴族連合の方々には居場所を用意までしてもらって感謝しかないですよ」
洗脳でもされているのだろうか。
「じゃ、今から俺と友達になろう。コウジ・コムロ。二年目の学生だ」
「知ってます。ですが、急に友達と言われても……」
「ダメか。貴族連合は友達になるにも資格がいる?」
「いや、そんなことはないですけど、コムロさんと友達になると……」
「別に貴族連合を抜けろなんて言わないさ。荷物持ちだけで学生時代を過ごすのはもったいないと言っているんだ。えっと、ヒライくんだっけか?」
「ヒライ・パッカードです。身体は大きく、代々領主の荷物持ちをしていた家系です。皆さん馬鹿にしますが、俺は自分の家系に誇りを持ってます」
「すまん。馬鹿にするつもりはない。ただ、ヒライくん。せっかく王都まで学校に来たんだぞ。しかも学生だ。今までやってみたことがないようなことも試せるんだ。何でもやってみないか?」
「何でもって何をです?」
「勉強に武術、何か物を作るのもいい」
「しかし、それにはお金がかかるのでは? うちは貧乏貴族です。何かを揃えろと言われた時に何も用意できませんよ」
「授業を受けるのも、食事をするのも無料じゃないか」
「いえ、後期の授業料も自分は用意できていません。でも貴族連合にさえいれば、どうにか荷物持ちで1日銅貨1枚貰えますから……。これでどうにか……」
「そういう事情があるのか。一応、言っておくけど、後期の授業料は払わなくていい。俺とアグリッパさんでどうせ払うから、気にするなよ」
「え? どういう……」
「そういう奨学金制度を作るから心配するなって話さ。そうか……ヒライくんにはお金が必要なんだな。だったら知識を身につけるか、強くなった方が稼げるんじゃないか?」
「そうでしょうか。学生のうちに貴族になる方々に顔を覚えてもらった方が、卒業後の進路も安泰なのではと思っていたのですが……」
「確かに、その通りかもしれない。でも君は自分の可能性を信じて学校の門を叩いたわけではないのかい?」
「初めはそのつもりだったんですけど、いろんな授業を見て自分には無理だとわかりました」
「まだやってみてもいないのに?」
「自分には身につけたい知識も、強くなる理由もありません。田舎で騎士として暮らしていけるだけの知識と強さがあればいい」
「本当に? それって田舎にいる住民たちを守れればいいってこと?」
俺は少し笑った。ヒライにもやりたいことはあるらしい。
「……そうですね」
「その程度の実力で住民を守れるのかい?」
「今はまだ強さはないかもしれませんが、武術の授業を受けて魔法学を学べば……」
「あの君に命令していた貴族の連中はだいたい田舎の住民程度の実力だろう? 今から、ぶっ飛ばしに行くから彼らを守ってごらんよ」
「待ってください! そんなことを突然言われても……」
「現実はいつだって突然やってくる。今できないことは、いつかもできないものだ。よし、彼らを殺す気で行くから、全力で守って見せてくれ!」
「そんな……」
俺は通路へ走った。ヒライも必死で追いかけてくる。走りながら何か呪文を唱えて、通路に雷魔法を放ってきた。軌道が読みにくいが魔力で弾き飛ばす。
「意外にやるね。火魔法と雷魔法を使えるのかい?」
「その二つしか使えません!」
「二つも魔法スキルを使えるだけ十分じゃないか」
「ちょっとコムロさん! 待ってください!」
「待てと言われて待つような山賊はいないさ」
俺は雪原地帯に飛び出した。
吹雪の中で、貴族連合がグレズリーという灰色熊の魔物と戦っているところ。グレズリーは駆除対象だろう。雪山を駆け上り貴族連合たちの脇をすり抜け、グレズリーの手首を剣で斬り落とした。
ゴウッ!
自分の手が無くなっていることに気づいたグレズリーが戸惑っている間に首を刎ねる。血を吹きだしながらゆっくりと倒れていき、グレズリーの身体から赤い光の粒が拡散していく。
身体が光り輝きそのまま消失。後には魔石とグレズリーのドロップアイテムである爪、毛皮が残された。
「貴族連合の皆さん。毎度どうもラジオ局の者です。ちょっとした企画で、たった今から本気を出してもらわないといけなくなりました」
「なんだ? どういうことだ!?」
「私が山賊役になりますから、ヒライくんが全力で皆さんを守れるか試させてください」
「なんだその企画は!?」
「無理に決まってるだろ?」
「やってみなくちゃわからない」
「ヒライが守れなかったら我々はどうなる?」
「戯れに死んでいただきます」
「何を言ってるんだ? 勘弁してくれ!」
「最近属性魔法も使えるようになったんで試しに使いますから、全力でヒライくんを応援するか、もしくは……」
「全員逃げてください!」
ヒライが叫び、貴族連合のパーティーの前に炎の壁を作り出した。
俺は剣から熱い魔力を出して、雪原を切った。水蒸気がもうもうと立ち上る。その水蒸気を魔力で集めて固め、幾つもの水球を作り出し貴族連合に浴びせかけた。
水魔法は炎の壁によって温められる。
「熱湯だ!」
「あなた方では勝てません! 逃げてください!」
実力は理解できているらしい。
「そんなことは知ってる! どこに逃げろと言うんだ!?」
ヒライの叫びを聞いて、貴族の学生たちが方向を見失っている。その間にも俺は熱湯の玉を放ち続けた。
「熱いっ! なんて奴らだ!」
「もう広告費は払わんからな!」
「お父様に言いつけてやる!」
「やめろ! 貴族が情けない!」
「清掃駆除業者の息子にいじめられたとでもいうのか!?」
貴族連合はのん気に仲違いをしている。
バリバリ……!
雷魔法がこちらに飛んできた。反撃する学生もいるか。
「エリック坊ちゃん!」
「ヒライ! 今のうちに火炎魔法の用意だ! 皆さんは逃げてください! 我々下級生が殿を務めますから!」
「おいおい。これじゃあ貴族連合の名折れだ。例え、勝てなくても弱者を助けてこその貴族だろ?」
「「「そうだ!」」」
「死んで悔いなし! かかってこい! コウジ・コムロぉおお!」
潔し。
ドシュ……。
叫んだ貴族の学生の腹に肘鉄を一発。パーティーメンバーにも顎、みぞおちへ一撃を入れていった。吹雪のせいか、貴族連合は俺の動きを追えていなかったようだ。
「貴族連合はちゃんと下級生を守るんだからカッコいいな」
一人だけ立っているヒライくんに話しかけた。
「え?」
ヒライは振り返りながら、倒れていく上級生たちの姿を見ていた。
「守れなかったな。ヒライくん」
「はい」
「これが貴族連合ではなく、田舎の住民だとしたらどうだ? 自分の実力を許せそうかい?」
「絶対に許せませんよ」
「じゃ、強くなることだ。俺くらいの山賊はいくらでもいるから」
「そんな……」
「さて、戯れが過ぎた。このままにしておくと本当に貴族連合が死ぬから、運ぶのを手伝ってくれ」
俺は学生たちを担ぎ上げて、岩石地帯へ運んでいく。
「あの、コムロさん。怒られませんか?」
「怒られたらしょうがないよ。でも、ここはダンジョンだぜ。貴族や学生のルールが通用すると思っている方がおかしいだろ?」
そう言うとヒライはちょっと笑っていた。
「どうだ? ヒライくん。俺と友達になれそうかい?」
「いえ、無理そうです。どうにか、この貴族の坊ちゃんたちに媚びを売ってでも強くなる方法を探してみます」
ヒライも貴族の先輩たちを運んでいた。
「そうか。それならよかった。これ回復薬な。大した怪我はしていないと思うけど……」
俺は回復薬の塗り薬を置いて、ダンジョンコアの部屋へ向かう。
「コムロさん!」
「ん?」
「いつか、また俺と勝負してくれますか!?」
「おう。いつでも来いよ。楽しみにしてる」
俺は壁を抜けて、ダンジョンコアのある部屋へと戻った。ようやく、これでラジオの台本が書ける。
「憧れさせてどうするんだよ!」
アグリッパには怒られた。
「でも強くなりそうですよ。ヒライくん」
「あれ? ドーゴエさんが外で呼んでる」
「どうしたのでござるか?」
壁に外の様子が映し出された。確かにドーゴエが手を振って誰かを呼んでいる。
『コウジはいるか!?』
ドーゴエの声が聞こえてきた。
「何かあったんですか?」
『道場でラックスとゴズが戦ってるんだ。止めてくれ。他の学生たちの補習にならない!』
「そう言われてもなぁ……。たぶん、まだゴズさんが勝ちますよ。待っていれば終わると思うんですけど」
『いいから、お前じゃないと止められない』
「いや止められますよ。シェムさんとダイトキさんが……」
「俺たちはダンジョンの改装で忙しいのでござる」
「じゃ、アグリッパさんが……」
「コウジ、お前が一番後輩だ」
「そんなぁ! ……わかりましたよ」
俺は隠し通路を通って、外に出た。
「あのぅ。これからラジオの台本を書かないといけないんですけど……」
「大丈夫だ。すぐに終わるだろ?」
ドーゴエは適当に俺を呼んだらしい。
「それはラックスさんとゴズさんに聞いてみないとわからないじゃないですか」
「行けばわかる」