『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』6話「夢中という時間の進み方」
翌日には、ウインクが応募用紙から勝手に本人に直撃してどのくらい本気なのか聞くという辻斬りのような面接をしていた。それでも本当にモテたいとか馬鹿にされたくないと思っている学生たちは多いようで、どんどんウインクがラジオ局に連れて行っていた。
様子を見ていた俺たちは、貴族連合の学生たちから声をかけられた。ウインクが「貴族連合に馬鹿にされたいのか」などと聞いていたから、戸惑っているのだろう。
「なにが起こっているのだ?」
「ラジオ局主催の食事会をしようと思って募集をかけたんですけど、このままだとあまりにも意味がないとMCが爆裂的に盛り上げているところです」
「私も応募をしてしまったのだが……」
他の貴族も声をかけてきた。
「貴族連合の学生はいつも通り、晩餐会の格好でもして来ていただければいいと思いますよ。嘘さえつかなければ……」
「嘘?」
「いや、なんか魔物も倒したことないお坊ちゃんが、武勇伝を語りたがっているらしいです」
後ろで聞いていた貴族連合の学生たちが目をそらし始めた。応募用紙を書いた張本人たちだろう。
貴族連合の長らしき学生は目をつぶって大きなため息を吐いた。
「すまぬが、その食事会の日時を伸ばせるか?」
「ええ、女性たちもいろいろと用意があるようなので日時は体育祭の一月前になりましたよ」
「わかった。こちらも調整をする。領民を守れぬ貴族など不要だぁ! 貴族連合は全員訓練場へ」
貴族連合の長は周囲の学生たちが立ち止まるほど大きな声で貴族連合を招集した。
「コウジ・コムロ。ダンジョンの使用許可を頂きたいのだが、大丈夫だろうか?」
「聞いてみます」
「頼む」
貴族連合はラジオ局にとっても広告を出してくれるお得意様だ。無碍に断れない。
女性たちのことはウインクとミストに任せ、俺たちはダンジョンへと向かった。
ちょうどマルケスさんが鞄と通信袋を持って、世界樹の切り株型のダンジョンを見上げている。一泊して今日、帰るのか。
「送っていきましょうか」
「ああ、いや。ソニアが『まだ模様替えが終わってないからしばらくいなさい』って……」
「学生たちに気を遣ってくれたんじゃないですかね」
「じゃあ、そうするかぁ」
「シェムさんとダイトキさんは?」
「彼女たちは今、ポチの飼い主と一緒に外に出てるよ」
アグリッパと一緒に冒険者の依頼でもこなしているのだろう。
「さすがにちょっと魔力を消費しすぎてるから、こっちの模様替えもしておくかい?」
「いいと思います。前よりだいぶダンジョンコアも小さくなってましたから」
「じゃ、ちょうどいいところにいるコウジとえーっと……」
「グイルです」
「グイルくん。君はコウジと友達なのかい?」
「そうですね。ルームメイトです」
「いい奴だなぁ。いい奴ついでにちょっと手伝ってくれ」
「わかりました」
グイルは「コウジと友達だと褒められるのか」と嬉しそうだ。
「グイルくんは初級者向けの森で待機していてくれるかい? 蜂の魔物が出たら、『蜂が出ました!』って大声で叫んでくれるだけでいいから。コウジは中級者向けと上級者向けのダンジョンに行って、適当に間引く。階層にいる魔物を全部倒してもいいから」
「わかりました。鍛冶場で武器借りてきまーす」
「ほらな。グイルくん。コウジは武器がないと自分の攻撃も制御できないんだ。気をつけて付き合った方がいいぞ」
「ダンジョンを壊し過ぎないようにしてるんじゃないですか。まったく大人はこれだから。グイル、行こうぜ」
「いや、2人とも論点がズレてるぜ。普通は武器がないと魔物と戦えないんだ」
「「あ、そうか。気にするな。大したことじゃない」」
俺とマルケスさんは違う方向を向きながら同じことを口にした。子どもの頃に聞いていた口癖が移ったかな。
「仲がいいですね」
グイルの言葉は無視して俺は鍛冶場へ向かった。
ゲンローたち鍛冶師の学生が集まっている。秘密の会合をしているらしい。新作の罠だろうか。エルフの留学生も参加しているらしい。
「ちょっと止まれ! 何か用か?」
ゲンローが俺たちを止めた。
「ダンジョンの魔物を間引くので何か武器を貸してもらえませんか?」
「わかった。ちょっと待ってろ」
ゲンローが、俺たちに練習用の片手剣を貸してくれた。
「これでいいか?」
「ありがとうございます。新作の罠ですか?」
「ああ、今年はちょっと変わってるからな」
「楽しみにしてます」
「ラックスが本気だからな。俺たちも本気で行かないと……」
ゲンローも体育祭に向けてやる気になっている。
「エルフの留学生もいるんですね?」
「ああ、鍛冶師の里というのがあるんだそうだ。かなり珍しい鉱物を加工していたから、知識が豊富で助かっているよ。当然だけど、発情期のエルフたちばかりではない。里によって性格が違うんだそうだ。最初に鍛冶場に入ってきた時は慌てたけどな」
「なるほど、そうですよね」
「技術っていう共通言語があるからよかったんだ。たぶん、留学生たちの中でもどうしていいかわからないエルフだっているだろうから、見かけたら声をかけてやってくれ。一応、特待十生なんて言われてるからよ」
「そうですね。わかりました」
「それから新入生で魔族の国からやってきた学生たちが戸惑っているらしいから食堂や風呂場の使い方を教えてあげてくれ。皆気にかけてるけど、なかなか同胞じゃないと話を聞いてもくれない新入生もいるってゴズが困ってた」
「見かけたら声をかけてみます」
「よろしく」
俺は二本の片手剣のうち、一本をグイルに渡しダンジョンへ向かう。
「特待十生は仲がいいよな?」
グイルは羨ましいらしい。
「そうか? まぁ、新年度が始まる前にラジオショップに集まるくらいだからそう見えるだけじゃないか」
「しかもちゃんと学校のことを考えてる」
「ん~……そうなのかな」
「別に学生が考える必要のないことまで考えてるだろ?」
「ああ、確かに。たぶん、他の場所じゃ経験できないことを経験させてくれるって理解しているからじゃないか」
「いや、なかなか他の場所で生きにくいから、学校が無くなってほしくないんじゃないか?」
そう言われて、竜の学校を出てどうすりゃいいかわからなかった自分を思い出した。
「総合学校が無くなるのは困るなぁ」
突然、去年みたいなことが起こって学校が潰れたらと思うと、また何をすればいいのかわからなくなる。
「特待十生は社会に適合できないかもしれないな……」
「ゲンズブールさんは魔族の国に溶け込んでるのか?」
「あの人はちょっと別だろう? もしかしたら地方の役所を牛耳ってる可能性だってある」
「まだ春だけどな。でも、ありうるところがあの人の怖いところだ」
卒業した人を思い出しながら、俺たちはそれぞれのダンジョンに入っていった。
マルケスさんに言われた通り、上級者向けのダンジョンで魔物を狩る。弱点は外の魔物と変わらない。ただ、実体がなくドロップアイテムを落とすだけなので解体する必要はないし、非常に楽だ。なんだったらラジオを聞きながらやりたいくらい。
油断していたら、罠に嵌った。毒ガスが噴き出る部屋に閉じ込められた。塞がれた出入り口を壊すと怒られるかもしれない。仕方がないので床に穴を開けて、落とし穴を掘って身を隠した。
そのうちマルケスさんが気づくだろう。
「くそっ! なぜ我々が学生なんかに……」
部屋に入ってくる大人の声が聞こえてきた。
「やめろ! 任務中だぞ。それより依り代は見つかったのか?」
「見つかるわけないだろ? だいたいなんで死んだハイエルフの言い伝えなんて信じてるんだ?」
エルフの密偵か。
「里の掟だ。仕方ないだろ。もうしばらく探すことだ」
「こっちは結婚相手もいないって言うのに……」
「年齢を偽って学生と結婚とはな……。ちょっと待て。何かこの部屋おかしいぞ。毒ガスが……」
「くそっ! とりあえず、これが指示だ。だから上級者のダンジョンなんか……」
エルフたちの声が遠のいていった。
しばらく待って、俺は落とし穴から抜け出し、こじ開けられた出入り口から外に出る。エルフの足の大きさはそれほど大差ない。
「マルケスさん、さっき上級者向けのダンジョンから出ていったエルフたちってわかりますか?」
通信袋を使ってマルケスさんに聞いた。
『え? 今、フラワーアピスの巣を設置しているから気づかなかった。どうかしたのか?』
「たぶん、エルフの国からの密偵です。学校でスパイ活動をしているみたいなんで気づいたら閉じ込めておいてください」
『わかった。なんだ、そんな奴らまでいるのか。まぁ、世界中から学生が集まってるから紛れるのかぁ』
「ハイエルフの言い伝えって言ってたんですけど、何かわかりますか?」
『わからないけど、ソニアに聞いてみるよ』
「お願いします」
『あ、ドラゴンたちは早めに片付けておいてね。魔力を食い過ぎてるから』
「わかりました」
俺はダンジョンの階層を突破しながら、先に魔力切れを起こしかけているドラゴンたちを倒した。実体がないとはいえ、炎のブレスもまともに吐けないのに、ずっと居座っているのも可哀そう。
弱点の逆鱗も剥き出しだったので、実体化しなくてよかった。
ドラゴンのドロップアイテムは竜の鱗と牙だが、すべて地面に埋めてダンジョンに返す。いつか使える日が来るといい。
他の部屋も魔物を間引いて、調整をかける。捕食者と被食者のバランスくらいは考えないと植物も育たない。
上級者向けダンジョンが終わると、次は中級者向けダンジョンに入り、ミノタウロスやラミア、ケンタウロスなどを追いかけまわし、罠に嵌めて倒していった。多数を相手にしても先頭を潰すだけで、後方は逃げ惑う。ダンジョンの魔物に大義はないから、死ぬまで戦うという発想はない。それだけに逃げるという判断は早いから、なかなか数を減らすのに苦労した。
ひたすら作業のように魔物を倒していたら、マルケスさんからアナウンスがあった。
『コウジ、もう夕方だ』
「え!?」
急いで外に出ると、本当に空がピンク色に染まり雲がオレンジに輝いていた。春の夕焼け空だ。
「うわっ、マジか……」
グイルもダンジョンから出てきて同じ感想を言っていた。
「やられたな。マルケスさんはダンジョンマスターが長いから、働いている者に時間を忘れさせるのが上手いんだ」
「ダンジョンマスターに必要な能力はそれかぁ。いつの間にか一日潰れるとは思わなかった。気づくと腹減ってるなぁ」
「二人とも助かった。また、明日暇なら頼む」
マルケスさんも出てきて、荷物を担いでいた。今日も一泊するのだろう。
「食堂行こうぜ」
「ラジオショップのラインナップを換えないといけなかったのに……」
「夜に行こう」
とにかく空腹で、俺たちは食堂でいつもの生姜焼き定食と一緒に卵サンドまで頼んだ。
「あんたたち、なんでそんなにお腹空いてるんだい?」
「朝からずっとダンジョンで働かされていたんですよ。魔物が出たら大声で叫ぶだけなんですけど、いろんなところを走りまわらされて」
「俺もひたすら魔物を倒してて。エルフの密偵も出てきちゃって……」
「密偵!?」
食堂には大勢学生たちが集まっていた。せっかくなので、注意しておこう。
「エルフの留学生の皆さん! 先に言っておくけど、里の掟はこの学校では通用しませんから! 俺たち、特待十生が対応しないといけなくなって面倒なのでやめてくださいね! それから魔族の新入生たち! 怖がらなくてもそれほど皆姿かたちを気にしていないからね。心細かったら、周りにいる先輩たちに相談してみて。食堂では料理長であるエリザベスさんの言うことが絶対! 出されたものは残さず食べるように! お風呂はいつでもゆっくり入ってね!」
「言っておくけど、こいつがナオキ・コムロの息子のコウジだから。喧嘩を売りたきゃ、コウジに売ってくれ!」
グイルが余計なことを言っていた。
「なんでだよ……。喧嘩はしたくないからな!」
俺とグイルができた料理のプレートを持ってテーブルに着くと、なぜか魔族の学生たちが周りのテーブルに集まっていた。その後、食堂では生姜焼きと卵サンドの在庫がなくなるまで頼まれたらしい。
「相変わらず美味かったです!」
食器を片付けに行くと、エリザベスさんから呼び止められた。
「今後、あんたたちの食事は私が決めるから、適当なものを頼まないように! 食材が無くなって大変だからね。食べたかったら自分でフィールドボアなりワイバーンなり狩ってきて。調理だけはしてあげるから」
「はい……。すみませんでした」
俺が食べたものを魔族の学生たちが食べるという習慣になると、決まった物しか食べられなくなるようだ。
「グイルが余計なことを言うからだぞ」
「コウジが変な家系に生まれるからだろ?」
「生まれちゃったもんはしょうがないだろ」
そんな会話をしながらラジオ局に行くと、ウインクとミストが服を縫っていた。
「どこに行ってたの!? どこ探してもいなかったから、先に始めてるからね!」
「なにを?」
「食事会の衣装づくりよ! どうせ汚すんだから練習用と本番用ね」
「コウジとグイルは、こっちで型紙通りに布を切っていって。参加者の採寸はしてあるんだけど、ウインクが痩せさせるみたいだからちょっと小さめでも大丈夫よ」
ミストが指示をくれた。
「いや、それはやるけど、放送は?」
「放送中にもやるわ。口と手を両方動かせばいいだけでしょ?」
「そんな……」
「大丈夫。今日のゲストはマフシュさんとレビィさんに頼んだから。ほら、二人ともラックスさんに言われて新作の栄養食品と睡眠導入具を作ったみたいだからさ」
コンコンガチャ。
意味のないノックと共にマフシュとレビィが木箱を抱えてラジオ局に入ってきた。
「あ、グイル! どこ行ってたの? 探したんだから!」
「これ新商品ね。ラジオショップに置かせて」
「わかりました。ダンジョンで先生とコウジの仕事を手伝ってたら、こんな時間になってて」
「文句があるならシェムさんとダイトキさんに言ってくださいよ。ダンジョンを管理しているのはあの二人ですよ」
「いない人に責任を押し付けるな! あ、まだ放送まで時間あるね? ちょっと待ってて」
レビィがどっか行った。
「ところで何をしてるの?」
マフシュが聞いてきた。
「服を作ってるんです。食事会をするって言っているのに、誰もまともな服を持ってないんですよ。仕方がないから私たちで作ってるんです」
「どっちにしろ作る予定だったんですけどね。マフシュさんも食事会に参加しますか?」
「行かない。どうせ貴族のバカ話聞かされるだけでしょ? 時間の無駄じゃない」
「そうならないようにしてるんです!」
ウインクの縫う速度が上がっていた。速い方がキレイに縫えるのだと本人は言っている。
「ラジオも大変ね……」
「貴族連合の人もダンジョンに入るみたいだから、食事会までには魔物を倒す武勇伝は用意するみたいだったよ」
「嘘つくとすぐに態度に出るからね。それを含めて叩き込まないとな……」
ウインクはマナー講師のようになっていた。そんな職業があるのか知らないけど。
「薬を作っていて、よかったわ」
マフシュはそんな実益のない食事会には絶対に参加したくないらしい。
「上手くやれば貴族の財力を全部掻っ攫えるっていうのに……?」
「え? そうなの!? どうしよう、あんまり心揺れることを言わないで!」
レビィがノックもせずに入ってきて、コップに入ったスープを渡してきた。
「ちょっとこれ飲んでみて」
「はい」
ドロッとした液体を飲むと、ものすごく苦かった。舌触りも決して気持ちのいいものではない。
「なんですか、これ? これが新商品ですか?」
「あ、やっぱりマズい!? マズいよね?」
「不味いというか、とにかく口の中が苦いです」
火の国のラジオでも使われていた滋養強壮にいいというお茶を思い出した。
「そうなんだぁ。ラックスは慣れるって言ってたけど舌がバカになってるんだ。新商品はこっちね。味を薄めて甘くしてある」
別のコップを渡してきた。中には緑色のスープが入っている。
飲んでみると栄養があるお茶のようだ。舌触りもそれほど悪くない。
「こっちは全然、美味しいですよ。ちょっと苦みのあるお茶っぽいですね」
「そうでしょ。疲労回復と魔力補給に使えるスープね。蜂蜜じゃない乾燥した甘味を探すのに苦労したのよ」
「そうですか。あのぅ、新商品としてラジオショップにはお茶の方を出していいので、この苦いスープを少しラジオのために作っておいてもらえませんか」
「なんのために!?」
「こういう身体にいいのに、苦い物を探してたんです! これでゲームコーナーを作れる!」
「なにそれ?」
「苦さって共感しやすいんですよ。ラジオでも伝わりやすい。ゲームは何でもいいんです。ジャンケンでも旗揚げゲームでも。でも勝ったらこれが飲めるとか、負けたらこれを飲まないといけないっていうルールを追加すると、ゲームをしている人たちに葛藤が生まれるんです。苦いものを味わうことになるということがわかってるから、負けたいのに勝ってしまうかもしれないとか。そうすると一気に盛り上がるんですよね。やってみますか?」
ちょうどよくゲンローがラジオ局にやってきた。事情を説明して、旗揚げゲームをやることに。
放送を開始し、ウインクが挨拶してすぐにマフシュとレビィに振った。
「今日は、新商品を持ってきてくれたんですよね?」
「そう。疲労回復と魔力補給に効くスープなんだけど……」
「開発途中にものすごく苦いお茶ができてしまったそうですね」
「ラックスは普通に飲んでるんだけど、作った私もコウジもかなり苦いと思ってるんだ。効果はこっちの方が新商品よりすごいよ」
「ということで、ただ飲んでも面白くないので、ちょっとしたゲームをやりましょう。準備はいいですか? ゲンローさんとコウジ!」
「絶対、負けないからな!」
「絶対に飲みたくない! 一回飲んでるからわかるけど、喉の奥まで苦いですからね!」
赤旗を上げるか、白旗を上げるかという単純なゲームなのに、とんでもなく苦いものを飲まされるとわかっているからか、緊張感が違う。
「赤上げない!」
「ふぅー! あぶねー!」
いちいち叫び声が上がる。なぜか知らないがゲームをしている者たちが真剣になればなるほど、周囲は笑えてくる。
結局、ゲンローが負けた。
「苦いけど、疲労が飛んでいくぅ~!」
ゲンローは目を見開いて叫んでいた。作ったレビィがその場にいるから、悪口も言えない。ドレスを作っていたはずのウインクもミストも笑っていた。
「これで、どうやって宣伝しろっていうのよ!」
マフシュは新しい睡眠導入具を持って怒っていたが、その後、自分も旗揚げゲームに参加して笑っていた。
今後、もし万が一、マズい物を作ってももったいないのでラジオ局に持ってくるという約束をして、番組は終了。内容はほとんどないのに、すっかり夜になっていた。
俺たちは、レビィとマフシュから商品を受け取り、ラジオショップへ向かう。酔っ払いたちが笑いかけてくる中、商品棚に陳列していった。販売は明日からだ。
ラジオショップに鍵をかけて、学校に戻り部屋に行くと、まだウインクがドレスを作っていた。
「まだやってるのか?」
「ん~、今日のうちにあとちょっと仮縫いだけでもやっておきたいのよ」
深夜までやるつもりらしい。
ウインクは偉い。ドレスを着るのは同じ学校の学生とはいえ知らない他人だ。彼女たちが意味もなく恥をかかないでほしいという一心でドレスを作っている。
それが裁縫屋としての本業と言われると納得してしまうが、お金が出るわけでもないのにサービス精神でやってあげるというのは、普通に出来ることではないんじゃないだろうか。
俺たちはウインクの頑張る姿を見て自然と手伝っていた。
種族別で布地の色も変えているし、スタイルや背の高さによってもデザインを変えている。町行く人たちをよく観察していればわかるが、センスがある人たちは皆コンセプトがあって自分のスタイルを貫いている。ウインクは、応募用紙を見て本人に会った上で、コンセプトを決めているので、ボタンの配置や襟のデザインまで凝ったものを作ろうとしているらしい。
応募用紙にはデザイン画が描かれていて、ほしいアイテムなどもメモ書きされている。
ゼファソンのモデルをやるなら、服装についての理解力があり、その人物をプロデュースできる能力が必要なのかもしれない。
「ああ、疲れた」
「苦いスープ飲む?」
「寝る前に飲むわ」
「このアイテム、揃えられる物は揃えようか?」
グイルが提案していた。
「いいの?」
「明日は店番だから町に行くからさ。想像しているのと違っていたら遠慮なく言ってくれ。俺もウインクと同じように客の要望に応えられる商人になりたいんだ」
「わかったわ」
夜が更けていく。