『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』5話「必要なことと重要なことを、まだ見つけられていない者たち」
翌日、竜の乗合馬車が停車する駅までマルケスさんを迎えに行った。相変わらず髭面で、オーバーオールを着ている。たぶん、この服しか持ってないんじゃないか。
「妻のソニアがいい加減ダンジョンの模様替えをしたいと言っていて、俺を追いだしたかったようなんだ」
ソニアさんはエルフの精霊使いという経歴があるらしく、親父の会社とも過去に何かがあったらしい。あんまり聞いていないけど。
「じゃあ、学校で授業するのはちょうどよかったんですか」
「まぁ、きっかけがないと100年くらいダンジョンに籠っちゃうからさ」
「前に孤島から出たのはいつです?」
「孤島からだと、ものすごい前だよ。それこそコムロカンパニーとエルフの国に行ったとき以来かな。妻を迎えに行くのにね。世界樹が燃えた時さ」
「え!? そうなんですか!?」
「あれ? 知らなかったかい? まぁ、コウジは生まれてないもんな。コウジは生まれてから何歳くらいでうちのダンジョンに来たんだ? 2歳か、3歳か?」
「3歳くらいですかね。覚えてないですけど、めちゃくちゃ魔力の練習させられたのを覚えてますよ」
「5歳で暖房と冷蔵庫の魔物を全部倒してた時は、俺たち夫婦も驚いたもんだよ」
暖房は火山地帯で冷蔵庫はブリザードが発生する雪原のことだ。幼い頃の記憶過ぎて、あまり覚えていない。
「なんもよくわからないまま魔物を倒していて、本当にマルケスさんのダンジョンがあってよかったですよ」
「ナオキくんがうちのダンジョンを託児所代わりに使ってたからしょうがないんだけど、竜の学校行ってまっすぐ育っているみたいでよかったよ。俺は」
俺にとっては子どもの頃からお世話をしてくれた先生なので、人間の学校に来てくれるのは嬉しいがすごく気恥ずかしい。
「どうだ? 彼女とかできたか?」
「いや、できてないです」
「ラジオは始めたんだろ? 時々孤島から聞いてるぞ」
「赤道の方まで届いてるんですか?」
「ソニアが受信機を伸ばしたからな」
「アリスポートのことばっかりだから、楽しめますか?」
「いや、結構深夜の方は面白いぞ。あと年末大変だったろ?」
深夜は俺とグイルがこっそりやってるバカ話の放送を聞いてくれているらしい。時々、ゲンローさんも来て笑ってくれているが、学生じゃないリスナーに会うとそれはそれで照れる。
「年末は学校が壊れちゃったんで……」
「ソニアも一回アリスポートに来たがってるんだ」
「授業がある時に来たらいいじゃないですか。最近お会いしてないですし、竜に言っておきますよ」
「そうか。じゃあ、いろいろと落ち着いたら連れてくるかな」
そんな会話をしながら、王都を案内して学校へと向かう。
「人が多いな。早いところ、学校に行こう」
マルケスさんは人混みが苦手らしい。
総合学院に入ってもあまり変わらず学生が多すぎて、汗をかいていた。
事務局で挨拶を済ませ、ベルベ校長に「来たよ」と報告。すぐに校庭にあるダンジョンへ向かった。
「はぁ、ようやく落ち着いたぁ。コウジ、今度から空飛ぶ箒でここまで連れてきてくれ」
「わかりました。そんなに人混みが苦手なんですね」
「20年ぶりくらいだからな。あ~、身体に悪いわ」
身体は不老不死だから絶対死なない。不死ギャグが出たところで、荷物を置いて3つの門を説明する。
「入口を3つ作って、それぞれで発生する魔物を変えてるんですよ」
「ああ、そうなんだ。面白いことするねぇ」
「魔物の通り道だけ繋げておいて、一つのダンジョンにはしているんですけどね」
「あ、彼女がベルサさんと作った先輩のシェムさんとダイトキさんです」
シェムとダイトキがやってきた。
「あ、こちらマルケスさん」
「ダンジョン学の!? あ、どうもよろしくお願いいたします」
「よろしくお願います!」
「若いのに、よく作ったねぇ。いや、実際すごいよ。中を見てもいいかい?」
「お願いします!」
シェムもダイトキもかなり緊張している。マルケスさんのことは偉大なダンジョンマスターだと思っているようだ。
「コウジ、案内頼むよ」
作った本人たちが案内した方がいいと思うが、シェムとダイトキも「頼む」というので、マルケスさんと一緒に初心者用のダンジョンから入る。
「学生用のダンジョンだから、初心者は魔物は少なめで罠が多いようです」
「なるほどね。いいんじゃないの」
先に進むと森があったりして、薬草や毒草の群生地などがある。植物学の教師たちも部屋ごと借りて育てているし、学生にも育てさせていた。
「これは、もう植物園みたいな感じだね。特に魔物はいないようだけど……?」
「別の階層に岩石地帯を作って、サンドコヨーテを配置してます」
階層を下りて行って、岩石地帯を見せる。
「この階層は環境が安定してないね。肉食の魔物を増やし過ぎたか。岩石地帯だからって植物もあった方がいいよ。じゃないと、いちいち魔力を消費して魔物を発生させることになるから」
「環境が循環してないってことですか?」
「そう。たぶん、水はけをよくし過ぎたんだろう。ハイギョの魔物とか入れた方がいいんじゃない。あとさっきの階層もそうだけど、虫系の魔物が少ないようだなぁ」
「虫が嫌いな学生に合わせたんですかね?」
「それをやっちゃあ、ダンジョンが壊れちゃうよ。環境に必要なものを入れて行かないと実体を持たせたとき、いろいろと崩壊するからさ。蜂の魔物でもフラワーアピスとかは入れないと植物自体が枯れるよ。でも、初年度だとわからないか。植物学の教師もいるんでしょ?」
「います」
「教えないと授業の意味がちょっと……」
マルケスさんは基本的には温和な人なのに、ダンジョンのことになると厳しくなるらしい。その後も雪原や火山地帯も通ったがあまり納得してなかった。
「ベルサちゃんも作ったんでしょ?」
「いましたよ」
「外側だけ作って中身を任せたのかな。ダンジョンコアはどこにあるの?」
「あ、こっちです」
抜け道を通ってダンジョンコアの部屋へマルケスさんを連れて行った。空中に浮かぶ大きく輝く魔石を見ながら、マルケスさんは「なるほどね」と納得していた。
「ストックしてある。失敗を見越してるんだ。ここにいないのが出てるってことは……。中級者向けの魔物は人型が多い?」
「わかるんですか?」
「ああ。彼女はどこから来た学生?」
「ゴーレムに育てられていたみたいで、そこからアイルさんが駆け込み寺みたいなところに連れて行ったらしいです」
「そうか。男の子の方は、アペニールからかな?」
「そうです」
ダイトキの出身地は服でわかるのか。
「上級者向けのダンジョンだけ覗いて出よう」
「はい」
上級者向けの最下層から上がっていく。
「これ、コウジしか対応できないんじゃないか?」
「協力してくれたお礼をしたいとは言われましたけど……」
ドラゴンだらけの部屋があった。ただ動きも遅いし、ほとんどのドラゴンが魔力切れを起こしてる。すぐに消えてしまうだろう。
「だいたい、わかった」
マルケスさんはなんだか寂しそうにして階段を上っていた。協力した俺としてもなんとなく理解はできるが、二人にどう伝えればいいのかはわからない。
外ではシェムとダイトキが待っていた。
「ど、どうでした?」
シェムが恐る恐る聞いていた。
「うん。たぶん、それが解答だろうな」
「どういうことでござるか?」
「二人とも知識がないから自信がないんだよ。だから人の話を聞いて、整えようとしてしまうだろ? でも、ダンジョンというのはそもそもそういうものじゃない。ちゃんと植物と魔物の関係性を理解した上で運用しないと魔力がすぐに枯渇してしまうんだ。だから、ダンジョンを作る前に環境というのはどうやって作られているのか、ちゃんと理解する必要がある。それからダンジョンってこの世界の中でもすごく少ないだろう? それだけに自分のオリジナリティをもっと出せるんだ。つまりこれがあるからこのダンジョンに入りたいと思わせないといけない。特にこんな街中の学校にあるダンジョンは世界的にも例がない。もっともっと自分たちだけで考えて、作った方がいい。学生たちが虫が嫌いだからと言って、虫系の魔物を出さないようにしてはそもそもダンジョンの魔力自体が回らない。循環できないだろう? せっかくダンジョンコアがあるんだから、人の話をただ聞いて、そのまま出すのではなく、ちゃんと自分が納得する形にしていかないとダンジョンマスターにはなれないよ」
マルケスさんはちゃんと二人をダンジョンマスターになってほしくて教えていた。いくつもの失敗をしてきたから、ものすごく説得力がある。
ただ、ボコボコではある。
「わかりました」
「もっと自分に自信を持ってほしい。そのためにもちゃんとした知識と経験を身につけていって」
「「はい」」
その後、徐々に授業を受けに来る学生たちが集まってきた。
「今日はあるものでやろう。罠抜けかな」
マルケスさんは釘抜きのバールを取り出した。
「これ、皆集まったかな?」
「鐘が鳴ったら始まりますから」
「ああ、そうか。やっぱり魔族も普通にいるんだね。このオルトロスを使役しているのは?」
マルケスさんがオルトロスのポチを撫でながら、聞いていた。
「自分のです」
アグリッパが身体を撫でていた。
「二頭の性格が違うと大変だろう?」
「そうですね。コウジにはそこばかりを攻められてどうにもならなかったです」
「だろうな。南半球育ちは容赦がないから」
「普段は冒険者相手にも引けを取らないんですが……」
「君も冒険者か?」
「そうです」
「ダンジョンマスターの二人を外に連れ出してあげてくれないか。いろいろ環境を見せてあげてほしい」
「先輩、頼みます!」
「お願いします!」
急にシェムとダイトキが頭を下げたので、アグリッパも戸惑っています。
「わかった。いいけど……、何かあったのか?」
アグリッパは俺に聞いてきた。
「成長期ってやつです」
「なんだそれは? また俺を揶揄ってるだろ?」
笑って誤魔化しておいた。
「先に言っておくけど、今年も依頼の勝負をやるからな」
去年は学費支払いシーズンにアグリッパと冒険者ギルドの依頼を請ける勝負をしていた。
「いいですけど、今度は冒険者ギルドに冒険者見習いの復帰するように頼んでくださいよ」
「なんで、俺が……。わけわからん役職になったのはコウジだろ?」
「長すぎて覚えてないんですよ。楽な役職になりたいんで」
「まぁ、言ってはみてやるよ。無理だろうけどな」
カラーン、カラーン!
「授業を始めていいか?」
「はい。お願いします」
「じゃあ、皆、罠抜けから始めよう。落とし穴を作って、どうやったら地面と見分けがつかなくなるのか、どうやったら落とし穴を見つけられるようになるのかやっていこう!」
マルケスさんはだいぶ人にも慣れたのか、学生たちがたくさん集まっても汗をかかなくなっていた。
滞りなく授業も終わり、マルケスさんは教員用の宿舎に一泊。その間に、シェムとダイトキに付きっきりで魔物と植物の関係を教えるようだ。植物学と魔物分類学の教師よりも詳しいため、興味のある学生も集まっていた。
助手の俺は初めは付き添っていたが、ラジオもあるので途中離脱。ちょうど森から出てきたドーゴエと革パンのエルフに会った。二人ともかなり戦ったような痕がある。
「喧嘩ですか?」
「いや、違うんだよ。俺がゴーレムの整備してたら、このガルポってエルフが来てさ。戦ってくれって言うもんだから」
革パンエルフはガルポという名前らしい。
「違うんだ。俺はただ森の精霊と最近会っていなかったから、学校の森でも出せるか試したかったんだ。レミリア先生も面白い文化をやってみろって言ってただろ? だから精霊を出してみたんだ。このドーゴエが従えているゴーレムなら、たぶん森の精霊にも対処できるだろうと思ってさ」
「それで喧嘩になったんですか?」
「だから俺たちは喧嘩をしてないんだよ。でも、精霊を出してくるから仕方なく……」
「そう。森の精霊を出して模擬戦みたいなことをやろうとしたんだけど……」
「喧嘩にならなかった?」
「ラックスが来てさ。ゴーレムと森の精霊の間に入って、全部攻撃を捌いていくんだ」
「あれは無茶苦茶な女だな。こっちだってせっかく出した精霊を粉々にされちゃ敵わないから、止めに入ったらこの様だ」
「俺も止めに入ったけど、魔力切れを起こすまで動き続けてるんだから、あいつおかしくなってるぞ」
「じゃあ、ラックスさんは森で魔力切れを起こして倒れてるんですか?」
「そりゃそうだよ。起きたらまた向かってきそうだし。なあ!」
「ああ、一応精霊使いって言ってさ。エルフの文化なんだけど……」
「森の精霊粉々よ。さすがの俺でも可哀そうだと思って、あんな学生ばっかりじゃないからなって飯を食いに食堂に行くところさ」
傭兵のドーゴエが同情するくらいだから、相当悲惨だ。
「大丈夫。ラックスさん、最高学年だからちょっと焦ってるみたいなんですよ」
「ゴズと差を付けられたからな」
「その差はかなり縮んできてますよ。ラックスさんのやる気はちょっとヤバいから。俺も朝練に付き合ってますけど、ちゃんと限界までやりますからね」
「だったら、コウジが医務室に連れていってやれよ。俺たちはおっかないから遠慮しておく。行こうぜ」
ドーゴエはガルポを連れて、食堂へ向かった。
俺は森へ行って、戦闘の跡を探した。すぐに見つかった。枝が折れ、葉が飛び散っている。森の精霊だったと思しき枝が突き刺さった土の塊が残っていた。その横でラックスが倒れていた。
「ああ、コウジかぁ……」
「身体、動きます?」
「無理だ。でも骨折はしてないと思う」
「魔力切れもそうですけど、疲労も溜まりすぎなんじゃないですか?」
「でも、このくらいはやらないと……」
俺はラックスを担ぎ上げた。
「すまない。実戦じゃ全然通用しないな。痛感したよ」
ラックスは担ぎ上げられながら喋り始めた。
「いろんな思いが湧き出てしまって、魔力の運用が定まらないの」
最高学年の責任感とかライバルのゴズを超えようとかいろいろ考えすぎてしまうのだろう。最近は魔道結社にも入ったと噂も聞いた。
「自分だけが強くなれればいいと思って見てなかったけど、エルフはすごいね。長い年月かけてるから、全員魔力の精度が高い。しかも森への信仰心があるでしょ?」
「負けましたか?」
「精霊作り出せるほどの信仰心はないよね。信仰は負けたよ」
「あ、ちゃんと負けられてるじゃないですか。体育祭には間に合いそうですか?」
「うん。間に合わせないとね。身体作りに魔力運用か……。ちょっとサボり過ぎたよ」
「本気になるのがちょっとだけ遅かっただけです」
「私もそこそこやると思ってたんだけどなぁ~」
ラックスが鼻をすすった。俺の背中には水滴が零れ落ちている。
「とりあえず、医務室で寝ていてください」
「ああ、ありがとうね」
俺はラックスの涙は見なかったことにした。
今ラックスは自分の弱さも信仰心、つまり意志の強さも全部飲み込んで強くなろうとしているのだから、これは過程でしかない。願い続けることで得られる強さがある。
ラックスを医務室のベッドに寝かせ、俺はラジオ局へと向かった。
ラジオ局ではウインクが項垂れていた。
「どうかしたか?」
「……どうすりゃいいのよ」
ウインクはテーブルに置いてある紙の束を忌々しそうに指で叩いていた。
「ラジオ局主催の食事会に応募してきた人のリストが酷かったらしいわ」
ミストが代わりに応えてくれた。
「何がどうダメなんだ?」
「貴族の人と話してみたいとか言うバカ女と、魔物と戦ったこともないのに強さを見せたいとか言うクソ男の集まりよ。モテるつもりがないわけ。結果が見えてるわ」
「どうなるんだ?」
「貧乏人がバカにされて終わりよ。なにが面白いの? エルフの留学生ですら、これなわけ?」
応募の紙には『栗の花の匂いを嗅ぎながら語り合えるボディランゲージはあるかしら?』とある。頭の中が性欲に満たされているらしい。いや、そういう営業なのかもしれない。
「こんなことやる意味ある?」
「ウインクが変えればいいんじゃないの?」
グイルが言った。
「どうやって?」
「意識改革よ。ウインクはモデルなんだから、モテる方法、自分を美しく見せる方法を知っているわけじゃない? 応募してきた学生たちは貴族たちが何をたしなんでいるのか何を知っているかもわからないし、何の話をすればいいのかもわからないわけ」
「何を話してもわからないと思うわ」
「そこであなたが品性とはこういうこと、というのを教えればいいのよ」
「品性? わかるかなぁ?」
「ウインクならわからせられそうだけどな」
コンコン……。
ノックの音が聞こえてきた。
「はい」
俺が出ると、花屋の娘さんとエルフが立っていた。
「どうかした?」
「あの……。食事会の募集をしているって聞いて。これ」
「お願いします!」
「ありがとね。選考中だから、楽しみに待ってて」
俺は二人から応募用紙を受け取って、ドアを閉めた。
「ここはアリスフェイ王国の王都・アリスポートよね? そして彼女はその王都の通りにある花屋の娘、隣にいたのは発情期を迎えるエルフの娘。そうでしょ?」
ウインクが震えながら、俺たちを見た。
「そうだよ」
「なんであんなに田舎臭いわけ? 男を知らないとかそういうレベルじゃないんじゃない? 身だしなみくらい気を遣わないと、人として認識されないわよ」
「そ、そうなの?」
「これはかなりの屈辱だわ。服飾ってそんなに舐められてるのね?」
「そうかな?」
「私の尊敬するデザイナーは服が違うだけで、強さまで変わるわ」
メルモさんのことだ。あの人は戦闘服と普段着を使い分けているが、戦闘服の時はセスさんでも太刀打ちできない。笑いながら魔物を屠る姿を見たことがあるが、あれは人というよりも神々しさと禍々しさを両立させていて、人ならぬ者を見ているような気になった。
「でも、美しさは他人の視線を受けた上でうちから湧いてくるものだからなぁ……」
「いいじゃない。応募してきたのは内だとか外だとかわかってない人たちなのよ。いや、まだ人として認識されてないかもしれないけれど」
ミストの言葉が決め手になった。
「わかったわ。やる! でも面接はさせて。本人にやる気がないと変わらないから」
「それって男もやるのか?」
グイルが余計なことを聞いていた。
「男なんて知らないわよ。勝手に強さだの剣の長さだの比べていればいいわ。貴族たちに目にもの見せてやればいいのね?」
「そう。自分たちが選ぶ側に回ってると思ってる脳みそを内側から破壊させてやりましょう」
ウインクとミストが握手して結託していた。
「おい、そこのダサボーイズ」
「コウジ、呼ばれてるぞ」
「グイルのことだろ?」
「二人ともだ! ちょっと町に行って反物買ってきて。それから町行く人でカッコいいなと思っている人のスケッチをしてくること。どんな服を着ているかだけでもいいわ」
「へい、わかりました。あの女将さん、おあしの方は……?」
俺は親指と人差し指でコインのマークを作った。
「付けにしておきな。私のラジオ出演料だっていいんだから」
「わかりました。よし、行こう」
「いや、ラジオは?」
グイルはまだ戸惑っている。
「MCがああなってるんだぜ。食事会出席面接試験の方が面白くなりそうだろ?」
「本当だ。反物買ってこよう!」
俺とグイルは急いで町へと走った。言われてみると確かに服装なんて動きやすければいいと気にしたことがなかったが、世界各地からやってくる人々を見ると全員違って面白い。
肌の色や体系、髪型によっても服の形状は大きく異なる。そもそも魔族は身体の形状が違うので、身だしなみにはものすごく気をつけているようだ。
民族衣装を着ている人たちにはどうしても目が行くし、街で見かける職人たちだって、それぞれでエプロンのデザインが違う。店先が清潔で売れている店ほど、店員たちの服装は統一感があった。
「知ってたか?」
「知らなかった」
さすがに冒険者は身だしなみなんか気にしてないだろうと思ったが、そんなことはない。わざわざ鉄の鎧を街中で着ている剣士もいるし、きれいなお守りを付けている魔法使いもいる。それぞれ個性があり、自分のファッションを楽しんでいるようだ。
「確かにウインクは毎日違う服を着ているよな。制服だけじゃない」
「そうだな。ちゃんと授業を受ける服と部屋着と変えている。服によって自分のスイッチを入れたり消したりしているんだから、そりゃ俺たちみたいに頓着がない奴らはダサボーイズだわ」
「ミストが普段着ているのは礼服だろ? そうじゃないと死者の声も聞こえないんだろうな。その人がどこから来たのか知識も必要だし、そういう品性がない者にわざわざ死者が教えるようなことはないだろうな。見た目は重要だ」
俺たちは反省しながら、反物屋へと向かった。