4話
店でフォラビットの毛皮を見ると、そこそこ安いがいずれも中古だった。
せっかくだからギルドで依頼してみることにした。
ギルドで依頼を受けたことはあっても、依頼を出したことはない。何でも経験しておいて、損はないだろうということで、ギルドに向かった。
探索スキルでギルド内を見るとウジャウジャと魔物がいることがわかる。
魔物を使役している冒険者も多いので、珍しいことではないが、あまりにも多い。
中に入ると、魔物達が我が物顔で椅子に座り、酒を飲んだりしている。
姿は人間や獣人、亜人種と同じようだが、魔物は陽の光に弱いのか、窓の側にはいない。
時々、陽の明りに照らされると、うっすらと透けているので、ゴースト系の魔物が擬態しているのだろう。
ギルドが放置しているのだから、問題はないだろう。
受付に行き、依頼をしたいと言う。
「どんな依頼ですか?」
「フォラビットの毛皮が欲しいんだ」
「それなら、町の服屋や家具店でも買えますよ」
「いや、新品のが欲しいんだ。出来るだけ質のいいのが」
「ふ~ん、まぁいいですけど。依頼料はいくらにします?」
「30ノットだと高いかな?」
店では30ノットでも高いほうだ。
「新品でも最近は討伐部位を持ってくる新人もいますから、20ノットってところじゃないですか?」
「じゃ、20ノットで」
「わかりました。冒険者カードをお願いします。依頼人の記録をしておく決まりですので」
冒険者カードを渡すと、受付嬢が俺を怪しそうに見てくる。
「また、レベルが上ったんですか? ついでにステータス見ますか?」
カードの裏のレベルの欄には40と書かれている。
森で毒のマスマスカルの死体を食べた魔物がいるのかもしれない。
死体を捕食した魔物が毒になって死ねば、森にぶん投げた俺の経験値になるのだから、雪だるま式に経験値を得られる。だからって、そんなに増えるのはおかしい。
なんとも都合のいいレベルアップシステムだ。きっと何か理由があるのだろう。ただ、上がってしまったものは仕方がない。
ステータスはその内見ることにして、早々に依頼を出してもらった。
羊皮紙に書かれた俺の依頼を受付嬢がボードにピンで留める。
「このゴースト系の魔物達は放っておいていいの?」
何気なく聞いたつもりだったが、受付嬢は青ざめている。
「え、どうかした?」
「見えるんですか?」
「いや、見えるだろう。こんなにいるんだから」
「実は結構困ってて、討伐しようとしてもすぐ姿を消したり、地面の中に潜ったりするんで、討伐も難しいんです」
「そうかぁ。じゃ、聖水でもかければどう?」
「効果はあるんですが、すぐにまた集まってきちゃうし、聖水も教会とギルドが仲悪くて中々手に入れられない状況でして……」
眉毛をハの字にして受付嬢が言った。困っているのだろう。表情筋が豊かだ。
「回復薬でも飲ませたら?」
「回復薬って、あの高い傷薬ですか?」
「あ、高いの?」
「高いですよ。そりゃ、一瞬で死に際の人が生き返るんですよ!」
「ゴースト系になら効果あるんじゃない?」
「そりゃありますけど、ギルドにそんな予算はないです」
「ちなみにそれって依頼出てるの?」
「ギルドから出てますけど、すぐにゴーストテイラーが剥がしてしまうんです」
ゴーストテイラーっていうのが、あの魔物の名前だろう。
「報酬っていくら?」
「1500ノットと宿の食事食べ放題券です」
食べ放題は要らないけど、1500ノットは魅力的か。
家賃10ヶ月分になる。
手元にはマスマスカル討伐報酬の3000ノットがまるまる残っているので全くお金に困っているわけではないが、ギルドで働く人たちが可哀想である。
聞けば、高ランクの冒険者やギルドのお偉方も一応対処しようとはしたらしいのだが、次々湧いてくるし、そんなに害もないから放っておいているのだとか。
「やってくれませんか!? 害霊駆除として指名依頼してもいいですよ!」
「んーじゃあ、やるかなぁ~」
「乗り気じゃないんですね」
「うん、食べ放題券いらないから、なんか他の報酬にしてくれないか?」
「例えば?」
「そうだなぁ……デート券とか?」
この際、この受付嬢へのお礼も兼ねて誘ってみた。
俺がこんなレベルになっているのもこの受付嬢のお陰と言っても過言ではない。美味しいものでも食べて、いろいろとこの世界について教えてもらうのもいいだろう。
「デデデデデート!!! ですか?」
鼻息を荒くした受付嬢が俺を見て驚いている。
「いやぁ。俺はこの国の名前もまだ知らないし、となり町すらどこにあるかも知らないんだ。だから誰かに教えてほしいんだけど、タイミングがなくてね。本は高いって聞いたから、誰かと町を散歩でもしながら、あれこれと質問していければ、楽だなぁと思って」
「あ、あ、そういうことでしたら……」
上目遣いで、受付嬢が頷いた。
かかった! ようやくこの異世界に来て、まともな知り合いができそうだ。
「じゃ、1500ノットとデート券で!」
俺は受付嬢を残し、とっととギルドから出て行く。
出たところで、デートなんて何年振りなんだと振り返ったが、覚えていない。一度、死んでいるからしょうがない。だいたい、好きでもない者同士のデートって何をするんだったか……。
水族館に行ったり映画に行ったりするはずだが、いずれもこの世界にはなさそうだ。こんなことでは、恥をかかせるかもしれない。いや、どうせ死んでるんだから、なんでもいいか。
単純にデートという響きにテンションは上がってしまう。仕事へのやる気も漲る。
俺は小走りでエルフの薬屋に戻り、棚においてある薬から回復薬に使えそうなものを取り出していった。
「なんじゃなんじゃ? 回復薬でも作る気か?」
老婆姿のカミーラが聞いてきた。
「うん、そうなんだ。カミーラ、調合の割合とか教えてくれる?」
「それは『エルフの秘術』を教えろ、と言ってるのか?」
「いや、ダメなら本を買ってきて、調合スキルをレベル10にすれば出来るかなぁ、と思ってるけど、本職に聞くのが一番かなぁってね」
「お主、調合スキルをレベル3以上まで上げておるか?」
「うん、今5だね」
「なら、薬学というスキルが現れておるはずなのじゃが」
スキルツリーの中に薬学というのがあった。
「あ、そうか! これを上げればレシピが」
「まぁ、そうじゃな。あとはうちにある本を貸してやろう」
カミーラは母屋に引込み、10冊ほど本を抱えて戻ってきた。
「実はの、薬学スキルは本を読んで実際に作るとスキルポイントを消費せずにレベルが上がることがあるんだ。スキルポイントがもったいないなら、先に本を読んでおくことをすすめるぞ」
「わかった。ありがとう!」
俺は本を受け取り、自室のある二階に上がった。
調合のスキルをレベル10まで上げ、後は本を読んで、その日は過ごした。
3冊読んで、カミーラに手取り足取り、回復薬の作り方を教わって作ったところ、薬学スキルのレベルが3に増えていた。
カミーラは俺の調合がうますぎるのが気に入らなかったみたいで、プリプリしていたが何かと世話を焼いてくれる。
すでに夜中になっていたため、その日はそれで就寝。
一応現在のスキルの数値としては
レベル40
言語能力
生活魔法レベル5
火魔法レベル1
調合スキルレベル10
探知スキルレベル10
薬学レベル3
残りスキルポイントは13。
こんな感じだ。